21
感・言身寸!って昔流行った気がする。
21
夜は更けて、場は宴会の真っ最中だった。あれから、疲弊した冒険者達や騎士達は体を休めることを優先して、第四陣だった場所に野営をすることにした。また魔物の大軍を退けた一報はすぐに王都へと知らされ、なんとその報せを聞いた冒険者組合本部が宴会用の酒と食べ物をここに用意してくれたのだ。
王都に戻れば騎士達は凱旋パレードを行うことだろう。冒険者達も王都に報告に行く者や各々の街に戻っていく。ただ、その前に目一杯喜び合おうということで宴会だ。
オレは各所で上がる焚火を眺めつつ、エールをこっそり冷やして飲んでいる。そろそろ夜も涼しい気温から、少し肌寒い気温へと変わり土の月(秋)が来ようとしているのを感じる。星空を眺めながら酒を飲んでいるとキャンプをしているような気分になり、いつもより酒が美味しく感じる。
オレの周りでは騒がしく笑いあったり、早くも酔いが周り泣き上戸になっている声が聞こえてくる。いつもは規律を重んじる騎士達も、今回共に戦った冒険者達と一緒になってハメを外しているのをみると、今回の戦いが無事に終わって良かったと改めて感じる。
オレが気配を薄くしてしっとりと酒を楽しんでいると、めざとくリンカがオレを見つけてきた。
「旦那、こんなところにいたのか。探したぜ」
リンカはすでに結構な酒を飲んでいるのか、いつもは薄いピンク色の肌が少し濃く赤くなっているように感じる。
っち・・・、見つかってしまったか・・・。
オレは前科のあるリンカに対して少し硬い表情で話してしまう。
「飲み過ぎてないだろうな・・・?酒癖が悪いんだからほどほどにしろよ?」
オレの言葉を聞いて、うっという表情をするリンカ。
「だ、大丈夫だよ・・・。さすがに、メイヒムの一件から反省して飲み過ぎないようにしてるよ・・・。これ以上、旦那に嫌われたくねえからさ・・・」
そう言ってリンカは眉を下げ気味にして申し訳なさそうに返事をする。オレはふーっと軽く息を吐いて返事をする。
「ならいい。んで、どうした?」
「へへ。せっかくだから旦那と飲みたくてさ。よかったら1つどうだい?」
リンカは両手にエールの入った木でできたジョッキを持っており、その一つオレに近づける。オレは自分の持っていたエールを飲み干して、リンカからジョッキを受け取った。
「ああ、もらうよ。ありがとうな」
「どういたしまして!せっかくだから乾杯しようぜ」
リンカはオレが酒を受け取ったのが嬉しかったのか、笑顔でオレの隣に座るとジョッキを掲げる。
酒を持ってきくれた礼だ、リンカのエールも冷やしてやるか。
オレはそう思ってリンカへと話しかける。
「リンカ少しそのままで止まってくれ」
「ん?わかったよ」
オレは生活魔法(極)の火系統の力を使ってエールの熱を奪う。
「もういいぞ。それじゃ、お互い生き残った喜びに」
「「乾杯」」
ジョッキをお互い当てるとコンという音がなり、エールに口をつける。夜の気温は低くなったとはいえ、寒いというよりはまだ温かいと思える夜に、冷えたエールが格別に美味かった。そして、グイっとエールを飲んだリンカが驚いて声をだす。
「な、なんじゃこりゃ!!エールが冷えてる。というか、美味すぎるだろこれ!!旦那が冷やしてくれたのかい!?」
リンカは目をキラキラさせながらオレに聞いてくる。
「エールを持ってきくれた礼だ。他のやつには言うなよ?」
「わかった!しかし、これはいいねえ!」
リンカは笑顔でエールをグイグイと飲む。
おいおい、飲みすぎるなよ・・・?
オレがリンカを見ていると、背後から声が聞こえてきた。
「何がいいんだい?まさか、興が乗ってやらしいことしてんじゃないだろうね?」
リンカの声が聞こえていたのか、オレの後ろにビキニアーマーを着たウルードが立っていた。
いかんぞ、リンカとウルード、お前らは若干キャラが被っているんだ。一緒にいてはいけない・・・。
「あん?何だいあんたは?ずいぶんエロい装備を着て恥ずかしくないのかい?」
リンカがウルードを見て率直な感想を言う。
すげえな、思ってても中々言えないぞ、それは。
「ははは、よく言われるよ。慣れたらどうってことないさ。それより、あたしも混ぜてくれよ。シュンの戦い見てたぜ。やるじゃないか」
リンカの感想を気にすることなく笑い。オレの隣にどかっと座るウルード。オレに話しかけながらエールの入ったジョッキを近づけてくるので、ウルードとも乾杯をする。
「そらどーも。見てたっていうけど、あの数の魔物を相手にしながら見えたのか?」
オレの質問を聞いてウルードはニカっと笑いながら答える。
「ああ、もちろん全部見てたわけじゃないさ。追加の魔物が現れたとき、そこの黒髪の女とアダルさんの3人でつっこんでいったろ?それを見てたわけさ」
ウルードに黒髪の女と言われたので、リンカが自分の名前をウルードに告げる。
「アタイはリンカっていうんだ。よろしくな」
「ああ、あたしはウルードだ。よろしく」
「ああ、なるほどな。確かにあの時は先行して魔物に向かっていったから目立ったか」
「そうそう、アダルさんが空中で魔法を放ってるのを見て、どこの大道芸かと思ったよ」
そう言ってウルードはきひひと笑う。その後、ウルードとリンカは酒の力もあってか2人は急速に仲良くなる。
まあ、キャラも似てるし馬が合うんだろう。
2人は酒が無くなったといって酒を取りにオレから離れていく。すると、それを見越したかのように隣にストンと座る人がいた。
「やあ、こんばんは。お酒はまだあるかい?」
両手にお酒を持って座っていたのはアダルさんだった。オレは残っていたエールを再び飲み干してアダルさんに笑顔で答える。
「こんばんは。ちょうど無くなったところですね」
オレの返事を聞くとアダルさんは楽しそうに笑い、お酒を一つオレに渡してくれたので、アダルさんと乾杯をする。
「ふふ、さっきまで両手に花だったね。シュン君は女性に人気があるんだね」
「あの2人を花と呼んでいいのか疑問ですけどね」
「ダメだよ。女性をそんな風に言うなんて」
アダルさんは苦笑混じりにオレを軽く叱る。
「それは失礼」
オレはそんなアダルさんの言葉に肩を竦めるしかなかった。それから、アダルさんは焚火を見ながら口を開く。
「今回はシュン君がいてくれて本当によかったよ」
「そうですか?」
「ああ、君がいてくれたから私も心を折らずに済んだ。エリス君が君を頼りにするわけがよくわかるよ」
そういってアダルさんは首を傾けつつ微笑を浮かべてオレの顔を見る。アダルさんの顔が少し赤く見えるのはお酒のせいか、焚火に照らされているからか・・・。
「アダルさんにそう言われるのは悪い気がしませんね。ありがとうございます」
オレはそう言って酒を口に含むことで間をもたす。
普段は毅然としているこの人の、こういう可愛い仕草を見てしまうとギャップにやられそうだぜ・・・。
「やれやれ、そんなに軽くかわされてしまうと女として自信がなくなりそうだよ」
そう言いつつ悪戯な笑顔を見せるアダルさん。
「安心してください。オレもエリスがいなかったら今のアダルさんにコロっといってましたよ」
オレはアダルさんをフォローしつつ残りの酒を飲むためにジョッキを傾ける。
「最近はアーティも加わったけどね」
オレはアダルさんの一言で酒を吹いた。
「ぶふっーー・・・げは・・・ぐふ・・・・。気管に・・・ごほっごほ」
オレはむせて土下座のような姿勢になる。
「だ、大丈夫かい!?」
アダルさんがオレの背中をさすってくれる。
「す、すまない。そこまで動揺するとは・・・・」
しばらくしてオレは落ち着いてから顔をハンカチで拭いた。
「はぁはぁ、すいません。取り乱しました。というか、アーティのことって皆知ってるんですか?」
オレはアダルさんに質問するとアダルさんは困ったような顔をして答えてくれた。
「最近アーティ君が、シュン君と2人で街を歩いてるのを見た受付嬢がいてね。その受付嬢がそのことをアーティ君に尋ねると、君と恋仲になったって公言していたよ。その後は、お察しだね・・・」
その時オレに電流走る・・・。
「しばらく組合に行かないようにしますわ・・・」
「それがいいかもね」
そんな話をしていると、うるさい2人が帰ってきた。
「旦那ぁー、聞いてくれよー」
リンカが涙目でオレの傍にくる。
「いきなりなんだ?」
「この馬鹿女が力比べとかいってアタイの手を潰そうとしたんだぜ?」
そういってオレに少し赤くなった右手を見せてくる。
「人聞き悪いこというんもんじゃないよ。ちょっとしたお巫山戯じゃないか」
ウルードはしれっとそんなこと言って笑っている。
「それにそっちのシュンは平然としてやがったからねえ」
「なんだ?この前のこと気にしてるのか?」
オレは腰のポーチ型魔法袋からポーションを出してリンカに振りかけつつ、ウルードに問いかけた。
「べ、つ、にー?ただ、あたしの力に耐えれたからといって、あたしより力が強いってわけじゃないしー?」
変に絡んでくるな・・・。
ウルードもどうやら酔っているらしい。とはいえ、オレも今日もはそれなりに酔っているので、ついウルードを挑発してしまう。
「へえ、んじゃ。ご自慢の鉄壁とやらがどれだけすごいか試してみるか?」
「いいねえ。乗ったよ」
オレはウルードと右手で握手をする。そして、少しずつ右手に力を込めていく。ウルードは【鉄壁】を発動したようで、その手は確かに少しくらいの力ではビクともしなかった。また、ウルードも握る手に力を込めてくるがその程度ではオレには響かない。
オレは酔った勢いで少し悪戯をすることにした。技能【武芸全般】を発動すると、腰を少し落としてから、握っている右手を通してウルードの重心を崩して右手でウルードの体を持ち上げた。
「っきゃ!?」
ウルードはいきなり自分の体がひょいと持ち上げられたことに驚いたのか、可愛らしい声を出して驚く。すると、驚いた拍子に右手から力を抜いてしまい、バランスが崩れて頭から地面に落ちそうになったので、オレは握っている手を横へ振り、自分の左手をウルードの膝裏に添え右手は背中へと移動させてウルードをキャッチする。
いわゆるお姫様抱っこというやつだな。
「意外と女らしい声もでるじゃないか」
酔ったオレはニヤニヤしながらウルードへ話しかけると、ウルードは目をぱちくりさせながらオレを見上げる。さすがに怒るかと思った矢先、ウルードはニヤリと笑ってオレにしがみつきオレの顔を掴むと、ぶちゅううううっとオレの唇を吸ってきた。
「むううううううう!?」
頭のなかにずきゅうううんと聞こえてきそうな行動に、今度はオレが目を白黒させる。
「ああああああああ!!!」
近くで見ていたリンカが声を上げ、アダルさんはいきなりの展開に呆気にとられている。
「っぷは!何だいリンカうるさいね。こんなの冒険者同士の挨拶みたいなもんじゃないか。それより、いいねえ。シュン気に入ったよ。今夜あたしのテントにきなよ?楽しませてやるよ?」
ウルードは笑いながらこともなげにそんなことを言う。その言葉を聞いてオレは逆に冷静になる。
「悪いがそれはお断りだ。さっきのは挨拶ってことにしておく」
オレはふーっと息を吐いてウルードにお断りの返事をすると、ウルードを地面におろしてやる。
「はは、そうかい。それは残念だ。けど、その気になったら来な?あんたならいつでも相手になるよ」
ウルードはそう言いながらオレから離れ、自分のテントへと歩いていった。ウルードが去ると、今度はリンカがオレを服の襟を掴んでガクガクと揺らし始めた。
「だだだだ旦那!?大丈夫かい?い、い、いますぐ消毒が必要だ!」
「ゆゆゆゆ揺らすなななな。だだだだ、大丈夫だ・・・」
しかもそんなことを言いながら、自分の顔を近づけてくるので、オレはリンカの顔を両手で掴みそれを阻止する。横ではアダルさんが、これはエリス君に・・・などとぶつぶつ呟いているのが聞こえたりと、最後の最後ではちゃめちゃになりながら今回の依頼は終わりを迎えるのだった。




