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オレはニーナと共に学院へ向かっている。
「昨日、オレが部屋に戻る時にアーティのこと慰めてくれてありがとうな」
オレが何とはなしに言った言葉に少し驚いた顔をした。
「・・・気づいてたんですね」
「まあな。これでも伊達に年はとってない」
「じゃあ、彼女の気持ちも?」
「何となくは、な。けど、あれくらいの年齢は多感な時期でさ、些細なことが大切に見えたりするもんさ・・・。それは良いことだと思う。けど、アーティはまだまだ先が長い、オレみたいなおっさんだけじゃなくて、色んな人を見て経験をして欲しいなと思ってさ」
「わざとそっけない態度を取ってるわけじゃなかたんですね」
「ま、ただの言い訳さ。あんな若い子に向けられる素直な気持ちが眩しすぎてな」
「・・・でも、エリスさんも若いですよね?」
エリスがじと目でオレを見てくる。
「・・・黙秘で」
「帰ったらエリスさんに報告しますね」
オレは顔から汗をだらだらと流しながらニーナに返事をする。
「・・・何が望みかな?」
「甘いものが欲しいですねー」
「わかった。帰ったらクッキーを作ろうじゃないか」
オレの返事にニコリと笑ったニーナ。
「交渉成立ですね」
ニーナも図太くなってきたな・・・。
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というわけで学院に着いたので、まずはニーナが入り口の見張りに話をしに行った。
オレはその間建物を眺めていた。ここに来るまでにニーナから学院の広さを聞いたところ、東京ドームの約半分くらいの広さのようだ。
まあ、魔法の練習の為の演習場とかあるみたいだし、それくらいの広さは必要なのかな。
「師匠、おまたせしました。行きましょう」
「ああ、わかった」
オレとニーナは学院に入り廊下を歩いていく。この学院の教師には個人部屋が与えられており、そこで授業の資料を作ったり、自分の研究をしたりしているそうだ。
しばらく歩いた後、目的の部屋の前に着いたのでニーナが扉を叩いた。
「ニーナよ、入ってもいい?」
しばらくして、中から女性の声が聞こえてきた。
「どうぞ」
オレとニーナは部屋の中に入る。部屋の中は綺麗に整頓されていて本棚には本がたくさんあった。そして、扉から正面にある机の向こう側に1人の女性が座っていた。その女性はオレ達が入ってきたのを見て立ち上がり挨拶をしてきた。
「久しぶりねニーナ。それと、貴方がシュンさんですね。初めまして、私はシャノワールと言います。今回は無理なお願いを聞いていただいてありがとうございます。すぐにお茶の用意をしますね。そちらにおかけください」
オレ達にソファーを勧めてくれたシャノワールは、女性にしては身長が高く170くらいありそうだ。ストレートな黒髪を腰のあたりまで伸ばして、右目が髪で隠れている。そして、シャノワールの一番の特徴は頭に生えた猫耳。彼女は猫女族の女性だった。
シャノワールが淹れてくれたお茶を飲みながら打ち合わせに入る。
「ニーナからの手紙を読んだ時は驚きました。ニーナの土魔法の威力や発動が早くなったと書いてあったので、それが本当ならすごいことですよ」
「何?シャルは私が書いたことが嘘だと思ってるの?」
へえ、ニーナはシャノワールのことをシャルって呼ぶのか。本当に仲がいいんだな。
「違うわよ。けど、実際見てみないと判断できないのも事実でしょ?」
「それはそうだけど・・・」
2人は久々に会ったからか、昔話に花を咲かせ出したので、オレはお茶を飲みながらその話にしばらく耳を傾けていた。この後の予定もないし、のんびりとお茶でも飲んで2人が話終わるのを待つとしようかな。
話の内容は、学生時代にシャノワールが水魔法を失敗してびしょ濡れになったとか、ニーナの土魔法の失敗で砂塗れになったとか失敗談を笑って話している。当時は苦い思い出も、時が経って笑い話にできるのは良い年の取り方をしている証拠ではなかろうか。
「あ、ごめんなさい・・・。お呼びしておいてニーナと話し込んでしまって・・・」
話が落ち着いたところでシャノワールがオレに気づいて顔を赤くして謝った。
「いや、久しぶりに会った友達と話をしてしまうのはしょうがないよ」
オレは柔らかく微笑んでシャノワールに返事をする。
「そ、そういって貰えるとありがたいです・・・」
さらに顔を赤くするシャノワール。表情を隠すためか俯き気味にお茶を飲んだ。それを見てニーナがオレを肘でつついてくる。
「ちょっと止めてくださいよ。シャルは男の人にあまり免疫がないんですから・・・」
「やめろってオレが何をしたんだよ・・・」
「そういうとこですよ?本当に」
意味がわからない・・・。しかし、これだけは言える。ニーナめクリオールに帰ったら、訓練で覚えているがいい・・・。
「とりあえず、講師の件について話をしたいんだが、オレはどうすればいいかな?」
お茶を飲んで落ち着いたシャノワールがオレに説明してくれる。
シャノワールの担当している人数は8人。その子達にオレの魔法を見せた後、ニーナにも教えた訓練方法を教えて欲しいそうだ。とはいえ、その方法が安全かどうか、まずはシャノワールが体験したいということになった。
なので、オレ達は演習場へ移動することにした。
6
ほう、演習場にやってきたが、魔法が他の人になるべく当たらないようにした為なのか結構広いな。
この時間帯は他に演習場を使う生徒はいないのか、オレ達以外に人はいなかった。ちなみに、学院では時間ごとに色が変わる魔道具があるらしく、それで授業の時間を区切っているらしい。
機会があればその魔道具を見せて欲しいもんだ。
「さて、シャノワールさんにはまず得意の魔法を使ってもらっていいかな?」
「は、はい。・・・あと、そのシャノワールでいいですよ。シュンさんのほうが年上ですし、教えてもらう立場ですし・・・」
「ああ、わかった。あと、そうだな、的が必要か」
オレはそう言うと生活魔法(極)の土系統の力を使って、地面から土で出来た円柱状のものを作り出す。
「す、すごい。これが生活魔法なんて信じられない・・・。あ、すいません。魔法ですよね。では、【捻水弾】」
シャノワールが手のひらを的に向けて魔法名を唱えると、10センチほどの水球が現れて回転を始め、その後すぐに的まで飛んでいき的を少し削ってから水球は弾けて消えた。
魔法を打ち終わったシャノワールがオレのほうを向いた。
「どうですか?」
「んー、オレは魔法の専門家というわけではないので、個人的な感想になるけど、発動から的まで行くのに少し時間がかかっているように感じたかな」
「なるほど・・・。これでも昔よりは早く発動できるようにはなったんですけどね。水魔法の技能があってもこれなんですよ」
シャノワールが少し悲しそうにオレに話してくれた。
ほうほう。とはいえ発動に関しては魔素を上手く操れるようになれば解決するだろう。
「それじゃあ、シャノワールにもニーナに試した方法をしてみようか。両手を出してくれる?」
オレは自分の両手の手のひらを上にして、シャノワールに差し出す。
シャノワールはおずおずとオレの右手の上に自分の左手を、逆側の左手には右手を置く。
「では、この状態で捻水弾を使う要領で体に魔素を流してみてくれるかな?」
「はい、やってみます」
オレも自分の手に意識を集中すると、シャノワールの魔素の流れを感じ始めた。
ニーナと同じ感じかな。魔素が流れる回路が細いと表現するのがわかりやすいかな。一度に通る魔素の量が少ない為、魔法の発動に必要な魔素が溜まるのに時間がかかっているな。しかも、シャノワールは発動を早くしなければという思いから、大量の魔素を一度に流そうとして回路の入り口で渋滞を起こしてさらに効率が悪くなっている。
「シャノワール、君は魔法を早く発動しようとしすぎだな。君の体質だと、集めた魔素の量に大して、それを効率的に魔法に変換できないんだ」
「そ、そんなことがわかるんですか?では、どうすればいいんですか?」
「そうだな・・・、シャノワールの魔素を集める力はすごいよ。多分、そうとう努力したんだと思う。だから、集めた魔素を一度に送るんじゃなくて、量を少なくして、早く流すって感じかな・・・。まあ、言葉にすると難しいから、オレが君の魔素を操作するから、それを感じてくれ」
オレは少し手に力をいれて、シャノワールの手を軽く握り込む。そして、シャノワールが集めた魔素を彼女の回路のちょうどよい量に調整して流してやる。
「どう?自分の中に流れる魔素を感じるか?」
「はい・・・、自分でするよりもすごく楽に流れるのを感じます」
「それが本来の流れだ。その量から多く流そうとしても上手く流れないんだ。だから、魔素の流れを早くしてやるんだ」
オレは続いて、魔素の循環を早くしてやる。
「あ・・・、ちょ、ちょっとこれ・・・、んんん・・・」
自分の中を流れる魔素の速さに戸惑いを見せるシャノワール。
オレはそれを見て心を無にする。決してシャノワールが色っぽく見えるからとか、背後にいるはずのニーナから刺すような視線を感じるとかが理由じゃない。
わざとじゃないよ?
しばらく、その感覚をシャノワールに味わってもらったところで、魔素の流れをゆっくりにしてから魔素を流すのを止めた。
シャノワールは肩で息をしており、顔を赤くして汗をかいていた。彼女の着る教師用のシャツが汗で体にはりついており艶かしい・・・。
「ん!んんん!!!」
ニーナが咳払いをしてオレに何かを訴えるので、オレはポーチ型の魔法袋から大きめのタオルを出してシャノワールに渡してあげた。ついでに、コップに水もいれて渡すサービス付きだ。
「あ、ありがとうございます。すいません、お見苦しいものをお見せして」
「いや、ちょっと加減がわからなくて・・・。すまない」
お見苦しいなんてとんでもない、ごっつあんです。
オレの心を読んだのか、隣でニーナがオレを睨んでくる。
男ってそういうもんなのよ、すまんね。
しばらく休憩しつつ、学生にはこの方法はとらず、魔素の体質だけ調べて助言をするという方向に落ち着いた。
後は講師をする日にちを決めて、最後にシャノワールにもう一度魔法を使ってもらう。
使う前にシャノワールに助言をしておく。
「さっきの感覚を思い出して、魔素を早く流すような感じで魔法を使ってみるといいんじゃないか?」
シャノワールは深呼吸をしてから的に向かって手のひらを向ける。
「いきます。【捻水弾】」
シャノワールが魔法名を唱えると、一瞬で水球が生まれ回転しながら的へ飛んでいく、そして的にあたると弾けて消えた。
「う、嘘・・・。」
呆然としているシャノワール。
「威力や速度は変わってないけど発動は早くなったな。慣れれば威力をあげることもできるかもな」
オレに振り向いたシャノワールが涙を流していた。
「あ・・・、ありがとうございます。シュンさん・・・」
それは嬉し涙だからか、笑顔でオレに礼をいうシャノワール。
それを見たニーナがハンカチを出してシャノワールに駆け寄っていく。そのニーナも涙ぐんでいたが、2人とも笑顔で喜びを分かち合っていた。
オレはその光景を見守りながら、しばらくしてニーナと一緒に学院を出るのだった。
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