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オレの発言に言葉を失うリオニー様。しかし、オレの後ろにいた公爵様は聞き逃せなかった。
「い、今何と言った!?シュン!」
「クーノ。落ち着いて。シュンさん、貴方は私を治せるというの?」
興奮する公爵様とそれを嗜めるリオニー様。
「治せるかもしれない。というのが本音ですかね。やってみないとわかりませんが、もしかすると、今より悪化する可能性もあります。ですので、返答はよくお考えください」
オレは真剣な表情でリオニー様へ話しかけた。
しばらく無言の時間が流れる。そして、リオニー様は公爵様へ話しかけた。
「クーノ、私はシュンさんにお願いしたいと思うの。どうかしら?」
リオニー様に話しかけられた公爵様は少し考えてから、オレに話しかけてきた。
「シュンよ。リオニーの治療については、これまで教会にも願い出たし、娘のエヴァでさえも治せなかった。お主は本当に治せるというのか?」
「先ほども申し上げましたが、治せるかどうかはやってみないとわかりません。悪くなる可能性もあります。ただ、教会の方やエヴァ様が治せなかったのは、リオニー様の症状が呪いではなく、特殊な病気だったからではないかと推測します」
「呪いではなく病気だと?お主ならそれが治せるということか?」
「私は以前これと似たような症状を住んでいた村で見たことがありまして、そのとき、祖母に治療法を聞いたことがあります」
もちろ真っ赤な嘘だ。嘘も方便とは便利な言葉だと思う。
これまでの話を聞いて、リオニー様が口を開いた。
「その治療法を試せば治るかもしれないということね?」
「あくまで治る可能性ですが・・・。申し訳ありませんが、私はその分野の専門家ではありませんので・・・」
リオニー様はオレの返事を聞き、そして、オレの目を見ながら返事をした。
「なら、私はシュンさんに治療をお願いしたいわ。例え今より悪くなったとしても、どうせ長くない命だもの。少しでも生きる可能性がある方に賭けてみたいわ」
その言葉を聞き、公爵様が悲しみに沈んだ声をだす。
「リオニー・・・」
「クーノ、私の体だからわかるの。私の命はそう長くないわ・・・。けれど・・・、もし元気になれるとしたら・・・、聖女の力を継承してしまったエヴァに、重荷を背負わせてしまったあの子に・・・、何かをしてあげたいの・・・」
リオニー様は静かに涙を流していた。きっと聖女として過ごしてきた自分の経験から、エヴァのことを心配していたのだろう。
「・・・・・・」
その涙を見て何も言えなくなる公爵様。いや、惚れた女の涙を見て何かを言える男など中々いないだろう。男ってのはつくづく不利な生き物だぜ。
涙を拭ったリオニー様がオレに話しかけてきた。
「ごめんなさい、シュンさん。見苦しいところをお見せしたわね」
「いえ、我が子を思う涙を見苦しいと思う人などいません。その涙はなにより温かいものだと感じますよ」
「ふふ、お上手なのね」
リオニー様の気持ちも落ち着いたところで、オレは公爵様へ条件を持ちかける。
「治療するにあたり、人払いをお願いできますか?この治療法を他の人に見せることをしたくないのです」
オレの発言に対してすぐに返事をしない公爵様。
それはそうだろう、今日会った素性のわからない男と自分の妻を2人きりにはさせたくないだろう。
そこへリオニー様が助け舟を出す。
「クーノ、シュンさんなら大丈夫だと思うわ。会ってまだ少しの時間しか経っていないけれど、この方は私の体のことを真剣に考えてくれていると感じるの」
公爵様は目を瞑り考えをまとめた後、オレの肩を掴んで声をかけてきた。
「わかった。シュンとリオニーの言葉を信じよう。しかし!もし、妻に何かをしてみろ!?わかっているな!?」
公爵様は自分の顔をオレに近づけて念を押してくる。
近い近い。おっさんの顔を近づけられても嬉しくないよ。
「何もしませんよ。人を何だと思ってるんですか・・・」
それにそんなことをしてみろ、オレがエリスに殺されてしまうわ。
オレの返事に満足したかはわからないが、オレとリオニー様を残して、公爵様とメイドさんは部屋の外へ出て行った。
「ふう、ではリオニー様。治療を始めようと思いますが、申し訳ありません。さらに条件を追加させてください。これから行うことに対して、絶対に誰にも言わないと約束してください。約束できないのであれば、治療は行えません」
オレはこれから神の力を使う。しかし、元聖女ということは、恐らく記憶消去の例外にあたるはずなのだ。なので、絶対に口外しないことを確約させたい。
「ええ、約束するわ。わざわざ人払いしてまでの事ですから。よっぽどのことなんでしょう」
多分リオニー様の考えの斜め上をいくと思いますが・・・。まあいいか。
「ありがとうございます。では治療を始めましょうか」
オレは立ち上がってベッドから少し離れる。
そして亜空間から白に輝くコインを取り出した。
オレはコインを右手に持つと、左手を腰に添える。すると腰にベルトが現れる。そのベルトのバックル部分にあるプレートを右から左へスライドする。
スライドしたそこには、コインをはめる穴があり、そこへコインを挿入すると、今度はプレートを左から右へスライドする。その瞬間、プレート部分から無機質な声が流れる。
『ヴァイスフォーム』
声が流れた瞬間に、足元に直径1メートルの白い魔法陣が現れ、そこから鞘に収まった1本の剣が出現し、目の前まで浮かび上がってくる。
オレが左手で鞘の部分を掴んだ瞬間に背後に白く輝く半透明のフルプレートアーマーの騎士が現れる。続いてオレの体を魔法繊維でできた黒いスーツが覆う。
全身が黒いスーツに覆われたオレは剣を掴んでいる手を左に振る。オレの動きと同じようにオレの背後の騎士も同じ格好となり、同時にオレの体と被さるように一体化し、半透明だったアーマーが純白へと変わり質量を帯びる。
そして、オレは白騎士の姿になる。
オレは左手に持った剣を腰につけると背中にマントが出現して変身完了だ。
全身を覆う純白の鎧。一番のポイントは兜の側頭部あたりから2本、竜の角のようなものが後ろに伸びているところだな。
6つのメダルの中で白と黒だけはフォームの内容をちょっと違ったものした。
異世界には騎士も必要だろうと思ったんだ。
今回の変身名にドイツ語と英語が混じってるのは響き重視というだけだ。
「シュンさん・・・。その姿は・・・?いえ、貴方から感じる力はまるで・・・」
リオニー様が驚いてるがリオニー様が力を感じるということは、恐らくエヴァにも何かしら察知されているだろう。聖女だからな。よし、なるはやでやっていこう。
「申し訳ありませんが、詮索無用でお願いいたします。では、仰向けになって体を楽にしてください」
オレは仰向けに寝ているリオニー様の体の上にオレは右手を持っていき、リオニー様へ手のひらを向けて意識を集中した。
まずは、リオニー様の体に溜まっている魔素を吸収することにする。
体へ負担をかけないようにオレは右手から魔素を吸収し始める。
「っふ・・・、ん・・ん・・・・あっ・・」
吸収し始めてから、リオニー様から妙に艶かしい声が聞こえる・・・。
エロいな・・・、この人・・・。
いかん、集中だ!集中するんだ!!
心を無にしながら何とか魔素を吸収しきった。
「すごいわ・・・。体がすごく楽になったわ・・・」
「いえ、まだ終わりではありません。ここからが本番です」
リオニー様の体はいわば魔素を通る道がボロボロの状態だ。それを元の状態に復元する。
オレの手のひらが白く輝き、その輝きはリオニー様の全身を包み込む。
これで大丈夫だな。
オレは、ベッドから少し離れて腰のプレートを左へスライドする。
すると鎧は瞬時に光の粒となって消え、ベルトから上に白いメダルが排出される。
オレはそれを右手でキャッチして、そのまま亜空間へ仕舞い込んだ。
「ふう・・・。どうですか?体の調子は?」
オレの言葉を聞いて、手を閉じたり開いたりするリオニー様。
そして、ベッドから立ち上がってオレのほうを見た。
「すごい・・・すごいわ!!体の痛みがないの。それに、ほら立つことができるわ!!」
「ちょ、ちょっと病み上がりなんですから、無理はしないでくださいね」
「わかっていますわ」
よほど嬉しいのかニッコリと笑うリオニー様。
大丈夫そうだな。
「では、公爵様をお呼びしましょうか」
オレは、部屋の入り口まで歩いてからドアを開ける。
ドアの向こうには公爵様達が立っていた。どうやら、ずっと部屋の近くで待っていたらしい。
公爵様はオレが出てきたのを見つけて声をかけてきた。
「シュン!終わったのか?」
「ええ、終わりました。どうぞ、公爵様」
オレはドアから体をずらして部屋までの道を開ける。公爵様は矢も盾もたまらず部屋へ入って行った。
中にはベッドの前でリオニー様が立っていた。窓から入ってきた光に照らされたその姿はまさに1枚の絵画のようだった。
「ふふふ、どうしたの?クーノ。そんなに慌てて入ってくるなんて」
柔らかい笑顔を浮かべながら公爵様へ話しかけるリオニー様。
その姿を見た公爵様はリオニー様へ駆け寄って彼女を抱きしめる。
「おお・・・、リオニー・・・。良かった。本当に・・・」
「クーノ・・・、少し苦しいわ」
抱き合った2人は笑顔で涙を流しながら喜び合っていた。
この光景が見れたなら力を使ったかいもあったかな。
2人はしばらく抱き合った後、離れてオレのほうへ向き公爵様が話しかけてきた。
「シュンよ。リオニーを救ってくれたこと、心から感謝する。我が妻を救ってくれたこと、どのように報いればよいだろうか?」
「そうですね。では、今回のことを誰にも言わないようにお願いいたします。リオニー様の体は薬で治ったことにしてください」
「ばかな?そんなもの礼になっておらんぞ。きちんと謝礼を出そうではないか」
「いえ、失礼な話ではありますが、今回リオニー様を助けたのはただの偶然です。次に、万が一同じ状況になったとしても助けるかは約束できませんし、謝礼をいただいてしまうと、同じ事を頼まれると断りづらくなりますので」
少し冷たい言い方かもしれないが、余計な期待を与えたくないのだ。
「うむ・・・。そうか。誠に偏屈な男だなお主は」
「クーノ大丈夫よ。こうは言っているけど、これは、シュンさんなりの優しさよ。」
などと言われては苦笑せざるをえないな。
「と、とにかく。今回のことは内密でお願いします。」
最後の最後にリオニー様に持っていかれてしまったな、やれやれ・・・。
2人の生温かい目で見られつつ、客間へと戻るのだった。
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客間へ戻るとニーナとエヴァがオレを見てニヤニヤしてきた。変に思ったので、エリスを見るがオレを見ようとしない。どうやら色々と恋話をしていたらしい。
レインさんの居心地の悪そうな顔よ。おっさんに恋話はきつかろうて・・・。
オレに続いて公爵様が部屋に入り、そして、公爵様に手をひかれて1人の女性が部屋に入ってきた。
それを見た瞬間にエヴァが立ち上がり、驚いて手を口にあてた。
「お・・・母様・・・」
エヴァに呼ばれたリオニー様は微笑を浮かべながらエヴァの名前を呼んだ。
「あらあら、エヴァ急に立ち上がるなんてはしたないわよ」
笑いながら話しているところを見ると本気で言っていないことがわかるな。
「お母様!」
エヴァはリオニー様に駆け寄り抱きついた。
「ふふ、まだまだ子供なのかしらね・・・」
リオニー様はエヴァの頭を撫でながらいう。
「信じられませんわ。お母様が立っておられます。元気になったのですか?」
「ええ、もう大丈夫よ。心配をかけてしまったわね」
「いえ。けれど、どうやって元気になったのですか?先ほど大きな力を感じました。あれは・・・むぐ」
自分の考えを言おうとするエヴァを強く抱きしめて、胸でエヴァの口を塞ぐリオニー様。
うらやまし・・・、っは!?エリスから殺気が・・・。
「それは秘密なの。助けてくれた方法を誰にも言わないのが、治療をする約束なのよ」
エヴァはリオニー様から離れてオレをチラっと見る。
「ぷは。わかりました。お母様が元気になったのならそれで十分です」
オレを見て言うんじゃあないよ。
まったく、依頼の褒賞の話や石鹸の話からだいぶ横道に逸れてしまった気がするが、ようやく帰れそうだ。
その後、細々と話をしてオレとエリス、ニーナ、レインさんは公爵様の城から帰ることとなった。




