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朝食を終えてから5人で食後のお茶を飲んでまったりしていたので、オレは追放神のことを皆に伝えることにした。
「これを使えばその追放神?のところへ行けるんですか・・・?」
テーブルの上には、先日オレが追放神からもらった黒い玉が置かれている。それを見たアーティが不思議そうな顔をしながら発した言葉が先ほどの内容だ。
「見た目は水晶のように透き通ってるんだね。けど、これを使ったらと言うけど、そもそも使い方が想像できないね」
アダルさんは黒い玉を見ながら苦笑している。
「まあ・・・、見ただけだと単なる黒い玉ですからね。アダルさんがそう言うのもわかります」
「けど、その追放神のところへ行くということは戦いになりますよね・・・?先日のオステンエストでの戦いでさえものすごい戦いだったのに、危険じゃないんですか?」
「まあ、エリスの言う通り、楽な戦いにはならないだろうな・・・」
エリスさんや、そんな心配そうな顔で見つめられると困ってしまうよ・・・。
「それって、アタイらも一緒に行けるのかい?」
「いや、多分オレだけしか行けないだろうな」
「それは危険すぎます!」
オレがしたリンカへの返事に身を乗り出して抗議するエリス。
「心配かけて悪いけど、追放神はオレにしか興味がないから、逆にエリス達が一緒に行くとどんな行動を取るかわからないんだよ。だから、今回は1人で行くよ」
「・・・まあ、この前の戦いみたいなことになると、アタイ達に何かできることはないだろうしね・・・」
オレがそう言うと、エリスは無言で椅子に座り直し、アーティやリンカ、アダルさんは静かにお茶を飲み直すが、4人共納得したという表情ではなかった。
うーん・・・。どうしたものか・・・。
「この件に関しては思うところはあるだろうけど納得して欲しい。その代わりってわけじゃないけど、7日後までに各々のして欲しいことを何でも叶えるよ」
オレがそう言うと、4人の瞳がぎらりと輝き全員がオレを見つめてきたので、オレはびくりと体を強張らせる。
こわっ・・・。捕食される動物ってこんな気持ちなのかな・・・。
「何でもと言いましたか?シュンさん」
「あ、ああ・・・。ただし、叶えられる範囲でね・・・」
エリスとアーティ、リンカ、アダルさんの4人はお互いに見つめ合うと、コクリと頷いて席を立ち上がっていく。
「では、これから緊急会議をします。本当はシュンさん1人でなんて行かせたくありませんが、シュンさんがそこまで言うなら仕方ありません。内容が決まったら伝えますね」
エリスが微笑みながらオレに話しかける。
ひえ・・・。久しぶりに見る圧のかかった笑顔やでえ・・・。
「ああ、うん。わかったよ」
「では」
そう言って4人はぞろぞろと居間から出て行ったので、オレは静かにテーブルの上を片付けるのだった。
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さて、数日が経ちエリス、アーティ、リンカ、アダルさんの順で過ごすことになった。
まずはエリスとの過ごし方だがクリオールの街の外周をひたすら走ることになった。
「ほらシュンさん!もっと汗をかいてください!!」
「うへぇ・・・」
エリスの要求はオレの匂いがついた衣服の量産だ・・・。離れてる間も寂しくないようにと、休憩しては新しい服に着替えさせられて再び匂いをつけていく。
その方法が汗をかくというのはいかがなものか・・・。
「ねえ、エリス・・・」
「何ですか?」
2人でクリオールの外壁を並走していく。
「匂いがついたものというのはわかるんだけど、汗って汚くない・・・?」
「え?何ですか?よく聞こえませんでした」
そ、そんな馬鹿な。獣人であるエリスが隣にいるオレの声が聞こえないことがあるのだろうか?いや、ない。
オレが横目でエリスを見ると、エリスは静かに微笑むだけでそれ以上何も言わないのであった。
いや、これ以上は問答無用ということか・・・。
結局その日は日が暮れるまでひたすら走り続けることになるのだった。
その次の日はアーティと一緒に過ごすことになった。
「ア、アーティ・・・。まだ買うのか?」
「まだまだですよ。ほらシュンさん。どっちが私に似合いますか?」
オレはアーティに連れられて街の東にある商業区に来ていた。このあたりは雑貨品から服屋など色々なお店がある。
そして、今来ているのは服屋で、さらに3軒目の店である。
「えーっと・・・。右の服かな・・・?」
「わかりました。では、これをください」
この店に来るまでにも結構な服を買っているが、まだ買うというのか・・・。
「な、なあ、アーティ。そろそろ服はいいんじゃないか?」
「え?まだ序の口ですよ?」
な・・・、なんだと・・・?
「まさか、したいことを何でも叶えてくれるって言ったのに、嘘をついたんですか?」
っく・・・、それを言われると何も言えん。
「まさかあ・・・、ただ、服意外にも欲しいものがあるんじゃないかなって思って」
「大丈夫です。まだまだ時間はありますから。あと2、3軒服屋を回ったら他のお店にも行きますよ?」
「ソウデスカ・・・」
輝くような笑顔で話すアーティを見て、オレは死んだ目で微笑みながら返事をするのだった。
結局、アーティの荷物持ち兼財布として夜遅くまで連れ回され、体力より精神力を削られてしまった。
「さて、今日はリンカか」
「ああ、よろしく。旦那」
エリス、アーティと終わり、今日はリンカと過ごす日だ。
リンカとオレは家の地下にある一室にいる。ここは訓練などでよく使用する部屋だ。入り口が一つ魔道具で灯りや空調を管理していて、4人くらいで動き回っても大丈夫な広さがある。
「しかし鍛えて欲しいって、別にお願いじゃなくても訓練するなら気軽に付き合うぞ?」
「なんていうかねえ。お願いといっても、特にこれといって思いつかなかなくてね。だから、いつも通りに旦那と過ごしたいと思ったのさ」
そんなもんかね。まあ、リンカらしいっちゃ、リンカらしいか。
「それに、特別なことをしちまうと、旦那が帰ってこないような気がしてね・・・」
そういってリンカは少し困ったように笑い、オレはそんな表情を見て何も言えなくなってしまった。
「へへ。悪いね変なことを言っちまって。さ、いっちょやろうじゃないか」
「・・・ああ。手加減はしないから思いっきりくるといい」
お互い気持ちを切り替えて汗を流していく。
その後、風呂に入って体を綺麗にしてから酒を飲もうということで、リンカと酒を飲んだのだが、久々にタガの外れたリンカの絡み酒がうざたかった。
やれやれだ・・・。
「今日は私だね」
「よろしくお願いします。アダルさん」
「ささ、こっちにどうぞ」
アダルさんはオレの部屋のベッドに腰掛けながら、自分の膝の上をぽんぽんと叩いてオレに微笑みかけてきた。
「・・・失礼します」
「ふふ」
オレがアダルさんの膝の上に頭を乗せると、何が嬉しいのか笑うアダルさん。
「それにしても耳掃除がしたいっていうお願いとは・・・」
「私はいつもシュン君に何かしてあげたいと思ってるんだよ?君は中々お世話をさせてくれないから、ちょうどいいと思ってね」
「いや・・・、何か悪いですし、それに何となく恥ずかしいので・・・」
「気にしなくていいのに」
オレの言葉を聞いて苦笑したアダルさんだが、その後静かに耳掃除を始めた。
耳掃除なんて親以外にしてもらったことないな・・・。親といっても前世の話だが。
「痛くないかい?」
「大丈夫ですよ。気持ちいいです」
「それはよかったよ。さ、今度は逆側をしよう」
オレは顔の向きを変えながらごろんと体を転がす。その際にアダルさんのふとももの柔らかな感触を感じる。
うむ・・・。悪くない・・・。
「私のふとももはお気に召したかな?」
「しっかりとバレてましたか・・・」
「私はシュン君のそういうところも好きだよ」
恥ずかしいことを言う・・・。
オレは顔を赤くしながらアダルさんのふとももに顔をうずめるのだった。
それから耳掃除が終わるとアダルさんは、オレにベッドに寝るように促すと全身をマッサージしてくれた。
「これでお終い」
アダルさんはそう言うとオレの背中にのしかかりながら耳元で呟く。
「じゃあ、次のお願いはね・・・」
アダルさんの妖艶な声を聞きながらゆっくりと日が暮れていくのだった。




