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今日も今日とて、感謝感謝の正拳突きです。
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現実逃避しても時間の無駄なので、改めてエヴァを見る。
聖女ねえ・・・。オレの視線に気づいたエヴァはニコリと笑い口を開いた。
「貴方が依頼を引き受けていただいた冒険者様ですか?この度はありがとうございます」
おっと、自己紹介をしていなかったな。
「私は冒険者をしているシュンと申します。あと、敬称は不要です聖女様」
「エヴァで構いせんわ。シュンさんとお呼びすればいいでしょうか?」
「私に関しては好きに呼んでいただいて構いません。ですが、さすがに貴方様を呼び捨てはできませんので、エヴァ様とお呼びいたしますね」
オレが自己紹介したので、その流れでニーナとエリスも自己紹介する。レインさんとは面識があるので割愛していた。
全員の自己紹介が終わると、それまで黙っていた公爵様がオレに話しかけてきた。
「ふむ。シュン、お主は我が娘を見ても何とも思わんのだな」
「何とも・・・、とは?申し訳ありませんが、質問の意図がわかりかねます。可愛らしいお嬢様とは思いますが・・・。」
「いや、親馬鹿というわけではないが、これまで多くの男が我が娘に婚姻を求めてきたり、我が公爵家と縁を結びたいが故に言い寄ってきたり、はては下衆なことを考えるやつもおってな。しかし、お主にはそれを感じないのが不思議でな」
自分の娘の美貌を自慢したいんですね、わかります。
エヴァを見てみると顔を赤くしている。
まあ、遠回しに娘は美人だー、男にモテモテですわ。って言ってるようなもんだろう。
しかし、公爵様、それは質問か?質問なら答えねばなるまい。
「はあ・・・、まあ、私には恋人がおりますし、それに見たところエヴァ様は16か17歳くらいですかね?さすがに私とは年が離れ過ぎていて、色恋などありえないでしょう」
「ん?」
「え?」
「はい?」
公爵様、エヴァ、ニーナが順番に疑問符を浮かべる。
おお、3人の頭にハテナマークが見える。
そして、公爵様が3人を代表するかのようにオレに話しかけた。
「お主、年はいくつなのだ?」
「今、39歳ですが?はい、組合員証です」
3人がテーブルに置かれた、組合員証に書かれているオレの年齢を見る。
そして、年齢を確認した公爵様が驚きながら言う。
「ほ、本当に39歳なのだな・・・。その容姿で私と1歳違いなのか・・・」
へえ、公爵様は40歳なのか、オレの1歳年上だな。
そして、事実を受け止めきれないニーナ。
「うそでしょ・・・。ありえない・・・」
ありえないってなんだよ。世にも奇妙なことはあるんだぞ?
最後はエヴァが素直に驚いた表情でオレに話しかけてきた。
「私はシュンさんのこと20歳くらいだと思ってました。それが39歳だなんて、驚きです」
反応が可愛いね。
「オレの年齢を聞くと皆さん同じ反応になりますね。今は亡き祖母から聞いたのですが、オレの先祖に森人族がいたそうです。おそらく、そのせいではないかと」
何やら考える素振りをする公爵様。
「ふむ・・・。確かに、その目の色は森人族に多く見られる翠色、お主には血が濃くでているのかもしれんな。しかし、そうか。私とほぼ同年代であれば、エヴァを見て反応しないというのもありえるか」
まあ、世の中色んな人はいるが、基本的に子供は慈しむべきものなんだぞ?
何歳までが子供なのかという話は置いといて・・・。
「まあ、それ以前に私とエヴァ様ではそもそもの身分も違いますしね」
「それもそうか・・・。すまぬな。1人の親としてはどうしても心配してしまうのだ」
「いえ、お気になさらないでください」
「では、依頼の話は段取りが整い次第、冒険者組合を通じて報せをだそう。さて、レインよ。随分待たせてすまなかったな。お主との話に入ろう」
「いやいや、おかげさまでゆっくりとお茶を楽しめました。我が商会でもこれほどのお茶はそう飲むことができません」
「そうか、そう言ってくれると助かるな」
そういって2人はにこやかに話す。
その様子は普段から2人はこんなやりとりをするのだろう。和やかな空気が2人を包んでいた。
そして、レインさんと公爵様との話はこうだった。
最近クリオールで話題の石鹸を王都でも販売したいそうだ。実際に公爵様も使ってみて、あまりの出来栄えに、この石鹸をクリオールの新たな特産品にしたいと考えたらしい。
とはいえ、王都での反応を見ない事には特産品として売り出すこともできないので、まずは王都で販売する。そして、王都へ行くのならちょうどエヴァが王都に行く必要があるので、それに同行するというものだった。
レインさんが石鹸を王都でも販売したいという話は、石鹸を納品する際に相談はされていたが、特産品にしたいという話は初耳だな。
オレの方を見て公爵様が話しかけてきた。
「すまぬな。製作者であるお主に何の相談もせず、こんな話をしてしまって。しかし、あの石鹸には驚いた。あれは王都でも売れると思っている。できればお主にも協力をして欲しい」
ふむ。どうしたものかな。正直石鹸の生産、販売を他に頼んで、売り上げのいくらかをもらえるようにしたいというのが本音だ。
「そうですね・・・。いくつか条件を聞いていただきたいのですが」
さあ、交渉の始まりだ。
オレは公爵様の目を見ながら口を開いた。
「ふむ。申してみよ」
「まず王都での販売は問題ありません。そして、王都で需要が生まれた場合、生産量が確実に追いつきません。現在のクリオール領内でも生産が追いついておらず、私も石鹸だけを作るわけにはいきません。ですので、特産品にしたいとおっしゃるならば、石鹸作りをクリオールの事業とすることを考えていただきたいのです」
「それは、お主が例の石鹸の製法を公開するということか?」
「はい。ただし、販売は必ずレイン商会が行う事。そして、私はその事業には制作側としては携わりません。とはいえ、生産が安定するまではご協力いたします」
「なるほどな。生産する場はこちらで用意しろということか。とはいえ、それだとお主にとっての旨味がなかろう?続きがあるのだろう?」
「もちろんです。30日を一区切りとして、30日間で売れた金額の3分(3パーセント)を報酬としていただきたいと考えております。その計算日の始まりは、商品として石鹸をレイン商会に納品した日を1日目とし、その日から日数を計算していきます。30日以降は、その次の日を1日目として計算していくことになります」
ここで少し、横道に逸れてしまうが、この世界には月日の考えはあるが、1ヶ月が約30日というわけではない。この世界の暦はこうなっている。
1年は約400日、風の月、火の月、土の月、水の月で分けれられる。
そして、各月の日数はこうだ。
風の月(春)が約120日
火の月(夏)が約90日
土の月(秋)が約100日
水の月(冬)が約90日
約とつけているのは、年によって暑い日が長引くと火の月が長くなるし、寒い日が続くと水の月が長くなったりと、月の始まりや終わりは割と曖昧なのだ。
一応、街によっては、『今日から火の月です』という告知はあったりする。
以上のことから、報酬の話を月で括ってしまうと、もらえる日が曖昧になるので、日にちで区切ることにしたのだ。
「売り上げの3分か。随分良心的だな」
「まあ、そうですね。私は商人ではなく冒険者ですから。それくらいあれば問題ないと思っただけです。ただ、まずは王都で販売してからの話ですがね」
「そうだな。王都での結果次第ではお主の話を骨子として話を進めよう」
おや?もっと突っ込まれると思ったが意外とすんなり話が通ったな。まあ、いざ事業化したらもっと詳しい話を詰める必要があるだろうが・・・。
とはいえ、これで不労所得が入ってくるようにできそうだな、ククク。
「ありがとうございます」
「さて、概ね話は終わったか」
公爵様はお茶を飲んで一息ついた。
ふう、ようやく帰れるかな。
「時に、シュンよ。お主、レインに卸している石鹸の香りとは別の香りの石鹸などはあるか?」
終わりかと思ったら公爵様からさらに質問がきた。
「ええ、一応いくつかありますね。レインさんに卸せるほど数を用意できなかったものが」
「街では買えない者もいる中で悪いとは思うのだが、いくつか融通してくれないだろうか」
本当に申し訳ない顔をしながら公爵様はオレに頼み事をするのだった。
さてさて、何か事情がありそうだな。
オレとしては石鹸くらい譲るのは構わないけどな。
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あと、誤字報告ありがとうございました。




