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いつもお読みいただいてありがとうございます。
皆さんの暇つぶしの一助となれば幸い。
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エリスとデートの日がきた。
オレのいるクリオールの街は、時間を知らせる鐘が1日に3回鳴る。朝の鐘、昼の鐘、夕の鐘の3回だ。
とはいえ、正確な時間を測る時計とかがあるわけじゃないので、太陽の位置で鐘を鳴らしている。その為、鳴るタイミングは割と適当ではあるが。
クリオールの中央には、この街唯一の噴水があり、エリスとは、昼の鐘が鳴る時にそこで待ち合わせの約束をしている。
オレだけかもしれないが、どうにも待ち合わせというのは、落ち着かないものだ。いいおっさんが、そわそわするのもみっともないと思うんで、ボケーっと噴水前で待っている。
「シュンさーん。」
オレの名を呼びながら、エリスが来てくれた。とりあえず、ホッとしたわ。
「すいません、お待たせしちゃいました。」
「いや、オレもさっき来たところだから、問題ないよ。」
「ふふ、それなら良かったです。」
そう言うエリスの顔は笑顔だ。そして、何だかテンションが高いように感じる。その証拠に頭の耳がピコピコしている。
エリスの服装だが、白をメインとして、スカート部分はフレアを意識したワンピースで、腰に黒いベルトのように布を巻いているシンプルながら可愛いコーディネーションだ。
「いつも組合の制服姿を見てるから、私服を見るのは新鮮だな。よく似合ってるよ。」
「ホントですか?ありがとうございます。頑張って選んだかいがありました。」
「そうなのか。ありがとう。」
こんなおっさんの為に、わざわざすまんねぇ。
「シュンさんも、お洒落してくれたんですか?」
「まぁ、一応。自信はないが、いつもの冒険者の格好はさすがにないかなと思ってな。」
いつもは汚れてもいいような服装をしているが、今日はちょっとだけ生地がいいやつをきている。大した違いはないが、見た目は小綺麗に見えるはず。
「よくお似合いですよ。普通の格好もいいと思います。」
社交辞令なのかもしれないが、不快には思われてないようだ。よかったよかった。まあ、この世界に社交辞令なんて言葉はないだろうから、本心だと思うが。
「さて、どうしようか。早速お店にいくか?」
「それなんですが、ちょうど今はお昼なので混んでるんだと思うんですよね。なので、シュンさんがよければ、ちょっと他のお店など回ってから行きたいな、と。それでもいいですか?」
「そういうことなら問題ないよ。お腹も大丈夫だ。」
「よかった。では、雑貨屋さんに行きませんか?ちょうど石鹸が切れそうなので、買いにいきたくて。」
「いいよ、行こうか。雑貨屋っていうと、レインさんのとこ?」
「そうです。この辺りならレインさんのところが品揃えが豊富ですから。」
「わかった。じゃあ、行こうか。」
オレ達は2人で雑貨屋へ向かう。レインさんというのは、この街で商会を営んでいる人で、クレオールに昔から店を構えてるそうな。なので、この街には雑貨屋はいくつかあるが、レインさんのところが、老舗らしく多くのものを置いてたりする。
ちなみに、雑貨屋というのは、色々なものを置いてある為の俗称である。正式にはレイン商店だ。
お店にいくまでに、他愛ない話をしながら歩いているが、エリスとのやりとりは心地がいい。
エリスは、オレがこの街にきて冒険者登録をしたときに受付をしてくれた。
それからの縁なので、3年になるかならないかくらいの付き合いか。
短いとみるか長いとみるか、そんな益体のないことを考えていたら店についていた。
「こんにちはー。」
「あら、エリスちゃん。いらっしゃい。おや、今日は1人じゃないんだね。」
「はい。この後ご飯にいくんですけど、買い物してから行こうと思って。」
「あらあら、エリスちゃんにもついに良い人ができたのかい?良かったわねぇ。」
「そそそ、そんなんじゃないです!仕事のお礼にご飯にいくことになっただけです!ね?シュンさん。」
「そういうことみたいです。仕事で頼みを聞いたら美味しいお店を教えてくれるってことだったんで。」
うむ、エリスがそこまで言うのなら、話を合わせてあげようか。オレは空気が読める男だぜ。
「なんだい。エリスちゃんにもようやく良い人ができた思ったんだけどね。せっかくの美人さんなんだし、言いよる男もいっぱいいるだろうに、未だに独り身なんてねえ。」
「も、もういいですから。今日は石鹸を買いにきたんです。行きましょ、シュンさん。こっちです。」
そういって、オレの手を引っ張っていくエリス。ニヤニヤしているおばちゃん。この人、レインさんの奥さんかな。初めて見たけど、恰幅のいい世話焼きのおばちゃんって感じだな。
「ごゆっくり〜。」
おばちゃんの声を聞きながら石鹸が置いてある場所にいく。石鹸といっても、地球で作られてるような石鹸ではない。手作りで作られており、昔ながらの石鹸って感じだ。まあ、石鹸があるだけマシなのかもしれないな。そして、この店の石鹸にはいくつか種類があり、エリスはどれがいいか物色しながら選んでいる。
オレも石鹸を使っているが、オレのは自作の石鹸だ。最初は雑貨屋にも石鹸が売ってるからと、店売りのものを使っていたが、香りや泡立ちがイマイチだったので、自分で作ることにしたのだ。
ただ、この世界に苛性ソーダはないので、代わりの物を探すのに時間がかかった。苛性ソーダの代わりになるアルカリ性っぽいものを生み出す魔物がいたので、そいつを狩り、精製水は、生活魔法で作った水で代用した。香りつけに関しては、森にいくらでも花が咲いていたので、香りの良いものを色々採取し、いくつもの香りの石鹸を作ったのだ。
さらに、その時の副産物として、シャンプーもどきも作ってみた。泡立ちはないが、髪がサラサラになるので、汚れは落ちているはず。
材料は、種から油が取れる花があったので、その油を集め、そこへ、蜂蜜と、ラベンダーに近い花に、森に生えていたヤシのような実からとれたココナッツっぽいミルクを混ぜ、最後に薬草のエキスと塩を入れて完成だ。これでなんとか形になったので、石鹸といい、異世界様々だな。
ちなみに、この世界にも公衆浴場が存在する。なので、皆体を洗ったりはするんだろうけど、髪を洗うってのはあまり聞かなかった。シャンプーがないんで、髪はお湯や水で流すか石鹸を使っているのかもしれないな。しかし、地球育ちの異世界人としては、やはり髪はシャンプーしたかったのだ。なので、頑張って作ってみた。
そのうち、商業組合に持ち込みにいって、売れそうなら、これで一稼ぎしようと思う。
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