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第3話 busstop

 学生寮の管理人を始めて少し経った。仕事内容は雑用から事務処理、学生たちのお悩み相談まで多岐にわたるけれども、自分が役に立っているという実感があって楽しい。この仕事を紹介してくれた京介には本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。


 ひとつ気になることがある。この寮に来た初日、なぜ僕がここにいるのかを問うてきた少女のことだ。彼女の名前は尾鷲おわせ桃子ももこ、この学園の高等部普通科2年生で、長い黒髪が似合っているザ・美少女だ。

 彼女の『問い』に対して、あの時の僕は何が何だかわからない状態になり答え損ねてしまった。それ以降、彼女とは言葉を交わすどころか目すら合わない。別に交友関係があったわけでもないのに、何故か最初から気まずい状態である。

 それだけならまだいいのだけれども、彼女は週3〜4回のペースで21時と定められている寮の門限を平気で破ってくる。その度に僕は彼女に対してどこで何をしていたのか問いただすのだけれども、彼女は答えてはくれないのだ。学生を守るのが仕事の管理人として、この門限破り常習犯を放って置くわけにはいかない。彼女は普通の女子高生だ、変な事に巻き込まれていたら大変だ。


 尾鷲桃子が放課後にどこで何をしているのかを調査するため、僕は学園の正門で張り込みをすることにした。もちろん生身ではバレてしまうので、いつも買い出しに使っている軽バンに乗り込んでいる。

 門から出てきた彼女は学園前のバス停に向かい、すぐさま市の中心部へと向かうバスに乗り込んだ。僕は見失わないよう慎重にバスを追いかける。そして、市内中心部まであと少しという所のバス停で彼女は降車した。

 バス停の近くにある建物に僕は見覚えがあった。高校時代、大学時代と僕の音楽生活を支えてきた楽器屋だ。そこでギターやエフェクターを買ったりしたこともあれば、併設しているスタジオで朝まで練習したこともある。

 懐かしさに浸る余裕はなかった。なぜなら彼女はその建物に吸い込まれるように入っていったからだ。

 僕は軽バンを駐車場に停めて、しれっと客のように店内へ入っていった。状況把握が出来たら適当に弦でも買って出れば怪しくはないだろう。そう思っていたのだけれども、問屋……、いや、楽器屋がそうは卸さなかった。


「あれぇ!? 伊勢くんじゃない!? ひっさしぶりだねぇー!元気にしてた?」


 店に入るなりバカでかい声で僕の名を呼んだこのおっさんは、その昔大変世話になったこの楽器屋の店長だ。そしてそのバカでかい声が発されると同時に僕の尾行作戦は失敗し、尾鷲桃子のあとをつけていたことがバレてしまった。

 彼女は店長がいる受付カウンターにてスタジオ練習をする手続きの真っ最中だった。そして僕の存在を確認するなりまるで汚いものを見るような目で睨んできた。


「あはは……。店長さん、お久しぶりです」


 あまりの気まずさにとりあえず笑うしかなかった。苦笑している僕をただひたすら睨みつけていた彼女は、少しの間をおいてからまた店長の方を向いて受付作業を再開した。


「ギターのレンタルお願い。あと、マイクも1本追加で」


 すると、店長は受付カウンターの奥からからレンタル用のエレキギターとカゴに入ったマイクとケーブル類を彼女に差し出した。


「レンタルのギターはこいつでいいかい?桃ちゃん」


「上出来。ありがとう」


 彼女は国産メーカーのレスポールタイプのエレキギターを店長から受け取ると、それをそのまま僕へ渡してきた。


「ほら、せっかくスタジオに来たんだから弾きなさいよ。――そのために私のあとをつけて来たんでしょ?」


 そう言われるととても人聞きが悪い。その部分だけ抜き出すと、店長のような部外者にはまるで僕がストーカー行為をしているように受け取られかねない。


「ち、違う! 僕は君がいつも門限を破るから追いかけて来たんだ!寮の管理人として!」


「ふーん、まあいいわ。門限破りの件なら後でいくらでも頭を下げてあげる。でも今はとにかくセッションしましょ」


 彼女はそう言うと、店の奥にあるスタジオのAルームへ行ってしまった。このまま帰るわけにも行かない僕は、なんとしても彼女を門限までに連れて帰るため、レンタルしたエレキギターを持ってスタジオに入った。

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