表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/183

9_11

感謝の気持ちを伝えて、それが相手に伝わってないって絶望だよね〜。


翌日、朝起きると、エルゼとアーティ、エリス、それにメイドさんの4人で盛り上がっていた。(ちまた)(うわさ)石鹸(せっけん)のことを話しているらしい。石鹸はクリオールを中心に王都でも人気がでて品薄状態(しなうすじょうたい)。ハンフリーでも噂になっているが実物を見たことはなく、それを昨日、気を利かせたアーティがエルゼに石鹸を貸してあげたらしい。


オレの石鹸だけどね・・・。


そして、いざそれを使ってみたらテンション爆上(ばくあ)げで今に(いた)る。ちなみに、ハンフリーは王都から東に行った場所、東の森を北に獣人国家が南にあり、その間に挟まれている土地だ。王都から近いものの、王都に入ってきた石鹸は王都でほぼ買い占められるので、他の街にはまだ流通が難しいようだ。


オレが顔を洗い終わって顔を()いていると、4人がオレの近くにやってきてお願いをしてきた。


「シュンさーん。エルゼ様に石鹸をあげれませんか?」


アーティが上目遣(うわめづか)いにお願いしてきた。


「いえ、タダでとは言いません。お金は払いますので、どうか売っていただけませんか?」


()いでエルゼがお願いしてくる。


「あの良さを知ってしまうと、以前の石鹸に戻ると言うのは(こく)な話ではないかと・・・」


メイドさんまでそんなことを言う。


「無茶なお願いとは思うんですが、何とかできませんか?シュンさん」


エリスさん・・・、耳をしゅんとして言うなんて卑怯(ひきょう)よ。


「シュン殿ー、お願いしますぅー」


そして、いつのまにか近くに来ていたフーゴが甘えた声を出してきた。オレはその声を聞いて、すこぶる苦々(にがにが)しい顔をして答えた。


「絶対渡さない・・・」


「お兄様!!余計なことをしないでください!!」


エルゼがキレてフーゴの背中をバシバシと叩いた。


「いたっ、いたいよ、エルゼ。悪かった、ごめんよ」


「はぁはぁ・・・、兄が失礼いたしました。どうか許してください」


エルゼが肩で息をしながらオレに謝ってきた。その必死さにオレはエルゼに石鹸を譲ってあげるのだった・・・。


そんな朝の一幕(いちまく)から無事にフーファットのある森の入り口まで辿り着くことができた。そんな訳で、ここでフーゴとエルゼとはお別れだ。


「シュン殿、本当に助かったよ。ハンフリーに来ることがあれば、ぜひ(いえ)に寄ってくれ」


「シュン様、石鹸(せっけん)(ゆず)ってくださってありがとうございました。それに、エリス様もアーティ様も、色々なお話を聞かせていただけて楽しかったです」


「私もエルゼ様と話せて楽しかったです」


「お二人ともこの後も気をつけてくださいね」


アーティ、エリスの順で、フーゴとエルゼに声をかける。


「それでは、オレ達は行きますね。ハンフリーには近いうちにいけたら行こうと思います」


「はい、お待ちしております」


「ああ、待ってるよ」


オレの返事に2人が答えてくれた。そして、オレとエリス、アーティはフーゴ達と別れてエリスの故郷を目指して森に入っていった。



10


森に入りしばらく進んでいる。森に入って最初に感じたのは、東の森とは違って風が気持ちよく通り抜けているので、歩いていて気持ちがいいのだ。


森林浴(しんりんよく)といった感じかな。マイナスイオン感じるなー。


東の森は魔素(まそ)が濃く、木々が密集しているのでじっとりとしている上、あそこは魔物が多いので気が抜けないので、気持ちよく歩くということはできない。しかし、このフーファットの森はそれなりに木々が離れており、木々の間から差し込まれる日差しが綺麗だ。


「綺麗な森だな」


オレは何気なく(つぶや)くと、オレの声が聞こえていたエリスが嬉しそうに笑って返事をしてくれる。


「そうなんです。空気も()んでいていいところなんですよ!」


久しぶりに故郷の森に帰ってきたからだろうエリスの気分が上がっている。そんなエリスの無邪気さが可愛く思え、ふとエリスの頭を()でてしまう。


「ふぁ・・・、ど、どうしたんですか?いきなり」


突然のことで顔を少し赤くするエリス。


「ふふ、いや可愛いなと思ってさ」


「そ、そうですか・・・」


それを見たアーティが(うらや)ましそうな声でオレの左腕に自分の腕を(から)ませてくる。


「もう1人の可愛い恋人を忘れてませんか?」


「忘れてないよ」


オレは苦笑してアーティの頭も撫でてあげると、手の下から、えへへと声が聞こえてくるのが可愛い。その後、オレの手をエリスが再び自分の頭に持っていくので、改めて撫でるとエリスがニコッと笑っていた。


アーティに離れてもらって、再びエリスの生まれた村を目指して歩く。


「エリスさんの村って、どれくらいの距離なんですか?」


歩いているとアーティがエリスに質問した。


「そうね・・・、ここから1日半くらい歩いたところかしら?」


「なるほど」


「となると、ある程度歩いたら野営の準備をしないといけないか」


アーティが(うなず)き、オレは残りの行程(こうてい)の段取りを考える。


「そうですね。今夜は何か狩りましょう。新鮮なお肉で焼肉です!」


森に帰り、狩猟(しゅりょう)本能が刺激されているのかエリスの発言が過激(かげき)だ。一狩り行こうぜ!みたいなノリで話してくるな・・・。


「ああ・・・、そこはエリスに任せるよ」


「はい!」


と元気に返事をしてから、フンスフンスと意気込むエリスさんなのだった。



11


昨夜はエリスが狩ってきた動物を解体して食べた。この森は動物が豊富でところどころに小川も流れているので川魚がいる場所もあるとか。そして、朝出発してからもう少しで村につくというところで、オレの索敵(さくてき)に6つほど反応があった。オレが使う生活魔法((きわみ))の風系統の力によって生まれた風の(まく)に、人のような大きさを感じた。


「エリス、アーティ。集まってくれ」


オレの声に2人は素早く反応しオレに近づく。


すると、6つの反応のうち4つが物凄(ものすご)い速さで近づいてきて森の中から現れた。下から3人の狐耳(きつねみみ)をした男性が飛び出してきて、木の枝を飛んできたのか上から1人男性が飛んでくる。


オレは瞬時(しゅんじ)に飛び出して、まずは下からくる男狐人(おとこきつねびと)の1人に近づくと、その(いきおい)いを利用して八極拳の外門頂肘(がいもんちょうちゅう)を繰り出す。技能(ぎのう)武芸全般(ぶげいぜんぱん)】がオレの体を正しく技の(かた)へ導いてくれ、カウンターとして肘打ちが決まり、男狐人が吹き飛ぶ。


オレはすぐに体を回して上からくる男狐人の真下へ走ると、男狐人は上から両手を組んでオレに攻撃してきた。前の世界ではダブルスレッジハンマーというのが近いだろうか。オレはその攻撃がくるよりも早く、足をほぼ垂直にし槍の様にして()りあげると男狐人の腹に決まり、男狐人から苦悶(くもん)の声が出る。


蹴った足から力を抜くと、上から来た男狐人(おとこきつねびと)はそのまま地面に(うめ)きながら倒れ込むが、オレは気にせず残りの2人のもとへ走ると、男狐人の1人がエリスとアーティの近くで拳を振り上げていた。オレは生活魔法(極)の土系統の力で地面を変形させて自分を押し出す。地面によって押し出されたオレは横方向に飛びながら体を横にして、2人の近くにいた男狐人にドロップキックをすると、男狐人の顔に綺麗に決まりその場で(くず)れ落ちる。


吹き飛ばした男狐人のすぐ横に、最後の1人がすでに攻撃態勢で立っており、着地したオレの顔目掛けて拳を振る。オレは自分の顔をさらに低く下げて拳を(かわ)すと、そのまま両手を地面について腰から体を回してかかとを相手の横面(よこづら)に当てると、男狐人は体を(かたむ)かせて倒れた。


「すごい・・・」


「ここまでとは・・・」


オレの後ろでアーティとエリスの順で声が聞こえてくる。


ふむ、そういえば2人の前ではここまで動いたことはなかったかな・・・?魔物相手だと、ある程度任せるし、今回は勢いのまま相手を倒してしまったな。まあ、いいか。


「2人とも無事か?」


「はい」


「大丈夫です」


オレが聞くと2人は笑顔で答えてくれる。


さて、残るは2人か。すぐに出てこないということは戦う意志はないってことかな?まあ、それも聞いてみたらわかることか。そう思いながらオレは2つの気配のする方向を見ながら一息つくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ