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ありがとうございます。
4話の始まりです。
1
オレは今1人で台所にいる。エリスは仕事で組合に行っている。
あれから魔素が豊富な土だと成長が早いのか異世界だからか、順調に大豆とてん菜は育ってくれたので、まずは砂糖を作ってみた。
そして久しぶりに何か甘い物が食べたいなということで、パウンドケーキを作ろう。生クリームはないが、蜂蜜をかけたらそれなりに美味しくなると思っている。
今回使うバターは牛乳からクリームを分離させて作ったものだ。
卵と小麦粉、バターと作った砂糖を使う。
お菓子なんて前世では学校の授業と家でたまに作ったくらいなので、上手く作れるかな・・・。
何とか生地が出来たので試しに1個作って、試食をしてみる。
何もなしだとほんのり甘いって感じかな。こういうのが好きな人もいるかもしれないが、オレとしては物足りない。とはいえ、ちゃんと甘い。砂糖は無事にできたと言えよう。
その時、家のドアが開いて誰かが入ってきた。
「シュンさーん、いますか?」
パターン青!いかん!エリスだ!!
何故だ!?この時間はまだエリスは組合の仕事しているはず。いや、今はそれどころではない。
オレは今自分のできる最高速度で料理器具や試食したパウンドケーキの残りと、まだ余っている生地を亜空間へ片付ける。
そして、すぐ後ろにあるドアから脱出を試みた。
「どこにいくんですか?シュンさん?」
しかし、笑顔のエリスがすでにドアの前に周りこんでいた。
そして、鼻をひくつかせ。
「アマイニオイ・・・」
すかさずエリスはオレの服を掴み首を締め上げる。
「シュンサンカラ、ニオイスル・・・、アマイニオイ」
貴方だれですか!?いかん理性を失っておられる。
ていうか、く、首がしまる。ぐえええええ。
「ぐ、ぐるじい、落ち着いて、エリス」
「アマイモノ、カクス。ユルサナイ」
「わ、わかったから、出すから・・・、だから離してくれ・・・」
オレがエリスに首を絞められてると、さらにドアが開く。
我が家のセキュリティはどうなっているのか?
「師匠ー!こんにちは!」
ニーナが家に入ってきて、首を締めるエリスと、首を絞められているオレを見つける。
「殺人現場ーーー!?」
現場にニーナの声が響いていた。
2
エリスを落ち着かせてから、ニーナとエリスはテーブルに座ってお茶を飲んでいる。
そして、オレはお菓子作らされている。
何かがおかしい。お菓子だけに・・・。
ここでニーナが来た理由を説明しておこう。
先日の依頼の帰り道、村で行った畑の土操作の事をしつこく聞かれたので、オレの技能が生活魔法を使い続けて、生活魔法(極)になったことを教えた。しかし、教えたら教えたで、どんな風に使ったのか?どれくらいで(極)になったのか等、さらなる質問責めにあった。
さすがにうんざりしたので、ニーナが生活魔法を使っているのを実際に見せてもらい、オレが気になったところを指摘した。
「すごい!すごいわ!!魔法が前より円滑に発動する」
するとニーナは目を輝かせながら感動していた。
なので後は、ご自由に訓練して生活魔法を極めてくださいと安心していた。
しかし、それがまずかったのだ。
「シュンさん!貴方ってすごいのね!ねえ、私の魔法の師匠になってください」
「え?嫌ですけど」
「ちょっと、即答しないでください!!」
「そもそも、ニーナ様はもう立派に土魔法を使えてるじゃないですか。これ以上教えることなんてないですよ」
「何を言ってるのかしら?ついさっきの見事な指摘を忘れたの?あれで私の魔法にはまだ先があるとわかったの。だから、師匠になって欲しいの!」
その後もニーナと押問答を続けて、最後にはニーナを弟子にすることになったのだ。
ちなみに、ニーナは子爵家の三女だ。子爵家ともなれば家のしがらみがあるのではないかと思ったが、三女ということもあり自由にさせてもらっているらしい。また、公爵領で研究員として働いていることもあって、家からは何も言われることはないということだ。
それ以来、ニーナは仕事がない日は、魔法の指導を受けに我が家へ来ることがある。
ちなみに、弟子と師匠になるにあたり、オレはニーナのことを呼び捨てにすることにし、ニーナはオレを師匠と呼ぶ。もちろん、公の場では別だが。
とまあ、長くなってしまったがそういう訳だ。
そういえば、エリスは何で急に帰ってきたんだろうか。
「なあ、エリスは何かオレに用事があって帰ってきたんじゃないの?」
「急ぎではないので大丈夫ですよ。まずは、おやつにしましょう」
「あ、はい」
エリスが笑顔の圧を向けてくる。
オレが隠れて甘いものを食べようとしたことが許せないようだ・・・。
しょうがないので、さっさとパウンドケーキを焼いてしまおう。
生地はもともとあったので焼くだけで済む。
「ていうか、今日は試作で作ってたから味は保証せんぞ?」
「大丈夫です。シュンは料理上手ですから」
「確かに、夜営の時も思いましたけど、師匠って料理が美味いですよね」
その期待が重い・・・。
もうすぐ焼けるかという時に、家のドアがノックされた。
エリスがそれに気づき。
「はーい、私がでますね」
ドアを開けるとレインさんが立っていた。
「すいません、こちらはシュンさんのお宅で間違いないでしょうか?」
「はい、そうです。あれ?レインさんじゃないですか。こんにちは。」
「おや?エリスさん?何故、ここに?」
「私、今シュンさんと一緒に住んでるんですよ」
レインさんの質問に、顔を赤くして照れながら返事をする。
「おやおや、そうでしたか。これは帰ったらジェシカが喜びそうな話を聞けましたな」
やめてくださいレインさん。オレにもプライバシーがあるんです。
「そういえば、レインさんは何故ここに?」
「おお、そうでしたな。シュンさんにお話がありましてな」
「そうでしたか、でしたら中へどうぞ」
「これはこれは、恐れ入りますな」
家主の意向は・・・もういいかな・・・、エリスの好きにしてもらおう。
3
オレは、焼き立てのパウンドケーキを3つに切り分けてから、テーブルに座る3人の前に置いていく。
レインさんは商人らしく初めて見る食べ物に興味津々な様子だ。
「ほおー、シュンさんこれはなんという食べ物ですかな?」
んー、下手に名前を出すと突っ込まれそうだな。
「特に名前はないですね。オレが適当に作ったものです」
「なるほど」
女性陣2人はもはや目の前から視線が動いていない。
「こ、これはなんて甘い香り・・・」
「師匠、こんなの家でも見た事ないです」
「3人ともそのままで食べてもいいけど、もし甘さが足りなければ蜂蜜を置いておくから使って」
「は、蜂蜜ですと!?」
「し、師匠!?」
「シュンさん、後でコレについても聞かせていただきましょうか」
レインさんとニーナが驚いているが、エリスだけ反応が違う。
あれ?蜂蜜について話してなかったっけな・・・。
「まあまあ、とりあえず食べてみてよ。感想が聞きたいから」
オレに言われて、3人ともパウンドケーキを口に入れる。
「「「お、美味しい!!」」」
「これは、もしや砂糖が入っているんではないですか?シュンさん。砂糖なんて王都くらいでしか見かけないのにどこで砂糖を?いや、その前にこれは売れるのでは?」
レインさんがすぐに商売モードになる。
「師匠、これ美味しいです。こんなの作れるなんて天才ですか?」
甘味にニヤケながら話すニーナ。っふ、デレたな。出会ったときのツンが懐かしいな。
「このままでもいいですけど、蜂蜜をかけたときの味はまさに神の如き味ですね!」
エリスは言い過ぎだろう。オレには作れないけど、もっと美味しい食べ物があるよ。生クリーム食べたいなー。
まあ、皆に喜んでもらえて何よりだ。
その後、おかわりを要求してくる女性陣に、食べすぎると太るという発言をすると静かになった。
しかし、結局、エリスとレインさんの話が聞けてないんだが・・・。
まあ、呑気にお茶を飲んでるくらいだから急ぎじゃないんだろう。
ということで、オレも呑気にお茶を飲んで休憩するのだった。




