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いつも読んでくださる人がいるんだなあと思うと感謝しかありませんね。
当たり前のことが当たり前じゃないと気づける人がどれくらいいるんでしょう。
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演習場につくと、ちらほらと生徒がいた。シャノワールに聞くと、試験には実技もあるのでその練習をしているんだろうという話だった。
「さて、じゃあどこで見せてもらおうかね」
オレはそう言いながら辺りを見回して人気のなさそうな場所を探す。
「シュン先生、あそこがいいと思います」
ロージーが向かって右側を指差してオレの服の裾を引いた。
「なるほど。あそこなら大丈夫そうだな。シャノワールも行こうか」
「わかりました」
3人で移動している最中、ロージーの顔を見ると随分自信に満ちた表情をしていた。オレが指導した時は姉と比べられて自信なさげに見えたけど、いい方向に一皮向けたらしい。
ほどなくしてロージーが見つけた場所へ着くと、さっそく生活魔法(極)の土系統の力で円柱の的を出してやる。
「相変わらず見事ですね」
今回もいい反応を見せてくれるシャノワール。
「すごいです!」
そして、朗らかに笑うロージー。
和むねえ。
「では、ロージー嬢のお手並み拝見といきましょうか?」
オレはロージーに道を譲るように横に逸れて、右手を胸に左手を的へ向けると体を前に少し傾けた。
「シュン先生って、本当にただの冒険者なんですか?」
オレの仕草を見て、ロージーが不思議なことを言うので、オレは姿勢を戻してロージーに話しかける。
「ん?どういうこと?」
「いえ、先生の仕草が洗練されて見えたので・・・。冒険者の方でそういったことができる人を初めて見ました」
「そうですね。シュンさんはどこかでそういった作法を学んだんですか?」
なるほど。冒険者があんな洒落た仕草をするんで驚いたというわけか。
「学んだというか本で読んだのを適当にしただけだな」
と言うことにしておこう。
「まあ、オレのことはいいから、ロージーの魔法をみせてくれ」
「あ、はい。わかりました」
オレの返事を聞いて、ロージーが的に向けて意識を集中しだす。
「【水動波】」
水属性の中級魔法である水波動が発動すると水玉が現れ的へ向かう。的に当たった瞬間に水玉が波打ち幾重にも的に衝撃を与えると、的を砕いて水が散った。
「お見事」
オレはロージーの魔法に賛辞を贈りつつ彼女を見ると肩で息をしていた。どうやら中級魔法を使うのはいいが、その反動で魔素を使い過ぎてしまうようだ。
「シュン先生のおかげで中級魔法を使えるようになりましたよ!」
ロージーは荒い息を整えながらオレの元にくると、嬉しそうにそう報告してくれた。それを見て、思わず心がほっこりし、ロージーの頭を撫でてしまう。
「せ、先生・・・!」
オレの行動に驚きつつ顔を赤らめるロージー。
「いやいや、オレはきっかけを作っただけで、中級魔法を使えるようになったのは、ロージーが頑張ったからさ」
オレは気にせずロージーへそう言ってあげると、ロージーははにかみながら微笑むのだった。
さて、ロージーの魔法を見たけれど、ここにはもう1人生徒がいたな。
「では、シャノワール君。今度は君の魔法を見せてもらおうかな?」
オレはおどけた様子でシャノワールに声をかけると、シャノワールはクスっと笑って前にでる。その様子を見て、オレは新たに的を生成する。
「では、シュン先生に見てもらいましょうか」
シャノワールも得意の水属性魔法を使う。
「【槍水進】」
シャノワールが魔法名を唱えると、槍状の水が出現し物凄い速さで的を撃ち抜いた。
「ふむ」
シャノワールの使った魔法を見てオレは少し気になることがあった。前にシャノワールの魔法を使う回路を確認した時は回路が細く、彼女が使った中級魔法を発動するには少し時間がかかるはずなのだ。
しかし、シャノワールの魔法は発動もスムーズで威力も問題ない。あれから訓練したとしても、ここまで劇的な変化はない。ある一つの可能性を除いて・・・。
「どうですか?シュン先生?」
シャノワールが無邪気にオレの方へ近づいて、褒めて褒めてという顔をしている。
まあ、水属性の技能が上達したのはいいことだ。褒めてしんぜよう。
決して、シャノワールの耳をモフりたいからじゃあないぞ?
オレはシャノワールの頭を撫でつつ耳もモフってみると、シャノワールが照れて頬を赤くする。そして、オレはそのままシャノワールの頭をガシッと掴んで笑顔で質問した。
「さっきの槍水進は見事だったけど、シャノワールの上達の仕方は少し早すぎるかな・・・?ニーナから何か聞いたんじゃないか?」
オレの質問にシャノワールから冷や汗がダラダラと流れ出す。
「いえ・・・、えーと・・・・」
シャノワールが目に見えて動揺している。以前、オレは弟子である赤髪の子爵令嬢のニーナが忙しくなるということで、1人でも訓練ができるように魔素操作の方法を教えた。しかし、これは下手をすると魔素を扱う回路を傷つけてしまう為、他の人には言わないように念を押していたはずだ。
ちなみに、魔素操作を覚えて訓練すれば、徐々にだが魔素を扱う回路が太く、そして強くなるのだ。
「その方法はやり方を知っている人が教えないと、回路を傷つけてしまうからニーナには口止めしていたんだがな・・・」
オレはシャノワールの頭から手を離してため息をつく。
「ご、ごめんなさい・・・」
オレの雰囲気が少し険のある感じになってしまい、シャノワールが萎縮してしまう。
「はあ・・・、とりあえず、ちゃんとした方法を教えるから、今後はその通りにすること。いいな?」
「は、はい。わかりました」
オレの言葉に恐縮して答えるシャノワール。
「シュン先生。何のお話をしているんですか?」
ロージーもオレ達のやりとりを見て興味が出てしまったようだが、今のロージーには必要ないことだな。
「シャノワール先生が、ダメっていったことを隠れてしてたんだよ。ロージーはそんなことしちゃいけないよ?」
「はい。わかりました」
「よい、返事だ」
オレは笑顔で返事をするロージーの頭を撫でながら笑顔になる。そして、ゆっくりとシャノワールに振り返った。笑顔で。
「まあ、知ってしまったのはしょうがない。ニーナには後日おしおきをするとしよう・・・。じゃあ、シャノワール両手を出して」
「は、はい・・・」
シャノワールがおずおずと手を差しだすと、オレはその両手を軽く握り、話しかける。
「今からシャノワールの回路のギリギリまで魔素を流す。前回はシャノワールの体質を調べるだけだから軽く済ませてたけど、今回はズドンといくからな?その感覚を覚えたら、常にその感じになるように循環させるといい・・・」
「へ?ちょ、ちょっとま、まってくださ・・・」
「待ちません」
オレは笑ってシャノワールの魔素を操作すると、シャノワールは思わず叫んでしまい、ロージーという教え子の前で痴態を晒すのだった。
うむ、お仕置き完了だ。




