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昨日は少し騒動があったが、オレは今日も塩作りに邁進している。こういう時は単純作業に限る。波の音も相まって心が落ち着いていく。といっても、一晩寝たらすっきりしたし、もはや全然気にしてない。いや、気にするどころじゃない。
オレは今日も地獄の作業をしている。
「ぐあああああ!あづいぞおおおお。ふぬうううううう。もう無理だ!」
てことで、昨日よりも早い段階で終了した。
塩は十分手に入ったし、今日のところは、釣りでもしてみるかな。
それからオレは、釣りができそうな場所を探して砂浜を歩いていると、海にポツンと突き出た岩を見つけたのでそこへ飛んだ。
岩の上に立つと心地いい潮風を感じる。それを鼻から肺一杯に吸い込む。太陽の光を受けた水面を見ると、キラキラと輝いて見えて、どこかオレの子供心を刺激してワクワクさせた。
「いいねえ。早速釣りでもしようかね」
釣竿は、昔森で住んでいたときに、湖で使っていたやつでいいか。確か、餌もまだあったはず。オレの亜空間は、物によって時間の流れを停止させたり、そのまま進ませたりできる。この力を使えば、凍らせたお肉も自然解凍ができるぞ。ただし、解凍しているのを忘れて放置しすぎると、お肉が痛んだり腐ってしまう。それで、昔何回か、お肉を駄目にしてしまった事がある。
てわけで、餌をつけ海に投げ入れる。その後は、海の音を聞きながら穏やかな時間を楽しむ。森で見つけた餌で大丈夫かなと思ったけど、意外と3匹の魚を釣ることができた。宿に持ち込んだら、調理してくれるかな。最悪、台所を借りて自分で焼くか。
もう少ししたら引き上げようかなって思っていたら、釣竿がすごい勢いで引かれた。
「おお?すごい引きだ!これは大物か!?」
竿を持っていかれないように右へ左へ動かしながら、魚が疲れるのを待つ。竿の引きが弱まってきたところで、一気に引き上げた。
「おりゃあああ!」
「ああああああ!!ひたひ〜!!」
「なんじゃこりゃあああ!」
釣り上げたのは魚でなく、人魚だった。釣竿の針が人魚の左頬に刺さっている。
「ひょっと(ちょっと)、ほれははひ?(これはなに?)あんはいっはいなんなほ?(あんた一体なんなの?)」
「ああ、待て待て、見てて痛々しい。先に針を抜かせてくれ」
魚なら良くて、人の顔をしてたら見るのが辛いというのは人のエゴだろうなあ。もしくは、オレが望んでしたわけじゃないという後ろめたさか。どちらにせよ、エゴには違いないか。
オレは、ポーションを準備して、なるべく痛みがないように抜いて、すぐ治療を行う。
「良かった、傷は残ってないな。痛かっただろ?悪かったな」
「そうよ!一体どういうつもりよ!」
どういうつもりと聞かれてもオレは釣りをしていただけだが・・・。しかも、餌に喰いついたのはそっちなわけで、オレも悪いのだろうが、オレだけが責められるのはいかがなものか。
釣り上げた人魚は、海人族と呼ばれる種族だ。海人族には、人の顔をしている人もいれば、魚の顔をしていたり、タコのような顔をしていたりと、見た目が多種に渉る為、まとめて海人族という。
オレの目の前にいる人魚は、ウェーブがかった青い髪を胸あたりまで伸ばしており、つり目がちで髪と同じ青色の目をしていた。服を着ていないので、肌色の自己主張をする山がチラッと視界に入ってしまい目に毒だ。年は見た感じ、16歳くらいに見えるので、イケナイ事をしているような気分になって落ち着かんな。顔の横にエラのようなものが見え、腰のあたりにベルトを回していて、小さな鞄を身につけている。
「説明はする。その前に、悪いが先にこれを羽織ってくれ。オレ達人族は服を着る習慣があって、今の君の姿は落ち着かないんだ」
そう言って、オレは亜空間からタオルを出して少女に渡す。
「ああ、人族ってそうだったわね。けど、人族の男ってあたしらの姿を見ていつも喜んでるわよ?あんた変わってるわね」
いや、まあ、それはそれで間違ってはいない反応なのだが、人族の男が全てそうじゃない。少なくともオレは無遠慮に裸を見てはいけないと思うぞ、紳士とはそういうものだ。
「人族も色々いるんだよ。でだ、オレはここで釣りをしていただけで、君が餌にくいつくとは思っていなかったんだよ。悪いことをしたとは思うけど、わざとじゃないんだ」
「ふーん。普段こんなとこで釣りをする人なんていないから、あたしも油断してたわ。ゆらゆら動くものがあるからつい口に含んじゃった。けど、その後が引っ張られるわ、左右に振られるわ散々だったわよ!」
「あー、大きい魚がかかったと思ったから・・・。本当にすまないと思っている」
最後は、カウントダウンが聞こえてきそうな渋い男性の声をイメージして謝ってみた。
「事情はわかったわよ。治療もしてもらったからもういいわ。ただ、この辺で釣りをするのはやめておくことね。あたし以外にもこの辺りを泳いでいるのがいるから」
「わかったよ。別の街から来たんで、この辺りのことを知らなかったんだ」
「へー!?別の街から来たの?あんた、ちょっとその話詳しく聞かせてよ。あ、あたしは、メアブルっていうのよ。あんたの名前は?」
「オレはシュンだ。冒険者をしてるんだが、ここには、魚を食べにきたり珍しいもの買いに来たんだ」
「そうなのね。よろしく」
お互い自己紹介が終わると、メアブルにクリオールの街のことや、地上にいる魔物の話をしてやった。メアブルは相槌を打ちながら、メイヒム以外の街に住む人の生活に興味をもったようで、色んなことを聞いてきた。それに答えていたら、空は茜色に染まる時間になった。
「もうこんな時間か。オレはそろそろ帰るよ。ありがとう。メアブルのおかげでゆっくりした時間を過ごせたよ」
「あたしも楽しかったし、今日のことは許してあげる」
そう言ってメアブルは笑った。夕焼けに照らされたその笑顔はとても可愛らしいものだった。
「そうだわ。面白い話を聞かせてくれたお礼にこれあげる」
メアブルが腰のポーチから、直径3センチほどの青くて丸い玉をオレに投げてきたので、オレはそれをキャッチする。
「おっと。綺麗な石だな。なにこれ、宝石?」
「それはあたしらが作る魔道具よ。それを口に含んで水のなかに入れば、石が魔素を吸って酸素を作るの。それがあれば、人族も水中で活動できるわ。あたし達の村で作ってる交易品よ」
「おい、それって、高価な物なんじゃないのか?」
「別にいいわよ。人族には作れないけど、作るのが難しいわけじゃないし。それに、あたし達には必要ないしね」
人族に作れないってだけで、かなりの値打ちではなかろうか。それをポンと渡すとか、こえーわ。メアブルってもしかして、いいとこのお嬢なのかな・・・。
「いやまあ、そうなんだけど、本当にもらっていいのか?」
「素直にもらっときなさいよ。じゃ、あたしは行くわ。もう会うこともないかもしれないけど、元気でね」
「わかったよ。ありがとう。メアブルも元気でな。何でもかんでも食べるなよ?」
「食べないわよ。バーカ。ふふ、それじゃあね」
そう言ってメアブルは海に潜っていった。思いがけず、すごい物をもらった気がするな。
さあ、帰るか。今日はいい1日だった。この世界だからってわけじゃないけど、異文化交流というか、自分とは違う価値観に触れるっていうのは、色んな刺激があって面白いな。そして、誰もいなくなった海を眺めて気づく。
「あ、タオル返してもらってねえ・・・」
地味に借りパクされた。まあ、それ以上のものをもらったからいいんだけども。
これも出会いの思い出ってやつだな。エリスにいい土産話ができたな。
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