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読んでくださる方へ感謝の気持ちにドッカンパンチ
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公爵様の頼みにオレは返事をする。
「構いませんよ。レインさんのお店に卸しているのは2種類ですので、それ以外に後5種類ありますが、ここでお出しすればよろしいですか?」
オレが公爵様に返事をすると、少し考えつつオレに答える。
「そうだな。・・・いや、ここではなく我が妻の寝室にて出してもらえるか?その際に、香りの説明もして欲しいのだ」
その公爵様の発言に執事さんが驚きの声をあげた。
「だ、旦那様!?」
執事さんを手で制して言葉を続ける公爵様。
「よい。すまんなシュン。訳がわからんだろうから、説明させてもらおう。我が妻は先代の聖女であり、かつて魔王を討伐した者の1人だ。ところが魔王を倒した際に、最後に魔王の呪いを受けてしまったのだ。最初は普通に暮らしていたのだが、徐々に呪いは体を蝕み、ここ数年でついに寝たきりになってしまってな・・・。恐らくだが、それほど長くは生きられないのだ」
オレも知らなかったことだが、聖女というのは基本的には親から子へ力を受け継ぐものらしい。何らかの事情で聖女の力が継承できなかった場合は、神の啓示により新たな聖女が現れるらしい。
それってその神が一から選ぶのが面倒だから、そういう仕組みにしたとかじゃないだろうな・・・。
ていうか、魔王っているのか。ちなみに、それはオレの管轄外だからな。
公爵様の話をきいて悲しそうな顔になったエヴァが補足するように話す。
「私がお母様から聖女の力を継承した時から、徐々にお体が悪くなりました・・・。おそらく聖女の力で呪いに対抗していたのだと思います・・・。」
なるほど。聖なる力で魔王の呪いに対抗していたということか。
「そうでしたか、それはお気の毒に・・・。しかし、聖女の力で呪いを解くことはできなかったのですか?」
「私もお母様に解呪を試みましたが、私の力では無理でした。回復魔法も使っても一時的に回復するだけで、どうしようもない状態です」
まあ、先代の聖女様も解呪できたら自分でしてたか。
公爵様が話を戻すために口を開く。
「寝たきりの妻だが、ここ最近はお風呂に入るのが楽しみなようでな。聞けば、新しい石鹸が手に入ったので、使ってみたら香りがよく肌が綺麗になったと、たいそう気に入ってな。久しぶりに目をキラキラさせておったのだ。それに、確かに妻が玉のような肌になっていて美しくなっておった」
おい、最後のは惚気だろう。
「あのような妻は本当に久しぶりでな。そこで、他にも気にいるような香りを持つ石鹸があれば贈ってやりたいと思ったのだ。それに、妻も石鹸の製作者に一度会いたいと言っておったので、是非、香りの説明もして欲しいのだ」
「わかりました。そういうことでしたら力になりますよ」
9
オレは公爵様と一緒に奥さんの寝室を訪れている。
エリス、ニーナ、レインさんは、エヴァが相手をするということで客間で待機している。
今、寝室にはオレと公爵様、お付きのメイドさんと奥さんの4人だけだな。部屋の扉の前には警護としてメイアがいたので、久しぶりと挨拶を交わした。女性騎士なので奥さんの警護はメイア隊がしているそうな。
さて、それじゃあ奥さんにご挨拶させていただこうかな。
「初めまして、冒険者兼石鹸の制作をしておりますシュンと申します」
「まあ、貴方が。初めまして私はクーノの妻のリオニー=クリオールと言います。このような格好で申し訳ありませんね」
ベッドに上半身だけ起こしていたリオニー様と自己紹介を行った。
リオニー様は少し癖毛の銀髪を胸のあたりまで伸ばしていた。エヴェが成長したら、こんな感じになるんだろうか。親子揃って美人だった。エヴァの髪はストレートだったので、あっちは公爵様の髪質かな。
などと考えながらリオニー様を見ていたら、後ろで公爵様が咳払いをした。
おっと、見過ぎていたかな失敬。
「さて、事情は聞いております。ここに石鹸をお出ししてよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん。楽しみだわ」
ということで、石鹸を色々出しては香りの説明をリオニー様にしていく。
石鹸の説明中、あらあらとか、まあまあとか言いながら目を輝かせて、時にはオレに質問をしながら目をキラキラさせていた。
一通り石鹸の説明が終わったので、リオニー様に尋ねてみた。
「どうですか?気に入った香りのものはありましたか?」
「どれもいい香りがして悩むわねー。正直な気持ちで言えば、全種類欲しいくらいです。特に2つめの・・・、ゴホゴホ・・・」
興奮しすぎたのか、リオニー様が突然咳をした。少し前のめり気味でオレと話していた為ベッドの端からバランスを崩してしまい、ベッドから落ちそうになったのでオレは咄嗟にその肩を受け止める。
咳をしたリオニー様を心配して公爵様が駆け寄ろうとする。
「リオニー!?」
「大丈夫よ、クーノ。ちょっと興奮し過ぎてしまったわね。シュンさんも申し訳なかったわね」
「いえ、オレもリオニー様があまりにも元気だったので、つい病気であることを忘れておりました。申し訳ございません」
「ふふ。皆に心配ばかりかけていたけど、シュンさんにそう言ってもらえると嬉しいわね」
そして、リオニー様の体に触れた時にオレは彼女の体の異変に気づいた。
魔王の呪いと聞いていたが、これ呪いじゃないな・・・。
そう、リオニー様の体は呪われていない。だから、解呪が聞かなかったのだろう。
リオニー様の体は恐らく魔王の最後の攻撃によって、体を流れる魔素が正常に流れないようになっていた。それが原因で体の至るところで魔素が溜まり、体を傷つけていたのだ。
オレは生活魔法を使い続けた事で、魔素の操作や感知、扱いを熟知しているので、それを理解することができた。
なるほどな。回復魔法で体を治したとしても、すぐに傷つくからイタチごっこだろうな。
あるいは、回復魔法で体が治したら、新たに傷ついていく痛みが体を襲ったんではないか?だとすると、この人はそれを周りに悟らせずに、ずっと耐えてきたのだろうか・・・。
助けてあげたいな・・・。それが自分のエゴだとわかっているがそう思った。
偉そうなことをいうが、人が死ぬなんてあたりまえで、生物であればどんな終わり方を迎えようが必ず死ぬのだ。
それは残酷でもなんでもなく自然の摂理だ。そこに悲しみや後悔を感じるのは人の我がままだとオレは思う。
でもそれでいいのだ、その悲しみや後悔が何よりも人間らしいじゃないか。泣いて喚いて、人生の不条理に笑う。何度も絶望して笑うしかないことなんて、前世にはいくつもあった。
あまりの辛さに立ち止まったからこそ見つけたものあったし、その辛さを乗り越えて手に入れたものあった。
でも、そんな時にいつも思っていたんだ、ヒーローに来て欲しいと、現実にはありえないと涙したこともあった。ならば、自分がヒーローになればいいじゃないかと思うこともあった。
結局、前世のオレはヒーローに会うことも、なることもなかった。
けれど、ここでならヒーローにオレはなれる。いや、なりたいと思ったからこそ神の力を変身という形にしたんだ。
改めて思う、オレはこの世界で、今度こそ自分の思う通りにしよう。
誰を救うかはオレの我がままで申し訳ない。
もし、この世界に運命を司る神がいたなら悪いな、好きにやらせてくれ。
「リオニー様、その体が治る方法があると言ったらどうしますか?」
オレは大胆不敵に笑いリオニー様にそう言うのだった。
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