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またお会いできて光栄です。
よろしければ今話もお付き合いくだされば幸い。
1
季節は火の月(夏)が過ぎつつあり、もうすぐ土の月(秋)が始まりそうな感じのする今日この頃。
オレは久しぶりに冒険者組合で薬草採取の依頼を受け、無事に採取が終わったのでその報告にきていた。
「はい、確かに薬草を確認しました。これが報酬です」
オレにそう言ってエリスが報酬を渡してくれた。
「はい、ありがとう」
オレは報酬をポーチ型魔法袋にしまう。
「ふふ、たまには組合で会うのも新鮮でいいですね」
オレにそういって、心底嬉しそうにエリスは笑うのだった。その周りに花が見えそうなくらい嬉しそうだ。そして、オレの背後から殺伐とした気配を感じる。リア充殺すべし!わっしょーいされそうなので、早々に帰ろうかな。
「んじゃ、オレは帰るわ。ここに居たら刺されそうなんで・・・」
「はい、じゃあまたお家で」
エリスさんその発言はいけない・・・。ほら、周りで処す?処す?って小声が聞こえてくるから・・・。ああ、そこのモヒカンのお兄さん、ナイフなんて舐めたら体に悪いですよ?
余計なことに巻き込まれそうだったので足早に入り口から出ようとすると、アダルさんに呼び止められた。
「シュン君、ちょっと待ってくれ。少し話があるだんが、時間をもらえないか?」
ん?声のトーンが少し低い。何やらただごとじゃない感じがするな。一体なんだろうか。
「いいですよ。それで話とは?」
「すまないが、別室にきてほしい」
「わかりました」
オレはアダルさんに返事をして別室へと向かうのだった。
2
別室に入ると、オレ以外にも冒険者達が集まっていた。
オレはアダルさんに適当な場所にいるように言われ、アダルさんは皆の前に立ちオレ達を集めた理由を話始めた。
「すまない、皆が忙しいのはわかっているが、王都の冒険者組合本部から緊急の依頼が来た。これは☆4以上の冒険者に対して強制的な依頼となる。その為、皆にここに集まってもらった」
アダルさんの発言を聞いて、何人かは少しざわつきを見せた。
ちなみに、冒険者組合は国が運営しているものなので、本部からの緊急依頼とは国からの依頼と同じことなのである。
「今から内容を話すが、その内容についてはむやみに口外を禁ずるので注意してもらいたい」
そうして、アダルさんが話を始めた。
その内容とは、王都の北西から魔物の大軍が進んできているそうだ。最初はその方角にあった村が魔物に潰され、その村の生き残りの報告により事態が発覚した。
その数はおよそ1万ほどらしく、王都ではその大軍を魔物の氾濫と位置付けた。
王都ではすぐさま魔物の大軍に対応すべく部隊を編成。その数およそ800人。一見少なく見えるが、魔法使いの部隊も参加している為、範囲魔法による殲滅を考えての人数だそうだ。
まあ、あまり王都から騎士や兵士を借り出しては防備が薄くなるしな。
そして、そこへ王都の冒険者が約500人加わり、総勢1300人で魔物の大軍に対応することになった。
魔物の大軍はゆっくりと王都に向かっているようで、まだまだ距離があるらしい。その為、混成部隊は第一陣から第四陣までの4段構えの作戦を立てた。
第一陣は、王都魔法部隊と冒険者魔法組が範囲魔法を使い数を減らす。そして、ある程度魔法を打つと第二陣まで後退。第二陣にて、さらに範囲魔法と弓部隊による遠距離殲滅を行う。そうして減らした魔物を第三陣にて、王都近接部隊と近接主体の冒険者の混成組が迎え打つ。さらに、魔法と弓部隊も加わり総力戦を展開予定だ。第四陣は最終防衛線の為に基本待機。ただし、ここに補給物資を置いたり、負傷者の回復をすることになる。
とはいえ、何が起こるかわからない為、近隣の町や村からも冒険者を集めておきたいという話になり、ここクリオールでも☆4以上の冒険者がその対象となった。依頼で街にいないなど、よっぽどのことがない限りは参加することになる。
冒険者の役割は、☆4は第四陣にて補給のための後方支援、☆3以上は前線にて魔物と戦うことになる。ただし、戦闘系の技能を持つ冒険者や、魔法を使える冒険者は階級に関係なく臨機応変に対応を求められる。
「以上が概要だ、すでに第一陣での作戦は終了している。今のところ、こちらの被害はない。今も、第一陣の参加部隊は第二陣に下がりつつ攻撃を行っているはずだ。我々は第三陣に魔物が到達した時に参加できるように移動する。移動開始は2日後に南門にて集合し日の出とともに出発となる。尚、私が君達を引率することになっている。何か質問はあるか?なければ今日は解散だ」
特に質問をする人もおらず、集まった冒険者は徐々に別室から退室していく。恐らく、武器の手入れや回復薬などを用意しにいくのだろう。
別室にはオレとアダルさんだけになり、アダルさんは話疲れたのか椅子に座りながらふーっと息を吐いている。
「お疲れ様です、アダルさん」
アダルさんはオレを見て軽く微笑んでくれる。
「ああ、シュン君。お疲れ様。さすがに喋り疲れたよ」
そんなアダルさんに、オレは蜂蜜の飴をポーチ型魔法袋から取り出す。
「よかったらこれをどうぞ。疲れた時には甘い物がいいですよ。それに喉にもいいと思います」
「甘い物かい!?それは嬉しいね。ぜひいただくよ」
そう言ったアダルさんは、口を開けてオレの方を向いた。少し濡れた舌がどこかセクシーだな・・・。
いや、そうじゃない・・・。
「アダルさん?」
「あーん」
っく・・・、普段イケメンに見えるこの人がこんな仕草をするとギャップで余計に可愛く見える。
「いや、渡しますから受け取ってください」
「あーん・・・」
そんな切なそうに見ないでください。いけない気持ちになりそうだ。いかん、早く食べてもらったほうがよさそうだ。
「はあ、やれやれ・・・」
オレはそう言って、アダルさんの口に飴を入れた。
「んん!?甘いね。これは疲れが吹き飛ぶよ。ありがとう。美味しいよ」
コロコロと飴を口の中で転がしながら頬を赤くして喜ぶアダルさん。
「そういえば、シュン君は帰らないのかい?」
おっと、ようやく本題に入れそうだな。
「ちょっと皆の前で聞けないことがあって、個別に聞きたくて残りました」
「ん?何だい?」
「今回の依頼なんですけど、仮に組合員証を返却して冒険者を辞めた場合は、受けなくていいんですか?」
オレの一言にアダルさんがピシッと聞こえるかのようなリアクションで固まってしまう。笑顔で・・・・・・。
「ま・・・、まあ、そうなるね。冒険者じゃないなら依頼は受けれないからね・・・」
「なるほど」
オレはそう言いながら組合員証を出す。すると、アダルさんがそれを見て汗を流しながらオレに聞いてくる。笑顔で。
「シュン君。・・・何かの冗談かい?」
オレは笑顔でアダルさんに答える。
「いえ、最近冒険者をしなくても稼げるようになったので、わざわざ危ない仕事をする必要もないかなと思いまして」
オレが組合員証を差し出そうとすると、アダルさんがオレの腕を掴んで阻止してくる。
「いやいや、シュン君。この依頼には君の力が必要だよ」
「っぬう・・・いやいや、オレは☆4ですし、行っても後方支援なら別に無理に行く必要ないかなと・・・」
「っく・・・いやいや、君の力なら第三陣での戦いに参加してもらおうじゃないか・・・」
しばらく、笑顔で2人ぐぐぐと力比べを行う。
うぬ、すごい力だ、さすが個人階級で元☆2冒険者。
「あ、エリス君」
その言葉にオレは少し気を緩めてしまう。その隙にアダルさんがオレの腰に抱きついてきた。
っく、こんな古典的な手にひっかかるとは屈辱だ・・・。
「ふふふ、今のは嘘だけど、この姿をエリス君に見られて君は無事でいられるかな?」
「な、なんという脅しを・・・」
机越しにオレの腰にしがみつくアダルさん。必然的にその豊満なスライムが机に押し付けられ形を変えるわけで。むにゅという擬音が聞こえそうな魅惑的な絵面だ・・・。
「ちなみに、どうしてそこまでオレの参加にこだわるんですか・・・?」
アダルさんは少し間を開けて口を開いた。
「君の野営方法は大変優れていると聞いている」
なるほど。それが目当てか。
「何と言っても女性に嬉しい手洗いという話じゃないか。女性冒険者にとって、いや、女性の旅にとってそれは重要な問題なのだよ、シュン君」
まあ、男は色々と楽ではあるよね・・・。
「はあ、わかりました。参加しますから、離れてください」
アダルさんはホッとした顔をしてから、オレの後ろをみて呟いた。
「あ、エリス君」
「アダルさん、もうその手は・・・・」
オレは最後まで言葉を言うことはできなかった、何故ならオレの右肩にギリギリと痛いくらいに締め付ける手が乗っており。背後からいつもの圧を感じた。
「シュンさん・・・」
笑顔でエリスが立っていた。
肩くらいまで伸ばした髪は、相変わらず薄紫の髪色で綺麗だな。しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。
「ちゃうねん・・・」
「何が違うかはわかりませんが、アダル副組合長が中々戻られないので見に来てみれば・・・。さすがにちょっと見逃せませんね」
そう言ったエリスから放たれるビンタをオレは。
ライフで受ける!!
オレは盛大に吹っ飛んでいったのだった。




