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今日もお越しいただいてありがとうございます。
17
予定より遅れたものの無事に村に着くことができた。
村の村長に冒険者組合から来た調査員であることを伝え、場合によっては数日滞在することになるという話をすると、快く空き家を貸してくれることになった。
そして、村長が枯れた作物の畑へ案内してくれることになり、その道すがら村長の話を聞くと、30日ほど前から畑の作物が徐々に枯れ出した。それから少しずつ作物の枯れる畑が増えているそうだ。
このままでは作物が取れず、クリオールの産業に影響が出てしまうと村長が嘆いている。
畑に着くとそこには、8歳くらいの茶髪で短髪の少年が1人立っていた。
「おや、レオ坊じゃないか。どうしたこんなところで?」
「畑を見てた・・・」
「そうか・・・、ここはレオ坊の家の畑だったものな。安心しろ街から学者さんがきてくださったぞ」
「ホント?畑は元通りになる?」
「ああ、きっと大丈夫さ。だから、おっとうの手伝いをしてきなさい」
「うん、わかった」
そう言って、レオと呼ばれた少年は走って行った。
「あの子の家の畑が一番最初に被害に合いましてな・・・。今は家族共に、他の畑の手伝いをしとります」
「そうでしたか。では、この畑から調べて見ます。何か分かり次第お伝えいたしますね」
「お頼みいたします。では、私も畑へ行きますので、何かあれば家を尋ねてくだされ」
「はい、わかりました」
原因を調べるのはニーナの仕事なので村長と話をしているのもニーナだ。
オレとエリスは付き添いの為、黙って流れをみている。
村長はオレ達にも軽くお辞儀をして歩き去った。
「では、私はこの畑を調べます。お二人はどうしますか?」
「私は報告義務がありますので、ここで見学してますね」
「オレも特にする事があるわけじゃないので、ここで見学してます」
「そうですか」
そう言ってニーナは畑に入って、土をいじり出した。
エリスはオレの隣でそれを見つつ何やらメモをとっている。報告書の為にメモを取ってるんだろうな。ただ、立ちっぱなしも疲れるだろうと思い、生活魔法(極)で椅子を2つ作ってエリスに勧める。
「よかったらどうぞ」
「ふふ、ありがとうございます。シュンさん」
2人で椅子に座りつつ、オレは空を眺めながら雲の流れを見ていた。
陽気な日差しを浴びながら雲の流れをみていると、心が無になっていくな。
頭を空っぽにして何も考えない時間が流れていく。
確か何も考えない時間というのは、脳を休ませるという意味では効果があった気がする。それに頭空っぽのほうが夢を詰め込めるしな。
ふとエリスの方を見るとオレの方を見ていた。
いつから見られていたのだろう?
「どうかした?」
「いえ、何も。そうしてるとおじいちゃんみたいだなって思って。ふふ」
「まあ、おっさんだからな」
「それ久々に聞きましたね。私はそうやってのんびりしてるシュンさんも可愛いと思いますよ」
褒めてはくれてるんだろうけど、素直に喜べないな・・・。
思わず口をへの字にしてしまう。
「男に可愛いは褒め言葉じゃないからね」
「それはそれは。じゃあ、あまり言わなように気をつけますね」
「そうしてくれ」
「貴方達、いちゃつくなら他所でしてくれないかしら・・・」
いつの間にかニーナが傍に立っていた。ニーナへエリスが声をかける。
「もうよろしいんですか?」
「ええ、一旦借りた家に戻って、ここの土を詳しく調べようと思うの」
「わかりました。では、私達もご一緒します」
オレとエリスは椅子から立ち上がる。
オレは、椅子を崩して元の土に戻す。そして、生活魔法(極)で水球をニーナの前に出してあげる。
「よかったら、お手を洗われますか?」
「あ、ありがとう」
土のついた手を水球にいれて手を洗うニーナ。少し驚いているので、まだ慣れないらしい。
そうして、手を洗い終えたニーナと共に、借りた家に戻るのだった。
18
その晩、夕ご飯を食べている時にニーナから畑を調べて分かったことを聞いた。ニーナによると、畑の魔素がほぼ無くなっておりそれが原因で作物が枯れてしまったそうな。
この世界の生物は全て魔素を持っており植物も例外ではない。その魔素が減少すると死ぬこともあるそうだ。
ほー、家の地下室の畑に作物が育ったのは魔素のおかげという事かな。
結果として魔素が無くなったので作物が枯れたというのは分かったが、なぜ魔素が無くなったのか?その原因はわからない。
明日は、他の畑も見て回るとうことで早々に就寝した。
オレはというと、借り受けた家はベッドとテーブルを入れると手狭になる広さだったので、外で寝ることにした。
別に紳士ぶったわけではなく。ニーナに色々言われるとめんどくさいと思ったから、というのは内緒だ。
外で寝ていると、久しぶりに嫌な気配を感じて目を覚ました。
ん?けど、なんだろう。村の中に気配の主がいることはわかるが、その気配が妙に薄い・・・?
場所を探っていると、気配の主が村の外へ移動して行き、気配を辿れなくなってしまった。
どういうことだろうか・・・。んー、考えてもわからんから、明日調べてみよう。
てわけで、お休みなさい。
翌朝、朝日で目を覚ました。生活魔法(極)で水球を出して、顔を突っ込み両手で顔をゴシゴシしてから顔を離す。
「ごぼごぼごぼ・・・。ぷはあ。ふー」
ポーチ型魔法袋からタオルを出して顔を拭く。
朝日に照らされていく村を見つめて思う。清々しい朝だなと。
その後、起きてきたエリス達と朝ご飯を食べながら、今日の予定について話す。
「今日なんだけど、ちょっと調べたいことがあって、村の外に出たいんだけど、大丈夫?」
「シュンさんへの依頼は道中の護衛依頼ですから。村に滞在している間は自由にしてもらって大丈夫ですよ。ただし、あまり遠くまでいかないでくださいね」
「了解」
「私も問題ないわ。貴方がいても手伝ってもらうこともないでしょうから」
「りょ、了解です」
何かトゲのある言い方だが、まあいいだろう。
19
2人と別れてから、昨夜、気配が最後に分からなくなった場所に来ていた。
うーん、気配は感じないな。ただ、残滓というのだろうか、ここにいたことは間違いないと思うんだが・・・。
その時、背筋がゾクゾクとし、村の中に嫌な気配を感じた。
っち、陽動か?味な真似をするじゃないか。急いで村に戻らないと。
そう思った瞬間に、足元に亀裂が入りオレは地中へと落ちてしまった。
オレが嫌な気配を感じた時と同じ時間。
エリスとニーナは畑を見て回っていた。そして、その1つで昨日、レオと呼ばれた少年がいるのを見つけた。
「おまえが畑をダメにしたんだな!僕が退治してやる!!」
叫んでいるレオの前には、見たことのない魔物がいた。
「エリスさん、あれを!」
「あれは・・・?魔物?それに昨日の子がいます!危険よ、逃げなさい!」
エリスが声を上げるが、少年は果敢にも魔物に立ち向かおうとしていた。
「ああ、もう。男ってのは子供でも無謀なことが好きな生き物ですね!エリスさん私が攻撃魔法を放ちます、その隙にあの子をお願いします」
「わかりました!」
「喰らいなさい【尖槍石】!!」
地面の中の石が集まり1本の槍となって、魔物へ向かっていく。
魔法の発動と共に、エリスはすぐに駆け出してレオを抱えて魔物と距離をとる。
「確か、レオ君だったわね?大丈夫?」
「うん・・・。お姉ちゃん、あいつが畑を・・・。」
「わかってる。でも危ないことはお姉ちゃん達に任せて、君は少し離れていようね」
「わかった」
エリスがレオと合流する間にも、尖槍石は魔物へと向かっていく。
それを察知した魔物は、自身へ向かってくる石の槍を両手でキャッチした。
「嘘でしょ!?」
まさかキャッチされると思わなかったニーナが驚く。
キャッチされた尖槍石は、魔物の手によって粉々にされてしまう。
その間にニーナの隣へ戻ってきたエリスがレオをニーナに預けて、武器を構える。
「ニーナ様、すいませんが、この子をお願いします」
「エリスさんはどうするつもり?」
「こう見えても元☆2パーティーの冒険者ですから、魔物を抑えます」
「なら私も手伝うわ!」
「いけません!ニーナ様は枯れた原因の調査が仕事です。魔物退治は、冒険者組合の仕事です!」
エリスはそう言って、魔物の前に立つのだった。
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