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今日も今日とてお読みいただいて感謝でございます。


エリスは組合の仕事へ、アーティはメルトと一緒に依頼をこなしに行った。

そして、オレは地下の趣味部屋で何か涼しく過ごせる魔道具を作れないか考えている。


どんなものがいいかねえー。


夏といえば扇風機かな。クーラーだと冷媒(れいばい)サイクルを再現したりガスを開発しなければいけないしな。そもそも電気がない。それは扇風機も一緒なのだがそこは異世界(りょく)でカバーしていこう。


というわけで、まずはオレが作る扇風機いや、冷たい風を出すようにしたいから冷風機(れいふうき)かな。その冷風機を作るに当たり、動力と冷風を起こす(かなめ)となる部分の魔石を作っていこう。


作る魔石は2種類、周囲の熱を吸収し熱を下げる効果を持つ魔石と、その熱が下がった風を送り出す魔石だ。熱を下げるには火属性を利用し、風を起こすのは風属性を付与する。とはいえ、メイヒムで取ってきた魔石はこれまでの実験などで数がそこそこ減ってきたので、なるべく節約していきたい。


今度、魔石を取りに迷宮にいこうかな。


エリスの部屋とアーティの部屋用に2つ作りたいので、2種類の魔石を2セット作る予定だ。オレは、魔石を1つ手に取り、魔素(まそ)属性変換(ぞくせいへんかん)して魔石へ込めていく。まずは、火属性の魔素を込めて力を定着させる為に文字を想像する。黒い魔石が綺麗な赤色へと代わり、その中に浮かび上がる文字は『熱吸収』。


よし、上手く定着(ていちゃく)できたな。


この調子でもう1つ同じ物を作り、さらに、風属性に変換した魔素を込めた『送風』という、シンプルな文字が定着した緑色の魔石を2つ作った。

そして、『熱吸収』の魔石と『送風』の魔石をつなぐ部品を作る。これは、魔石を錬金術によって形を変えることで魔素を流す棒のような物を作った。


ふう、今日のところはこんなところかな。


オレは初日の作業を切り上げて居間に戻ることにした。

その後エリスが帰宅し、アーティに関しては今日は泊まりに来なかった。


そして、当たり前のようにエリスはオレのベッドに潜り込み、翌日ツヤツヤ肌で仕事へ行った。


オレは、ヨロヨロとしながら2日目の作業に入ることにする。

今日は、魔石を組込むガワの部分を作る為に木を(けず)っていく。木で丸い縦長のお(わん)のような形を作り、その真ん中に魔石を()め込む穴を()る。そして、それを支える台座を作り、そこにも魔石を嵌め込む穴を掘っておく。

縦長のお碗のような形は、魔石から出た風が後ろへ逃げるのを防ぎ風を前方へ送りたいのでこの形にしている。

風を送る部品へ『送風』の魔石を嵌め、台座へ『熱吸収』の魔石を嵌める。そして、この2種類の魔石を棒状に変化させた魔石でつないで組み立てていき完成だ。


首振りはできないが、冷たい風を一方方向に送るには十分な効果を発揮するはず・・・。


オレが完成させた冷風機は、『熱吸収』の魔石に魔素を注ぐと注いだ魔素分だけ、一定時間継続して周囲の熱を吸収し、吸収した熱量は棒状にした魔石によって魔素に変換され『送風』の魔石を動かす。そして、熱が吸収されて冷たくなった空気を風として送り出すのが、『送風』の魔石の効果だ。


では、さっそく試運転といこう。


オレが『熱吸収』の赤い魔石へ魔素を注ぐとしばらくして、緑の魔石から冷たい風が吹いてきた。


ふああああああ、これはいいわー。冷やっこいー。


無事に冷えた風が吹くことを確認して、もう1つ冷風機を作るのだった。




その日、帰宅してきたエリスとアーティに冷風機の使い方を説明して、実際に使ってもらった。


エリスさんの感想。


「はああああ、いいですねー。シュンさん、これもっと作りましょう。組合にも持っていきたいですー」


無理です、魔石が足りませんし、それをするときっと量産の申し込みがきてえらいことに・・・。


アーティさんの感想。


「ふえええええ、これで寝苦しい夜とさよならですー。これ、小型化して依頼にも持って行きたいんで作ってください」


無理です、魔石の大きさ的に、この大きさが限界なんです。あと、依頼に持っていったら、絶対魔物に壊されるやーつー。


とはいえ、2人とも大そう気に入ってくれたらしく、お風呂上がりはすぐに自分の部屋へ直行(ちょっこう)するようになった。


ふう、これで安らかに眠れそうだ。


そう思っていたが、数日に1回はエリス、またはアーティがオレのベッドに潜り込んでくるのだった。


まあ・・・、回数が減っただけ作ったかいがあったと思おう。トホホ・・・。




冷風機を作ってからしばらくして、エリスからお願いをされた。


「シュンさん。ちょっと組合の仕事を手伝ってくれませんか?」


「ん?依頼ってこと?最近家にいて依頼をしてなかったからいいよ」


「あ、いえ・・・、依頼というわけじゃないんです。冒険者組合の仕事を手伝って欲しいというお願いです」


「冒険者組合の仕事っていうと?詳しく聞いていい?」


エリスの話を聞いてみると、冒険者組合で記録している帳簿(ちょうぼ)の収支が合わないそうだ。それで、30日ほど(さかのぼ)って記帳(きちょう)間違いがないかを確認しているらしいが、この暑さで思うように確認作業が進まないとのことだ。

帳簿の置いてある部屋は窓がなく余計に熱がこもり、作業に当たった職員も長時間の作業ができないので、このままだと王都にある本部への報告が間に合わなくなるらしい。そこで、オレの生活魔法((きわみ))による冷却を使ってほしいという話になったそうな。


「なんで、組合がオレの冷却の力を知っているのかが不思議なんだけど?」


オレは、疑問に持ったことをエリスに聞いてみた。

すると、エリスはオレの近くにいるはずなのに、だらだらと汗を流していた。


「んー、エリスさん?」


オレはエリスの顔を(のぞ)き込みながら、その目を見つめる。

エリスはオレの目を見つめ返して素直に謝ってきた。


「ごめんなさい、シュンさん。私も当番に当たったんですが、あまりの暑さに音を上げてしまい、思わずいい方法があると言ってしまって・・・。ただ、シュンさんの名前は出してないです」


オレに迷惑をかけてしまうのが嫌だったのか、あるいはオレが怒ると思ったのか、エリスの耳がしゅんとなってしまう。久しぶりにしゅんとなっているのを見たな。

オレはエリスの頭に手を乗せて、安心させるようにゆっくり()でてあげる。


「あ・・・」


エリスが少し顔を赤くして安堵の表情を浮かべる。


「いいよ。可愛いエリスの為だしね」


オレの言葉を聞いてエリスがオレに抱きついてくる。


「ありがとうございます。シュンさん大好きです」


そして、いつも通りにオレの匂いをハスハスと吸うのだった。

アーティがいなくて良かったよ・・・。




翌日、エリスと一緒に冒険者組合へ向かう。ちなみに、帳簿の確認作業も手伝った方がいいのか聞いてみたら、一応、職員のみ閲覧(えつらん)していい資料にあたるらしく、オレはあくまで部屋を冷やす係だということだ。


てわけで、職員用の入り口から入り、帳簿が置いてある資料室まで向かう。資料室の前には、副組合長のアダルさんがいた。


「やあ、シュン君、こんにちは。やっぱり君が来たんだね」


アダルさんは(さわ)やかにオレに挨拶をする。

アダルさんは、森人族(もりびとぞく)で髪は金髪でナチュラルショートカットの中性的な顔立ちながら、実にけしからん女性的な部分をお持ちだ。


オレはアダルさんに返事をする。


「やっぱりということは、ある程度予想はついてたってことですかね」


「ふふ、エリス君が誰かを頼るなら君しかいないと思ってね」


そう言うと、アダルさんはオレにウィンクをしてくる。


女性とはいえ中性的なその顔立ちでのウインクが似合う。


かっけえっす、アダルさん。まさに貴公子(きこうし)と言えよう。女子校にいたらすごい告白されてそうだな。


「見とれすぎですよ、シュンさん」


「ぐふっ」


アダルさんの貴公子()りに魅了(みりょう)されていたら、エリスから肘打(ひじう)ちを喰らってしまった。


「ところで、副組合長はなぜここに?」


「それはね、エリス君。1つは君の涼しくなる方法がどんなものか気になったんだけど、シュン君がいるなら彼の魔法ってことかな。それと、協力者がいるなら挨拶くらいはしておかないとね」


アダルさんはそういうが、恐らく組合を預かる者の1人として、外部から人が来ているなら、その人物が誰かを把握(はあく)する為だろうな。


「さて、シュン君の魔法にも興味はあるけど、私はそろそろ部屋に戻るよ。今日はよろしく頼むね」


「はい、微力ながらお力になれたらと思います」


オレの返事に軽く笑顔を作りながら歩いていくアダルさん。立ち去るその姿も格好いい。


あの人こそ真のハンサムやでー。


そして、オレは部屋に入ってから、生活魔法(極)の火系統の力を使って部屋の室温を下げる。しばらくしてから、エリスともう1人の帳簿確認の為の職員が来て作業が始まった。


現状、帳簿上の数字よりも組合にあるお金が少ないらしい。ということは、書類上の記載ミスか、買取や報酬を払う時に多くお金を渡してるってことかな。

あるいは、誰かが盗んでしまったか・・・。


オレはというと、することもないので生活魔法(極)を使いつつ、久しぶりに魔素(まそ)を操作して体に魔素を循環(じゅんかん)させていた。これをすることで、魔素を素早く集めたり、放出したりできるようになるので、魔法の発動が早くなる。

オレは、イメージで魔法を使う為、その魔法を素早く使う為には、魔素を早く集め放出する必要がある。その為、この魔素操作はある意味でオレの生命線でもあるのだ。


そうして時間を潰してると、エリスともう1人の受付嬢の話が聞こえてくる。


「あー、涼しい。これは最高ねえ」


「ちょっと、口じゃなくて手を動かしてよね」


受付嬢の発言に、エリスが注意をしている。


「まあまあ、ちゃんと帳簿もみてるから。それにしても、エリスに先をこされちゃったわねえ」


「何?いきなり・・・」


「いやね?結構シュンさんを狙ってる子っていたのよ?今でも2番目でもいいからって感じの子もいるしねえ」


その発言にエリスの目が鋭くなる。


「その話詳しく」


などと、雑談しながら仕事をしている。


そういう話は本人のいないところで話をして欲しいな・・・。どう反応していいかわからない。


とまあ、組合にてクーラーの役割をしつつ、2日後に帳簿の記載ミスであることがわかり、オレのクーラーとしての仕事は終わった。


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