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公爵領クリオール。またの名を古都クリオールという。
この街はかつて王都と呼ばれた場所だ。
現在の王都は、他国との国交の事を考えてクリオールの南に移されたそうだ。
クリオール公爵家は、代々この古都を任されている貴族であるらしい。
なので、クリオールには城が存在しており、公爵様が住まう場所というのは街の真ん中にあるお城なのだ。
そして今、オレはその雄大な城の中を執事さんに案内されて歩いている。
オレの近くには、エリス、レインさん、ニーナがいる。
4人でしばらく歩いていると客間に通され、しばらく待つように言われたので待つことにした。
その間に、メイドさん達がお茶の用意をしてくれた。
ほお、メイドさん。古き良きクラシックスタイルか。しかし、その中に遊び心としてフリルをあしらっているところがわかっているな。
などとキュピーンという感じで見つめていたら、隣に座っているエリスに脇腹をつねられた。いたたた。
「ああいうのが好きなんですか?」
「好きか嫌いかで言うと、好きだ。しかし、オレが好んでいるのは様式美の中にある、機能美が素敵だと感じるからだ」
「メイドさんの話ですよね?」
「メイド服の話だが?」
オレが真顔でエリスに返事をしたら、顔を赤らめてさらに脇腹をつねってきた。
いたたた、何!?勘違いしたのはエリスだろ?オレは悪くない!
「シュンさん達は何をやってるんですか?」
ニーナが、若干呆れた顔で俺達を見ていた。
オレのせいじゃないんだが・・・。
オレとエリスがじゃれていると、部屋の扉が開き、先ほど案内してくれた執事さんと1人の男性が入ってきた。
その男性は、背はオレと同じ180くらい、髪は茶色でオールバックにしている。立派な口髭と顎髭を生やしており、威厳を感じる風貌をしていた。
「すまない、待たせたようだ。私がクリオール領主であり、公爵のクーノ=クリオールだ」
そう言って、公爵様はオレ達に挨拶をしたのだった。
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オレ達4人のうち、レインさんは公爵様と面識があったので、残りの3人は自己紹介をした。
自己紹介が終わると、公爵様が話を切り出した。
「まずは、先日の依頼について話そう、レインはすまぬが、しばし待ってくれ」
「承知しました」
「そして、ニーナ、シュン、エリスの3名に改めて感謝する。そなたらが依頼を解決してくれた上に、村の畑も救ってくれたそうだな。あの村は我が領の重要な収入源であったのだ。本当によくやってくれた」
公爵様の感謝の言葉にニーナ、エリスが反応をする。
「もったいなきお言葉。私はクリオール領の研究員としてあたりまえのことをしただけです」
「ありがとうございます。クリオール公爵様。私も領内の冒険者組合の組合員として当然の事をしたまでです」
ふむ。こういう時はどういう反応が正しいのだろうか。下手にでるべきか、粗忽者として振る舞うべきか・・・。
答えがでなかったので、ノリで行くことにした。
「いえ、冒険者として依頼をこなしたに過ぎません。報酬もいただいておりますので、私に感謝は不要かと存じます」
「ほお、今回の依頼についてお主達3人には、依頼とは別に報酬を用意しているのだが、お主はいらないと申すか?」
「閣下の寛大な心には感ずるものはありますが、自分の身の丈に合わないものは重荷にしかなりませんので。しかしながら、私の他の2名にはその資格が十分にあるかと考えます」
「「シュンさん!?」」
エリスとニーナがハモって驚く。
「くっくっく、あっはっはっは」
最初は笑いを堪えるようにしていた公爵様だが、堪えきれなかったのか大声で笑う。
豪快な人だな。
「先の報告はニーナとエリスから聞いておる。お主が一番の活躍をしたとな。そのお主が報酬を断り、自分以外の2名に報酬を渡せと申すか。なるほど。中々に偏屈な男のようだな」
いえ、報酬の内容もわからずにいただくと言いたくないだけです。
「そのような意図はないんですがね」
オレは苦笑しながら返事をする。
「っふ、そうか。まあよい。報酬は受け取っておけ。3人には金貨3枚ずつ渡す。おい、3人に報酬を」
執事さんがオレ達の前に1つずつ布袋を置いていく。どうやら、袋1つに金貨が3枚入ってるようだ。
ニーナが驚きのあまり声をだす。
「こ、公爵様!?いくらなんでも金額が大きすぎでは?」
エリスは金貨3枚を前に固まっている。
「何を言うニーナ、お主らが村の畑を救ってくれなければ、この街はこれ以上の損害がでるところだったのだ。妥当なところだと思うが?」
「し、しかし・・・」
子爵家では金貨というのは珍しいのだろうか?
オレは気にせず、金貨の入った袋を腰のポーチ型魔法袋へ仕舞った。
「ほれ、そこの男は気にせず受け取ったぞ」
「シュ、シュンさん・・・」
ニーナが驚いたような呆れたような顔でオレをみる。
「ニーナ様どうしました?受け取れと、閣下がおっしゃるなら貰うのが礼儀ではありませんか」
オレは笑顔でニーナに話しかける。ここは公の場なのでちゃんと子爵令嬢として扱いますよ?
「・・・はあ。何か悩んでいる私がバカみたじゃないですか。師匠のバカ」
ため息をつきつつ、布袋をしまうニーナ。最後の方に何かいったようだが、声が小さ過ぎて聞こえなかった。
オレ達2人が金貨を受け取ったことに安心したのか、エリスもおずおずと布袋を受け取った。
「さて、村の依頼についての話はここまでにしよう。時に、シュンと言ったな。お主の冒険者の腕を見込んで頼みたいことがある」
お断りします。という言葉の、『お』まででかかったわ。
「んん。頼みですか?それは依頼ということでしょうか?」
「そういう事になるな」
「受けるかどうかは別として、まずは依頼内容をお聞きすることはできますか?」
「すまぬが、重要な案件ゆえ、それはできぬ」
ふむ・・・。めんどくさそうなスメルがするぜ・・・。
「では、なぜ私なのでしょうか?冒険者というならば私以外にも多くおります。私でないといけない理由があるということでしょうか?」
「そうだな・・・。報告にあった、お主が夜営で作ったという壁など、安全に夜営を行える技能を持つというのが理由だな」
うーん、ということは、夜営が必要な状況になるということか。討伐か護衛、あるいは調査か・・・?
ニーナとエリスは、オレと公爵様のやりとりを静かに見守っている。レインさんは呑気にお茶を飲みながら執事さんさんと話をしている。
羨ましい、オレもそっちに加わりたい・・・。
「報酬はいかほどで?」
「そうだな。金貨5枚を出そう」
その金額にニーナとエリスは驚きを隠せない。
オレとしてはその金額の大きさに、ますますめんどくさそうな匂いを感じる。
どうしたものかな・・・。
「考えておるようだな。別に無理に受ける必要はない。ただ、できれば受けて欲しいとは思っている」
公爵様がオレの目をみて真剣に話しかけてくる。
その目に真摯なものを感じるな。そんな目をされては受けなければ漢がすたるというものか。
決して報酬に目が眩んだわけではないと言っておこう。ええ、そうですとも。
「わかりました。お引き受けいたしましょう。ただし、私に過剰な期待はしないでくださいね」
オレの返事を聞いて公爵様が嬉しそうだ。
「そうか!それはありがたい!では依頼をの話をする前に紹介したい者がいる。少し待ってくれ」
「それはいいのですが、先ほど依頼の内容を明かせないようでしたが、オレ以外の3人がいてもいいのでしょうか?」
「ああ、そのことだが、レインはその依頼にも関係があるのだ。ニーナに関しては、我が領の研究員なので外部へ漏らすことはあるまい。エリスについても冒険者組合の者がみだりに依頼内容を話すなどありえんだろう」
さも当然のようにおっしゃってますが、それはオレだけが信用できないと言っているように聞こえる・・・。いや、やめよう考え過ぎだ。
オレはお茶を飲んで落ち着く事にした。
しばらくして、ドアがノックされ、公爵様が返事をする。
「入れ」
「お待たせいたしました。お父様」
入ってきたのは女性。見た目は17歳頃だろうか。銀髪を腰まで伸ばし、目元はやや垂れ目で少しおっとりした雰囲気があり、歩くたびにプルプルとゆれるモノをお持ちなスタイル抜群の美女だった。
「うむ。まずは自己紹介を」
「はい。皆様、お初にお目にかかります。私はクリオール家の次女、エヴァ=クリオールと申します。僭越ながら今代の聖女を拝命しております。よろしくお願いいたします」
エヴァと名乗った女性は、綺麗なカーテシーをしながら挨拶をした。
「シュン、お主にする依頼とは、このエヴァを王都まで護衛してもらうことだ」
公爵様が力強くオレに依頼内容を伝えてくる。
オレは再びお茶を飲む。
ふう・・・、聖女か・・・この依頼・・・受けるんじゃなかったかもな・・・。
オレは部屋の窓から見える綺麗な青空をみながら、そう思うのだった。
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ありがたやありがたや。




