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今日もお読みくだすった方、ありがとうごぜえますだ。
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続いて次の試合の選手が登場した。
1人は髪の毛を頭の上でポニーテールにしており、それ以外の部分は頭を剃っているのか禿げにしている。年齢は60歳くらいのおじいちゃんに見えるな。手には手甲をつけているから武闘家スタイルか。
対する相手は20代くらいかな、茶髪を短くしたツンツン頭をしている。腰に挿している剣を見ると反りがあることから刀か?この世界にも刀とかあるんだな。そして、印象に残ったのは背中にも1本の刀を背負っていた。
どういう戦闘スタイルなんだろ・・・。
2人を見たメルトがオレに聞いてきた。
「シュンさんはあの2人を見てどう思います?」
「そうだな・・・。おじいちゃんのほうは強いな。若い方はよくわからん」
「なるほど。確かに茶髪の人が持ってる武器は見たことないですもんね」
メルトはオレがわからないと言ったのを、武器が特殊だからと思ったらしい。
そういうわけではなかったんだが・・・、何て言うかあの若い方、妙な感じがする。
さてそろそろ試合が始まるかというところで、アリックス達が戻ってきた。
リンカと一緒に・・・。
聞けばこの武闘大会には1位や2位といった順位はつけないので、3位決定戦はない。ということで、敗退したリンカはそこで終わりらしい。
リンカが来たのはいいが席はどうするのかと思ったが結構余裕があるな・・・。ていうか、観戦券とかはいいのか。まあ、ここに来てる時点で問題ないわけか。
リンカは無言でオレの左隣に座ってきた。
オレはチラッとリンカを見ると俯いており、表情は髪で隠れて見えなかった。
そして、審判が試合開始の合図を出し試合が始まる。
オレはと言うと左のリンカが微妙に気になって試合にあまり集中できていない・・・。
座るのはいいけど、せめて俯くのはやめて欲しい。
リンカの左にいたアリックスを見てみると、何やってんですか?何か言ってあげたらどうなんですか?と言いたげな視線を感じる。いや、気のせいに違いない。
オレは視線を試合に戻すとリンカから声が聞こえた。
「旦那・・・、すまなかったね」
オレは突然の謝罪に困惑してしまう。
「それは、何の謝罪だ?」
「アタイがメイヒムで旦那に言ったことさ。さっきの試合で相手の男に言われたのさ、鬼人族の女性は強い男の子供を産めればいいんだろうって。そう言われて気づいたのさ。アタイは旦那の気持ちも考えずに、馬鹿なことを言っちまったんだなって・・・」
リンカはそこで何かを考えるように一度言葉を区切る。
「最低な話さ。こんなんじゃ、旦那がアタイを嫌いになるのも無理ないね・・・。ほ・・・、ほんと・・に・・、すまねえ・・・。・・・っく」
リンカの声が途切れ途切れになるので、リンカを見てみると床に滴がポタポタと落ちていった。
えええええ・・・ガチ泣き・・・?ちょっと、これどうすんの?あああ、試合とかもはや全然頭に入ってこないんですけどー?
ちょっとアリックスさん、助けてくださいよ。
オレはそう思ってアリックスを見るが、アリックスは試合のほうを見てこちらを見ようとしない。
おい、リンカに気づいてないわけないだろ、こっち向け・・・こいつう。
はあー、やれやれだぜ・・・。
オレは腰のポーチ型魔法袋からハンカチを取り出して、俯くリンカの顔に差し出してやる。
「ほら、使えよ」
リンカはそれを受け取ってからハンカチで涙を拭っている。
「自分が最低なことを言ったことに気づいたなら、次はそれを改めていけばいい」
オレはそう言ってリンカの頭を優しく撫でてやる。
泣いた子供をあやしてるような気になるな・・・。
しばらくして涙が止まったのか、リンカがオレにハンカチを返してくる。
「ん・・・」
「いや、それはやるから持っておいてくれ」
「わかった」
ハンカチを仕舞い込むリンカ。そして、おもむろにオレを見つめてきた。
目元は少し赤くなり腫れぼったく目は潤んでいる。
これはさっきまで泣いていたからだ、そうだ、そうに違いない。
「何だ・・・?」
リンカははにかむように微笑みながら口を開いた。そして。
「・・・旦那は優しいな。・・・やっぱり好きだ」
リンカは顔を赤くしながら唐突に告白してきた。薄いピンク色だった肌がわかるくらいに赤くなっている。
こやつ・・・、こんな状況でよく告白できたな。きっと気持ちが昂ったら抑えが効かない性格なんだろうな・・・。鬼人族って皆こんな性格なのかな・・・。
と、若干現実逃避したくなるのを止めてリンカに答えた。
「悪いけど答えは変わらんぞ。他は知らんが、オレはよく知らない相手とは付き合えないし、すでに相手がいるんだ」
その相手が1人じゃなくなりつつあるオレの、どの口が言うのかという気持ちはあるが・・・。
しかし、その答えがわかっていたのか、リンカは特に落ち込むこともなく笑った。
「へへ、わかってるさ。だから、まずは旦那のことをもっと知りたいんだ。それと一緒にアタイのことも知って欲しい」
目を弓にして笑うリンカ。
何回も断っているのにめげないな・・・。
さすがにオレが疲れてきた。
「好きにしてくれ・・・」
「ああ!」
リンカはすっかり落ち着いたのか、アリックス達と楽しそうに観戦し始めた。
そして、オレ達の話が聞こえていたのかメルトが声をかけてきた。
「シュンさん」
オレはぐったりしてメルトに返事をする。
「なんだー?」
「アーティを残して死なないでくださいね」
不吉なことを言うんじゃないよ・・・。
「骨は拾ってくれ・・・」
オレはそう言うのが精一杯だった。
そんな話をしてる最中にも試合は大詰めを迎えていた。
おじいちゃんの攻撃を躱しては刀で切り込む若者。しかし、その攻撃はおじいちゃんに、いなされて躱され代わりに何発か攻撃をくらってしまう。
おじいちゃんが勝負を決めようと足を踏み込んだ瞬間、若者は背中の刀に手をかけた。
すると予想外のことがおきた。
おじいちゃんは、即座に若者から離れて口を開いた。
「降参じゃ」
いきなりの宣言に審判の男性も呆気にとられてしまったが、すぐに若者の勝利を宣言した。
若者が刀を抜こうとした時になにがあったかわからないが、おじいちゃんの勘はそれを危険だと判断したのだろう。そういうところも含めてあのおじいちゃんの強さが伺えた。
試合も終わり最終試合の前に、このまま若者が連戦だと不公平となるので、しばしの休憩となった。
そうして、休憩が開け最終試合の幕があく。
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