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よい感謝を持った強い子!!ありがとうございまーす!
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なんやかんやあったが、ようやくエリスの故郷につくことができた。
「懐かしい・・・。こっちです。2人共行きましょう」
エリスが感慨深く呟きながらオレとアーティへ呼びかける。エリスを先頭に歩いていると、周りから注目される。
「シュンさん、何か私達見られません?」
アーティがその視線に気付いてオレに声をかけてきた。
「見られてるなあ。オレ達が人族というのと、エリスが帰って来たからじゃないかな」
「なるほど。何か落ち着きませんね・・・」
アーティが眉をハの字にして笑う。
「ま、諦めるしかないんじゃないか。早くエリスの家に着くことを祈ろう」
オレはアーティの肩を軽く叩いて励ましてやる。そうして、村の中を歩いていると、村の奥に大きめの木でできた家が見えて来た。イメージ的にはログハウスと言えばいいだろうか。家の扉の前に着くと、エリスが扉を開けて家に入っていく。
「ただいま」
オレとアーティはどうしようかと顔を見合わせて立っていると、エリスが声をかけてくれた。
「2人共、入ってきてください。家族に紹介します」
オレとアーティはエリスに促されて家に入ると、そこには男性と女性が1人ずつ立っていた。
男性のほうは、狐耳を生やしてはいるが、髭が濃くもみあげ部分から顎まで伸びている。髪の色は茶色で立て髪のように逆だっており、体は引き締まって筋肉質だ。女性のほうは、エリスと同じ薄紫の髪色に、髪を胸のあたりまで伸ばしておさげに編んで左へ流していた。そして、エリスの上をいく豊満な女性部分。
Eくらいはありそうだな・・・。なるほど、エリスはお母さん似なんですね。
「先にウチの家族を紹介しますね、こっちが母のザシャで、こっちが父のアヒムです」
「こんにちは、エリスの母です」
ザシャが笑顔で挨拶をしてくれる。
「エリスの父で、アヒムだよろしく頼む」
アヒムはオレに笑顔で握手を求めて来た。なぜか左手で、だが。
狐人族の握手は左手なのかな?まあ、あまり前世基準で考えるのはよくないな。
オレはそう思って、挨拶をしつつアヒムの手を握った。
「冒険者のシュンです。お会いできて光栄です。エリスさんとお付き合いさせていただいてます」
オレが挨拶をし終えると、握っている手に恐ろしいほどの力が加わり、手を離せなくなる。
「ふ、ふふふ。お前が・・・、お前がウチのエリスを傷物にーーー!!」
そう言いながらアヒムはいきなり右手でオレを殴ろうと拳を振り上げて来た。
ふむ・・・、男親故に娘が彼氏を連れてきたら1発殴るというやつか。異世界でもそういうのってあるんだな。
などと思いつつ、ここは殴られるべきかと思ったが、なんとなく嫌だったのでオレは右手でアヒムの拳を受け止める。
「何!?」
まさか受け止められると思っていなかったのか、アヒムは驚きの声を上げる。
「父さん!!シュンさんに何するの!!」
いきなりの行動に驚くエリス。一方ザシャは冷静だった。
「アナタ・・・。お客様にいきなり何をしているの?」
ザシャからエリス顔負けの圧が沸き上がる。
「い、いや・・・、エリスの彼氏をだな?見極めようと・・・」
「シュンさん、すいませんけど、そのまま父さんを捕まえててくださいね」
エリスが手をポキポキ鳴らしながら近づいてくる。
「すいませんね、シュンさん。ウチのが大変失礼をしてしまって・・・。けじめはつけますので、そのまま捕まえててくださるかしら?」
ザシャさんは首をコキコキと鳴らしながら近づいてきた。
「ま、待て!お前達、これは男同士のお約束というやつだ!な?シュンくん!ぬ、ぬおおおお、手が!手が離れんんん!!シュン君、まだ間に合う、どうか離してくれ!冗談じゃないか!!」
オレはニッコリと笑ってアヒムの両手をホールドする。なぜなら、近づいてくる2人のほうが怖いからだ。そして、アヒムはエリスからビンタを喰らうと、ザシャから腹パンを喰らって崩れ落ちた。
あいえええ、あのビンタは喰らったことあるぅ・・・。これはあれかな・・・、良くも悪くも遠慮がなくなって、オレにも気軽にビンタをするようになったということなのか・・・。ザシャさんも容赦がないー、それDVよお・・・。
オレがアヒムから手を離してブルブルと震えだすと、エリスはこちらを向き目を細めつつ薄く笑うと、『もう逃がしませんよ』と捕食者のような顔をするのだった。
いかん、これ以上は危険だ・・・夏の終わりに鳴くセミの声が聞こえそうだ・・・。うむ、考えるのをよそう・・・。
その後、アーティもザシャに挨拶をして、エリスとアーティが2人ともオレの恋人だと説明すると、ザシャはまあまあと笑うのだった。どうやら、エリスから手紙が届いており、ある程度はこちらの事情を知っていたらしい。
やれやれだ・・・。
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復活したアヒムとザシャがお茶を振る舞ってくれ、しばらくエリスとのあれそれや、アーティとエリスのうんぬんの話で盛り上がる。そこで、オレはふとおみやげを持って来たのを思い出したので、ザシャへ渡すことにした。
「そうだ、ザシャさん。よければお土産をもってきたので、どうぞ」
オレはそう言って、東の森にいるガードピッグという魔物の肉を渡した。こいつは、前足と後ろ足が硬い鱗に覆われている豚のような魔物だ。さらに、硬い鱗の下の手足は筋肉が異常に発達しており、ガードピッグの突進を喰らうと下手をすれば内臓を持っていかれる。その為、手足は硬く食えたものではないが、そのほかの部位は大変脂がのっていて美味しいのだ。
「まあまあまあ、これは見事なお肉ねえ。嬉しいわ!ありがとうシュン君」
エリスもそうだが、ザシャもかなりの肉好きらしい。オレの渡した肉を見てすごく喜んでいる。ザシャはオレのお土産があまりにも嬉しかったのか、オレを抱きしめると、そのままオレの顔をダイナマイトな胸に埋めてしまう。
こ、これは・・・。これがバブみってやつか・・・。母性を感じるぜ・・・。
「あーーーー!!母さん!!何してるの!!」
エリスが慌ててオレを引き剥がすと、すかさすアーティがオレへボディブローをする。
「ぐふ・・・」
「天誅です!!」
オレの呻き声にアーティが声をだし、エリスがサムズアップする。
「いいわよ、アーティ」
「よくねえわ。今のはオレは悪くないだろう」
あまりの理不尽にオレは抗議する。
「いえ、シュンさんは、今鼻の下を伸ばしていました」
「私達にも見せたことのない表情でした」
エリスとアーティが仲良くオレに反論する。
「ぬう・・・。これが数の暴力か・・・」
オレ達のやりとりを見ていたザシャはクスクスと笑っていた。すると、家の扉が開き、14歳くらいの男の子と、10歳くらいの女の子が入って来た。
「だたいまー」
「ただいま・・・」
家に入ってきた2人へ、まずはザシャとアヒムが返事をする。
「あら、2人共お帰りなさい」
「おお、セオにアイラお帰り」
セオと呼ばれた少年は、アヒムと同じ茶色の髪をショートカットにしている。アイラと呼ばれた少女はザシャやエリスと同じ薄紫の髪を左右で短くおさげにしていた。
「セオにアイラ、久しぶりね」
「「こんにちは、お邪魔してます」」
エリスが帰って来た2人へ声をかけるとオレとアーティも揃って挨拶をした。すると、アイラが人見知りなのか、セオの背後に隠れる。それを見たアーティは逆にテンションが上がってしまう。
「可愛い〜。ちっちゃいエリスさんって感じですね」
急な声上げにビクッとするアイラ。そんなアイラの頭を撫でるセオ。
「エリス姉さん、帰ってきたんだ。久しぶり、元気そうでなによりだよ。それと、お客さんですね。初めまして、エリスの弟でセオと言います。で。こっちがアイラです。ほら、アイラ挨拶して」
セオがアイラの頭にポンと手を手を置くと、おずおずとアイラが挨拶してくれた。
「アイラです・・・。初めまして」
そんな2人に対して、今度はオレとアーティが自己紹介する。
「こんにちは、アーティです。よろしくね」
「初めまして、シュンです。いきなり驚かせちゃったみたいですまないね」
そして、エリスがオレ達に続いてアイラに話しかけた。
「アイラは私のこと覚えてるかな?前にあったのはアイラが5歳くらいの時だったんだけど・・・」
エリスの問いかけにアイラはポツリと返事をした。
「覚えてる、エリスお姉ちゃん・・・」
「本当?よかった。嬉しいわ」
アイラの返事に笑顔になるエリス。そんな2人を見るとオレは心がほっこりする。
うんうん、尊いな・・・。
「セオにアイラもいつまでも立ってないで、こっちへいらっしゃい」
話が落ち着いたタイミングでザシャが2人へ声をかけると、アーティがうずうずとした様子でアイラに話しかけた。
「アイラちゃんー。よかったらこっちおいでー」
ミニエリスのアイラを抱っこしたいのか、アーティが手を広げてアイラを誘う。
「やめなさい。そういうのはもうちょっと仲良くなってからにするもんだ」
「むー、シュンさんはアイラちゃんの可愛さを見て何も思わないんですか?」
「オレが何か思ったら犯罪だろ・・・」
アーティの問いに、オレは思わず顔をしかめてしまう。しかし、アイラはとてとていう感じでアーティの方へ歩いていった。すると、アーティの目がキラキラしだす。
おや?人見知りかと思ったら意外と平気だったのか。
そして、アイラがアーティの近くまでくる。
「アイラちゃーん」
アーティが笑顔でアイラを迎えようとしたら、アイラはアーティの横を通り過ぎてオレの前にきたと思ったら、なぜかオレの体をよじよじと登って肩車の体勢になった。
「ア、アイラ!?お客さんに失礼よ。降りなさい」
アイラの突然の行動に驚くザシャさん。
「シュ・・・、シュンさん、許しません・・・」
キーっという感じで歯を食いしばるアーティ。
「い、いや・・・、オレも何がなにやら・・・。アイラちゃん?なぜオレの肩に・・・?」
アイラはオレの質問には答えず、何故かオレの頭をスンスンと嗅ぎ出した。
「・・・・・・・何をしているのかな?」
オレはアイラの行動の意味を問いただす。
「いい匂い・・・」
「ソウデスカ・・・」
似たもの姉妹だね・・・。
オレはエリスの行動で慣れているので、アイラの好きにさせることにした。しかし、そこへエリスの物言いが入る。
「アイラ!ずるいわよ!そこは私でさえあまり嗅ぐことができない特別な場所なのに」
「エリスは何を言っているの?」
オレは思わずエリスに突っ込む。
「アイラがが顔を近づけているところは、シュンさんの匂いが濃い場所なんです。私でさえシュンさんが寝ている時にようやく嗅げるというのに・・・」
エリスが汗をぬぐうような仕草をする。
アイラ恐ろしい子・・・。という感じがよく似合う。
そんなことより、そろそろエリスの匂いを嗅ぐ件についてじっくり話し合う必要がありそうだな・・・。
「そっちのお姉ちゃんからも、お兄ちゃんの匂いがする・・・」
アイラがアーティを見て呟く。
「アーティ・・・、後で詳しく話を聞こうか・・・?」
オレは笑顔でアーティに呼びかける。
「な、何もないですよー」
アーティが動揺して明後日の方を向く。
「エリスも帰ったら、オレを嗅ぐ件について話し合うからな?」
「な!?横暴ですよ?シュンさん」
などとオレ達3人は平常運転で話すのだった。
しかし、アイラちゃんや、そろそろスンスンと嗅ぐのをやめていただきたい・・・。
オレの思いも虚しく、アイラはスンスンとオレの匂い嗅ぎ続けるのだった。




