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感謝の気持ちが極み極めて極まれり。
16
2日目の早朝。オレは自分のベッドから起き外にでて朝の鍛錬を行う。
体をほぐして自分の体幹を意識しながら軽く走る。そして、体が温まったら剣の素振りを始める。自分の技能【武芸全般】に意識を集中して、イメージ通りに数回剣を振った後は、イメージ無しでもその振り方が自然にできるように何度も剣を振るう。
腕はどう振っていたか、剣の軌跡はどうだったか。それを意識しながら鍛錬を行う。とはいえ、ずっと続けてきた鍛錬だ。ある程度はもう体に染みついているんだがな。
「綺麗ですね」
起きてきたエヴァがオレに声をかけてきた。
「綺麗、ですか?ただ剣を振っているだけで、オレは特に流派とか剣技は使えないですけどね」
「何と言えばいいんでしょうか。シュンさんの振る剣には余計なものがないといいますか、純粋さを感じます」
「純粋さ、ですか。中々詩的な表現をしますね。けど、悪くないです。ありがとうございます」
さすがに鍛錬をする雰囲気でもなくなったので、鍛錬を切り上げて汗を拭きながら、エヴァと談笑していると、向こうからルーシェがこちらへ歩いてきた。
ルーシェはオレの近くまで来るとオレの両肩を掴んで叫ぶ。
「シュン!!」
「な、何?」
あまりの剣幕に驚いてしまうオレ。エヴァもルーシェの勢いに飲まれてオレ達を見守っている。
「感動したぞ!あの家!何よりも手洗いだ!ニーナ殿に聞けば女性に配慮して家の中に手洗いをつけたそうだな。そして、あの形だ!あれは良い!我々女性にしても実に楽な姿勢でいられる。よくあの形を思いついたものだ!」
初対面では考えつかないくらい良い笑顔でオレに話しかけてくるな。よほど気に入ったのか・・・。ただ座って用を足すだけで、水は手動で流さないといけないから、それほど評価されるものじゃないと思うが・・・。
しかし、ルーシェの評価は思いの外高い。
「アレを是非騎士団の土魔法の使い手が作れるように指導して欲しいくらいだ!どうだ?」
いや、ルーシェにそんな権限はないと思うのだが・・・。
「あー、アレは土魔法で作ったわけじゃないんだ。すまんな。そもそもオレは属性魔法が使えないんだ」
「なんだと!?つまりあれは魔法で作ったわけではないのか?」
「いや、魔法だよ。生活魔法で作ってる」
「生活魔法!?そんなばかな・・・。では土魔法では作れないのか?」
ふむ?どうだろう。オレが土魔法と言った属性魔法が使えないからその可能性は考えなかったな。土魔法の技能を持つ人は、土魔法を攻撃にしか使えないという固定観念に捉われていたようだ。なるほどなるほど、これは面白いことになりそうだ。
「いや、それはわからない。オレはニーナに魔法の指導しているんで、ニーナが作れるように教えてみるよ。上手くいったら、ニーナから教えてもらうといい」
「それはいい!楽しみにしているぞ!」
と、言い残して去っていった。嵐のようなヤツだったな。
ルーシェと入れ替わるようにニーナがオレに近づいてきた。
「師匠、おはようございます。何かさっきルーシェさんに頑張れって言われたんですが、何か知ってます?」
「ああ、オレがニーナへの指導について良いことを思いついたんだ。楽しみにしていてくれ」
オレはニーナへ優しく笑いかけた。
しかし、ニーナはその笑顔を見てじと目になる。
「変なこと考えてないですよね・・・?」
はっはっは、オレへの信用がない!
オレがニーナへ指導していたのは、魔素を効率よく使う為の訓練方法だ。ゆくゆくは生活魔法を自由に使えるようにと考えていたのだが、ルーシェの話から思いついたことがある。
土魔法を攻撃以外にも自由に使えるようになればどうなるのか。オレは土魔法といった属性魔法の技能は、攻撃に特化したものだと思っている。決まった現象を起こす上では効率よく迅速に魔法を放つことができるからだ。では、決まっていない現象を起こす場合はどうなのだろうか?もし、自分の思い描いたままに土魔法を使えるようになれば、土魔法も極み化できるんではなかろうか。
「大丈夫だ。問題ない」
ということで、ニーナへの指導方針を変更するとしよう。
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そんなことを朝から決意したものの旅は続いていくわけで。
全員で朝食をとってから昨日と同じ並びで道を進んでいく。
少し進んだ先でゴブリンが3匹でてきたが、先行した男性騎士3人に呆気なく倒され、以降は問題なく馬車を走らせている。
オレは後方の警戒ということで、生活魔法の風系統の力を使って後ろへ風の膜を定期的に飛ばして索敵する。
すると後ろから3つほど何かが馬車へ向かってくるのを感じた。
結構速いが馬って感じじゃないな。てことはウルフ系の魔物かな速さ的に。
「レインさん、魔物が3匹ほど追ってきてるみたいです。速度から見てウルフ系じゃないかなと思います」
「なるほど。では、前の馬車に連絡しますかな」
「いえ、レインさん達はこのまま馬車を走らせてください。周囲を探ってみたら、他に魔物はいないみたいなんで、さっと倒して追いつきますよ」
オレは、そう言うと御者台から立ち上がり横からふわっと飛び降りる。
「シュンさん!?」
一瞬の出来事に驚くレインさん。そうしてる内にオレと馬車はどんどん離れて行く為、レインさんもそのまま馬車を走らせていった。
一方、飛び降りたオレは地面に足をつけたが慣性が働くので着地すると砂煙が上がった。
そして、後ろから来るであろう魔物に向かって、駆け出すと同時に剣を抜いておく。
少し走ると魔物の姿が見えてきた。案の定グラスウルフと呼ばれる魔物だ。
オレは勢いを殺さずに剣を構えつつグラスウルフ達に近づいていく。
グラスウルフ達は風下の為、匂いでオレが近づいてくることがわかっていたのだろう、1匹は正面からオレへ向かってくる。別の2匹は左右に別れ、その内の1匹はオレのほうへ右から回りこんできた。もう1匹は馬車を追う為か、そのままオレを無視して行こうとするので、意識を集中して生活魔法(極)を発動。地面から尖った太い針を複数生成して馬車へ向かおうとしたウルフを串刺しにして仕留める。
その間に正面からのグラスウルフがオレへ噛みつこうと飛びかかってきたので、その口を狙い剣を一閃して上顎部分を切り飛ばす。そして、すぐに左に向いて回りこんでいたグラスウルフを正面に捉える。
最後のグラスウルフは、仲間が一瞬にして倒されたことに驚いたのか、オレから少し距離をとり威嚇をして様子を見ている。
オレとグラスウルフは目が合ったと思った瞬間に、お互い動き出していた。
グラスウルフは身を低くしてオレの足に噛みつこうと疾走してくる。オレはその動きに合わせて刃を下に構えてグラスウルフを迎え撃つ。グラスウルフの顔の位置は低く、剣の切っ先を当てるのが精一杯の高さだが、オレは構うことなく剣を地面に突き刺しながらグラスウルフの顔まで剣を走らせる。
その勢いのまま刃は噛みつこうとしたグラスウルフの頭に突き刺さり、そのまま通り抜けていく。
地摺り◯月とでもいうべきか。頭にピコーンと豆電球が出てきそうな技みたいになってしまった。いやはや、オレに閃かせるとは大したもんですよ。
倒したグラスウルフ達は道に放置すると腐ったり、他の魔物を呼んでしまうので、3匹とも地面に穴を開けて放り込んで、火葬してから土を被せておく。
さて、後始末が終わったので、レインさん達と合流しようか。
まあ、単純に全力で走るだけなんだが。
オレは足に力を込めると一気に走り出した。
私の能力の名は・・・、ラディカル!グッ・・・頭が・・・。
その後、馬より早く走ったオレはレインさんの荷馬車に追いつき、後ろから手をかけて馬車へ飛び乗った。
無事に追いついたな。ああ・・・また世界を縮めた・・・。
荷台を通って御者台まで行くとレインさんは一瞬驚いた顔をしたものの、笑顔で迎えてくれた。
さて、また馬車でのんびり王都まで向かうとしましょうか。
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