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今日も今日とて感謝の日々
15
石舞台へエヴァが呼ばれ鬼人の男の回復を行い、彼は一命を取り留めた。
安堵の顔を浮かべるエヴァのもとへ若者が近づいていき、エヴァへ話しかけた。
「こんにちは、君が今回の聖女?」
エヴァは話しかけれらるとは思っていなかったのか、少し驚いていたが、すぐに若者へ返事をする。
「え、ええ。そうです。今代の聖女を拝命しました」
すぐさまエヴァの近くにいた護衛の兵士が槍を構えて反応する。
「貴様!不用意に近づくな!!」
その反応を見た若者から異様な圧力が放たれる。その圧力は兵士だけでなくエヴァの体まですくませた。
「うるさいなあ。ボクは今聖女と話しているんだ。他は黙れよ」
動けなくなった兵士を無視してエヴァへの傍までいくと、若者は刀を逆手に持ち、その刃の切っ先をエヴァに向けながら話し始めた。
若者のもつ異様な雰囲気からか、その暴挙を見ても兵士は動けず、また観客ですら固唾を飲んで若者を見ていた。
「聖女ってさ、いつもいつも、ボクが育てた魔王を勇者と一緒に壊しにくるから、正直煩わしかったんだよね。そりゃあ、育てていくのも面白いんだけど、何回も同じことしてると面倒くさいと思う時もあってさー。だからさ、ボクも少しは憂さ晴らししてもいいよね」
若者はとても爽やかに笑いながら、その刀をエヴァへ突き刺そうとした。
エヴァは自分に迫る刀に恐怖するが体が強張り悲鳴をあげることもできない。
「じゃあね、聖女」
エヴァへと刃が迫り、エヴァは最後に目を瞑り救いを求めて神へ祈る。
しかし、その刃がエヴァに届くことはなく、若者はいきなり目の前にきた蹴りを刀で防ぎそのまま後ろへ吹き飛んでいった。
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それは、若者が兵士へ何かを言い、彼から異様な圧力を感じた時だ。
オレは理解したアレは神々が悪神と呼ぶモノだと。
うへえ、これまでの狼やモグラと段違いにやばいものを感じるなあ。
すると隣のリンカがつぶやく。
「おい、よくわかんねえけど、あれやべえんじゃねえのか・・・」
野生の勘か?まあ、あの異様な雰囲気を感じたら誰でもそう思うか。
そんなことを考えていたら若者がエヴァへと刀を突き立てようとするのが見えたので、オレは咄嗟に足に力をいれて観戦席から飛び出した。
オレが座っていた石でできた席は衝撃でひび割れ、あまりの速さにオレの姿を視認出来た人はいないだろう。
オレは空中で姿勢を制御し、体を回しつつソバットを若者へと放った。
その蹴りは容赦無く顔狙いだ。
飛び込んだ勢いのついたソバットの速さは普通なら反応すらできないだろうが、若者は刀をエヴァから自分の顔の前までもっていき、刃に左手を添えて盾にすることでオレの蹴りを防いだ。
オレの蹴りが刀ごと若者を吹き飛ばす。
か、硬ったい!あの威力で蹴ったら普通の刀なら曲がるくらいするだろう・・・。オレの足のほうが若干じんじんするし、なんて硬さだ。
オレはエヴァに背中を向けながら着地したが、若者を蹴る瞬間に少し顔を見られていたのだろう、エヴァがオレの背後で呟いた。
「シュ、シュンさん・・・?」
オレはそれに答えず、生活魔法(極)の光系統の力を使って、特大の閃光弾を放った。
会場を眩い光が覆い尽くし、所々で驚きや悲鳴が聞こえるが堪忍やでえ・・・。
もちろんエヴァもその光に驚いて声をだす。
「っきゃ!?何?」
反応が可愛いね。
オレはすぐさま石舞台の真ん中へ走りつつ亜空間から黒に輝くコインを取り出す。
皆の視界を奪っている間に変身といこう。
オレはコインを右手に持つと、左手を腰に添える。すると腰にベルトが現れる。そのベルトのバックル部分にあるプレートを右から左へスライドする。
スライドしたそこには、コインをはめる穴があり、そこへコインを挿入すると、今度はプレートを左から右へスライドする。その瞬間、プレート部分から無機質な声が流れる。
『シュバルツフォーム』
声が流れた瞬間に、オレの頭上に直径1メートルの黒い魔法陣が現れ、そこから1本の無骨な大剣が出現し、目の前へ突き刺さる。
オレが右手で柄の部分を掴んだ瞬間に背後に黒く輝く半透明のフルプレートアーマーの騎士が現れる。続いてオレの体を魔法繊維でできた黒いスーツが覆う。
全身が黒いスーツに覆われたオレは大剣を引き抜き右へ横なぎする。オレの動きと同じようにオレの背後の騎士も同じ格好となり、同時にオレの体と被さるように一体化し、半透明だったアーマーが漆黒へと変わり質量を帯びる。
そして、オレは黒騎士の姿になる。
オレが水平になっている大剣を肩に担ぐと背中にマントが出現して変身完了だ。
全身を覆う漆黒の鎧。その兜の前頭部あたりから1本、ユニコーンの角のように生えているのが特徴的だ。
変身を終えたオレは若者に向かって言葉を放つ。
「さあ、遊んでやるよ」
オレの言葉が聞こえたのかはわからないが、若者は目をしょぼしょぼさせながらオレの方へゆっくり歩いてきていた。
「眩しかったー。誰?ボクの邪魔をしたのは・・・」
そして、目がようやく見えてきたのかオレの姿を見ると、喜色満面という言葉が似合いそうなくらい笑顔でオレに話しかけてきた。
「あはっ!!あははははは!!そうか、その力!君がそうなのかい!?あの人がいなくなって、ボクを置いていったのかと思ったけど・・・、そうじゃなかったんだ・・・。まだ、ボクはボクでいていいんだね」
うむ、開口一番に意味不明なことを言われても困るな。
とはいえ、エヴァからオレに興味は移せたようだ。
「・・・君が神々から追放された神様ってことでいいのか?」
「そうだね。といっても、この体はボクの物じゃないけどね。今ここにいるのは精神だけだよ。体は借り物さ」
「随分とあっさり教えてくれるんだな」
「それはそうさ。隠す意味もないしね。それにボクは遊ぶ時は全力でやりたいんだ。といっても、今のこの体じゃ大した力は出せないけどね」
などといたずらっ子ように笑うのだった。
そらよかった。とびきり全開パワーでこられたらたまったもんじゃない。
「んじゃまあ・・・、いざ尋常に」
オレは大剣を両手で持ちながら右肩に軽く乗せるような構えをとる。
対する追放神は刀を正眼の構えで立つ。
空気がビリビリと感じられるような錯覚を覚えたその一瞬。
「「勝負!!」」
オレ達は共に動き出した。
オレは右から左へ大剣を、追放神は左から右へ刀を振るう。
剣と刀が交わり甲高い音が響く。そして、オレ達の周囲に剣圧による風が巻き起こる。
オレは鍔迫り合いをしながら体を左にずらしつつ、体を一回転しながら横なぎの一撃を放つ。追放神はそれを飛んで躱し、上からの上段斬りでカウンターをしかけてきたので、オレはそれを左手の手甲で逸らしながら、右手で持った剣を手首で返し、大剣の柄頭で追放神を打つ。
刀の振り下ろしの姿勢を崩された追放神は身動きができず、左腹にオレの攻撃を喰らい壁まで吹き飛んでいき、砂煙を盛大にあげる。
オレは油断なく今度は大剣を正眼の構えにし、追放神の攻撃に備える。
突如、砂煙から追放神が飛び出してきた。それも笑いながら。
「あはは!あははははは!!いいね!楽しいよ!」
追放神が右、左、下・・・と刀を振るう。オレはそれに合わせて大剣を振り弾ける攻撃は弾き、無理な場合は体を逸らして躱す。そして、追放神の攻撃の切れ目に合わせて、今度はオレが大剣で攻撃をする。
お互いの攻撃が何度も切り結んでは火花を散らし、時には体を入れ替えて攻撃を躱していく。すごいのは、多彩に攻撃を繰り出す追放神か、それとも無骨な大剣をありえない速さで振るうオレか。
さながら剣舞のようにオレ達は剣と刀を振り続ける。
いつしか観客からは声が消え。
「綺麗・・・、踊ってるみたい」
エヴァから言葉がこぼれる。
しかし、そんな戦いも唐突に終わりの時間を迎える。
追放神がオレから距離をとって話しかけてきた。
「ありゃ・・・、この体の限界みたいだね。やっぱり人族の体は脆いね。体の回復速度をあげてもこれが限界か、手が震えてきちゃったよ」
なるほど、鬼人の男に斬られたり、オレの攻撃をくらったにも関わらず動けたのはそういうことか・・・。
ていうか、オレも気にせず攻撃してたわ・・・若者よすまぬ!
「今回はこれでさよならかな。寂しいな・・・」
追放神は悲しげに呟いたが、すぐに表情を変えッパと笑顔を作り。
「でもいいか。とりあえず、最後くらいはちょっとイタズラしちゃおうかな!」
そういうと、追放神は刀をエヴァへ投げつけた。
成り行きをみていたエヴァは自分へと向かってくる刀に短い悲鳴を上げた。
「きゃあっ!?」
オレは魔素を集中して、闇属性の技能である【闇拘縛】を使う。
エヴァへと向かう刀にできた影から、複数の黒くて太い糸のようなものが刀を絡め取る。そして、オレはそれを操作してこちらへと放り投げた。
「あーあー、失敗か。まあ、無理だと思ってたけどね」
追放神は特に気にした様子もなく笑顔を浮かべてその様子を眺めていた。
オレはというと、こちらへ向かってくる刀から異質な力を感じていたので、おそらく、追放神はこの刀を依代にして若者を乗っ取っていたんだろう。
オレが刀を斬ろうと大剣を構えようとしたら追放神が話しかけてきた。
「ねえ?最後に君の名前を教えてよ」
「・・・悪いが、周りに人がいる状況では言いたくないんだ。すまんな」
「そっか、残念。じゃあ、次に会った時に教えてもらおうかな」
「・・・次とかあんの?」
オレの返事にニヤっと追放神は笑い。
「もちろん。とはいえ、こんな風に直接動くには準備が必要だから、だいぶ先になると思うけどね」
「できればオレが死んでからにしてくれると嬉しいな・・・」
「ははは、何だいそれ?君って面白いね。あの人はそんなこと言わなかったのに。いいね、君とも退屈せずに済みそうだよ」
やれやれ・・・、平穏が遠のいていくようだ・・・。
オレは追放神へ声をかける。
「んじゃ、とりあえず、今回はさよならってことで」
「うん、さよなら」
まあ、いい笑顔ですこと。
オレは大剣に力を集中する。それと同時に空中にある刀の近くにいくつもの魔法陣が現れ、黒い鎖を射出して刀を縛る。
オレは左肩を前に出すように半身にして両手は腰あたりで柄を持ち、大剣の切っ先が下になるように構えると無機質な声が流れる。
『ファイナルスラッシュ』
剣を振り上げてから左足を少し前に出し、大剣を背負うように空中の刀へ向けて振り抜くと、大剣からレーザーのような一筋の黒い光が溢れ出て刀を一撃で吹き飛ばした。
その瞬間、糸が切れたように若者は倒れ込む。
オレはすぐに若者に近寄って様子を見ると、呼吸はしているので生きてはいるようだ。ただ、追放神に動かされた体は筋肉などがボロボロなんではないかと推測する。
そういう訳で若者をお姫様抱っこしてから、エヴァの近くに移動した。
エヴァにはオレが消えたように見えたのか、急に目の前に現れたオレを見て驚きの声を出す。
「っきゃ!?び、びっくりしました」
「すまない」
驚かすつもりはなかったんだが、とりあえず謝っとくか。
「あ、あの、貴方はシュンさんですよね・・・?」
「違う」
こ、この子、いきなり何をぶっ込んでくるんだべ・・・。
「でも、最初に私を助けてくれたのって・・・」
いかん、この話を続けてはいけない・・・。
「それは私ではない。それよりも、こいつを回復してやってくれ」
オレは、若者をエヴァの近くに下ろす。
「こ、この人は・・・」
「君を襲ったのは操られていたからだ。話を聞くためにも回復したほうがいいと思ってな」
「なるほど、わかりました」
エヴァが光属性の回復魔法を使う瞬間に、オレはマントを翻し変身を解除する。
解除すると鎧は影に飲み込まれるように消え、そこには誰もいなかった。
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