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19
あれからオレは無事に迷宮を進み、30階層の安全地帯で野営をしている。
オレ以外の冒険者は他におらず、赤髪おさげの受付嬢が言った通り、この階層まで来ようとする冒険者は稀らしい。
ここに魔物は沸かないが、万が一何かがあっても嫌なので、お馴染みの生活魔法の土系統で四方に壁を作り、ベッドとテーブル、椅子、お風呂を作る。
料理はめんどくさかったので、作り置いたものを亜空間から取り出して食べる。
お風呂に入り、リラックスしたら就寝だ。おやすみなさい。
さて、寝て起きたら、準備万端で30階層へ続く通路を歩く。ここは、ノワルアントという蟻型の魔物が階層主だったな。
部屋に入ると、部屋の中心に黒い煙が集まり形を成す。
あれは蟻ではなく蟻塚か・・・?てことは、ここの階層主はノワルアントというより、その蟻塚を壊せってことか。蟻塚の形成が終わると、ノワルアント達がわらわらと溢れ出し、こちらへ向かってきた。
オレは剣を構え蟻塚へと向かいながら、ノワルアント達を切り裂いていく。ノワルワントは、ウォーアントとほぼ同じ大きさだが、色が真っ黒で素早さが上がっている。ノワルアントを倒しながら蟻塚へ近づこうとするが如何せん数が多く思うように近づけない。こういう時は属性魔法で範囲攻撃ができればと考えてしまう。
オレが使う生活魔法は、極めたが故に大概のことはできるが、それはオレの中のイメージを形にしているため、非常に効率が悪い。
攻撃にも使えはするが、場合によっては魔素を多く使うので、かなりの力技なのだ。
その点、技能による火や風といった属性魔法は、技能から作られるイメージで現象を起こすので、魔素を使う効率が良く、発動も段違いに早い。
なので、オレは基本的に戦闘は魔法を使わずに戦っている。
「とはいえ、これだと埒があかない。ならば、埒をあけよってか」
どこぞの少佐のようなことを言ってしまったな。
オレは一旦下がって距離を取る。息を軽く吐いて意識を集中する。
まずは、生活魔法の風系統の力を使って蟻塚まで一直線に向かう突風を起こした。斜線上にいたノワルアント達は吹き飛び、蟻塚までの道ができる。そこを、土系統の力で、蟻塚まで左右に壁を作りノワルアントが邪魔できないようにした。
あとは、一直線に蟻塚まで疾走する。蟻塚の大きさは高さ3メートルくらいってところだ、これを剣で切るとしたら確実に剣の長さが足りない。しかし、そこを生活魔法の風系統の力で補足する。
オレはこの世界に来て、体幹を鍛え、ただただ無心に剣を振って来た。いつかイメージ通りに剣を振るえるように、いつかそのイメージを超えるような剣を振れるようにと。そうやって身についた剣技と生活魔法を合わせることで、魔法を攻撃に使うための構築を簡素に、扱う魔素を最小にする。
そう、攻撃魔法は使えないが魔法剣という形で、魔法を使う工夫をしたのだ。
とはいえ、必要に迫られない限りは剣で切ったほうが早いので、普段は魔法剣は使っていない。
蟻塚の前に到着したオレは剣を上段に構える。そして、刃に風の力を集め剣を振り下ろす。そうして、正しく振るわれた剣は風の力を纏い、3メートルほどある蟻塚を一刀両断する。
真ん中からパックリと割れた蟻塚は黒い煙となって霧散した。
さて、後は残りのノワルアントを駆除するだけだな。土系統で作った壁を解除して、全てのノワルアントを倒した。
20
30階層を抜けの転送部屋を抜けると階段があり、それを降りるとすぐ迷宮主の部屋に出た。
目の前には最初からゴブリンナイトが中央におり、その左右に1匹ずつ杖を持ったゴブリンマジシャンがいた。そして、ゴブリンナイトが手に持っている剣が不壊の剣だろう。刃まで黒く、刃渡りが1メートルくらいのロングソードになるのかな。
オレが部屋に入るとゴブリン達が反応を始める。ゴブリンナイトが剣を掲げると、ゴブリンマジシャンが杖から火の玉をオレに放ってきた。
「早速の歓迎か。話が早いのは嫌いじゃないぜ」
オレはニヤリとして、火の玉がこちらへ届く前に走り出し、左回りにゴブリン達に接近する。なるべくゴブリンマジシャン2匹から同時に攻撃をされないよう、片方の斜線に別のゴブリンが入るように動く。
とはいえ、この程度の攻撃なら問題ない。ある程度近づいたところで、一気に速度を上げてゴブリンマジシャンを狙いに行く。
剣を横薙ぎに振るうが、ゴブリンナイトがオレの剣を受け止める。ほお、やるもんだ。伊達に階層主じゃないってか、地上のゴブリンより強いな。だが、地上のゴブリンよりは強いってだけだ。
オレは瞬時に身を低くして左肩から身を入れて背中でゴブリンナイトへ打つかる。なんちゃって鉄山靠でゴブリンナイトを吹き飛ばすと、近くにいるゴブリンマジシャンの1匹を斜めから切り裂く。そして、残った1匹も問題なく倒す。起き上がって来たゴブリンナイトが襲ってくるが、オレはカウンターで相手の剣を下からすくい上げるように打ち込み、ゴブリンナイトが持っていた剣をはじき飛ばした。剣を失ったゴブリンナイトの頭を切り飛ばすと、黒い煙となって消えていった。
ゴブリン達が煙となり魔石が地面に落ちるのと同時に、上から黒い剣が落ちてきたので、それを左手でキャッチすると、頭に剣に付与された能力が浮かぶ。
「うん、間違いなく不壊の剣だな。耐久力向上に、損耗回復(中)か。いいな、来た甲斐があった」
魔石を回収して、しばらく経ったが何も起こらない。
あれ?こういうのって、階層主を倒したら勝手に転送とか、転送用の魔法陣とかが出るもんじゃないのかな。
しょうがないので来た階段を上り、30階層の転送部屋から地上へ戻る。
21
その後、迷宮の見張りの人に、幽霊!?と驚かれた。どうやら、”辛夷”のアーベルから死んだと聞かされていたらしい。失礼な。
見張りの人に軽く説明したあと冒険者組合まで戻って来た。
「どうも、魔石の買取をお願いしたいんだ」
組合の買取受付の受付嬢へ話しかける。前に色々教えてくれた赤髪の子ではない別の子だった。
「では、魔石をここに出してもらえますか?」
「わかった。ちょっと量が多くて悪いけど、これを頼む」
オレは大量に魔石が入った袋をカウンターの上に置いた。
ちなみに大きい魔石や、迷宮主などの主からでた魔石は別にしてある。魔道具作りの研究に使う予定だ。
「ななななんですか、この量は・・・」
「迷宮に行って来たんだ。あ、あと迷宮主も倒したんで、その報告もよろしく」
「は、はい!?迷宮主を倒した?」
「倒したよ。組合員証が必要か?」
「え、ええと・・・。そ、そうですね。組合員証をお願いできますか?討伐履歴を確認させていただきます」
「了解。はいどうぞ」
「はい、お預かりいたします・・・。って!?な、なんなんですか、この大量の討伐数は!?は?迷宮主だけじゃなくて、階層主も!?ありえない!?」
騒がしい・・・。こうも騒がれると周りもさすがに何だという感じになってくる・・・。頼むからさっさと買い取りするか、静かに作業をしていただきたい。
「ちょっと、さっきから何を騒いでいるんですか?」
さすがに騒がしくしている受付嬢を見かねたのか、オレの中でお馴染みの赤毛のおさげ受付嬢が来てくれた。
「あ、組合長。この大量の魔石と、大量の討伐数に、階層主がー」
何を言っているのかわからない受付嬢。そして、何と赤毛の受付嬢が、組合長だと?受付嬢じゃなかったのか・・・。補足すると、組合長とは、読んで字の如く各街にある組合のトップである。
「落ち着いて話してくれる?何を言ってるのかわからないわ・・・。あら、貴方は、迷宮のこととか色々聞いて来た冒険者さんじゃない」
「どうも。組合長だったんですね。受付にいるから、受付嬢だと思ってましたよ」
「メイヒムは組合長だからって、特に忙しいわけじゃないので、たまに受付業務もしてるんですよ。その様子だと、本当に階層主を倒したんですね」
「ですね。その報告と魔石の買い取りをお願いしたんです」
「なるほど。貴方は魔石の買い取り査定をしておいて。冒険者さんは別室でお話しを聞いてもよろしいですか?」
「わかりました」
ようやく話が進みそうだ。やれやれ。
ということで、メイヒムの組合長の部屋に場所を移したのだが、オレは長椅子に座り、なぜかその隣に赤髪の組合長が座るのだった。
「では改めて、私はメイヒムの組合長のアミーナと言います。よろしくお願いします」
「オレは、冒険者のシュンです。別の街から来ました。・・・で、ちょっと近くないですか?」
「そうですか?組合員証を見せていただくには、これくらいの方がいいのかと思ったんですが?」
フフフと笑うアミーナ。オレの腕に柔らかいものが当たっている、いや当てているのか。そして、女性特有の甘い香り、香油だろううか、女性の嗜みで何かをつけているのか、いい匂いがするので精神衛生によろしくない。
「見るだけなら近くにいる必要はないと思いますけどね。どうぞ、組合員証です」
「では、拝見しますね。それと、急に口調が変わりましたね?どうしてですか?」
「さすがに組合長に対しては口調を改めますよ・・・」
「前までの話し方で構いませんよ?では、討伐履歴を確認します」
いえ、オレは構います。それに、言葉通りに受け取っていいのかわからないしな。
しばらく、無言の時間が流れる。オレは、アミーナが入れてくれたお茶をすすりながら確認作業を待っていると、確認を終えたアミーナが口を開いた。
「すごいですね、大量の魔物もそうですが、メイヒムの迷宮の全ての階層主と迷宮主まで討伐されてますね。ちなみに、これだけの討伐数ですと、複数人では難しいですよね?」
「そうですね。個人で行って来ましたよ。さっきも言いましたが、別の街からきて知り合いもいませんし。何層か潜って駄目そうなら引き返すつもりでしたが、魔物の強さも問題なさそうだったんで、行けるとこまで行ってきたって感じですね」
「普通は、個人で迷宮攻略なんて無謀もいいところなんですが・・・。それを、そんな軽い感じでいうのもすごいですね。階級☆4とありますが、どうやら、☆4以上の強さをお持ちのようですね」
アミーナがオレを上目遣いに見上げてくる。髪型をおさげにしているので、地味に見えていたが、よく見るとかなり美人だな。髪をほどくとさらに可愛さが増しそうだ。
「どうです?メイヒムの専属冒険者になりませんか?貴方の強さなら、☆4じゃなくて☆3、いえ、☆2だって言われても納得します。私が推薦して階級を上げるように手配しますよ?」
色仕掛けというやつか。生前の夜のお店でもこういうのがあったな。オレもそういう経験がなければ舞い上がっていたことだろう。しかし、残念だが中身がおっさんであるオレには効かないな。
「いえ、申し訳ないですが、別の街に家もありますし恋人もいるので。それに、階級はそれほど重視していませんので、大丈夫です」
「なるほど。それは残念ですね。では、組合員証をお返しいたします」
アミーナはそう言うと、オレから離れて組合員証を渡してくる。
む?これは、試されていたのかな。
「ありがとうございます」
「そろそろ、査定も終わってるでしょうし、買取料金を受け取ってからお帰りくださいね」
「はい。そうします」
オレは組合員証を受け取って立ち上がる。
「お時間をいただきありがとうございました」
「いえ、それでは失礼いたします」
そう言って、部屋から出ようとすると。
「シュンさん。私はいつでもお待ちしておりますよ。先程の言葉は本気ですからね」
と、思わずドキっとしてしまうくらい魅惑的に笑うのだった。いかんね。男と言う奴は美人に弱い。エリスがいなければ落ちていたかもしれんな。
「ありがとうございます。その機会があれば、オレのほうからお願いしますよ」
「ええ、是非に」
こうして、オレの初迷宮攻略は終わった。
後は、貿易品がどうにかなればいいんだがどうなることやら。とりあえず、今日は宿に帰ってゆっくりしようかな。
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