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石舞台にはリンカに勝った鬼人族の男、向かい合うはおじいちゃんに勝った茶髪の刀を持った若者。
身長差や武器のリーチがありすぎるこの戦いであの若者がどう動くか見物だな。
それにあの背中の得物が気になるところだ。
2人が武器を構えると審判から開始の合図がでた。
若者は切っ先を下げ気味にした脇構えのように刀を構え、相対する鬼人の男は、正眼の構えのように大剣を若者に向け体を半身引いた形で立つ。
じりじりと両者は間合いを詰めていく。そして、若者が鬼人の男の間合いに入った時、男は大剣を若者へと振り下ろした。その剣速は並みのものなら避けることもできないだろう、しかし、若者はそこから踏み込むことで一気に鬼人の男の懐へ入り込み、刀を横なぎして通り抜ける。
鬼人の男にはリンカの攻撃を防ぐほどの技能があるので、若者の攻撃も無駄に終わるかに見えたが、刀は鬼人の男の皮膚を浅くだが切り裂き、そこから血が流れていた。
「ほお、やるじゃねえか。俺に傷をつけるとはな」
その傷は鬼人の男にとって大したものではないのだろう、そのままニヤリと笑った。
「俺の武器は切ることに特化した武器なんで、例え鬼人だろうと切ってみせるよ」
対する若者も負けじと笑う。
「そいつは・・・、楽しみだな!」
言うや否や鬼人の男は若者へと攻撃を仕掛けた。
リンカ戦でも見せた鬼人の男の動きは決して遅いものではなく、油断すれば一瞬で勝負はついてしまうだろう。なぜなら、人族である若者の体は鬼人族のように頑丈ではないのだから。
鬼人の男が振る大剣を若者は飛びのきながら避ける。しかし、鬼人の男の猛攻は続き、若者へ次々と大剣が振るわれる。
若者はその攻撃を躱しながら、鬼人の男の手や腕を狙って次々と刀傷を作っていく。どうやら何度も攻撃を重ねて相手を追いこむ戦いをするようだ。
確かに鬼人の男の腕や手を狙い、武器を持てなくすれば勝つこともできるかもな。
その後も鬼人の男の攻撃は続く、上からの振り下ろしやリーチを生かした突き攻撃、時には横一文字に大剣を振るった。
若者の刀では大剣を受けることができないので、ひたすら避けに徹するが若者の体力も無尽蔵ではない為、少しずつ息があがってきていた。
鬼人の男は自分への傷が浅いのをいいことに、若者の体力を削る作戦にでたようだ。
そして、ついにその時は訪れた。
鬼人の男による大剣の左から右へなぎ払いの一撃。
体力のなくなった若者はそれを避けることができず、思わず刀で攻撃を受け止めた。刀は見事に折れ大剣がそのまま若者へと向かう。しかし、若者も刀を犠牲にしてできた一瞬の時間で、その体を後ろへ飛ばす。
若者の体を大剣の切っ先がかすり体から血が流れた。
膝をつき肩で息をする若者を見て、鬼人の男が話しかける。
「ふー、ちょこまかと動いてくれたが、体力の限界みたいだな。どうする?得物も壊れちまったみたいだし降参するか?」
大剣を肩に担ぎ、若者へ降参を進める鬼人の男。
若者は何かを思案するようにしばし沈黙をしていたが、口を開き何かを言おうとしたその時、自分の左手で口を塞ぎ右手で背中の刀を抜いた。
それはまるで、左手が若者が話すのを無理やり止めたようにも見えた。
そして、刀を抜いた若者はゆっくりと立ち上がって言う。
「いやいや、ようやく出番が来たんだ。ボクにも少しは遊ばせてくれないと」
若者の雰囲気が変わった。そして、その右手に握られた刀には明らかに異質な何かが感じられた。
「なんだ?急に感じが変わったじゃねえか。そっちが素ってやつか?」
「さあ、どうだろうね」
鬼人の男の質問に若者はクスクスと笑いながら返事をした。
「んじゃ、いくよ」
若者は右手の刀を構えながら鬼人の男へ駆け出した。
それを迎え撃つように大剣を上段から振り下ろす鬼人の男。
大剣の間合いに入ったにも関わらず速度を下げない若者に大剣が近づき、若者は大剣を刀で受けようとする。そのことに鬼人の男はニヤリと笑いそのまま大剣を振り下ろした。
鬼人の男は今度も刀を折るつもりだったのだろう、しかし、今度は刀は折れるどころか、大剣の刃の部分である剣身に刃先を滑らせ、火花を散らしながらその刃を鬼人の男の胸へと走らせた。
「ぐう・・・」
「っち、馬鹿力のせいでいまいち踏み込みが浅かったか」
今度は鬼人の男から血が流れる番だった。そして、何より若者が抜いた刀には、鬼人の男の技能を上回る威力があった。
鬼人の男は若者から距離をとり、相手に近づかせないように大剣の間合いで攻撃を始める。若者はその攻撃を刀で弾き、何度も剣と刀が衝突を繰り返した。
何度目かの打ち合いが終わった時に若者が鬼人の男から距離をとった。
「うーん、もういいや。大体こんなもんだよね」
「あん?一体何を言ってやがるんだ?」
若者の言葉に眉をひそめる鬼人の男。
それを無視するように若者は刀を上段に構える。すると、刃に得体の知れないが力が集まっていくように感じた。
「大剣で受けた方がいいよ。じゃないと・・・・・、死ぬから」
若者はニヤリと笑いながら刀を振り下ろした。
その刃の先から黒い三日月のような衝撃波が生まれ、鬼人の男へと向かっていく。
鬼人の男はとっさに大剣を盾にしてその衝撃波を受けるが、大剣はあっさりと切り裂かれ、そのまま鬼人の男の左肩から右胸へと袈裟斬りのような傷を作った。
「ぐふ・・・」
鬼人の男から鮮血の花が咲き、男はそのまま後ろに倒れた。
あまりの展開に審判の男性は身動きがとれず固まっている。
そこへ若者が冷静に声をかけた。
「ねー、殺してないけど、回復しなくていいの?このままだと死んじゃうよ?」
そこでハッと気づいた審判が声を出す。
「か、回復を!!急げ!!」
光属性の技能を持った回復役が鬼人の男に魔法を使うが傷が深い為、中々傷が塞がらない。
そんな中、呑気に審判へと若者が声をかけていた。
「ところで審判さん、相手を殺してないし、これってボクの勝ちでいいってこと?」
「そ、そうですが、今はそれよりも彼の回復が先ですので、お待ちください。どうだ?回復は間に合いそうか?」
審判の男性が鬼人の男を回復している女性に話しかける。
「今はなんとか・・・、しかし、このままでは厳しいです。傷が思ったよりも深く、私の力では・・・」
「そうか・・・、聖女様を呼んでくれ。それから、緊急事態だと伝えて欲しい」
審判の男性が会場に来ていたエヴァの存在を知っていたのか、鬼人の男を回復してくれるように要請をだした。
すると、聖女という言葉を聞いた若者がとても嫌らしい笑みを浮かべた。
「へええええ、聖女がいたんだ・・・。それはいいことを聞いちゃったな」
そして、何かを探すように辺りを見回して、ある一点でその視線を止めた。その視線の先にはエヴァがおり、若者は獲物を見つけた捕食者のような顔して呟いた。
「見つけた」
石舞台の上で鬼人の男を回復するために慌ただしく人が入り乱れる中で、若者だけが静かに佇んでいた。
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