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さて、まずは誰から話を聞くべきか。
いや、レインさんのほうが忙しいだろうから、先に聞いてあげよう。
「ところで、レインさんの用件をお聞きしてもいいですか?」
「そうですな・・・例の件なんですが。」
返事をしたものの、ニーナとエリスを見て話づらそうにしている。あー、石鹸のことか。
「石鹸のことですね。エリスはそのことを知っていますし、ニーナは・・・、まあ大丈夫です」
「そうですか、シュンさんがそういうなら大丈夫ですな」
これで、オレとレインさんの合意がなされたことになるから、誓約違反にはならないだろう。
そして、自分の名前が出たことで反応するニーナ。
「師匠石鹸とは?」
「レイン商会で扱ってる石鹸だけど、あれはオレが作ってるんだよ」
「えー!?そうだったんですか!?最近噂になってますよ。今までの石鹸よりも香りがよくて泡立ちもいいとかって。ただ、中々手に入らないって話も聞きます。私も未だ実物を見た事ないです」
「へー、そうなのか。ニーナには教えたけど、誰にも言わないようにしてくれ」
「そうですね、私の口を重くするものがあればいいんですが・・・」
チラチラとオレをみるニーナ。
「ほう、もう魔法を教えなくていい、と?」
「もう、冗談です!だからそれはやめてください」
「はいはい、えーと、レインさん、すいません。それで石鹸のこととは?まだ、在庫はあるかと思うんですが」
「ええ、今のところすぐに無くなることはないです。今日はそれとは別件なのです。少し長くなりますが、我がレイン商会は昔からクリオールの街にて店を構えております。なので、領主である公爵様ともお会いする機会がありましてな。その時に、今街で話題の石鹸をレイン商会が扱ってるという話から、その製作者の事を教えて欲しいと言われましてな」
「なるほど。ただ、それについては誓約書があれば問題ないのでは?」
「ええ、そうです。もちろん製作者の事は話せないことを説明して、誓約書も確認してもらいました。それならば、製作者を紹介してはくれないかと言われましてな・・・。我が商会は私を含めて、昔から公爵家とは仲良くさせていただいておりますので、無碍にはできませんでな。なので、一度製作者と相談させて欲しいとお返事して、シュンさんのもとへ来た次第なのです」
ふむ。何故オレに公爵様が会いたいのか。ただ石鹸が欲しいだけならレインさんに言えばいいはず・・・。何だろう?
オレがしばらく無言だったので、レインさんはオレが渋っていると思ったのか話を続ける。
「公爵様は大変おおらかな方でして、私のようなものでも気さくに接してくださいます。本当に良いかたですので、悪いようにはならないと思いますよ?」
まあ、レインさんにはお世話になってるし、レインさんがそこまでいうなら、悪い人ではないんだろうな。
「わかりました。他ならぬレインさんの頼みですから。公爵様にお会いしましょう」
「本当ですか!?ありがとうございます」
レインさんが破顔して喜んでいる。
喜んでもらえて何よりだ。
それを見守っていたエリスが次に口を開いた。
「なら、私の話もすぐに済みそうですね」
「ん?どういうこと?」
「実は、冒険者組合に公爵様からの使いの方がこられまして、先日の依頼にて村を救ったことと、枯れた畑を復活させたことに関して、是非お礼がしたいと公爵様がおっしゃってるそうです」
「そうなんだ。それって冒険者組合の話だからオレには関係ないんじゃない?」
「いえ、魔物を倒したのも、畑を復活させたのもシュンさんです。その冒険者に会いたいとおっしゃてるんですよ?」
「いえ、お金さえもらえればオレは・・・」
「シュンさん?先ほどのレインさんの話になりますが、どうせ公爵様にお会いするんですから、諦めてくださいね?」
エリスが笑顔でオレに圧をかけてくる。
「・・・はい。けど、大袈裟すぎない?それほど公爵様が感謝する内容とも思えないんだけど」
「いえ、あの村はクリオールの名産地でしたので、あの村を救ったのは、シュンさんが思っているよりも重要ですよ」
「なるほどねえ。ということみたいなんですが、よければレインさんもその時に同席していただくのはどうでしょうか?そのほうがオレも何回も公爵様のところへ行かなくて済みそうですし」
オレの提案に少し考えるレインさん。
「確かに、ご一緒できるならそのほうがいいかもしれませんな。日にちは決まってるんですか?」
「どうなの?エリス」
「シュンさんに話をしてみて会うのが大丈夫なら、改めて組合から公爵様へ連絡し、その後あちらから日にちが指定されるはずです」
「それでしたら、私も公爵様へお手紙を出しておきます。エリスさんのお名前を出しても構いませんかな?依頼の話を聞いたということを書いておきたいのです」
「もちろん大丈夫ですよ。それに、私も呼ばれておりますので」
「そうでしたか。ありがとうございます。では、そのようにさせていただきます」
ふう、これで2人の話は終わったかな。
「さてさて、随分長居してしまいましたな。それでは、私は店に戻って手紙をしたためようと思います。シュンさん、ありがとうございました。無理なお願いを聞いていただいて」
「いえいえ、お気になさらずに」
「また商会へ来てください。その時には、是非この食べ物の話を詳しくお聞きしたいものですな」
「お手柔らかにお願いしますね」
オレの返事を聞いて、レインさんは朗らかに笑いながら帰っていった。
エリスも組合に戻るのかなと思ったら、今日はもうこのまま家にいるそうだ。
さて、今まで空気と化していたニーナ。
オレはエリスの話で気になったことを聞いてみる。
「さっきの依頼の件で公爵様に呼ばれるって話だけど、エリスも呼ばれているなら、ニーナも呼ばれてたりするの?」
ニーナはオレの質問を受けて、少し困ったような顔をする。
「ええ、呼ばれておりますよ。ただ、お二人が呼ばれているとは聞いていませんでした。私は、てっきり報告の為に呼ばれたのだと思ってました」
「そうなのか。ニーナには詳しい話が決まる前に連絡をしたのかな」
「それもあるかもしれませんが、私は研究員ですので、日程の調整が容易にできるからだと思います」
「ああ、なるほど」
「まあ、この話はこの辺でいいか。で、次はニーナの魔法の訓練を見たらいいのか?」
オレがニーナに尋ねると、急にニーナがソワソワしだした。
「ええと、今日は訓練ではなく、師匠にお願いがあって参りました」
ニーナおまえもか。
生前の仕事をしている時も思ったが、複数の人達のお願いごとや予定が、忙しい日に重なることがあった。そんな時にいつも思うのが、誰かがオレの事を監視してて、わざと忙しい日に被せて嫌がらせをしてるのではないか?と。
もちろん被害妄想なのだが・・・。
さて、ニーナのお願いとは何なのかね。
「お願いか・・・、とりあえず聞こうか」
「実は、王都の学院で友達が教師をしているんですが、先日の依頼で見た、師匠の生活魔法の話をその友人との文通で書いてしまいまして、そうしたら、友達が是非見せて欲しいと言ってきまして・・・。それで・・・、私と王都に行っていただけないかと」
文通とあるが、昔ながらの鳥を使った手紙のやりとりだな。
オレはニコリと笑った。つられてニーナも笑顔になる。
「行きません」
「言うと思いました!そこを何とかお願いします。師匠〜」
「見せて欲しいならオレが行くより、向こうが来るのが筋じゃないのか?」
オレの質問に、ニーナは言葉を詰まらせる。
「そ、それはそうなんですが、彼女も仕事上王都を離れらませんし・・・」
「悪いけど王都にいくつもりはないから諦めてくれ」
それに王都にはあの女がいるはず・・・。出来るだけ近づくのはやめておきたい。
「それはそうなんですが・・・。はあ、わかりました。ただ、気が変わったらいつでも言ってくださいね」
「気が変わったらな」
その後、ニーナに魔法の指導して、いよいよ公爵様との会う日になったのだった。
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