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誓約の儀を終えてから何事もなく過ごしている。
その間に石鹸を作り置きしつつ、畑で大豆とてん菜の世話をしていた。
あれからしばらくして無事に発芽してくれたのだ。さすが異世界。これなら次からはもっと多く収穫できそうだな。早く醤油と砂糖作りを試したいものだ。
ちなみに、石鹸の売り上げは好調で、お値段が高いにも関わらずリピーターが続出している。レインさんから次の納品はできるだけ多く欲しいと言われている。
しかし、石鹸作りばっかりしていて最近冒険者の依頼を全然受けてないな・・・。どうにかしないと、冒険者ではなく石鹸の生産者として生きていくことになりそうで怖い・・・。まあ、そうなったら人を雇うか作り方をレインさんに売ろう。そして、売り上げの何パーセントかをもらうようにして、不労所得で稼ごうじゃないか。くっくっく。
「ど、どうしたんですか?シュンさん。変な顔をして・・・」
おっと、いつの間にかエリスが帰ってきていたようだ。しかし、当たり前のようにエリスはオレの家に帰ってくるが、寮へ帰らなくていいのだろうか?
「いや、ちょっと考え事をしててね。気にしないでくれ。それから、おかえり」
「ただいまです」
「そういえば、エリスって寮のほうはいいの?いつもこっちに帰ってくるけど」
「あれ?言ってませんでした?寮は退居しましたので、もうあっちへは行きませんよ?」
「あれ?そうなの?でも、別に退居しなくても部屋だけ残してたらいいんじゃないの?」
「それが、ほとんど帰らないなら、新人がきた時の為に空けておけと組合長がおっしゃって・・・。迷惑でしたか?」
エリスが不安そうにオレを見つめる。
っく、その顔はずるい・・・。
「迷惑なわけないよ。ただ、寮に戻らなくても平気かなと思っただけさ。オレもエリスが家にいてくれて嬉しいよ」
「本当ですか。嬉しいです。シュンさん大好きです」
そう言って抱きついてくるエリス。その殺し文句を言われたら、もう白旗をあげるしかないじゃないか。
「ふふ、シュンさんの匂いです・・・」
胸元でスーハースーハー聞こえてくる。これだけは少し抑えて欲しいかな・・・。
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その後、エリスが夕ご飯の用意してくれたので、一緒にご飯を食べながらエリスから最近の組合の様子を聞く。
オレが石鹸作りばかりしていて、薬草採取の依頼を受ける人が少なく薬草の集まりが悪いそうだ。それで、カディアがぶつぶつ言ってるそうな。
いや、オレは悪くないよね。それにオレも薬草採取専門というわけではないんだが・・・?
「まあ、冒険者組合に問題がないみたいだな。平和でなによりだよ」
「それがそうとも限らないんですよね・・・」
「ん?どういうこと?」
「クリオールから南東に行った村から依頼がきておりまして・・・」
「別に普通のことじゃないの?組合には近隣の村からも依頼が来るじゃないか」
「それが、村の作物が枯れてしまい困ってるそうなんですが、原因がわからないので調べて欲しいという依頼なんです」
「それは・・・、冒険者というより学者さんとかの専門じゃないの?」
「そうなんですよね・・・。ただ、村の人達はその辺りよくわかってませんので、困りごとは冒険者組合に依頼をする人が多いんですよ」
まあ、この世界に学校はないので、そういった事を教える環境もないだろうしなあ。
「それで?組合はどうするの?」
「組合としてはどうしようもないので、組合長がクリオールの官僚の方に、原因究明の為の人を派遣してもらうよう要請したんです」
「なら問題ないな。よかったじゃないか」
「そうなんですよねー・・・。チラチラ」
チラチラと言いながら、エリスがこちらを聞いて欲しそうに見ている。オレはじと目をしつつエリスの目をみつめる。
「・・・何かあったの?」
「聞いてくださいよ!その派遣した人が来るという事で調査にいくことになったんですが、組合職員も同行する事になったんです!しかも、私がです!拒否権なしですよ!?」
いつになくエリスが熱く語っている・・・。こんなエリスを見るのは初めてだな。
「えーと、何でエリスが選ばれたわけ?」
「今回は、調査結果を現地で確認するということと、学者の方の護衛を兼ねる必要があり、元冒険者だからという理由で私になりました。でも、元冒険者というなら、アダルさんでもいいと思いませんか?」
「いや、アダルさんは副組合長だから、さすがに行けないんじゃないかな?」
「それはわかってますけど・・・」
「可哀想だと思うけど、仕事だとしょうがないな」
「そうなんです。可哀想ですよね?そう思いますよね?」
エリスがオレに顔を近づけて聞いてくる。
・・・この流れはよくない。ていうか、いつの間にオレの隣に・・・。
「思うかなー?でも、仕事だよね・・・?」
オレは、顔を背けてあさっての方向を見る。
しかし、エリスが両手で無理やり自分の顔の方へ向きを変えた。
「シュンさん、大切な彼女が困っているのを見過ごすんですか?」
「見過ごすとは人聞きの悪い・・・。組合の仕事じゃ、オレは何もできないじゃないか」
その言葉を聞くとエリスがニンマリと笑顔を作った。
「シュンでもできることがあるって言ったらどうしますか?聞きますよね?」
エリスからすごい圧が来る・・・。聞かないとどうなるんだろうか・・・。
いや、わかってる。こういう時の返事は『はい』しか選べないですよね。『いいえ』にすると、同じ質問を永遠にされて・・・・。
「聞かせていただきましょうか?」
「さすがに、私1人が護衛だと色々問題がありますので、私とは別に冒険者の方に依頼をすることになったんです。シュンさん出番です」
うすうす勘付いてたからいいけどね。
「わかった。一緒にいくよ。けど、オレ1人だけ?他にもいるの?」
「シュンさんだけですね」
「え?オレだけ?野営になった時に火の番や、見張りは?オレとエリスでするの?」
「ふっふっふ、メルトさんとアーティさんから聞いてますよ。シュンさん、テントの代わりに家を作れるそうじゃないですか。それを作ってもらえれば、護衛が私達2人だけでも問題ありません」
そういやあの2人に口止めするのを忘れてたな。
「まあ、それならそれでいいけど、ただし、万能なものじゃないから、魔物避けとか最低限の準備はちゃんとしないと駄目だぞ」
「もちろんです。準備の費用は組合持ちですから、いくらでも使って大丈夫ですよ!」
いや、いくらでも使ったら後で怒られるよ・・・。
「わかったよ。準備はオレでしておくから、日程の調整が出来たら教えてくれ」
「わかりました!ふふ、これでシュンさんと離れずにいられますね!」
エリスさんや、公私混同は良くないぞ?
最後の発言を聞こえない振りをしつつ、嬉しさと呆れが入り混じった表情をオレはエリスに向けるのだった。
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