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月の輝き 星の愛 今宵感謝をあなたに!
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シャノワールに会った次の日、今日は本題である迷宮について調べるために、冒険者組合にきていた。ちなみに、王都にある冒険者組合は他の街などにある冒険者組合の元締めであり本部である。そして、今更ながら、この王都の名前はメアルマーニという。人族の王都ではあるが、近くに獣人国家であるフーファットもあるので、多種多様な人種がこの街にはいるのだ。
閑話休題、オレは組合の建物に入ると空いている受付を探す。時間は昼の鐘がなってから少し経ったくらいだ。オレは手が空いてそうな受付を探す。とはいえ、買取受付と依頼報告受付はいつ人がくるかわからないので、依頼受注受付にいくことにする。
「こんにちは、王都の迷宮について聞きたいんだがいいかな?」
「はい、大丈夫ですよ」
オレににっこりと微笑みながら尖った耳を持った受付嬢が返事をしてくれる。
エリスの耳の形の似てるな。狐人族かな?
「ありがとう。ちなみに、お姉さんは狐人族かな?」
「あ、はい。そうですよ。よくわかりましたね」
「ああ、恋人が狐人族でね。耳の形が似てるなって思ったんで、つい聞いてしまったよ。変なことを聞いてすまない」
「いえいえ、依頼受注受付はお昼過ぎたら結構暇なんで大丈夫ですよ〜」
笑顔でそういう受付嬢だが、そういうのはあまり言わない方がいいんじゃないかな・・・。
「そう・・・、ならよかった。あ、で本題なんだけど、王都の近くにある迷宮の数と場所とか教えてくれないか?」
「はい、わかりました」
この狐人の受付嬢が話してくれた内容では、王都の近くには迷宮が3つあり、王都から西に2つ、南に1つあるということだった。3つの迷宮は全て地下型で、地下に階層が増えていくタイプのものだ。そして、西の2つは踏破されていて迷宮内の情報が詳細にわかっている。しかし、南の1つは踏破されておらず、それどころか、少しずつ階層が深くなっているらしい。そもそも王都がここに移されたのも、この南の迷宮を監視する役割もあったとか。
単に貿易の利便性を考えて王都を移したんだと思ったが、他にも理由があったのか。面白い話だ。
さらに、受付嬢へ各迷宮の話を詳しく聞いていると、結構時間が経ってしまい、気づけば組合へ冒険者が溢れていた。
「おっと、悪いな。長く話しすぎたか・・・」
オレは頭をかきながら受付嬢へ謝罪した。
「ふふ、気にしないでください。今日は整理する書類も少ないですし、私もいい気分転換になりました」
そんな調子で笑ってくれる受付嬢。
ええ子や・・・。
その時、依頼報告受付の方から騒がしい声が聞こえてきた。
「この僕が報告に来ているんだ!君たちは後にしたまえよ!」
なんじゃありゃ・・・?鎧を着た金髪男性が他の冒険者を押しのけて受付嬢の前まで歩いていってるぞ・・・?
「あー・・・。またですか・・・」
「また?」
「はいー。あの人、最近☆2パーティーになった”麒麟菊”のエヴァリストさんって言うんですけど、☆2になったからって、ああやって偉そうな態度をとるようになっちゃいまして」
「自分が特別だと勘違いしちゃってるわけか・・・」
「そうなんですよ・・・」
「組合としては何もしないのか?」
「基本的には組合職員って中立なんですよね」
「体の良い言い訳だな」
「耳が痛い話です」
オレの言葉に両耳を手で抑える仕草をする受付嬢。
っく、可愛い・・・。
「なら、年長者として苦言を呈しようじゃないか」
オレはやれやれと言った感じで、エヴァリストと呼ばれた男性の近くに歩いて行く。
「なあ、そこでごちゃごちゃ言う暇があったら並んだほうが早いんじゃないか?」
オレがエヴェリスとに声をかけると、彼は振り返ってオレを睨んできた。
「何だ君は?関係ない奴が口を挟まないでくれたまえ」
「いやいや、君の行動が非常識すぎて見てられなくてね。それに、ここで騒がれるとうるさいし」
「非常識だと?僕は☆2パーティー”麒麟菊”のリーダーであるエヴァリストだぞ?他の奴らよりも組合に貢献しているんだから、他の奴は僕に道を譲るのが当然じゃないか?」
「いや、階級が高いのと組合に貢献しているかどうかは関係ないだろ。それに、もし組合が君を評価してるなら専用の受付とか作るだろ。けど、これまで専用の受付を用意してもらった冒険者なんていないぞ?」
「なら、これから作ればいいさ。僕がその最初の1人になればいい」
おお、すごい自信・・・。
「そういうなら組合長に言いにいけばいいだろ。こんなとこでワーワー言うよりよっぽど建設的じゃないか」
「そ、それは・・・」
言葉を詰まらせるエヴァリスト。そこへ、女性が2人歩いてきた。
「ねー、まだ終わらないの?早く宿で休みたいー」
「私も、体を清めたいです。その後は・・・ふふ」
最初に喋ったのは、グレーの髪に、胸元がぱっくりと開いた赤い服を着た杖を持った女性。次に喋ったのは、金髪でこれまた胸元がぱっくりと開いた白い僧侶のような服を着た女性だった。2人ともグラマラスボディなので、開いた胸元がセクシーゾーンだな。
「カミーユにサーラ。待たせてすまない。報告の邪魔をする奴がいて話が進まないんだ」
グレーの髪色で赤い服を着たのがカミーユに、金髪のほうがサーラというらしい。
「こいつのお仲間か?なら受付にはちゃんと並べって言ってやってくれ。何を勘違いしているのかわからないが、自分は優先してもらえると思ってるらしいんだ」
オレはカミーユとサーラに顔を向けて話しかけたが、2人は顔を見合わせると、カミーユがオレに返事をした。
「は?何言ってんの?私ら☆2パーティーなんだから優先されて当たり前でしょ?」
あー・・・、こっちもかー。
「ですね。他の方には申し訳ありませんけど、さっさとエヴァリストに譲ってあげてくださいね」
そうニコリと微笑むサーラ。
なんだろ、頭が痛くなってきた・・・。
「あのなあ・・・、組合が誰かを優先するわけないだろ・・・。そんなことができるなら、今までの☆2以上の冒険者は皆、専用の受付をもつことになるじゃないか。そんな話聞いたことないぞ?」
オレの言葉に周りの冒険者達もうんうんと頷いてくれる。
「あー、ごちゃごちゃうっさいわね!!私は疲れてるんだからさっさとエヴァリストに報告させなさいよ」
カミーユはそう言うと無詠唱で火属性の技能である炎弾を打ってきた。
おいおい、それはさすがにいかんだろ・・・。
オレは咄嗟に新しく開発した空属性魔法の【反鏡】を使う。すると、オレの目の前と、カミーユの前に鏡のような空間が現れる。飛んできた炎弾がオレの前にある空間に吸い込まれるの同時に、カミーユの前の空間から炎弾がカミーユに向けて飛び出した。
この反鏡は、自分の前に鏡のような空間を作ると同時に、視認できる場所に対となる空間を作ることができる。そして、目の前に作った空間に魔法を吸い込むともう一つの空間からその魔法が出てくるというカウンター魔法だ。
「きゃああ!!」
カミーユは自ら放った炎弾を食らってしまうが、身につけている防具のおかげか、当たった炎弾は瞬時に消えた。ちなみに、反鏡によってできた空間は一瞬なので、カミーユが打った炎弾が跳ね返ったように見えただろう。
カミーユは炎弾に当たると尻餅をついてしまい、サーラが駆け寄るのが見えた。そして、自分の仲間が傷つけられて怒ったエヴァンストが、オレに剣を向けてくるのだった。
「貴様・・・!カミーユをよくも!」
「ちょっと待て、そのカミーユがオレに炎弾を打ってきたんだろうが。オレは身を守っただけだ」
「うるさい!問答無用!!」
良い加減こいつらの相手も疲れてきたな・・・。
エヴァンストが剣を振り上げてオレに攻撃をしかけてきた。
「くらええええええええええぼおおおああああ!!!」
なので、オレは彼の剣が振り下ろされるより早く、左拳で横っ面にカウンターパンチをお見舞いする。その威力やすさまじく、エヴァンストは吹っ飛んで入り口から外へ転がり出て行った。
一瞬の静寂。
「エ、エヴァンストおおおおーーー」
「あ、待ってくださいー」
カミーユが我に返って入り口へ走っていき、サーラもその後を追って組合から出て行った。
っふ、正義執行。
3人が出ていくと、他の冒険者から歓声が上がる。
「おいおい!兄さんすげえな!!」
「いやー、スッとしたわ!!」
「お兄さん強いね、ウチのパーティーにどう?可愛い子いっぱいいるよ?」
などなど、ワーワーと騒ぎ出し、しまいには宴会を始め出した。そして、強制的にオレも参加させられどんちゃん騒ぎをするのだった。
ていうか、エヴァンスト嫌われすぎだろ・・・・。




