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無事に2階に降り、その後も順調に3階層まで進んできたオレ達だが、ここからは罠が出てくるので、オレは地面に手をつくと生活魔法(極)の土系統の力を使って、罠を解除するのに使うナイフを地面の石から作れないか試してみる。
アクトアリーズン迷宮は全体が石でできているので、上手く操作できるか不安だったが、問題なく作ることができた。オレは立ち上がると空属性の【把握】を使い、3階層の階段のある場所を目指して歩き出した。
迷宮を歩いていると、足元に不自然な空洞を感知した。
「少し止まってください」
オレはイルム達に止まってもらい、先ほど作った土のナイフを空洞のある辺りへ投げると、その床がボロボロと崩れ落とし穴が姿を現した。
「落とし穴とは・・・」
ルドルフの呟きが聞こえる。
その後も、横から矢が飛んできたり、上から石がいくつも振ってきたりする罠を慎重に抜けつつ、さらに魔物とも幾度か戦闘になった。アクトアリーズン迷宮は階層がそれなりに広いので、迷宮に入ってから恐らく半日は経過していると思われる。なので、今日のところはそろそろ休むほうがいいと思い、イルムに地図を見せてもらった。
「もう休むんですか?まだ体力にも余裕がありますよ?」
「いえ、余力があるうちに休めるところへ行きましょう。それに、気づかないうちに疲れてるものですから」
「わかりました」
「イルム様、焦りは禁物ですよ」
イルムは出来るだけ急ぎたい気持ちがあるんだろう。そこへルドルフがフォローしてくれた。オレは地図を確認すると、通路が二股に別れ、両方が行き止まりの場所へ誘導した。そこへたどり着くと、まずは二股の別れる手前に壁を作って魔物が侵入できないようにすると、そこへ念のために魔物避けを設置しておく。
「これで魔物が入ってこれないので安心して休めるでしょう。あとは、左と右で休む場所を分けましょう。右と左、どちらにしますか?」
イルムはオレが壁を作ったことに驚いていたのか、一瞬呆気に取られていたがオレが話しかけると、ハッとして返事をする。
「そ、そうですね。なら私達は右側へ行かせていただきましょう」
「はい。では、お互い食事をとって、一眠りしたら出発しましょう」
「あ、その前に色々と不便なこともあるので、そちらの休む場所に少し手を加えましょうか」
オレはそう言って、イルム達と右側の突き当たりへ移動した。
「手を加えるとはどういうことですか?」
ルドルフがオレに尋ねてくるので、オレは実際に作業をして彼に説明することにする。
「まあ、見ていてください」
それほど広くはないが、生活魔法(極)を使って、奥の壁から一枚しきりを出現させ、女性と男性のスペースを分ける。次に、進んできた方向に少し戻っていき、壁を作って穴と便座を作って簡易トイレを作る。
「これで女性と男性が分かれて休めるでしょう。あとは、こちらは手洗いとして作りました。事が済めば、この瓶から水を組んで流してください」
「す・・・、すごい・・・」
「シュン殿。イルム様へのご配慮、誠に感謝いたします」
「いえ、女性は何かと大変ですからね。では、オレは向こう側で休んできますね」
オレがそう言うと、イルムからお礼を言われ、ルドルフとヨーナスとは、また明日と挨拶して分かれた。
オレは左側へ行くとこちらにもトイレを作ってから、食事をとってイルムには悪いが、オレは風呂に入らせてもらった。
アービバノンノン。
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一眠りしてから目を覚ますと、まずは生活魔法(極)で水球を出して顔を洗う。
体感で6時間くらいの睡眠時間かな。しかし、時間がわからないのも不便だな。帰ったら時間を測る魔道具でも作ろうかな・・・。そのためにも、魔石を確保しなければいけないな。
食事を済ませてから装備の確認と出発の準備を終えると、トイレなど作ったものを壊して更地にしておく。そうしてから、イルム達のいる右側へと向かうと3人とも起きており、食事をとっている最中だった。
「おはようございます。食事中にすいません。こっちで待たせてもらっていいですか?」
「もちろんです。こちらこそお待たせして申し訳ありません」
オレはイルムに聞くと、彼女は笑顔で返事をしてくれる。
「いえ、オレは1人なので準備が早く済んじゃいますから。オレのことは気にせずゆっくりと食事をしてください」
オレがそういうと安心したのか、イルムは食事を再開する。ちなみに、食事はルドルフが作っていた。作っていたのは干し肉や干し芋を使ったものだ。
食事をしつつ3人と話していると、ヨーナスからは見張りが大分楽だったと感謝された。イルムはオレが作ったトイレを大変気に入ったようで、興奮した様子で野営中の女性がいかに大変かという事を滔々と話してくれた。
うん、まあ、女性って大変だよね・・・。わからないけどわかります。
食事と出発の準備を終えたイルム達と再び下層を目指すことにする。
出発してから少ししてイルムがオレに話しかけてきた。
「シュンさん。野営を提案してくれてありがとうございました。昨日は食事をするとすぐに眠ってしまいました。シュンさんの言う通り、気づかないうちに疲れていたんですね・・・」
「それならよかった。まあ、慣れていないとわからないのでしょうがないですよ。それに、お父上のことも気がかりでしょうから、精神的にも大変でしょう」
「お気遣いありがとうございます。ふふ」
「どうかされました?」
「いえ、冒険者の方にこれほど気遣いをされるのが少し可笑しくて」
「なるほど。オレはかなり特殊なので、オレを基準にしないようにしてくださいね」
オレの返事にさらにクスクスと笑うイルム。
まあ、これで少しはイルムの気が紛れるならいいことだろう。
こうして和やかに話もしつつ、オレは警戒を緩めることなくさらに4階層へ続く階段を目指して進んでいく。




