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第47話 second

 いよいよ決勝大会のライブがスタートした。トップバッターは関西代表『Metallic woman』、その名の通り80年代のバンドブームを牽引してきたSHOW-YAにインスパイアされたようなガールズハードロックバンドだ。ドラム以外皆高校生というのが信じられないくらいの演奏力と、彼女たちが創り上げるその世界観にオーディエンスの多くが圧倒された。ましてや開演1発目、しかも令和時代の高校生バンド選手権でまさかここまでのいい意味で古典的なハードロックが聴けるとは皆夢にも思っていなかったようで、日比谷野外音楽堂は彼女たちに『支配された』と言っても過言ではなかった。

 神様は時に悪戯なことをするとはよく言うけれども、今日ばかりはさすがにその存在を呪いたくなる。幸か不幸か、いや、おそらくは不幸であるに違いなのだけれども、僕らの出番は『Metallic woman』の直後なのだ。


「悔しいけど圧巻のアクトね。出番が私達の直前っていうの、何かの嫌がらせなんじゃないかって思っちゃうわ」


「……確かに凄いライブだった。――あの子たち、このまま優勝してしまうかもな」


「トップバッターで優勝なんてしたら2001年の中川家以来っすね!さしづめ私達はフットボールアワーって感じっすかね」


「……ハハハ、それならその2年後には優勝できるかもな」


 まるで緊張感のない会話が広がるくらいには彼女たちの演奏に現実味を感じなかったとも言える。ただ、話している皆に絶望感がないあたり、自分たちならこの程度の壁を越えていけるという表に出てこない密かな自信みたいなものがあった。


「M-1グランプリの話なんてどうでもいいの。………まあ、どうでもいい話ができるくらい気楽なほうがいいわ」


「そうっす、それでこそ私達っすよ。ねっ、瑛神くん。………瑛神くん?大丈夫っすか?」


 先程ワンカップを一気に飲み干した瑛神はようやく酔いが回ってきたのか言葉数がいよいよ無くなってきた。レイラいわく瑛神は酔拳使いのようにここからが凄いらしいのでちょいと期待しておきたいところ。


 ステージ上の転換作業が始まり、僕らの機材が着々とスタンバイされていく。今回唯一の僕の持ち込み機材であるSHUREのSM58betaをケーブルのコネクタに接続して、マイクケーブルをひと巻分だけマイク本体と一緒に右手に握りこんだ。ギターを持たずにステージに立つのはなんとも手持ち無沙汰で心細い。ただ逆に言えば自由へと解き放たれたとも言える。この状況を活かすも殺すも、全て僕のハートにかかっていると言っていい。

『脩也はこのバンド、好き?』

 ふと、昨日桃子が言ったことを思い出した。もちろん好きに決まっているのだけれども、もしかして桃子は自由へと解き放たれた僕に『好き』という気持ちをどれだけ表現できるのかと宿題を出したのかもしれない。そう考えるとなかなか桃子らしい挑発的な言葉にも思えてきて、何故か不意に笑いがこみ上げてきた。


 それならば見せてやろうじゃないか。この支配されてしまった会場をひっくり返すような、僕の『好き』というものを。


 The Whoの『Won't get fooled again』が流れ始めると、真夏の太陽に照らされた灼熱の日比谷野外音楽堂に少しだけ乾いた風が通り抜けた。

 その刹那、僕が1000回は聴いたであろうドラムのフィルインを桃子が叩き始める。


 1曲目、自他ともに認めるであろうキラーチューンの『Genius』をぶち込んでいく。こんなところで出し惜しみなんてしていられない、最初からトップギアに乗せていこうという桃子のドラムに、美織のベース、そして瑛神のギターが追いついてきた。


 ――僕は、この瞬間が最高に好きだ。

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