15_17
今日も読んでいただけたことに感謝を。
15
合流してくれた部隊によって第三陣は落ち着きをとり戻したが、彼らが後退してきたということは、徐々に魔物の大軍がここに来ているということなので、部隊を指揮していた男性に状況を説明して、第四陣まで一気に下がることにした。
その道中で話を聞くと、魔物は最終的に3千ほどに減らしたようだ。とはいえ、負傷者もでているこちらと数を比較してもほぼ倍はいるということか。まあ、魔物の多くはゴブリンといったさほど強くはない魔物が大半らしいので、上手く立ち回れば無事に勝てそうだ。などと楽観視するわけにはいかんな。第三陣への奇襲をしてきたということは、何かしら起こる可能性があるだろう・・・。
第四陣まで戻ってきたオレはアダルさんに無事の報告をするために話しかけた。
「ただいま戻りました。アダルさん」
アダルさんはオレを見ると安堵の表情を浮かべ返事をしてくれる。
「ああ、おかえりシュン君。無事でなによりだよ」
「第三陣で待機していた冒険者と騎士ですけど、負傷者がいたり場が混乱していたので、第四陣で迎え撃つのが得策ですね」
「そのようだね・・・」
アダルさんも大量にきた冒険者達を見てある程度察したらしい。
「これは・・・、中々骨太な依頼になりそうだ・・・」
オレはアダルさんの言葉を聞いて苦笑せざるを得なかった。それとオレを追ってきていたらしいウルードはオレにぶっちぎられてトボトボと戻ってきたようだ。
アダルさんと喋っていると、背後から声をかけれられたのでそちらへ向くと、第三陣で助けた女性冒険者がいた。
「ごめんなさい。お話の最中に。貴方のマントを借りたままだったから、返そうと思って」
「ああ、わざわざすまないな。けど、替えの装備はあるのか?ないならそのマントはやるよ」
「いいの?」
「別に構わんさ。店で買った安物だしな。女性があまり肌をさらすのもいただけないし、よかったら使ってくれ」
「あ、ありがとう。じゃあ、遠慮なくもらうね」
彼女はそう言ってパタパタと仲間のところへ走って行った。若干顔が赤かったのは気のせいかな。気のせいに違いない。オレの隣でアダルさんが冷たい視線を向けてくるが、それも気のせいに違いない。
「帰ったらエリス君にいい土産話ができそうだ・・・」
アダルさんがぼそっと呟くのを聞いたオレは、こっそりとクッキーの詰め合わせをアダルさんに送るのだった・・・。
16
一夜明け、魔物の大軍は昼前には第四陣にくるだろう。そういう訳でロイ伯爵の元、第四陣を最終防衛ラインとして、防衛線最後の幕があがろうとしている。ちなみに、ニコル子爵は指揮官としての任を解かれ1人の騎士として戦いに参戦する。しかも最前線に位置する形で。それほどまでに彼のとった行動に対してロイ伯爵はオコだったわけだ。
オレは体をほぐしながら遠目に見え始めた魔物の群れを見る。
約3千か・・・、1人2匹ずつ倒せば楽に勝てる戦いだろうが、はてさてどうなることやら。
「やあ、ここにいたのかい」
金髪を陽光に照らされ爽やかな笑顔でアダルさんがオレに声をかけてきた。
笑顔がイケメンですね、アダルさん。
「おはようございます」
オレも笑顔でアダルさんに声をかける。
「おはよう。いよいよ戦いだね。最初は第四陣にて後方支援のはずが、こうなってしまうとはね・・・」
アダルさんが思わず苦笑する。
「何事も予想通りにはいかないもんですね。まあ、最初に範囲魔法と弓で数を減らすようですから、油断しなければ大丈夫じゃないかと思いますよ」
「ふふ、君はこんな時でもいつも通りだね。頼もしいよ」
少しは気分が和らいだのか、再び笑顔になるアダルさん。その笑顔は女性すら虜にするほど魅力的なので困ってしまう。
「アダルさんにそう言ってもらえるなんて光栄ですね」
そう言ってオレ達は戦いの準備をするのだった。
17
戦いは轟音を響かせて始まった。炎の大玉が魔物の群れに落ちていったのを皮切りに、弓部隊が大量の矢を射出し魔物の数を減らす。それが終わると騎士と冒険者の近接部隊が魔物の大軍へと突っ込んでいった。
オレはアダルさんと一緒に、無理やりついてきたリンカを従えて3人で魔物を倒していた。”槍水仙”の他の3人は近接戦闘に特化しているわけではないので、後方にて待機している。
「っへ、旦那!さすがの強さだぜ!この調子だともう終わりそうだな」
リンカはそう言いながらまた1体ゴブリンを切り捨てている。
「確かに!だが、油断はしないほうがいい。一度崩れると数で押されてしまうよ!?」
アダルさんはレイピアのような細剣でゴブリンを突き刺しながら囲まれないように一定の距離を保つ。
オレ達は全体からみると西側、正面から見てて左側で戦っている。正面は王都の冒険者組、右側は騎士隊が抑えている。正面には階級が☆2のパーティーがいるので、安定感は抜群だ。
そんな中、突然声が響いた。どうやら声を拡大する魔道具を使っているようだ。
「正面の背後からさらに魔物の大軍が出現!その数およそ2千!!」
その声にリンカが驚いて声をだす。
「な、なんだって!ここにきて魔物の増援かい!?」
そして、アダルさんも前方を睨みながらオレに声をかけてくる。
「まずいよシュン君!こちらにも魔物が出現したようだ!」
アダルさんの言うようにオレ達のいる左側にも、遠くから砂煙を上げて向かってくる魔物達が見えた。
このまま戦ってもいいが、アダルさんやリンカの体力にも限りがあるしな。
「アダルさん、オレが向かってくる魔物に突っ込んである程度減らしてきます。2人はこのままここで戦うか、一度下がって回復して戦闘を継続してください」
オレの提案にアダルさんが異を唱える。
「だめだ!さすがに今回は危険すぎる。君に何かあればエリス君に何と説明すればいいんだい?」
「それもわかるんですが、このままだとここから崩れて、正面や後方の冒険者が危険になりますよ」
「だったら私も一緒に行こう。1人より2人のほうが生存率はあがるはずさ」
アダルさんがイケメンフェイスでオレに笑いかける。口の端がキランと光ってみえるみたいだ。
「いえ、アダルさんこそ副組合長という立場なので自重してくださいよ・・・。危険だっていうならアダルさんは尚更後ろに下がって欲しんですけど・・・」
オレは少し冷や汗を流しながらアダルさんに反論すると、アダルさんが眉を下げてオレの目をみつめてきた。
「心配しているのはエリス君だけだと思っているのかい・・・?」
っく・・・、なんという破壊力。心が浄化されてしま・・・。いや、オレは邪悪な存在ではない。
そこへ割って入るように、リンカがオレの背中に自分の背中をドンと合わせてきた。
「アタイも忘れないでくれよ。旦那の強さは知ってるけどアダルさんの言う通りさ、アタイだって旦那を心配してるよ。行くなら3人だ。アタイも一緒にいく」
表情は見えないがその口調からリンカの意思が固いことがわかった。
「はあ・・・。わかったよ。じゃあ3人で行きましょう。ただし、無理も無茶もしない。ある程度攻撃を加えて、さっさと離脱する」
オレの言葉に2人は笑って答える。
「あいよ」
「わかったよ」
やたら嬉しそうな顔をする2人を見て、オレは思わず苦笑するのだった。
やれやれ、じゃあ、一丁やるとしますかね。




