第55話 schedule
ある日の練習終わりに片付けを始めようとすると、桃子がとある提案をしてきた。
「ねえ、うちの学園祭でロックフェスを開催することになったんだけど私達も出ない?」
「学園祭でロックフェス……?」
僕はまさかこの学園がそんな大掛かりなイベントを画策しているなんて思いもしなかったのでシンプルに驚いた。美織と瑛神も同じことを思ったらしく、僕と寸分違わぬ表情をしている。
「そうよ、ロックフェス。ステージは2つしかないけど、学園祭の期間中ひたすらライブしまくるの。まだ演者の枠に余裕があるから出られるなら出たいと思ったわけ」
桃子が言うには、学園構内の開けたグラウンドなどにステージを用意して、野外ロックフェスを行うらしい。とは言っても予算が予算でフジロックのような大物は呼べる訳もないため、学園の軽音楽部に所属するバンドや、地元で活動するバンドをガンガン集めているようだ。
桃子は説明のためにいつも譜面台に置いて使っているタブレットPCを操作し、ある画面を表示させた。
「これが仮のタイムテーブル。まだ空きの出演枠があるわ。でも、それよりもこのトリのバンドを見てほしいの」
僕は桃子のタブレットPCの画面を触ってタイムテーブルを下へスクロールさせた。すると、メインステージの最後には驚くべき名前が記載されていた。
「『Andy And Anachronism』ってお前……」
「そう、あいつらがトリってわけ」
僕の古巣であるバンドが学園祭ロックフェスのトリを務める事になっていたのだ。彼らはメジャーデビューして全国ツアーも行ったりと何かと多忙なはずなのだが、なんとかしてこの日に都合をつけてタイムテーブルにねじ込んだらしい。なかなか運営側も豪腕である。
「アイツらが出るなら私達も出なきゃでしょう? どう?せっかくだから出てみない?」
「まあ、構わないけど。………でもなんで桃子はそんなにノリノリなんだ?」
「友達が運営の担当なのよ。演者の空き枠ひとつ埋めるだけでも大変なんだから、ここは友達としてひと肌脱ごうってわけ」
桃子の口からそんな献身的な言葉が出てくるなんて思いもしなかった。友達というのは多分、この間空き教室で見かけたあの中性的な子だろう。
一方で別の驚きをしていたのは美織と瑛神だった。
「「も、桃ちゃん(桃子さん)に、友達っ……!?」」
「失礼ね、私にだって友達のひとりくらいは流石にいるわよ」
「うぅ……、良かったっす……、桃ちゃんにちゃんと友達がいたんすね……」
大げさに涙する美織の気持ちというのもわからないでもない。少なくとも僕らのせいで桃子が学校ではぼっちで過ごしているという可能性が消えたわけだ。救われたような気持ちにもなる。
「……それで?出るの?出ないの?」
桃子は話を本題に戻す。僕は学園祭の期間中に生徒指導部からパトロールをするように頼まれているけれども、空き時間の都合をうまいことつけられればライブの1本くらいなんとかなるとは思っている。しかしながら、うちのバンドには尤もな理由で都合のつかないメンバーがいた。
「申し訳無いっす……、学園祭の期間中は仕事が忙しくて都合がつけられそうもないんすよね」
「美織、楽器屋さんだもんな」
楽器屋の仕事はただ楽器を売っているだけではない。近隣でライブイベントがあれば音響機器やドラムセットのレンタルなどを行ってそのレンタル料を稼いでいたりする。そしてそのレンタル業の書き入れ時というのがこの学園祭シーズンである。うちの学園のみならず近隣の高校、大学、専門学校などなど様々なところからレンタルの依頼が来るわけだ。それを捌かなければいけない美織にはなかなか都合をつけるのは難しいだろう。
「………そう、それなら仕方がないわね。美織のおかげでライブが出来るわけだし、そこは責められないわ」
「本当にごめんなさいっす……。ただ、まだ先輩の古巣と対バンする機会はあるはずっすから、そのときは絶対に出られるようにしとくっす!」
美織はやや鼻息荒く、まるで自分を鼓舞するように言うと桃子も仕方ないと納得したみたいだ。この機会に今回の学園祭では僕らも勉強として裏方として動き回るのがいいかもしれない。
「でも残念ね、せっかく新曲が出来たわけだから最高のお披露目会になると思ったんだけど」
「それは仕方がないさ。一足先にレイラに歌ってもらってみんなに知ってもらうことにするよ」
実は僕はこの夏に新曲をいくつか書いた。そしてその中で一番しっくりくる曲をレイラに楽曲提供という形で歌ってもらうことにした。本当は僕らが先でレイラが後という順番に公開していこうとしたのだけれども、こういうわけなのでレイラが先と言うことにせざるを得ない。レイラの知名度のほうが圧倒的なので、後から僕らが演奏したときに『コピーバンド』と揶揄されないか少し不安である。
そういえば、レイラとライカの姉妹が『面白いものがあるから見に来てほしい』とメッセージを送ってきていたのを思い出した。明日暇だから見に行ってみようか。




