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引き続きお読みいただいている方、またお会いしましたね。

今話もお付き合いいただいている読者様に感謝を。


トントントンと金槌(かなづち)を打つ音が(ひび)く。

王都から帰ってきてからというもの気温は上がり、本格的に火の月が始まった。

そのせいでオレは、金槌を打ちながら汗をダラダラとかいている。


「ふー、あっちいな・・・」


(まわ)りには誰もおらず思わずひとりごちる。

オレは汗をタオルで()きながら作業の続きを始めた。


さて、オレが今何をしているかというと、家の増築(ぞうちく)だったりする。

オレの関係にアーティが加わり、もしアーティが家に住むことになった場合部屋が足りないのだ。


現在アーティは、メルトと冒険者用の借家(しゃくや)で2人暮らしをしている。家賃は折半(せっぱん)で払っているので、仮にアーティが家にくることになったら、今の借家をどうするかなどメルトと話し合ってもらわないといけない。そんなわけで、今すぐアーティが家に来るということはない。


そもそも客間をエリスの部屋にされてしまったので、客間を作るという意味でも増築はいい考えだろう。そして、増築を始めたが1階はすでに増築する場所がないので、2階を作ることにした。


ちなみに、家を増築していいかを確認にいったら、お好きにどうぞと言われたので好きにさせてもらおう。


増築工事中は屋根が無くなるので、エリスにはその間は宿に泊まってもらうことにした。最初は大ブーイングだったが、待ち合わせデートができるよって言ったら、コロっと賛成に回った。


っふ、ちょリスさんだな。


そうして、2階を作るにあたり家の補強(ほきょう)をする為、元々家の四方(しほう)にある石の柱に加え、家の中心から見て南北の壁側に1本ずつ、計2本の柱を追加した。少し居間が狭くなるが仕方あるまい。

その後、屋根を外して2階の床を作る為に、加工した木を()()めつつ釘を打っているわけだ。


2階には部屋を5つ、トイレを1つ作る予定だ。そのうち1つは客間として利用しようと思う。


泊まるような客なんて来たことないけどな。


しばらく作業を続けていたら夕暮れとなり、気温が下って涼しい風が吹いてくるようになったので、オレは作業を切り上げてから家の(はし)っこに座り、しばらく夕日を(なが)めていた。


いつもの風景に、何気(なにげ)ない光景。普段のオレなら夕焼けを見ても、もうそんな時間かくらいにしか思わないだろう。けど、今日の夕焼けは綺麗に見えた。

何かが特別に見える時は、きっと心が震えているんだと思う。だから、何気ないことでもその時は特別に見えるんだ。

大人になれば慣れてしまったことでも、子供の時は毎日が新鮮で、毎日が特別だった。夕焼けですら友達と別れる寂しさや、夜がくるワクワクを感じていたのかもしれない。だから、今日のオレはふと見た夕焼けに、子供の頃の気持ちの残滓(ざんし)を感じて、ふと眺めてしまったのだろう。


しばらく夕日を眺めたら満足したので、軽く夕ご飯を食べてから汗を流す為に風呂に入ることにした。


湯船に浸かると熱い湯が体に()みる。

ふー、独特の心地よさに思わず息を吐いてしまう。


辺りは日が暮れて暗くなっている。

クリオールというか、この世界には外灯というものがまだない。暗くなったら皆、基本的には家でゆっくり過ごすか、酒場で夜を明かしたりする。

カンテラのような明かりを発する魔道具や魔法で灯りを作って街を歩く人もいるが、ほとんどは警邏(けいら)の人だ。


そんなわけで、現在屋根のない風呂からは星空がよく見えた。

明かりがない分、星がよく見える。この世界にも星はあるんだなと、転生した初期の頃は思ったものだ。


()せずして露天風呂になったけど、星を見ながら風呂に入るっていうのも風情(ふぜい)があっていいもんだなあ。


屋根がないので外気(がいき)の冷えた風が顔を()でるのが心地(ここち)いい。

オレは気分が良くなり目を閉じながら鼻歌を歌う。

家の増築にちなんで、オーイな人の、手を繋ごうみたな感じな鼻歌だ。


そんな時に突如(とつじょ)風呂の扉が勢いよく開いた。


「シュンさん私も一緒に入りますね!」


「どうわああああああ、びっくりした!!」


エリスがタオルを巻いて乱入してきたので、油断していたオレは思わずびっくりしてしまった。


「え、エリス・・・。宿にいるはずじゃ・・・?」


「この暑さで汗をかいてしまってので、きちんと体を洗いたかったんです。なので、お風呂を借りにきました」


そう言いながら、かけ湯をして湯船に浸かるエリス。そして、オレの隣まですすすとよってきて、頭をオレの肩にのせた。


「それに、シュンさんにも会いたかったですから」


むう・・・。あざといな。しかし、嫌いじゃない。


「そっか。オレも会えるのは嬉しい。けど、お風呂に入るならオレが出てからでもよかったんじゃ・・・」


「ふふ、シュンさんの鼻歌に誘われて思わず入ってきちゃいました」


っく・・・、最近は生活魔法(極)の風系統の力を使って防音していたが、今日は完璧に油断していた・・・。まあ、油断していたオレが悪いな・・・。


「さいですか・・・」


「もう歌わないんですか?」


「歌わない・・・」


「残念ですね」


そういうエリスの顔は残念そうには見えず、悪戯が成功した子供のような顔をしていた。


その後、エリスの背中を流してから尻尾も洗ってあげ、宿まで送り届けた。


「すいません、宿まで送ってもらって」


「いや、街は暗いしな。オレは魔法で灯りを作れるし、これくらいどうってことないよ」


「そうですか。ありがとうございます。たまには、こうやって2人で夜に散歩するのもいいかもしれませんね」


そう言いながらふふと笑うエリス。


「まあ、いつもと違う感じがして新鮮ではあるかな」


オレも笑顔でそれに応える。


いつまでもこうしてるわけにもいかないので、そろそろ帰るか。


「それじゃ、オレは帰るよ。おやすみ、エリス」


「はい、おやすみなさい」


オレは帰ろうと後ろを向くと、ふいに服が引っ張られた。


「ん?」


オレはなんだろうと思ってエリスの方を向くと、エリスから軽く口づけをもらった。


「今日のお礼です」


エリスは、はにかみながら微笑んでいた。


「えーと、ありがとうございます」


「ふふ、どういたしまして」


「それじゃ、オレは行くよ」


オレは気恥ずかしくなりつつ、改めて帰ろうとした。

すると、エリスが声をかけてくる。


「あ、ちょっと待ってください」


「どうかした?」


エリスは笑顔のまま、右手をオレに差し出して。


「今日、汗を拭いたタオルがありますよね?最後にそれを渡してもらいましょうか?」


オレは思わずじと目になる。


エリスさん、ブレないっすね・・・。


さすがに汗をかいた衣類は汚いと説得するも、匂いフェチのエリスには勝てないのであった・・・・。


この6話は閑話的な話になっており変身はありません。

ちょっと短めに日常的な話になっております。

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