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王都行きが決まり公爵様からの報せを待つ間、依頼をこなし魔物を討伐したり、森に入って香草や薬草を採取したりして、久しぶりにのびのびと過ごすことができた。
ここのところ色々と面倒ごとが多かったのでいい気分転換になったな。
そうしている内に王都への出発が10日後という報せを受けた。そんな訳で、残りの日数は石鹸を作ったりニーナに魔法の指導をしていた。
そのニーナへの指導中の一幕にこんなことがあった。
「そういえば師匠」
「ん?どうした?」
「結局、王都にいくんですよね?」
「そうだな。不本意ながら」
「改めてお願いできませんか・・・?私の友達に魔法をみせるお話・・・。」
申し訳なさそうにオレの目を見てくるニーナ。何故そこまで必死なのだろうか。
しかし、ここでその話を聞くと藪蛇な気がする・・・。
「いやあー、悪いけど、それはちょっと無理かな・・・」
「そうですか・・・」
落ち込みながら魔法の訓練を続けるニーナ。しかし、その顔はチラチラとオレを見ては何かを聞いて欲しそうな仕草をしている。
オレは気にしないようにして訓練を見守る。
「師匠は何も聞かないんですね・・・」
「人には踏み入って欲しくないこともあると思ってな」
オレとニーナの間に見えない緊張が走る。
「実は、王都で教師をしている私の同級生なんですが」
「あー!あー!大丈夫、そういうの間に合ってるから」
「私とその子、昔は魔法が上手に使えなかったんですよ」
「オレの話聞いてる!?」
「私の話をきいてください!」
「なんで!?」
「うー、師匠ー。お願いですからー。王都にいくなら引き受けてくださいよー。ついでに、特別講師もお願いしたいそうなんですー」
講師の話は初耳だぞ!お願いごとが増えとるがな!?
もはや、なりふり構わずオレにしがみついてくるニーナ。あまりにも必死すぎるその姿についにオレは折れてしまった・・・。
結局話を聞いてみると、ニーナと王都で教師をしている子は、昔は魔法が上手く使えなかったそうだ。しかし、お互い努力することで、ニーナは得意だった土魔法を伸ばし、クリオール公爵領で研究員になれた。
ニーナは各街や村の作物を育てる畑の土壌調査と、研究 等をしている。
そして、王都にいる子は教師として魔法を教える仕事についた。
2人とも自分の魔法の技術はこれ以上上達することはないと思っていたところに、ニーナがオレと出会い魔法が上達した。ニーナからすると、自分と同じ苦労をした友達を放って置けなかったのだろう。是非友達の魔法も見てほしいと思ったのだそうだ。
はあ、やれやれ。乗り掛かった船というか、その船に無理やり乗せられたというか。しょうがない、可愛い弟子の頼みを聞くとしようかね。
そんな日々を過ごしていたら、王都への出発の日になった。
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今回、エリスはお留守番だ。組合の仕事があるしな。ちなみに、この日の為にオレは自分の匂いの付いたものを量産させられた。
そして、オレは出発場所であるクリオールの南門にきている。
あれから、ニーナも王都への同行を願いでて参加できることになった。
というより、どうやら先日エヴァと話している時に根回しをしていたらしい。
オレがニーナのお願いを受けてなかったらどうしてたんだろう・・・。
王都へは、オレとニーナ、レインさん、エヴァとそのお付きのメイドさん、護衛として公爵領の騎士団から男性騎士が3名、そしてメイアとルーシェ、サーヤの合計11名と結構な人数だ。
男性騎士3名とメイア達は兜をしている為、顔が見えないが、メイアに関しては以前会った時には金髪で髪をお団子にしていた。ルーシェは赤髪のセミロングで前髪を左に流していて、サーヤはルーシェと同じ赤い髪だがツンツン頭だったな。
全員の準備が整ったので出発することになった。男性騎士3名が馬に乗り前を走る。その後ろにエヴァが乗る馬車がありメイドさんとニーナも一緒に乗っている。エヴァが乗る馬車の左側には馬に乗ったメイアがいて、右側にはルーシェ、御者はサーヤだ。その後ろに、オレとレインさんが乗る馬車が位置する。一応、後方の警戒はオレが担当することになっている。
出発する前に、オレもエヴァの乗る馬車で一緒に王都へ行きませんかと誘われたが、丁重にお断りさせていただいた。なぜなら、オレを誘うエヴァの目に何か不穏な光を見たからだ・・・。馬車に乗ったが最後、エリスとのあれこれを聞かれるに違いない・・・。そして、エヴァの誘いを断りきれなかったニーナが、恨めしそうな目でオレを見てきたが気にしない。
そもそも公爵家などという、貴族の偉い人と一緒に乗ることに気乗りしなかったということもある。この世界の貴族が、爵位による上下関係をどのくらい重視しているのかはわからないが、少なくとも子爵家のニーナは公爵家のエヴァと一緒に乗るなんて恐れ多いと言っていたので、ある程度は貴族間のしがらみはあるのだろう。
まあ、ハイソな世界なんてオレには関係ないな。
そんなわけで、王都までの道を走っている。王都までは数日の道のりだが、途中何回か林を通ることになり、時間によっては林の手前で夜営に入る。なぜなら、オレが箱家を作るには平原というかある程度広い場所がないといけないからだ。
天気は晴れて風が心地いいが、日差しは日に日に強くなっているように感じる。そろそろ火の月、夏が始まろうとしているんだなー。
オレはレインさんと話をしながらのんびりと馬車の旅を楽しんでいる。
「そういえば、石鹸の売り上げはどうですか?」
「好調ですよ。毎日販売する個数を制限していますが、販売を開始するとあっという間に売り切れてしまいます。もっと売る量を増やして欲しいといわれますが、それをすると、在庫が一瞬で無くなってしまいますからな」
実に良い笑顔をしてらっしゃる。
「それはしょうがないですね。オレも作る速度には限界がありますから。オレとしては是非公爵様に石鹸作りを事業化して欲しいところです」
「はは、まあ、シュンさんは冒険者ですからな。物作りは性に合いませんか?」
「いえいえ、作るのは好きなんですが、商売となると勝手が違いますからね・・・。オレは趣味で色々作るのが性に合ってますよ」
「なるほど。では、また何か作った時は、是非私に声をかけてください」
「そうですね。次は大量に作らなくていいものにします」
「はっはっは、それがいいですな」
「あ、そうだ。レインさん、よかったらこれを食べませんか?」
オレはそう言って、腰のポーチ型魔法袋から作ってきたクッキーを取り出した。
「これは何ですかな?」
「クッキーというお菓子ですね。味の感想を聞きたいんです」
このクッキーだが、エリスには大変好評だった。好評すぎて出発前に作り置きをさせられるくらいだった・・・。
「ほう、では1枚いただきましょう」
片手で手綱を持ちながら、クッキーを口に放るレインさん。すぐにサクサクという音が聞こえてくる。そして、ッカ!っと目を見開いた。
「これは甘い!そして美味い!!これにも砂糖が使われているのですかな!?」
「そうですね」
「前にシュンさんの家でいただいた食べ物もそうでしたが、砂糖をどこで手に入れたのですか?」
「オレが作りました。とはいえ、まだまだ少量なので、多く作れそうならレインさんのところに持っていきますよ」
「本当ですか!?いやはや、シュンさん貴方という人はどれだけ私を驚かせるんですかな」
と言いながら未来の商売へ思いを馳せるレインさんの顔は輝いており、やはりこの人は根っからの商売人なんだろう。
こんな感じで、レインさんと談笑しながら王都までの道を進んでいく。
そして、日が暮れ出したので、オレ達は最初の夜営をすることにしたのだった。
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