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ありがとうと言われたら、どういたしましてとスマートに言える大人でありたい。
ありがとうございます!
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「う、おほん・・・」
オレ達が抱き合っていると後ろから声が聞こえてきたので、ゆっくりエリスから離れた。
そうだな・・・、ちょっと場の空気読めてなかったな・・・。
オレは努めて冷静に振り返り、予想通り立っていた騎士へ話しかけた。
「ああ、すまない。貴方達が襲われてるのをウチの仲間が見つけてね。それで急遽助太刀させてもらった」
「いや、こちらこそ助かった。助太刀感謝する。そちらの女性はクリオールの冒険者組合の職員だと言っていたが、君は冒険者か?」
「ああ、オレは冒険者のシュンだ。こっちのエリスの故郷へ行く途中でね。ちなみに、あと1人こっちへ向かって来ている女の子もオレの仲間だ」
「そうか、すまないがひとまずここの後始末を手伝ってもらるか?このままだと血の匂いにひかれて魔物が寄ってくるかもしれない」
「ああ、もちろん手伝わせてもらうよ」
オレ達は騎士と一緒に野盗を土に埋めていく。不幸に合ってしまった騎士は所持品の一部を持ち帰り、家族がいる場合は渡したりするそうだ。あと、騎士から野盗の装備が欲しければ持っていっていいと言われたが、別段お金に困っているわけでもないので丁重にお断りした。
さて後始末も終わったので旅を再会しようとしたら騎士の1人に呼び止められた。
「誠にすまないが、我が主が君達と話がしたいそうなのだ。少し時間をもらえないだろうか?」
あまり貴族には関わりたくないのだが・・・。
「どうする?」
とりあえず、エリスとアーティに聞いてみると、2人ともオレに任せるということだったので、オレは笑顔で騎士に返事をした。
「申し訳ありませんが、旅を急ぐのでここで失礼しますね」
「む・・・、いや、しかし・・・」
騎士は断られると思っていなかったのか言葉をつまらせる。オレは騎士に背を向けてエリス、アーティと一緒に歩き出そうとするとオレ達を呼び止める声が聞こえた。
「待ってくれたまえ!」
「いけません、フーゴ様!」
オレ達は振り返ると、見た目は18歳くらいだろうか?青い目で金髪をセンターで分けた男性が馬車からおりてこようとしていた。その男性は、騎士や側に使えるメイドの制止を振り切ってこちらへ来ると、エリスに跪いてその手を取ろうとした。
それはいけないなフーゴとやら。
オレは黒い胴着に赤い髪をした人のように黒い残像を残しながらエリスの前にたつと、それに気づかないフーゴはオレの手をとって口づけをしようとした。
「ん?意外と角ばった手、まるで男性のよう・・・」
フーゴはそこで何かに気づいたように顔を上げるとオレと目が合ったので、オレはフーゴに言ってやった。
「悪いけど、そういうのは遠慮してくれ。こっちのエリスはオレの妻になる予定の人で、あっちのアーティはオレの奥さんになる予定の子なんだ」
オレの言葉を聞いてエリスとアーティが顔を赤くしていたが、オレからは見えなかった。そして、フーゴはというと少し呆気にとられていたが、立ち上がると笑い出した。
「っふ・・・、ふふ、あはは。そうか、それはすまない。いつもの癖で女性に挨拶をしようとしてしまった」
いや、その挨拶も女性が手を出して初めて男性が口づけをしたような気がするが・・・。まあ、ここは前世の世界じゃないしな。
「改めて名乗らせてくれ、僕はフーゴ=ハンフリー。ハンフリー子爵家の次男だ。君達が野盗から助けてくれたんだね。ありがとう」
「オレはクリオールで冒険者をしているシュンです。成り行きですからお気になさらずに」
フーゴがオレに手を差し伸べてきたので握手をする。ただ、さすがに無防備すぎたのか、1人の騎士が近づいてきてフーゴをオレ達から引き離す。
「フーゴ様!不用意に近づくのはおやめください!」
「助けてもらっておいて失礼なことを言うものじゃない。すまない、シュン殿」
「いえ、襲われたばかりですから、騎士の方が心配されるのも当然かと。それで、何か御用ですか?」
このままだと話が進まないので早く用件を言って欲しい・・・。
「そうだね。端的にいうと君達を雇いたい。僕達はフーファットに行く途中でね、できればそこまで護衛をして欲しいんだ」
行こうとしている国は一緒だけど、エリスの故郷である狐人族の村はどの辺りにあるんだろうか?
「エリスの故郷って一緒に行っても問題ないの?場所的に」
オレがエリスに聞いてみるとエリスは少し考えてから返事をする。
「そうですね・・・。森の入り口までなら問題ないです」
それを聞いたフーゴは嬉しそうに口を開いた。
「本当かい!?それで十分だよ。森の入り口まで行けばフーファットの守り手に守ってもらえるから大丈夫さ」
守り手とは、人族の国で言うところの衛兵のようなものらしい。
「ちょっと待ってください。まだ一緒に行くと言ったわけじゃありません。まずは、仲間に確認させてください」
オレは喜ぶフーゴに待ったをかけて、アーティに話しかけた。
「エリスとアーティはどうしたい?オレは気は進まないが、さすがに残りの騎士の人数を見るとな・・・」
「私はどっちでもいいですよー」
「私は助けるなら最後まで助けるほうがいいと思います」
アーティ、エリスの順で意見を述べる。
まあ、乗りかかった船というやつかな。
「わかりました。フーファットのある森の入り口までなら護衛します。その代わり、報酬はきちんといただきますので」
「ああ!もちろんさ!ありがとう」
という訳で話はまとまり、残った騎士は3人いて、彼らを先頭に次に馬車、後方にオレ達3人という形で移動することになった。ただオレ達は歩きなので移動速度は落ちてしまうが、それは大丈夫か確認したら問題ないらしい。
出発してからすぐに、エリスがオレの右手に腕を絡ませ、アーティは左手に腕を絡ませてきた。
「なに?歩きづらいんだが・・・」
2人がにやにやしてオレを見てくる。するとエリスがオレに話しかけてきた。
「少しだけですから、ね?それと、シュンさんもやきもち妬くんですね」
エリスに続いてアーティもオレを茶化してくる。
「ふふふ、シュンさんにも可愛いところがあるじゃないですか」
どうやら先ほどエリスとフーゴの間に割って入ったことや、オレの嫁発言したことを言っているらしい。2人の態度にオレは口をへの字にして憮然とする。
「・・・もう絶対言わない」
「あー!?冗談ですよ。嬉しかったんで、また言ってくださいー」
アーティが慌ててオレの腕をブンブンと振ってくるがもう遅い。エリスも少し慌てて言い訳をする。
「そ、そうですよ。シュンさんが私達を想ってくれてることがわかって嬉しかったんですから」
オレはしばらく無言で歩き続け、その間2人はしきりに謝ってくるのだった。




