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良いことも悪いことも自分のタイミングに関係なくビンタしてきますね。
今日も読んでいただいてありがとうございます。
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肩に乗ったアイラをセオが捕まえて降ろしてくれた。
「すいません、妹が・・・」
「いや、助かったよ」
セオが申し訳なさそうに謝り、それに対してオレはお礼を言う。そして、アイラは無表情でプラーンと宙吊りになったままだ。
「ほら、アイラも謝りなさい」
「ごめんなさい」
「いえいえ」
そんなアイラにオレは苦笑せざるを得なかった。
その後、ザシャがオレ達への歓迎の料理を作ってくれたので、エリス一家、オレとアーティで食卓を囲んで色々な話をした。ちなみに、この村でも文字や計算を教える場所があり、セオとアイラはそこへ行っていたらしい。セオとアイラ以外にも通っている狐人の子はいるが、大概の子は落ち着きがなく、体を動かすほうが好きなので途中で狩りに夢中になったりで来なくなる子がほとんどのようだ。
ご飯を食べ終え寝る場所について聞くと、オレはセオと一緒の部屋で、エリスとアーティはアイラの部屋で寝ることになった。しかし、今日はギヨムと愉快な仲間達に襲われたり、歩いたりとそれなりに汚れているので、オレは風呂に入りたかった。
「なあエリス、この村ではお風呂というか汗を流すのはどうしてるんだ?」
「基本は濡れた布で拭くか、近くにある川で水浴びします。身綺麗にするかは人によって違いますし、中には全く気にせず過ごす人もいますよ」
な・・・ん・・だと・・?
「近くにある川って、外はもう真っ暗なんだけど?」
森の中故に明かりなどあるはずもなく、外には闇が広がっていた。
「ですね。水浴びは無理でも体は拭けますよ?手伝いましょうか?」
エリスが若干興奮した様子でオレに話しかけてくる。
「何か怖いんで遠慮するよ・・・。それより、この家の裏に少し開けた場所があるんで、そこを貸してもらっていいかな?」
「うーん、ちょっと母に聞いてきますね」
そう言ってエリスはザシャのところへ歩いて行った。しばらくすると、2人が戻ってきて、ザシャがオレに質問してきた。
「シュンさん、家の裏を借りたいって聞きましけど、どうするのかしら?」
「あー、今日は色々あって汗をかいてしまったので、お風呂を作らせてもらおうかと・・・」
風呂という単語を聞いてザシャの目をカッと見開いてオレに詰め寄る。
「お風呂ですって!!?」
「は、はい!で、ですが、入り終わったらちゃんと元に戻すので安心してください」
ザシャはオレを見つめたまましばらく無言になる。
「時にシュンさん。そのお風呂というのは簡単に作れるものなのかしら?」
「えーと、今日作ろうと思っているのは、使ったら壊すので簡単に作れるやつですね。本格的に作ろうと思えば魔石が必要だったりと簡単には作れないかなと・・・」
「わかったわ・・・。裏の空き地は自由に使ってもらっていいわよ。ただし、私もお風呂に入りたいわね」
ザシャから笑顔だが有無を言わせない圧力を感じる。
「も、もちろん。入っていただいて大丈夫ですよ」
ということで、オレは家の裏に、周りから見えないように囲いを作ってから、湯船を作りお湯を汲むための桶をいくつか用意する。今回は湯船からお湯を汲んで使ってもらうことにする。そのため、湯船は広く真ん中を少し深くし、少しでもお湯を多く貯めれるようにした。
「万が一お湯が足りなかったら足すから言ってくれ」
オレはエリスにそう言うと、アーティが横から冷やかしてきた。
「そんなこといって、お湯を足すふりをしてお風呂を覗く気ですね?シュンさんすけべですねー」
などと言うので、オレは笑顔を作ってから。
「なら、どれほどお湯が少なくなっても絶対継ぎ足しに行かないし、お前達が風呂からあがるまで、絶対に近づかないようにするわ」
「うそうそ、うそですよー。シュンさーん。見たかったら見ていいですから、そんないけずなこと言わないでくださいよ」
オレの言葉に焦るアーティがオレにまとわりついてくるのだった。
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カポーン
「はあー、いいお湯ねえ」
ザシャが湯船に浸かりながらほうっと息を吐く。
「ザシャさんておっぱい大きいですね。いいなあ」
「アーティさんだって大きいじゃない。ウチのエリスに負けず劣らずね」
アーティがザシャの胸を見てそんな発言をすると、ザシャはエリスを引き合いに出す。
「ちょっと、母さん変なこと言わないで」
急にそんなことを言われるので、エリスは胸を手で隠す。そんな会話を聞きながら、自分の胸をぺたぺたとするのはアイラだった。
「大丈夫よ、アイラ。あと2年もすれば大きくなっていくわ。母さんやエリスもそれくらいの年齢から大きくなったもの」
胸を気にするアイラを見て、ザシャがアイラを励ました。その言葉にアイラはむふーっと意気込み、未来の自分を想像するのだった。
という会話があったような気がする。オレは何も聞いていない、いいね?
そして、女性陣がお風呂から上がったので、男性陣の番となった。オレ、エリス父ことアヒム、弟のセオの3人でお風呂に入る。
3人で湯船に浸かっていると、唐突にアヒムがオレに話しかけてきた。
「シュン君、今日はありがとう」
オレは急にお礼を言われたので戸惑ってしまう。
「いえ・・・、大したことはしてないと思うんですが・・・。何かしましたっけ?」
「エリスのことだ。私の胸に傷があるだろう?」
アヒムはそう言って自分の胸の傷を撫でる。
「すごい傷ですね」
「ああ、昔この村を魔物が襲ったときに受けた傷だ。当時、私はこの村の長をしていたんだが、この傷が原因で弟に長の座を譲ったんだよ。そして、この傷はエリスを守った時にできた傷でね・・・。エリスはそれを気にして強さを求め、とても冷たい目をするようになってしまった・・・」
「あのエリスが・・・?ちょっと想像できないですね」
貴方の娘さん、オレの家では隙あらばオレの服を盗むし、体臭をクンカクンカしてますよ?
などとは言わない。オレはいい大人だからな。
「ああ、だから驚いたよ。昔のように、いや昔よりも穏やかに笑うエリスを見て心から安心した」
これまでオレとアヒムの会話を聞いていたセオも思うところがあったのか、口を開いた。
「そうですね。当時の姉さんは僕たち家族も声をかけづらい雰囲気でした。そして、強さを求めて冒険者になると言って村を出て行ったんです」
「へえ、そうなんだ」
「シュンさんは、姉さんとはどこで出会ったんですか?」
「オレは、クリオールという街に住んでるんだが、オレが冒険者になった時に受付にいたのがエリスで、そこで知り合ったな」
そうして、エリスと話すきっかけになったことや、エリスが冒険者組合でどんな風に過ごしていたかなどをアヒムとセオに話してやる。
「そうか・・・。冒険者を辞めたと手紙で知った時も驚いたが、エリスはいい出会いをしたんだな」
アヒムが空を見上げてしみじみと息を吐いた。そして、オレの目を見て真剣な声でオレに話しかける。
「エリスのことをどうかよろしく頼む。君ならエリスを任せられる」
「至らない姉ですが、どうかよろしくお願いします」
さらにセオもオレにそんなことを言う。
「わかりました。エリスを悲しませないようにしますね」
オレは笑顔で2人にそう言うのだった。




