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ARIGATOございます。
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組合の騒ぎから一夜明け、結局どの迷宮に挑戦するか決めていないことに気づいた。
あのエヴァリストとかいうやつのせいだな・・・。
ちなみに、エヴァリスト達は昨日はさすがにやりすぎということで、組合長に報告がいき、呼び出しのうえ折檻を喰らうそうだ。
因果応報、存分に反省してほしいものだ。
ともあれまずは飯にしようと思い、前回牛を使った串を売っていた露店を探して、しばらくウロウロしていたらようやく見つけたので、串を3本買ってから外で食べてもいい場所へ移動する。
最近、日中は涼しく過ごしやすい気温となっていて心地いい。オレは買ってきた串に胡椒を振ってから肉を噛みつつ口へ運ぶ。ただの牛肉がこれだけで数倍美味しくなる、ような気がする。
それを抜きにしても、何故牛から出る肉汁というのはこうも脳味噌と舌を刺激するのか。飲み込むときでさえ官能的だ。いや、さすがにそれは言い過ぎか・・・。
「そこのお方、少々よろしいでしょうか?」
そんな風に肉の味に没頭していたら、桑年の男性に声をかけられた。白髪が少し目立ち始めた髪を後ろへ流し、口髭を生やしている。そして、着ている服はなかなかいい生地を使って仕立てられていた。ただ、それよりもその服の下に長年鍛え抜かれた肉体美を感じるので、只者ではなかろう・・・。
「はい、何でしょうか?」
オレは口の中の肉を飲み込んでからその男性へ返事をした。
「お食事中のところ申し訳ない。私、モンジュラ辺境伯にお仕えしているルドルフと申します。少し貴方様へお話がありまして、お時間をいただけますでしょうか?」
「無作法ながら食事をしつつでも良ければ構いませんよ」
「もちろん構いませんとも。ありがとうございます。それでは失礼して隣に座らせていただきます」
オレの横にスッと座るルドルフだが、その無駄のない動きは一朝一夕で身に付くものではないことがわかった。
「さて、まずは貴方様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、これは名乗るのが遅れて申し訳ない。冒険者をしているシュンという。個人冒険者で階級は☆4だ」
「ほお、個人で☆4とはすごいですな」
「いやいや、大したことじゃないですよ」
「またまた、ご謙遜を。それで、シュン殿への話というのは、私の同行者と一緒に迷宮に行ってくれませんかな?」
オレはルドルフの言葉を牛を咀嚼しながら聞いていた。彼が言った同行者というのが気になるが、それよりもルドルフは冒険者ではない。なのに、迷宮に行って欲しいというのが気になった。
「迷宮に?質問を返して申し訳ないが、貴方は冒険者じゃないのに何故迷宮へ?それと、オレに声をかけた理由を聞かせてくれないか?」
オレがそう言うと、ルドルフは少し顎に手を添え考えるように間を取る。
「そうですな・・・。迷宮へ行く理由はシュン殿がこの話を受けていただければ、私の主人からお話させていただきます。そして、シュン殿を選んだ理由は、昨日、冒険者組合に私共もおりましてな。☆2パーティーの男性を1撃で吹き飛ばした力を見て、私の主人が是非にと思ったわけです」
そう言いながらルドルフは、アレは痛快でしたなと笑っていた。
なるほど。オレの強さを見込んで同行して欲しいと思ったわけか。しかし、迷宮に行く理由がわからんなあ。
「最後に迷宮に行く理由を、ルドルフさんの主人から聞いてから断ることはできるのか?」
もしやばいことだったら首を突っ込みたくないしな・・・。
「それは私では判断しかねますが、私の主人はならばしょうがないと言うでしょうな。ただ、口外だけはしないようにしてもらいますが」
「ああ、人の秘密を安易に話すようなやつは信用できないしな。わかった。ルドルフさんの主人のところへ案内してくれるか?話を聞かせてくれ」
オレがそう言うとルドルフさんは破顔して、オレを主人の待つ宿へ案内してくれるのだった。
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「初めまして、私はモンジュラ領の辺境伯が1人娘のイルム=モンジュラです」
宿に着くと主人がいるという部屋に通されて自己紹介された。イルムと名乗った少女は、年頃16歳くらいだろうか。青い髪を左側のハイポジションでまとめたサイドテールのような髪型をしていた。
ツインテールの片方だけといったほうがわかりやすいだろうか・・・。
「初めまして。私はクリオール領にて冒険者をしているシュンと申します。王都に用があったのでこの街に滞在してます。階級は個人で☆4です」
オレがそう返事をすると、イルムが少し驚いた感じの表情をしたので聞いて見た。
「どうかしましたか?」
「いえ・・・、申し訳ありません。シュンさんが丁寧な返事をされるので少し驚いてしまって・・・。王都に来てから何人かの冒険者の方にお会いしましたが、その・・・、他の方は粗野な方が多かったものですから」
「ああ、なるほど。まあ、冒険者は下に見られないように、わざとそういった態度を取る人もいるでしょうけど、基本的に礼儀は必要ありませんし、求められませんからね。オレのような冒険者は特殊だと思いますよ」
オレは同じ冒険者だがフォローのしようがないので苦笑してしまった。
「そのようですね」
オレが苦笑したのが可笑しかったのか、クスッと笑うイルム。そして、本題となる何故迷宮に行きたいのかという理由を聞いた。モンジュラ領とは辺境にあり魔物が多く生息する土地だそうな。そこでは、領主自らが騎士隊を率いて魔物を討伐するのもめずらしくない。しかし、それが仇となりイルムの父である辺境伯が魔物の毒を受けてしまった。
その魔物はモンジュラ領では初めて見る魔物であり、領内にあった解毒薬が効かなかったそうだ。技能の光属性によって毒の回りを遅らせてはいるが、ゆっくりと体を蝕み徐々に衰弱していってるのが現状だ。そして、色々と調べた結果、ジェイクスパイダーという魔物の毒牙を使えば毒の解毒薬を作れるらしく、王都の南にあるアクトアリーズン迷宮にいるところまでわかった。
ところが、そのジェイクスパイダーというのが迷宮15階の階層主であり、並の冒険者では手がでない。また、一緒にいく条件として法外な報酬を要求され断ったこともあったとういのがこれまでの流れらしい。
「なるほどな・・・。それで、時間もないからもうイルム様達だけで行こうかと思っていたところに、昨日の騒ぎでオレを見て誘ったと」
「そうゆうことですね。それと、父の話までしたのはシュンさんが初めてですね。貴方には変に隠さないほうがいいと思いましたので」
そういうとイルムは微笑を浮かべた。オレはイルムを目を見つめつつ椅子に深く腰掛けて息を吐いた。
「少し質問していいですか?」
「ええ、どうぞ」
「期限はどれくらいで?」
「なるべく早くです」
「なら、野営も視野にいれていると?」
「はい。野営なら領の魔物狩りで経験済みです。迷宮は初めてですが・・・」
「それと、イルム様も戦いに加わるので?」
「もちろん。私も武芸者の端くれ。我が領内で戦えない者などおりません」
脳筋な話だな・・・。さてさて、これも袖振り合うも多少の縁というのかね。
「ちなみに、そのジェイクスパイダーとは私が加わったとして勝てる魔物なんですか?」
「そこは安心してください。我が領内のとっておきの魔道具を使います。これを使えば一発でドカンといけます」
青い髪を揺らしつつ自信満々に笑うイルム。
「はあ・・・。なるほど。じゃあ、オレが加わる条件を言いますね。まずは、道中の魔石を全ていただきたい。その代わり金銭の報酬はいりません。そして、食事と回復役は別々にしてください。これは、急造のパーティーだといきなり連携が難しいので、オレはオレでなんとかしますので、そちらはそちらでなんとかしてください。ここまでで質問はありますか?」
「いえ。逆にシュンさんが損をしているような気がしますがいいんですか?」
「まあ、そう思うならいつかモンジュラ領に行った時は、美味しい物でも御馳走してください。それと、最後に迷宮内で死傷者がでても自己責任として、誰かのせいにしないでください。この死傷者にはイルム様も含まれます」
オレは目を細めてイルムの目を見つめる。
死ぬ覚悟のない人と迷宮に行って足を引っ張られるのはごめんだ。
イルムは目を瞑ると少ししてから目を開け、まっすぐにオレの目を見て口を開く。
「もちろんです。父や母にはここにくることは伝えてあります。私達のだれかがジェイクスパイダーの毒牙を持ち帰ればいいのです」
「なるほど。覚悟は決まっておりましたか。これは失礼を。では、微力ながらイルム様のお力になれるよう頑張らせていただきます」
オレは左手を胸に当て、右手を出して握手を求める。その仕草を見たルドルフからはほぅという声が聞こえた気がした。そして、イルムは椅子から立ちあがるとオレの右手を握り。
「いえ、シュンさんの思慮に感謝を。このイルム=モンジュラ、この依頼を受けていただいた事に最大の感謝をいたします」
そうして、オレはイルムの依頼を受けることにし、その後、細々とした決め事を話し終え、明朝にアクトアリーズン迷宮に向かう事になった。
まあ、年長者として若い子を導くとしますかね。




