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いつもいつもありがとうございますん。
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オレ達は順調に迷宮を進んでいく。イルム達も徐々に迷宮に慣れてきたので進む速さを少しずつ上げていき、現在8階層まで来ていた。
出会う魔物の種類も、ジュフィーラットの他にサバントサルという手の長い猿のような魔物が出てくるようになり、これが中々鬱陶しい。物を投げてきたりリーチを活かした攻撃をしてくるので、間合いが読みづらく、イルム達が苦戦してしまうのだ。
それでも何とか進んで行くと、9階層に続く階段の前にある広間まで辿り着き、オレ達はその手前で小休止をとることにした。
「あのサバントサルは手強いっすね」
ヨーナスが水を飲みながらルドルフに話しかけていた。
「そうだな・・・。遠くにいる奴から石を投げてこられると、気が散って上手く攻撃できんな」
「盾でも持ちますか?」
「いや、それだと動きが遅くなって連携が取りづらくなる。現状は躱しながら少しずつ傷を与えるのがいいだろう」
「そうっすね」
と、オレは2人が話してるのを聞きつつ装備を軽く点検しておく。すると、目の前のイルムが少し疲れ気味に見えたので声をかけた。
「大丈夫ですか?少し移動速度を上げて進んできたので、疲労が溜まってるでしょう?」
「お気遣いありがとうございます。私なら平気です。それに15階層まで早くいけるなら、その方が良いので助かります」
そう言って笑うイルムだが、少し汗ばんでおり青い髪が頬に張り付いてた。
「そうですか。なら水分はちゃんと取っておいてくださいね」
「わかりました」
「それにしても、いくら地図があるからとはいえ迷宮ってこんな早く進めるもんなんすかね」
イルムが返事をした後にヨーナスが明るく声を出す。
「普通は無理だな。シュン殿の異常な感知能力のおかげだろう」
ルドルフさんや、それは褒めてるの?貶してるの?
「私の目に狂いはないということですな!」
そう言って豪快に笑うルドルフ。おかげで場の空気も和み、良い気分転換になっただろう。
「さて、そろそろ行きますか」
オレはイルム達に声をかけると、3人は頷きながら立ち上がるのだった。
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オレ達が広間に入ると、サバントサル達が待ち構えていた。その中に一際大きい個体がいて、恐らく奴が群れのリーダーだろう。
ちなみに、ここに来るまでの戦い方だが、オレは1人で敵に突っ込みつつ攻撃をして魔物をかく乱をする。そして、イルム達は自分達へ向かってくる魔物を対処するという流れが出来上がっていた。
オレは3人の方を向く。
「準備はいいですか?」
「はい」
「ええ」
「いつでもいいっす」
三者三様の返事を聞きつつ、まずはオレが飛び出した。狙いはリーダーっぽい魔物だ。
他のやつと呼び方がややこしいので、ボスサバントとでも呼ぼうかな。
オレが一直線にボスサバントへ走っていくと、周りにいたサバントサル達が動き出し、ボスサバントを守るように3匹のサバントサルが立ち塞がる。その他のサバントサルはイルム達へ向かって走り出した。
オレの前に現れた3匹のサバントサルの内1匹が、右の長い手をスイングしてオレへと攻撃をしてきたので、オレはそれをしゃがんで躱すと、腕を掻い潜って右へ転がりながら剣を下からすくい上げて、目の前にいたサバントサルを切り裂く。すると、後ろで控えていたボスサバントから石礫の投擲がきたので、横に飛んでそれを躱すと、一旦距離をとった。
ボスサバントはオレが距離を取ったのを見て、さらに石礫を投擲してきたのでオレはそれを手首を使って剣を振り回しながら、カンカンと弾いていく。そこで、オレは空属性の【把握】を使って感知能力を上げると前に走り出した。
オレの走り出しに合わせて、ボスサバントが石礫を投擲してくるので、オレは剣を振って石を切り裂きながら、剣を振った時の重さを利用して体を回し、遠心力を乗せたハイキックで、飛んできた石の一つをボスサバントへ蹴る。蹴り返した石は見事にボスサバントの顔に命中し、石礫の投擲が止まったので、そのままの勢いで、2匹のサバントサルの頭を切り飛ばす。
ボスサバントは顔の痛みが回復すると、俊敏な動きでオレに攻撃をしかけてきた。ボスサバントが右、左と長い手の先についた爪でオレを切り裂こうとしてくるので、オレはボスサバントの左爪に剣の刃を合わせて弾くと、ボスサバントは後ろに下がり距離を取ってくる。
うむ、鬱陶しい攻撃だ。
今度はボスサバントが右爪で攻撃をしてきたのを冷静に見切り、右爪を避けながら懐に飛び込むと、まずはそのまま右腕を斬る。右腕を斬られたボスサバントは痛みに呻き声を上げる。しかしそれは大きな隙になる。オレはそのまま剣を横向きに顔の高さまで上げると、ボスサバントの首を一突きする。そして、そのまま刃を右へ滑らせ、ボスサバントの首を切り裂くと、そのまま後ろに倒れていった。
「じいーーー!!」
すると、ボスサバントに止めを刺したのと同時にイルムの声が聞こえてきた。
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時間はオレがボスサバントと戦い始めたくらいの時だろうか。
イルム達は複数のサバントサルの相手をしていた。
そのサバントサルの1匹がイルムに攻撃をしようと、右手の爪を上から振り下ろしてきた。イルムはそれを左へ躱すと別のサバントサルが躱した先でイルムを待ち構えていたが、そこへルドルフが割って入り、横切りで胴を斬り裂いた。そして、イルムに攻撃を躱されたサバントサルの背後に、ヨーナスが回り込み背中を斬りつける。斬られたサバントサルが悲鳴を上げると、イルムがすかさず正面からサバントサルの頭部へ剣を突き刺して、サバントサルを黒い煙に変える。
イルムは剣を引き戻し他のサバントサル達を警戒すると、そこへルドルフとヨーナスが合流して、互いに死角を作らないように陣形を組んだ。
仲間がやられた事に警戒を覚えたサバントサル達は、遠くから石を投げてくるようになり、飛んできた石をイルムとヨーナスは動く事で躱し、ルドルフは見事な剣捌きで石を弾いていく。
3人は石を避けながらサバントサルへ近づこうとするが、その時イルムが足をもつれさせてしまった。
いくら領内で魔物を討伐した経験があるとはいえ、15歳くらいの少女の体力に限界があったのだ。
それを見たサバントサル達はイルムに集中して石を投げつけていく。すぐさま体勢を立て直して石を躱したイルム。しかし、躱した先で突如足元に魔法陣が出現した。
「こ、これは罠!?」
突然の事に驚き動きを止めてしまうイルム。
「お嬢様!!」
そこへ、ルドルフが飛び出してイルムを突き飛ばすと、ルドルフの姿が光に包まれて消えてしまう。
「じいーーー!!」
「ルドルフさん!!」
オレはその声を聞いてすぐ様イルム達の元へ向かう。残りのサバントサル達はイルム達に石を投げていた為、背後がガラ空きだ。オレは落ち着いて意識を集中して刃へ風を纏わせると、腰を落として右足を踏み込み左から右へ不壊の剣を一閃して、サバントサル達を一気に倒した。
「どうした!?」
オレはイルムへ声をかけるとイルムが放心状態で目の前を見つめていた。オレはその先に魔法陣が描かれているのを見ると、ヨーナスが代わりに返事をした。
「イルム様の足元に魔法陣が現れたんすけど、ルドルフさんがイルム様を庇って、替わりに消えてしまったっす・・・」
今まで広間には罠がなかったんで、広間には罠は設置されていないと思い込んでいた。オレのミスだ・・・。
「すまない・・・。オレがきちんと調べなかったせいですね・・・」
放心した状態でイルムはフラフラと歩き出して小声で何かを呟いていた。
「行かないと・・・、じいを探さないと・・・」
オレはイルムの呟きが聞こえて思わずその手を掴む。
「ちょっと待った。探すってどこを探すっていうんですか?」
オレに手を掴まれたイルムが無理やりオレの手を引き剥がそうとしながら叫ぶ。
「離してください!じいを!じいを探しにいかないと!!」
「闇雲に探しても見つからないでしょう?それにそんな状態で行っても魔物の餌食になるだけですよ」
「じゃあ、どうすればいいんですか!!」
「お、落ち着くっすよ・・・」
オレに対して興奮するイルム。そしてオロオロするヨーナス。
「イルム様の目的は何ですか?ジェイクスパイダーの毒牙じゃないんですか?」
オレは諭すように穏やかにイルムに声をかける。その声を聞いて、少し冷静になったイルムは、その目にうっすらと涙を溜めながらオレに返事をする。
「そうです・・・。けれど・・・、私のせいでじいが・・・」
イルムは腰から力が抜けてその場に座り込んでしまう。
「このまま、うだうだと話しててもしょうがないっすよ!3人で急いでルドルフさんを探しにいきましょう!」
ヨーナスが明るく声を出すが、オレは冷静に反論する。
「そうしたいですが、イルム様の体力が持ちませんね。それに、この迷宮の広さを考えると3人で移動したとしても、ルドルフさんを見つけるのに時間がかかりすぎる」
オレの声を聞いて、イルムがいよいよ絶望的な顔をする。
「それじゃあ・・・、じいを見捨てろというんですか・・・?」
オレは軽く深呼吸してからイルムに返事をする。
「見捨てろとは言いません。ですけど、誰かが傷つき、倒れてしまうことも覚悟してここに来たのではないのですか?」
ヨーナスは黙って成り行きを見守っている。
「覚悟は・・・しているつもりでした・・・。ですが・・・、いざとなるとダメですね・・・。すいません」
「いえ。オレも意地の悪い言い方をしてすいませんでした」
オレはイルムが落ち着いてくれたようなので、手を離して魔法陣に近づくと、そこへ手をつき目を閉じる。そして、手のひらに意識を集中した。
迷宮が魔素を利用してるのだとしたら、この魔法陣から何かわからないだろうか?
オレは魔法陣に魔素を流すとそこから糸のような物を感じる。それは、ここから下に2階層ほど行った場所に繋がれているようだった。
「見つけた・・・」
オレの言葉に反応するイルム。
「・・・何かわかったのですか?」
「恐らくですけど、この魔法陣は別の階層に転移させるものです。そして、その先は2階下の10階層に転移させるようですね」
「本当ですか!なら、今すぐに行かないと・・・」
イルムが動こうとうするが、その動きは遅い。
「イルム様、無理をしてはいけませんよ。まあ、元はと言えばオレがきちんと罠を調べなかったのが原因ですし、オレが何とかしますよ」
「それはシュンさんのせいじゃないです!罠を全て把握するなんて不可能です・・・」
オレの自虐に対して慰めてくれるイルム。
「はは、ありがとうございます。でもまあ、大人としていいところ見せないといけませんしね」
「ヨーナスさん。イルム様と一緒に9階層へ降りる階段で待っていてもらえますか?」
オレはヨーナスへ声をかける。
「シュン殿はどうするっすか?」
「オレは一走りルドルフさんを連れてきます」
オレが軽くヨーナスに返事をするとイルムが反応してしまった。
「1人でですか!?危険すぎます!それに元は私達の依頼です。シュンさんが危険な目に合う必要なんてありません!」
「ご心配ありがとうございます。けど、大丈夫ですよ」
オレがイルムに返事をするとヨーナスが真剣な顔で聞いてくる。
「考えがあるんすよね?」
「もちろん」
「わかったっす。行きましょうイルム様」
ヨーナスがイルムに肩を貸して歩いていく。
「シュンさん、必ず無事に帰ってきてください。約束ですよ」
「わかりました」
オレは笑顔でイルムに返事をしてから地図を借り、2人より先に9階層へ降り立った。
さあ、ヒーロータイムを始めよう。




