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17
あれから会場は騒然となった。
それはそうだ、若者の変貌に聖女へ危害を加えようとしたことや、突然の乱入者のこと、さらには、結局武闘大会の優勝者を誰にするのかなど一気に問題が起きまくったわけだしな。
ちなみに、オレは変身を解除してから自分の席へと戻った。かなり強引な方法でだが・・・。
シュバルツフォームは解除すると鎧が影に飲まれて消えるので、解除した瞬間に鎧を残して、オレは生活魔法(極)の風系統の力で、空気を圧縮して足の裏にセットする。そして、圧縮した空気の破裂する勢いを使って空中へその身を飛ばした。
気分は空圧◯拳!
空中に飛んだと同時に今度は生活魔法(極)の光系統の力で、周囲の光を屈折させ、なんちゃって光学迷彩で自分を覆った。これは周囲の風景に合わせる為に常に魔素を消費していく。
早くしないと久々に魔素酔いを起こしそうだ・・・。
その後、生活魔法(極)で風を起こして自分の体をホバーさせながらゆっくりと席に戻った。
そして、メルトとリンカの肩を叩き、オレとは逆の方向に一瞬顔を向けさせる。その隙に光学迷彩を解除した。
いつの間にかオレが戻ってきていたので、メルトとリンカが驚いていたが、お腹が痛くなったとか適当に誤魔化した。
結局、今回の武闘大会は鬼人の男が繰り上げで優勝者となり、若者はエヴァの回復によって体は回復したが意識が戻っておらず、意識が戻るのを待って事情を聞くようだ。
とまあ、なんだかんだと王都に来てからゆっくりできてないな・・・。
クリオールに戻ったらゆっくりしよう。
その夜、レインさんとご飯を食べながら石鹸の売り上げの話を聞いてみると、日に日に石鹸を買っていく人が増えているそうだ。もうすぐ持ってきた石鹸も売り切れるので、今回の行商は成功と言ってもいいだろう。恐らく帰ったら、クリオール領での石鹸作りの事業化を本格的に話し合うことになりそうだな。
それなら、そろそろ王都の滞在も終わりかと思い、レインさんに尋ねてみる。
「石鹸がなくなり次第、クリオールに帰ることになりそうですか?」
「そうですな。とはいえ、せっかく王都に来たので、こちらでも何か仕入れて帰りたいと思っておりますので、あと数日はいるつもりですが」
「なるほど。それならもう少し王都で珍しいものがないか見てこようかな」
「お待たせしてしまうようで申し訳ないですな・・・」
レインさんが、すまなさそうにオレに返事をしたので、オレは笑顔でそれに応える。
「いえいえ、お気になさらず。色々あって王都をゆっくり見れてないのも事実ですから、ちょうどよかったです」
「そう言ってもらえると助かりますな」
和やかにお互い酒を飲みながら過ごす。
はあー、こういう穏やかな時間こそオレの求めるものだよなー。
久しぶりにオレは部屋で安らかな眠りにつくのだった。
18
オレは王都の市場に来ている。アーティと行ったのは雑貨などを扱ってるエリアだったので、今回は食品系および香辛料のエリアだ。
今度こそ胡椒を探したい・・・。
1人でのんびりとお店や露店を冷やかしながら見て回る。
街中では武闘大会の噂話もちらほらと聞こえてきた。聖女様の命が狙われたなど、それを黒い鎧を着た騎士が助けたとか。しかし、おかしなことに、会場に来ていた観客達はその騎士がいたということを覚えていなかったのだ。
とはいえ、黒い騎士がいたということは聖女様が証言しているので、その存在は認知されることとなった。その為、街中では早くもそのことを詩にした吟遊詩人がいて、余計に噂話が広がっているのだ。
聖女様を騎士が救うなんて浪漫展開、皆好きだものね・・・。
そんな街中を歩きつつ、途中でお昼ご飯に露店で買った串焼きを食べると、その味に感動した。王都では畜産で牛を育てているらしく牛の肉が使われていたのだ。
この世界に来て初めて牛を食べたかも知れん・・・。やはり美味いな。どこかで買付できないだろうか・・・。
さて、お昼も済ましたので再び胡椒を探しに市場を巡ろうとしたら声をかけられた。
「シュン様、ようやく見つけました」
そこに立っていたのは、王都へくるときに一緒に来たメイドさんだった。
「ん?えっと、君はエヴァ様のお付きのメイドさんだよね。どうしたの?」
「はい。エヴァ様から手紙をお渡しするようにと言われ、お探ししておりました」
「それなら、宿の人に渡すとかでもよかったんじゃないのか?」
「いえ、直接お渡しするようにとの言付けでして」
そう言って、手紙をオレに差し出してきた。
オレはそれを見つめながら動きを止める。
なんだろう・・・、受け取りたくないわあ・・・。やっぱりこういうのって受け取らないと不敬罪とかって言われるのかな・・・。
「シュン様?どうかされましたか?」
「いえ、こういうのって受け取らないとどうなるのかなと。不敬罪とか言われる?」
「そうですね・・・。エヴァ様はそれくらいでは、不敬罪などと言うような方ではありませんが」
メイドさんはそこで一度言葉を区切り、オレを見てニッコリと笑いながら続きを話す。
「ものすごく悲しい顔をされますね。そして、私の好感度も下がります」
どういう脅し文句だ・・・。
オレはじと目になりつつ手紙を受け取る。
「ありがとうございます。では確かにお渡ししました」
そう言ってメイドさんはにこやかに立ち去って行った。
まあ、手紙は宿に帰ってから読むか。
オレは手紙をしまって散策を再開し、色々とみて回ったが胡椒は見つからなかった。
むう、この辺りの気候だと胡椒は生育してないのだろうか・・・?
あるかはわからないが、クリオールに戻ったら東の森を改めて散策してみるか。
宿に戻ってから昼間の手紙を読んでみると、2日後に勇者の宣託を教会にて行うので、その場にオレも同席して欲しいというものだった。そして、それを行う教会の場所が書かれていた。
勇者の宣託とはなんだろう?しかも、文面からオレが断るとは考えていないように思えるな。まあ、もうしばらく王都にいるから行ってみてもいいか。
オレはそう思い手紙をしまうのだった。
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