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今日もお読みいただき感謝でございます。


エリスのお願いを聞いてから数日のんびりと過ごす。その(あいだ)に久しぶりにニーナが来た。責任者への就任(しゅうにん)のお祝いを言うと、赤い髪を振り乱しながら、人の整理や書類仕事で忙しすぎると(なげ)いていた。


むう、これではあまり訓練で無茶をさせるわけにはいかないな。


ということで、ニーナの気分転換につきあいつつ、1人でもできる訓練方法を教えておいた。


その次の日、オレは地下にこもって砂糖作りに精を出していた。

これまで収穫したてん(さい)の皮をむき、サイコロ状に細かく切っていく。それをたくさん用意しつつ、大きい鍋に放り込んで煮込んで煮汁(にじる)を作っていく。

煮汁を大量に作ったら後はそれを煮詰(につ)めて固めて完成。ざっくりとだがこれで砂糖ができた。これまで()めていたてん菜をすべて砂糖に変えたが、かなりの重労働だった・・・。

塩といい砂糖といい、オレはいつも煮汁を煮詰めている気がする・・・。


砂糖を大量に作った数日後、オレはレイン商会を訪れていた。

今回はちゃんとアポを取った上での訪問だ。


「こんにちは、レインさん」


「こんにちは。ようこそいらしゃいましたシュンさん」


商談室にてレインさんと挨拶を交わす。

しばらく雑談をしながら、石鹸(せっけん)の事業や販売についても話をした。


「おっと、雑談のしすぎで本題に入っておりませんでしたな、失敬」


「いえ、オレも気になってたことですから大丈夫ですよ。それでは本題ですけど、これをレイン商会に卸したいと思いまして」


オレは、10センチくらいの壺をいくつかテーブルの上に置く。


オレはレインさんに中身をみてもらう為にふたをとってから声をかける。


「どうぞ、砂糖です。確認してみてください」


「さ!?砂糖ですと!?」


レインさんが目を見開き、つぼの中身を指でつまんで舐めてみる。


「これは確かに砂糖ですな。いやはや、長らく商売をしておりますが、シュンさんに出会ってからというもの、私は驚きで心臓に負担がかかりっぱなしですな」


といいつつ、レインさんは豪快(ごうかい)に笑いをあげるのだった。そして、一頻(ひとしき)り笑った後、レインさんは商売人の顔をしながらオレに砂糖をどれだけ出せるのか、どれくらいの期間で納品できるのか聞いてきた。


砂糖については、てん菜が育つまで時間がかかるので30〜40日くらいに1度として金額はレインさんを信用してお任せしておいた。

ちなみに、てん菜が育つ期間だが、これは異世界基準の成育期間だ。

そして、この砂糖の販売によりレイン商会はますます有名となっていくのだった。




暑い日が続く中、オレは胡椒(こしょう)を探す為にアーティと一緒に東の森へ来ていた。


ある日の晩、エリスとアーティに東の森で探したいものがあるから、1泊2日で散策(さんさく)にいってくるという話をすると、ちょうど依頼のなかったアーティも一緒に行きたいということで、2人で散策に来ているのだ。


「わあー、私、東の森のこんな奥まで来たのって初めてかもしれないです」


「まあ、この辺りの魔物はかなり危険だからな。アーティも気を抜くなよ」


オレはメイヒムで手に入れたダガーを構えつつ進んでいく。アーティもナイフを手に持ちつつ、いつでも弓を取れるようにオレの後をついてきていた。


「はい、わかってます」


オレが向かっているのは東の森でも1年を通して暖かい場所だ。水の月(冬)でも暖かく、そこなら胡椒が生育(せいいく)しているのではないかと思ったのだ。

東の森は広く、場所によって気温が変わる場所がある。なぜそうなのか、2年以上暮らしていたがよくわからなかったので、異世界だからだなと結論付けた。


しばらく歩いていると、索敵(さくてき)に引っかかるものがあった。


「アーティ止まれ」


オレの声にアーティは歩みを止めて周囲を警戒する。


「アーティ、オレの正面から左に2メートルほど、高さ3メートルくらいのところに、黒い鳥がいると思うが見えるか?」


「見てみます」


アーティはオレの言葉に返事をして、ナイフから弓へ持ち替えた。オレはダガーから腰の剣に持ち替えて、いつでもアーティをフォローできるようにする。

アーティは少ししてからオレに声をかけてくる。どうやら、技能(ぎのう)を使っていたようだ。


「見つけました。黒い鳥が1匹いますね」


「ああ、グゥーグゥーていう鳥型の魔物だ。気づかずに近づいたら、すごい速さでクチバシを突き込んでくるんだ。いけるか?」


「やってみます」


アーティは弓を構え、軽く息を吐いた瞬間に矢を放った。矢は見事にグゥーグゥーの(のど)(つらぬ)いた。


「お見事」


「えへへ」


オレの言葉にアーティは笑顔になり、オレは、再びダガーに持ち替えると、グゥーグゥーの処理をするのだった。

それからも何匹か魔物を狩りながら目的の場所へ到着する。しかし、その頃には昼をすぎていたので野営場所を探し、胡椒の探索は明日の朝から始めることにした。


野営場所にて周囲に魔物避(まものよ)けをを設置した後、今回は森の中なので寝るだけの広さだけ確保したピラミッド型の物を、生活魔法(極)で作った。ただし、その横に手洗いだけは作っておいた。アーティがそこだけは(ゆず)らなかったのだ。


アーティは贅沢(ぜいたく)を覚えてしまったな・・・。


夕食はグゥーグゥーの肉を料理して食べる。鳥型の魔物だが肉に脂身が多く甘みのある味をしている。オレはそれを塩で味付けしてから串焼きにした。

焼いてる間、アーティがよだれを垂らしそうな顔をしているので、味見として少し食べさせてあげた。

もきゅもきゅと口を動かしながら食べる仕草が可愛い。


夕食も済んで、しばらく()き火を眺めながらお茶を飲んでいると、アーティはオレの隣に座り体をオレにすり寄せてくる。


まるで猫のようだ・・・。


「えへへ、シュンさーん」


「妙に甘えてくるねアーティさんや」


「だって、2人きりじゃないですか」


「割と2人で街を回ったりしてるけど、それとは別?」


オレは苦笑しながらアーティに聞いてみる。するとアーティはにひひと笑いながら。


「それとは別ですね。それに、私達以外誰もいないというのが重要なんです」


「・・・一応、ここ東の森でも危険な場所だから油断はしないようにな」


「ふふふ、シュンさん信じてますよ」


やれやれ、しょうがない子だ。

などと、アーティを甘やかしてしまうあたりがオレもつくづくかな・・・。


夜が明けて胡椒を探しを始める。アーティには地面に胡椒の絵を描いて、こんな感じの植物を探してくれと説明した。それから2人で離れすぎない程度の距離で散策をしていく。


「ないですねー」


「そうだなー」


アーティに返事をしながらも色々な場所を探すが目当てのものは見つからない。


んー、異世界には胡椒がないのか・・・?


そんな中、突如(とつじょ)上から葉っぱが数枚落ちてきた。

オレはハッとして木の上を見上げると、そこにはネイヒオセロという(ひょう)のような魔物がいた。やつらは木の上で生活し、狩りをする時は木の上から獲物へ飛びかかる。


さすがに東の森の奥にいくと、気配を感じさせない魔物も出てくるな。


「アーティ、魔物だ警戒!」


アーティはオレの言葉にすぐに立ち上がり、いつでも()てるように弓を構える。その間にオレは剣を抜き、生活魔法(極)の風系統の力を使い周囲を確認する。どうやら、ネイヒオセロが2匹だけのようだな。


ネイヒオセロはオレ達を見下ろしながら、襲うタイミングをはかっているようだった。


木の上なら安全と思っているのだろう。だが、オレも伊達(だて)にこの森で過ごしていなかったのだ、お前らの親戚だか兄弟だかは知らんが、多くの同胞(どうほう)(ほふ)ってきたんだぜ!


オレは意識を集中して足の裏に風を集めてから圧縮し、一気に破裂させる。パンと乾いた音が響いた瞬間には、オレは真上にいたネイヒオセロの首を切り裂いた。


「まずは、1匹」


オレが飛び上がった瞬間に、アーティが弓でもう1匹のネイヒオセロに矢を()るが、ネイヒオセロは別の木に飛び移り矢を(かわ)す。そして、ネイヒオセロは飛び移った木を踏み台にし、アーティへ飛びかかった。

すかさずアーティは新たに矢を(つが)えてネイヒオセロへ放つ。しかし、その矢はネイヒオセロの毛皮に弾かれてしまう。


「うそ!?」


オレはまだ空中にいる為、すぐにアーティの元へいけないので、足につけていたダガーをネイヒオセロに投げつける。

ダガーはネイヒオセロの左足へ刺さるが、ネイヒオセロは止まることなくアーティへのしかかる。

アーティはナイフでネイヒオセロの攻撃を防ぐが、のしかかられた体勢ではうまく対応できない。


「っく!?この!」


ネイヒオセロがアーティに噛みつこうと牙をむく。

オレは再び生活魔法(極)で空気を固めて足場を作り、足に力を込めて最速でアーティのもとへ向かう。

空中から斜め下へ向かいながら、ネイヒオセロの首を狙う為に剣を構える。そして、意識を集中して、生活魔法(極)の火系統の力を剣に込め、体を回転させながら一息にネイヒオセロの首を切る。剣に込められた火の力が、切られた首と胴体を瞬時に焼き傷を(ふさ)ぐことで、アーティに血がかかるのを防ぐ。


なんちゃって全◯中、火の・・・。やりましたよ、炎の人。


「はあ・・・、助かった・・・。」


アーティが思わず安堵(あんど)の声を()らす。その時、アーティの目に緑の粒々(つぶつぶ)としたものが映った。


「あれ?これって・・・?シュンさーん。これってシュンさんが探してたやつじゃないですか?」


アーティがネイヒオセロを体に乗せたままオレを呼ぶ。


というか、さっさと立ち上がりなさいよ、アーティさん・・・。


「どれどれ?」


ともあれ、オレもまずはその植物を見てみる。


確かに、緑の粒々があるな。


オレは、その粒々をちぎってから、少し口に入れて()んでみる。すると、()ぎなれた香りがオレの鼻を通って行った。


これや・・・、これやで・・・。


「おおおお!これだ!!アーティお手柄だ!!」


オレはすぐにネイヒオセロの死体をどかしてアーティを立たせてから抱きしめてくるくると回った。


「ひゃああああああ」


アーティは突然のオレのテンションについていけないのか、急に体を抱きしめられて回転することに驚いてるのか、悲鳴を上げながらオレを抱きしめる。

少しの間、喜びを体で表現したオレは落ち着いてきたので、アーティを離してから改めてお礼を言った。


「ありがとうな、アーティ。これが探してたものだ」


「そ、それは良かったです。あと、私も助けてくれてありがとうございました」


アーティの顔はまだ赤かったが、笑顔でオレに答えてくれた。


ひとまず、ネイヒオセロの素材を剥ぎ取ってから死体を処理し、念願の胡椒を採取した。食べる分と育てる分をとってから、ついでに魔素を多く含んだ土も亜空間に補充しておく。

その日の帰り道アーティにネイヒオセロの皮は丈夫だから、その皮でレザーアーマーを作ったらいいと提案をして、素材をアーティにプレゼントした。

すると、アーティは喜びのあまり、オレに飛びついてきてお礼の口づけをプレゼントしてくれるのだった。

そして、オレから離れると。


「えへへ。ありがとうございます。シュンさん大好きですよ」


と言ってくるので。


「オレも大好きなアーティが喜んでくれて嬉しいよ」


と返事をするのだった。


ちなみに、東の森の奥へいくほど魔物は強く、その素材は高価だ。なので、今回の魔物の素材で作れる防具は結構な値打ちものなのだ。

とはいえ、胡椒を見つけてくれたことに対するお礼としては、安すぎるとオレは思っているのわけだが。


まあ、オレもアーティもハッピーだからこれでいいさ。

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