20_21
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20
オレは、穴に落ちる瞬間に剣を壁に突き刺して体を支え、生活魔法(極)を使って、壁から四角い杭を出してそこへ降り立つ。そして、次々に杭を出し階段のようにして地上へ戻った。
いかんな、少し時間をとられてしまった。急いで向かわないと。
オレは嫌な気配に向けて走り出した。
その頃、エリスは魔物に捕まらないように素早く立ち回り、風魔法で撹乱しながらダガーを使いつつ魔物に攻撃を加えている。しかし、魔物の皮膚は硬く、刃が通らないので魔物には傷をつけることができない。
「ねえ、あのお姉ちゃん大丈夫かな?」
「大丈夫です。お姉ちゃんを信じましょう」
とはいえ、有効な攻撃を与えておらず、このままでは魔物を倒すことはできないだろう。
ニーナは、自分にもできることはないだろうか、そう思い再び魔法を放つ為に集中する。
「【散弾礫】!!」
ニーナが魔法名を言い終わると、空中へ小石が集まり複数の塊を作って魔物へと飛んで行く。
石が飛んでくるのを見た魔物は甲高い泣き声をあげる。すると、魔物の近くにも小石が集まり塊を作り出し、それをニーナの散弾礫へとぶつけていく。
「魔物が魔法を使うですって!?」
魔物の放つ散弾礫のほうが威力が高く、ニーナが放った石の礫を尽く砕いていき、ついにはニーナとレオの元へ近づいてく。
「ニーナ様!!」
エリスは風魔法を使い、一時的に速度を上げて2人の元へ走り出す。狐人族特有の身体能力もあり、何とか2人の前に立つが防御が間に合わない。
エリスは2人に被さるように向かってくる礫に背中を向ける。
「いけない!エリスさん!!」
エリスが自らの体で2人を守ろうとしたことに驚いたニーナはエリスに声あげる。
「大丈夫です、ニーナ様。・・・私は、信じてますから」
石の礫は容赦無く3人へ向かい、もはや当たるのは時間の問題だった。
しかし、石の礫が当たると思われた瞬間に3人に目の前に石の壁が出現して、礫を全て防ぐ。
そして、気づけば3人の傍に1人の男が立っていた。
「待たせたな」
オレは3人へ笑顔で声をかけた。
「シュンさん!良かった。・・・来てくれるって信じてました」
「昨日のお兄ちゃん?」
「おや?レオ君だっけ。どうして君が?」
「あいつが皆の作物をしわしわにしちゃったんだ・・・。だからやっつけようと思って・・・」
「そうか、レオ君は勇敢なんだな。あとは、オレに任せてくれ」
オレはレオの頭をなでる。
「シュンさん、あの魔物の皮膚が硬すぎて、刃が通りませんでした。気をつけてください」
「それと私が放った土魔法を使ってきました。恐らくですが、こちらの魔法を学習したのではないかと思います」
「ありがとう。エリス、ニーナ様」
「んじゃ、行ってくるよ」
「頑張れお兄ちゃん!」
「ありがとう。けど・・・、オレはお兄ちゃんじゃない」
オレは笑いながらレオに告げる。
「おっさんだ」
オレは壁を解除して魔物の前に立ち、その姿を観察する。
ふむ、モグラだな。でっかいモグラだ。なるほどな、オレが落ちた場所も、こいつが地中を掘って地面が脆くなっていたということか。そして、昨日の夜に気配が薄く感じたのは、こいつが地中深くにいたからなんだな。
しかしまあ、感じるぞ。神の気配という奴を。前回の狼型のやつと同じだな。
ならばすることは1つだ。
「一気にいくぞ」
オレは亜空間から黄色に輝くコインを取り出した。
オレはコインを右手に持つと、左手を腰に添える。すると腰にベルトが現れる。そのベルトのバックル部分にあるプレートを右から左へスライドする。
スライドしたそこには、コインをはめる穴があり、そこへコインを挿入すると、今度はプレートを左から右へスライドする。その瞬間、プレート部分から無機質な声が流れる。
『ヨルムンガンドフォーム』
声が流れた瞬間に、黄色く輝く半透明の大蛇が表れる。そして、オレの足元を中心にドーム状の丸い土壁が生まれる。あらゆる攻撃を防ぐ絶対領域だ。続いて、オレの体を魔法繊維で出来た黒いスーツが覆い、半透明の大蛇がオレの全身を包みこむ。そして、腕・胸・胴・足に鎧という名のアーマーが装着される。最後に、蛇の上顎の部分がオレの目元まで覆い形を変える。それ以外の顔の部分をマスクが装着されて完了する。
全てのアーマーが装着された瞬間に土壁は消え、全身に黄色く輝くアーマーを着たオレが現れる。
腕には蛇の顔を模倣した手甲が装着され、足は蛇の麟を集めブーツ状に、胸には蛇が自分の尻尾を飲み込むような装飾がついた形で、胴は岩をイメージした形になっている。
「シュンさんなんですよね・・・?」
「すごい!お兄ちゃんが変身した!」
「貴方のその姿は一体・・・?」
「詳しい話は後でな。今はあいつの相手をするの先だ」
魔法での攻撃が効かないと思ったのか、モグラはその巨体を活かして、オレに突進してきた。
まだ近くに3人がいる為、オレは前に出てその突進を受け止める。
ヨルムンガンドフォームは力が強く、何よりも防御力に優れている。
オレはモグラを軽く受け止めてから、少し距離を空けモグラの腹にパンチを喰らわす。パンチを喰らったモグラは大きく吹き飛び転がっていく。
オレは追撃を行う為にモグラに近づく。
するとモグラはまたも甲高い声を上げ、今度は尖槍石を放つ。オレに1メートルほどの石で出来た槍が飛んでくる。
「なっ!?なんて大きさ!」
ニーナの驚いた声が聞こえてくる。
恐らく、自分が使う魔法よりも大きいのだろう。
オレは右手を顔の前に出して集中すると右手の蛇の顔が変形して大きくなりグローブのように右手全てを覆う。
そして、そのまま尖槍石をパンチで砕く。
「す、すごい・・・」
それは誰が言った言葉だろうか。
モグラに向かっているオレにはわからないが、ふふふ、存分に驚いてくれ。ま、どうせすぐに忘れるんだが。
怖気ついたモグラが地面に潜ろうとするが、オレは素早くその尻尾を掴んでグルグルとぶん回す。すると尻尾が千切れてモグラはそのまま空中に飛んで行く。
お、この尻尾を討伐証明にしよう。そして、ちょうどいいからこのまま終わりにしようか。
オレは両足に力を集中すると、モグラの飛んで行った方向を確認する。
すると地面から岩がせり上がってきてモグラへ向かうように坂道ができる。
オレはその坂を駆け上がり徐々に速度を上げいく。
そして、坂の終点から跳びモグラへと上昇しながら向かっていくと、無機質な声が流れる。
『ファイナルアタック』
左足を引いて空中でキックのポーズを取ると右足に土が集まって蛇の形を作り、高速で回転する。
「はあああああああ!」
蹴りがモグラの胴体に当たりその体を抉っていきモグラをさらに遠くへ吹き飛ばす。そして、モグラは跡形もなく爆散した。
やはり爆発してこその必殺キックだ。
「やったー!」
その光景を見たレオが喜びの声をあげる。
その後、しきりに変身した姿のことを聞いてくるレオを何とか落ち着かせ、同じく変身した姿のことを聞いてくるエリスとニーナには、クリオールへの帰り道で話すからと一先ず納得してもらった。そして、ニーナが村長へ、畑の作物が枯れた原因は魔物だった事を報告をしに行ったのだった。
21
次の日、3人で昨日の畑に来ていた。
魔物との戦いで畑はボロボロになっていた。まあ、そもそも魔素が減少してたので、違う意味でもボロボロだったのだが。
畑をどうにかできないかとニーナに相談して、とりあえず畑に行ってみようという話になった。
「見事にボロボロですね」
「まあ、被害が畑だけで済んでよかったというべきですかね・・・」
ニーナとエリスが畑の惨状を見て話している。
「そうかもしれませんね。けれど、エリスさんはさすが元☆2パーティーの冒険者だっただけありますね。あの魔物を倒してしまうなんて」
「え?魔物を倒したのは私じゃなくてシュンさんですよ?」
「え?」
「え?」
最初に驚いたのはニーナ、次に驚いたのはオレ。
あれー?エリスが昨日のことを覚えてる?
「あれ?そうだったかしら・・・?確かに・・・、シュンさんがあの場には・・・いましたね。ですけど、魔物を倒したのは別の方・・・?なので、それがエリスさんだった気がしますが」
「いえ、シュンさんが来てくれて、へんんんん、モガモガ」
がっつり覚えとるやんけ!?
驚いて思わずエリスの口を塞いでしまった。
「い、いきなりエリスさんの口を塞いで、どうしたんですか?シュンさん」
「い、いや、ちょっとねー」
オレはエリスに小声で話しかける。
「エリス悪いけど、諸々の説明はちゃんとするんで、今は、昨日の魔物はオレとエリスが協力して倒したってことにして欲しいんだ」
エリスはコクコクと頷いてくれた。
「ぷは。申し訳ありませんニーナ様、確かに私が魔物と戦いましたが、最後はシュンさんと2人で倒したんでした」
「はあ、なるほど」
今だ!話を変えるチャンス!
「それでニーナ様、この畑で再び作物を育てるにはどうすればいいでしょうか?何か良い方法はありませんか?」
「そうですね・・・。残念ですが、現状ではどうしようもないです。この畑の土に魔素がほとんど残っていない為、この土を使って作物を育てるのは難しいでしょう。さらに、この土が再び魔素で満たされるには数年はかかるでしょうね・・・」
「ということは、他の畑も使えるようになるには何年もかかるといことですか?」
「そうなります」
オレの質問に悲しそうに答えるニーナ。
ふむ、これは大変な事態だ。
「ねえ、エリス。これってクリオールにとっては結構深刻な問題なんではなかろうか?」
「ええ、そうですね。クリオールに入ってくるお金が減ることになりますね・・・」
「それに、この村の人達の働き場所が無くなるか・・・」
ふーむ。
「なあ、ニーナ様。仮にこの畑に別の場所から土を持ってきて混ぜるというのはどうですか?」
「他の場所の土を混ぜるですか・・・。もしかすると、それならいけるかもしれませんが、この村の他の畑から持ってくるにしても量が足らないのでは?それに、混ぜるとしても魔素を多く含んだ土じゃないと、この魔素の枯れた場所では意味がありません」
「この辺りで魔素を多く含んでいる土がある場所はありますか?」
「東の森の奥地は魔素が濃いので、その土も魔素を多く含んでるそうです」
ほお、ということは、地下室の畑を作る時に使った土がまだ余ってるからいけるんじゃなかろうか。
「なるほど。じゃあ、試してみましょうか」
「はい?」
オレはポーチ型の魔法袋を腰から外して畑へ口を開いて向ける。
土は亜空間にしまってあるので、魔法袋から出してますよーってポーズの為だ。
オレは畑に東の森の土を撒いていき、ある程度撒き終わったら生活魔法(極)の土系統の力を使って、土を操作して畑の土と混ぜていく。それが終わるとサービスで魔法水を軽くふりかけておいた。
「はあああああああああ!?」
「うわっ、びっくりした」
ニーナか、急に大声あげてどうした。びっくりしたじゃないか。
「今のはなんです!?あれだけの量が入る魔法袋!?といいますか、さっきの土の操作はどうやって?あれが生活魔法だなんていうつもりですか?」
「え?生活魔法ですが?それより、どうですか?この土なら畑として使えそうですか?」
「もう!何を平然としてるんですか!後で色々と聞かせてもらいますから」
プリプリしながらも畑の様子を見てくれるニーナ。
しばらくしてニーナが見たところ、これなら作物も育つだろうということだった。
という訳で、他の畑も同じように土を撒くと、村長から泣くほど感謝された。
とはいえ、また一から作物を育て始めなければならないので、これから頑張っていただきたい。
こうしてオレ達3人はクリオールへの帰路につくのだった。




