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皆様の暇つぶしの一助となれば幸い。
19
エヴァからの半強制的なお誘いを受けて、オレは勇者の宣託というものを見に教会の前へ来ていた。そして、教会の前にはオレ以外にも多くの人が訪れていた。
この人の多さは一体・・・。何が始まるというのだ。
オレは教会に来たものの、そこからどうすればいいのかわからず入り口の前で突っ立っていた。
そこへ声をかけてくる人が現れた。
「こんにちは、シュン様。来てくださったんですね」
オレに手紙を渡してくれたメイドさんだ。
「ああ、こんにちは。すごい人の多さだな」
「そうですね。今日の宣託によって勇者様の場所が告げられますから、皆様、関心がおありなんでしょう」
「あれ?勇者ってすでにいるんじゃないの?」
「いえ、聖女様が代替わりされる時に、勇者様も代替わりされるんですよ。そして、勇者様は聖女様が女神様からの神託によってその場所を知らされます。その儀式が勇者の宣託です」
「へえ、聖女の力は継承されるのに勇者は他の人から選ばれるんだ?」
「そのようですね。聞くところによると、新たに生まれる魔王は先代勇者様の力が効かなくなるそうですよ。その為に、魔王が討伐された時は、新たな勇者を探し育てることになっているのです」
ほー、追放神もただでやられるわけじゃないってことか。確かに、勇者が強い状態なら魔王が生まれた時に倒してしまえばいいから、その対策を講じているんだな。
「それで、どうしてオレは今日呼ばれたんだ?」
「それは・・・、申し訳ありませんが、私も聞かされておりません。ただ、シュン様が教会に着いたら、エヴァ様の元へ案内するようにと言われておりまして」
「ふむ・・・。じゃあ、案内してもらおうかな」
「はい、こちらへどうぞ」
エヴァは、一体何の思惑があってオレを呼んだのやら。
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この世界には何柱かの神がいる。オレが来ている教会はその中の光の女神であるイグラ神を信仰している教会だそうだ。ちなみに、何柱もいるが全ての神に教会があるわけではない。下世話な話だが、メジャーな神だけが教会を建て祭られているのだ。
オレが案内されたのは礼拝堂で、そこは中学校の体育館ほどの広さがあり、一番奥は舞台のように1段高くなっている。
オレはメイドさんと共に舞台袖へ向かっていた。なんでもそこにエヴァがいるとのことだ。
オレ達が舞台袖に到着すると、エヴァがこちらに気づき声をかけてきた。
「こんにちは。黒騎士様」
・・・いきなりかましてきますなあ。
とはいえ、その程度の揺さぶりで心を乱すほど若造ではないのだよ。
「こんにちは、エヴァ様。黒騎士様とは一体?」
オレの返事に笑顔で答えるエヴァ。
「武闘大会の時に、私を助けてくださったじゃないですか」
オレは眉を寄せ、わからないという顔をする。
「助けた?ですか・・・。確かに武闘大会を見に行ってましたが、私はずっと観戦席にいましたが?」
「・・・そうですか。今はそういうことにしておきましょう」
オレ達のやりとりを聞いていたメイドさんは頭に疑問符を浮かべている。
そりゃわけのわからない会話だろうな・・・。
まあ、オレが変身した瞬間を見られたわけでもないし惚けておこう。
「ところで、今日はどうしてオレを呼んだんでしょうか?」
「シュンさんに、是非とも勇者の宣託を見て欲しかったんです。・・・もしかして、何かご予定がありましたか?」
笑顔から一転して眉を下げてオレを見つめてくるエヴァ。
予定があれば断ってよかったんだろうか・・・。ともあれ勇者の宣託を見て欲しいというだけで呼んだと?・・・まあいいけどね、予定もなかったし。
「いや、特に予定はなかったので大丈夫ですよ」
「それならよかったです。まもなく始まりますのでそちらに掛けてご覧ください」
そう言ってエヴァはオレの後ろにあった椅子を勧めてきた。
「ここで、ですか?」
ここは舞台袖なんだが?勧めるなら礼拝堂に並べられている椅子じゃないのか・・・?
「ここで、です」
しかし、エヴァは満面の笑みでオレに返事をする。
もはやここまでくると何か企んでいるとしか思えない・・・。
「・・・何を企んでるんですか?」
エヴァがオレの一言にドキッっとした顔をし、オレから視線を逸らして口を開いた。その明らかに動揺した仕草をするエヴァの顔から、ダラダラと汗が吹き出しているような幻さえ見えるようだ。
「や、やですねえ〜、企むだなんて・・・。何も企んでないですよ」
オレはじと目になりつつ、エヴァに言う。
「なら、向こうの席に座ってもいいですよね」
「だ、ダメです!お願いですからここにいてください」
オレの服の裾をひっぱるエヴァ。
やめてください。服が伸びるので・・・。
「あやしい・・・」
「そ、そうです!私、実はあがり症なので、お父様と同じくらいの年齢の人に見てもらえたら安心するというか、アレでソレなんです!」
もはや言い訳というのもおこがましいが、オレの服を縦横無尽に引っ張るのをやめて欲しいから、もうそういうことにしておこう。
「わかりました。わかりましたから、服を離してください」
「あ、申し訳ありません・・・」
エヴァは無意識だったのか、オレに服のことを指摘されると顔を赤くして俯いてしまった。
「さて、それではオレはここで見させていただきますね」
オレはそう言ってエヴァが勧めてくれた椅子に座った。
オレが座ったことで、エヴァは安心したのか落ち着きを取り戻した。
そして、儀式の準備も終わり勇者の宣託が始まった。
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オレが椅子に座り、まもなくして、渋い感じのロマンスグレーの髪色をした1人の男性が入場し、舞台の真ん中に立ち勇者の宣託の説明を始めた。
彼はアイロス大司教という名前らしい。アイロス大司教の説明では、魔王を倒し新たな聖女が生まれ、次の魔王が生まれし時の為に備える必要がある。そこで新たな聖女の発表とその相手となる勇者を探す為に儀式を行うとうことだった。
うえ・・・、?エヴァが聖女って未発表だったのか。オレ、うっかり聖女って言ってなかったよな・・・?未発表だからクリオールから少人数で王都にきたってことか。極秘だったってことね・・・。いや、聖女の力は娘に引き継ぐって話だから極秘ってわけでもないのか。
そんなわけでアイロス大司教からエヴァが紹介され、礼拝堂に来ていた人達から歓声が上がっていた。
エヴァが簡単に挨拶をし、いよいよ勇者の宣託が始まった。
エヴァが両手を組んで目を瞑り、イグラ神へ祈りを捧げる。両手を組む時にチラリとオレを見た気がするが気のせいか?
「光の神イグラ神様。どうか今代の勇者となる者の居場所をお教えください」
エヴァの体が白く淡い光に包まれる。来ていた人達からおおという声が漏れる。
この光に包まれている時に神託を受けているらしい。
そのエヴァはイグラ神と対話をしていた。
『今代の聖女エヴァよ。貴女と共にある勇者の場所を教えてましょう』
(はい、イグラ神様。わかっています。その方はすぐ近くにいるあの方ですよね)
『・・・いえ、勇者のなる素質を持つ者は、この王都よりさらに南へ行った緑の豊かな村にいます』
(・・・・・・え?いえ、あの私の近くにいるシュン様こそ勇者様では?あの方から神の力を感じますし、それに、超強いんですよ?)
『あー、それは、ちょっと管轄が違うというか、とにかく彼が勇者ではありません』
(う、嘘です!?あれだけ強くて優しいのに?イグラ神様!何とかならないんですか?)
『ちょっと、あーしに言われても無理かなー。他の神からも彼にはいらないことするなって言われてるしー。とりあえず、南にいる子で我慢してねー』
(か、軽いです!それに、その話し方は何なんですかー?)
『んん・・・。失礼しました。では、エヴァよ。勇者のことを頼みましたよ』
(ちょ、ちょっとイグラ神様ーーー!!)
という会話をしていたとは誰が想像できただろうか。
エヴァを包んでいた光が消えた。
イグラ神から神託は無事に受けれたのかな?
エヴァは閉じていた目を開け、ここにいる全ての人に届く声で勇者の場所を伝える。
「イグラ神様より、勇者様はこの王都よりさらに南の緑の豊かな村にいるとおっしゃいました」
その言葉を聞いた人々は歓声を上げる。
ふむ、エヴァも無事に儀式が終わって一安心だろうな。
そう思ってエヴァを見ると笑顔で遠くを見ていた。ハイライトを失った瞳をしながら・・・。
その後、アイロス大司教が進行を引き継いで勇者の宣託は終わった。
そして、エヴァが舞台袖のオレの所まで戻ってきた。目からハイライトを消した状態で。
「お、お疲れ様です・・・」
オレはエヴァに声をかける。
結局、オレは何の為に呼ばれたんだろうか・・・?
「違うんです・・・」
エヴァはオレの前に立ってぽそっと呟いた。
エヴァさん、そこにいられると男の本能刺激物が顔に近いからやばいんですけど・・・。
いかん、そんなことを考えている場合ではない。一体なにが違うのか聞かねば。
「違うとは・・・?」
オレがとりあえず聞き返すと、エヴァは目を潤ませながらしゃがみ、オレの膝に顔を埋めてきた。
「こんなはずじゃなかったんです!!」
「っちょ?何をして・・・?や、やめろー、オレの膝に顔を埋めるなー」
エヴァがわああああと言いながら喚いている中、近くにいた聖女様信者から、処す?処す?みたいな目で見られる。
やめろ。オレのせいじゃない・・・。
しばらくして、ようやくエヴァが落ち着いたので、改めて何が違うのかを聞いてみた。
「シュンさんの普通じゃない力はまさに勇者と呼ぶに相応しい力のはずです。ですので、イグラ神様にシュンさんを勇者認定してもらえれば合法的に一緒にいられるはずだったんです!」
おっと、何か色々危険な発言がありますねー。やめて欲しいですねー。ほら、周りの貴女の信者が、また処す?とか言い出してますよー?
「イグラ神様からは、勇者が王都の南にある緑の豊かな村にいるって神託を受けたんですよね?なら、オレなわけないじゃないですか」
「そこも不思議なんです!イグラ神様からシュンさんは管轄外とか言われたんですよ?シュンさんて何者なんですか?」
「いや、何者と言われても・・・、ただの冒険者なんだが・・・」
「ただの冒険者が神様から管轄外なんて言われません!」
泣いて喚いて怒ってる、エヴァ様百面相ですね。
とはいえイグラ神が言ったことまでは知らんがな・・・。
「ふむ・・・。まあ、神様からのお告げじゃあしょうがないですし、頑張ってください」
オレが言えるのはこれくらいだな。
すると、エヴァが目に涙を溜めながら、オレにすがりついてきた。
「いやですううううう。それだけ強いのに!!私の勇者はシュンさんなんですううう。それに、快適な旅がああああ」
貴様!?それが本音か!?本当にいい性格してるな!?
オレはエヴァの慟哭に、ニッコリと笑い。
「応援してますね、聖女様」
と、声をかけるのだった。
その後、エヴァが泣きながら勇者を迎える旅に連行されて行ったとか行かなかったとか。
南無〜。




