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いつもお読みいただいてありがとうございます。
この気持ち、ビッグバン以来のドキドキじゃわい!
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今日も今日とてトンテンカンと音が鳴る。
家の上で1人槌を打つ。体は釘でできている・・・。家の周りに釘が乱立している。
っは、あまりの暑さに白昼夢をみたようだ・・・。
そんな炎天下の中、オレは家の増築を行っていたが、ふと気づいてしまった。
生活魔法(極)の火系統の力を使えば、周囲の気温を下げ快適に過ごせるのではないか?
オレは早速周囲の熱を奪うようにイメージをして魔法を使う。すると、なんということでしょう。全然暑くない!!日差しから感じる熱はしょうがないが、不快感はなくなり、汗をかくことなく作業ができてしまう。
そのおかげで床部分は板を張り終え、各部への柱も立てることができた。ちなみに、2階部分は全部木造だ。床下だけは土魔法で薄い石を作り、その中に鉄分を圧縮して鉄骨を作成してある。
そんなわけで増築もある程度完成の目処がたった。
さて、いきなりだが少し石鹸の話をしたいので付き合ってもらいたい。
王都に行った時にレインさん達の手によって石鹸の販売が行われ、結果は大成功に終わった。石鹸を買った人から他の人へと口コミが広がり、最後には貴族子女による骨肉の争いになったとかならなかったとか。
そういうわけで、クリオールに戻ってみたら、あれよあれよという間に石鹸の事業化が決まった。
そして、オレは家の増築と並行して公爵様と条件や工場をどこにするかなど、色々と話し合いを重ねている。
そんなある日のこと、オレは公爵家?いや公爵城か・・・。
とにかく公爵様のもとへと足を運び、いつものごとく会議のできる部屋へと通された。しかし、その日はなぜかリオニー様がいた。
相変わらずのウェーブがかった銀髪を胸元あたりまで伸ばしている。
「あら、シュンさん。こんにちは」
リオニー様はオレをみてニッコリと笑いかける。
「おや?リオニー様。こんにちは、何故こちらに?」
オレは首を傾げて返事をしつつ公爵様をみた。
公爵様は、「んんっ」っと咳払いするだけで何も言わない。そして、リオニー様がオレの方まで来て、手を出してきたので、オレはその手のひらの上に自分の手を置く。すると、リオニー様は違いますといわんばかりに、オレの手をぺいっとして、再び手を出してきた。
「えーと、リオニー様どうされたんですか?」
オレの言葉にリオニー様は笑顔を崩さずに、手紙を取り出して右手の人差し指と中指で挟みながらオレに話しかけてきた。
「ここにエヴァからの手紙があります。なんでも、クッキーなるお菓子を隠し持っていたと・・・」
リオニー様の目線が鋭くなる。顔は笑顔なのによくわからない迫力があるな・・・。
「隠し持ってはいませんよ・・・。それに、あれは一応保存食として作ったので、お菓子というわけではないですし、会議にお菓子を持ってきたらまずいと思うんですが・・・」
あの時は甘さ控えめにしてあったしな。
リオニー様がガーンという顔をしてよろよろと後ずさる・・・。
そんなにショックかなあ!?
「いや、持ってはいるんですけどね・・・」
「もう、いけずですね!」
ポカポカとオレを叩くリオニー様。
いや、本人はポカポカって感じなんでしょうけど、さすが歴戦の聖女。結構力がお強い・・・。
あと、そろそろ止めてください、ほら、公爵様の目が剣呑としてきたから。
とりあえず、場を収める為にクッキーをポーチ型魔法袋から取り出して、リオニー様に渡そうとした。
「お待ちください」
そこで、リオニー様のお付きのメイドさんが待ったをかけた。
肌が浅黒く黒髪を肩あたりでそろえている。目がつり目でクールビューティって印象だな。あの肌の色と耳が少し尖っているということは、宵人族かな?
宵人族とは、馴染みの言葉にするとダークエルフって感じだな。
「シュン様、私はリオニー様のお世話をさせていただいているマルガと言います。そのクッキーなるもの、まずは私が毒味させていただいてよろしいでしょうか?」
と、聞いてきた。
「マルガ?それはシュンさんに失礼でしょう!」
リオニー様はマルガの発言を嗜める。
「しかし、リオニー様に万が一のことがあってはいけません。これも職務ですのでご理解ください」
リオニー様も仕事と言われると何も言えないのか、頬を膨らませながら黙ってしまった。
オレとしてはさっさと会議に入りたいので、クッキーをマルガへ渡す。
サクサクと音を立てながらッカ!と目を見開いた。表情は変わらないが頬をが少し赤くなっているので、美味しいと感じているんだと思う。
そして、マルガが食べたのをみて、リオニー様もオレにクッキーを催促してきた。
「シュンさん、私もください!」
はいはい、焦らなくてもありますから・・・。
オレがクッキーを取り出してリオニー様に渡そうとすると、マルガが横からクッキーをパクッと口に入れた。
オレの指ごと・・・。
「ま、マルガ!?あなたはしたないわよ!」
またもお預けをくらったリオニー様が憤慨するが、マルガはオレの指から口を離して、何食わぬ顔で言い放つ。
「いえ、まだ毒味が終わっておりません。もしかすると、枚数を食べると発症する毒が入ってるかもしれません」
なんという言い草。しかし、さすがにそれは嘘だ思ったのかリオニー様も聞き逃さなかった。
「そんなわけないでしょう!もう、食い意地がはってるんだから。シュンさん、私のメイドが失礼をしました」
「いえ・・・、個性的な方のようですね」
オレは手を拭きつつ、その後ようやくリオニー様へクッキーを渡せたのだった。
ただ、オレが手を拭く時にマルガがそっと側にきて呟いていた。
「舐めてもいいんですよ?」
舐めねえよ。なんだ?このメイド・・・。
オレはマルガ態度に引きつつ無言でマルガを見つめる。
「中々いい視線ですね。あ、それからクッキーありがとうございました。指も含めて美味しかったです」
そういいながら、お辞儀をするマルガ。
「・・・どういたしまして」
マルガは変態だった。
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その後はリオニー様にクッキーの詰め合わせを持たせて部屋から出てもらった。要はマルガを追い出したかったのだ。
リオニー様もクッキーが目当てだったらしく、ご機嫌で部屋をでていった。
そうして、ようやく石鹸生産に向けての会議が始まった。
錬金術師と水魔法の使い手を一定数確保する方向で話を進め、作業を行う場所や石鹸を乾かす場所を街のどこに作るかなど決めていく。
それから、石鹸作りの一番のポイントとなる、苛性ソーダもどきについてだ。そもそも、オレはこの苛性ソーダの変わりとなるものを、東の森に生息していたアシッドスライムという魔物の粘液で代用していた。
しかし、毎回東の森へ行くのが面倒になったので、錬金術で代用できないか試していた。そして、魔石とアシッドスライムの粘液を使い、スライム型の魔法生物を生み出すことに成功した。このスライムさんは、少しの水と日光で生きていける植物のような側面を持ちつつ、人のあれこれや汚れも分解してくれる。この分解作業からしばらくして、アルカリ性のある粘液を作ってくれるので、それを集めて石鹸に使っているのだ。
ちなみに、魔法生物であって魔物ではない。スライムさんを生み出すまでの話をしたら、そんな錬金の方法なんてきいたことがないと、本職の錬金術師に言われてしまった。
なるほど、通りで錬金術の技能が生えないわけだな。まあ、今の方法で錬金術をするのに困ってないし、しばらくは我流でやっていこう。
そんなわけで爆誕したスライムさんだが、ある程度の意思疎通が可能で、我が家でも汚物の処理など嬉々としてやっていただける、まさに縁の下の力持ち的な立ち位置なのだ。そして、そんなスライムさんの兄弟を石鹸作りのために譲ることとなった。
ちなみに、事業の責任者として、なんとニーナが抜擢された。オレと仲が良いというのも理由の一つのようだ。
その後も細々としたことを決めつつ会議は終了となった。
とまあ、これが石鹸に関する話だ。工場ができたら、石鹸作成の指導に行かねばなるまいが当分先の話だろう。とはいえ、これで不労所得が入るようになりそうだな。
それからも家の増築工事をしつつ、エリスやアーティとデートしながら数日が経ち、家の増築は完了した。
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