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ウルードを置き去りにして走るオレは、しばらく進むと砂煙をあげる集団を目に捉えた。そこへ近づいていくと一際大きい音が聞こえ、ウェアウルフ達が吹き飛ばされるのを見つける。
オレは生活魔法(極)の風系統の力を使い上空へ身を飛ばす。するとそこに見覚えのある4人がいた。
あれは、リンカ達か・・・。運悪く王都にいて今回の件に巻き込まれたんだろうな・・・。しかし、あいつらはいつも魔物に襲われてるな。っと、リンカがウェアウルフ達に襲われそうになってるから助けないと。
空中で不壊の剣を抜き意識を集中する。生活魔法(極)を使い、風を刃に纏わせてリンカを襲おうとしているウェアウルフ達に向けて剣を振る。すると風の刃がウェアウルフ達を一刀両断していく。そして、オレはリンカの前に着地した。
リンカは顔を下に向けて表情は見えないが、剣が近くに落ちていたので、おそらく疲弊しているんだろう。なので、オレはよく頑張ったという気持ちを込めて頭を撫でて言葉をかけてやった。
オレの言葉に反応したリンカが顔をあげると、その表情は涙でぐちゃぐちゃになっていたので、少し驚いてしまう。
うお・・・、何かリンカって最近いつも泣いてる気がするな・・・。
「だ、旦那あ・・・」
リンカは泣き笑いのような表情で安堵しつつ、ヨロヨロとオレに手を伸ばそうとするが、腕に力が入らないのか上手く手が上がらない。オレはその手をそっと下げてやる。それからタオルを取り出してリンカの顔をグイっと拭いてやる。
ひどい顔だべえ・・・。
「へへ、ありがとうな旦那」
今度はニカっと笑うリンカ。しかし、背後には殺気だったウェアウルフ達が殺到していて、それどころじゃなかった。
「少し頭を下げてろ」
オレは立ち上がりつつ、もう一度意識を集中して生活魔法(極)を発動する。風の刃が広く長く伸びるイメージで、オレは剣を横なぎすると剣から糸のように1本の風のラインがウェアウルフ達へ伸びていき、たちまち奴らの体を分断していった。
これで少しだが、体勢を整える時間くらいは稼げるかな。
オレは後ろを振り返るとアリックス達が成り行きを見守っていたので、彼女達を呼ぶ。
「おーい、こっちにきて今のうちに回復しておけ」
3人はオレとリンカの側までくると、アリックスがリンカへ猛烈な張り手をかましてから、リンカへ叫ぶ。
「リンカ!二度とこんな事しないで!!私はこんなことされても嬉しくないんだから・・・」
そういうアリックスはわーんと目から涙をこぼしていた。
「わ、悪かったよ・・・。ごめんよ、アリックス」
何があったかはわからないが、さっきの状況からリンカが野暮なことでもしたのかな・・・。
とはいえ、こんな状況で黙ってみてるわけにもいかないので、仲裁にはいることにする。
「悪いが、話なら落ちついた時にするんだ。ポーションはあるか?」
オレの問いにエスカテリーナが答えてくれる。
「もう無いわ。急な攻撃で使っちゃったから・・・」
「そうか、ならこれを持っておけ」
オレはエスカテリーナにポーションを6本渡し、リンカにはポーションをかけてやる。赤くなってい頬の色が戻り、腕がある程度動くようになる。
「旦那・・・、アタイの扱いが雑じゃないかい?」
リンカがじと目でオレに呟く。
「気のせいだろ」
オレはリンカの文句にしれっと返事をする。そこへ落ち着いたアリックスが話しかけて来た。
「すいませんでした・・・。取り乱してしまって・・・。それから助けてくれてありがとうございます」
若干顔が赤いのは恥ずかしいからだろうな。
「いや、未来のお義姉さんになるかもしれないから、助けれてよかったよ」
オレは少しにやけながらアリックスに話しかける。
「次にその話をしたらその口を塞ぎますよ、物理で」
アリックスは笑っていた。頬に青筋を立てながら・・・。
「っは!もういたしません!!」
オレは姿勢を正してアリックスへ答えるが足がカクカクしている。
ブルブル・・・、普段大人しい人はキレさせると怖いよね・・・。
オレは気を取り直して4人に声をかける。
「さて、4人は他の冒険者達と合流しながら第四陣の場所へ向かってくれ。今なら魔物の群れを抜けていけるはずだ。オレは他の冒険者を探して同じように第四陣へ向かうように声をかけてくる」
オレの言葉を聞いてリンカが心配・・・しなかった。
「旦那なら楽勝だな。わかった。第四陣で待ってる!」
リンカが笑顔でオレにかけてくる言葉に苦笑しながら、もう一度高く跳躍するのだった。
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オレは空中から辺りを見回すと、3人の男女の冒険者がウェアウルフの攻撃に耐えているのを見つけた。その傍には寝かされている女性が1人見えるので、仲間を庇って、あの場所で耐えているのだろう。
オレはすぐさま空気を固定して足場を作り、3人の冒険者のもとへ足場を利用しその場所へ向かった。
向かった先にいるのは、剣で戦っている男性と拳で戦っている男性、そして杖を振り回している女性だった。女性のほうは魔法使いだろうか?ウェアウルフの動きが早すぎるのか魔法で上手く攻撃できないようだった。
オレはまず剣で戦っている男性のもとへ向かう。なぜなら彼がいまにもウェアウルフに噛み付かれそうになっていたからだ。オレは空中で剣を下に向け、真上からウェアウルフの頭を突き刺す。空中から勢いをつけた一撃はウェアウルフの頭の頭蓋をたやすく突き抜け、口まで刃を貫通させる。
いきなりの攻撃に剣を持つ男性は驚いていたがすぐにオレに反応してお礼を言って来た。
「すまない!助かった」
「いや、構わない!まずはここを乗り切る!」
オレは返事をするや否や、倒したウェアウルフの肩を蹴り杖で応戦していた女性のもとへ跳んだ。
オレがそこへ向かう前、魔法使いの女性は杖を横にし、ウェアウルフの噛みつきに耐えていた。
(嘘でしょ・・・。何でここがいきなり襲われるの?私も強い範囲魔法が使えていたら、今頃第二陣への部隊へ参加していたのに・・・)
そう思いながらも、結局はパーティーメンバーを残してはいけないので、ここへ残っていただろうが・・・。などと、襲われる現実から若干目をそらしながらも、必死に自分の命を守るために抵抗していた。しかし、女性の力では長く抵抗できるわけもなく、いよいよ噛み付かれる間際となり、魔法使いの女性は自分が傷を受ける覚悟を決めた・・・。
しかし、その瞬間女性を襲っていたウェアウルフの首が体から離れ飛んでいった。そして、女性の右横を顔を失ったウェアウルフは倒れていき、ズシンという音をたて倒れた。
「大丈夫か?」
オレは魔法使いの女性へ声をかけ、魔法使いの女性へ手を差し伸べる。
「え、ええ・・・。ありがとう。助かったわ」
魔法使いの女性はオレの手を掴み立ち上がる。そして、ハッとしてオレに聞いてきた。
「そうだわ!貴方ポーションもってない?仲間が攻撃を受けてしまったの」
「ああ、持っている。ほらこれを持っていくといい。オレは、あんたの仲間の加勢にいってくるよ」
「何からなにまでごめんなさい」
「いいってことさ。冒険者は助け合いだ」
オレは剣を構えて未だ戦う2人の近くへ向かった。そうして、近くのウェアウルフを倒すと少しだが落ち着ける時間ができたので、魔法使いの女性のもとへ3人で急いだ。
「容態はどうだ?」
オレは魔法使いの女性へ尋ねる。
「落ち着いたわ。よかった・・・」
ホッとした魔法使いの女性は笑顔でオレに答えてくれた。そこでオレは彼女の背中に爪で裂かれたような傷があるのに気づいたので、背中にポーションを振りかけ、腰のポーチ型魔法袋から予備のマントを取り出して彼女に被せた。
「あ、ありがとう・・・」
魔法使いの女性は顔を赤くしてオレにお礼をいう。オレは柔らかく笑い返事をした。
「ああ、女の子だしなるべくなら傷痕がつかないほうがいいと思ってな。それより、ここから移動しないか?第四陣まで行ってから体勢を立て直そう」
「わかった。なら寝ている彼女はオレが担いでいくよ」
武闘家の男性が寝ていた女性を背中に担いだ。とはいえ、周りのウェアウルフ達はオレ達を放ってはくれないらしい。奴らは再びオレ達を襲うために集まってきていた。
その時、辺りから炎の柱があがり、風の竜巻が出現してウェアウルフ達を倒していった。
「あれは・・・、範囲魔法か・・・」
どうやら第二陣から後退してきた騎士隊と冒険者達が、ここに辿り着いてくれたらしい。その魔法を見たウェアウルフ達から遠吠えが上がる。そして、奴らは突如撤退を始めた。
ふむ。魔物が撤退していく。魔物なのに微妙に統制がとれているな・・・。少なくともあのウェアウルフ達は戦いでは好き勝手に動いてたが、奇襲を仕掛けてきたり撤退のタイミングが上手い。これは少しは知性を持った奴がいるかもしれないな。まあ、考えてもしょうがないか。とりあえず、危機は脱したようだ。やれやれ・・・。
オレは走り去っていくウェアウルフ達を見ながら伸びをするのだった。




