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塩を作ろう。そもそもそれが目的で来たのだし。
クラーケンは無事に退治できた。しかし、すぐに船が出せるようにはならないし、貿易船もすぐに来れない為、魚が街に並んだり、貿易品がメイヒムに来るのはもう少し先だろう。ならば、それまで塩作りに精をだすかな。
さて、塩を作ろうと思うが、ここは異世界、塩を作るための近代施設など無いので、海水を煮詰める。これでいこう。
というわけで、人が来なさそうな砂浜に移動した。念のために周りに砂の壁を作って、外から見えないようにしておく。
まずは、生活魔法の土系統で作った、大きくて広い四角い箱を亜空間から出す。塩を作ると決めたときから作っておいた。手始めに亜空間に砂を取り込み、箱の中にザーっと平らに敷き詰めていく。そこへ、亜空間に取り込んだ海水をそそぐ。それを2つ用意する。
海水に浸した砂に魔法を使って、水分を抜いていく。砂が乾いたらもう1度海水をそそいで、水分を抜く。これで塩分を多く含んだ砂ができたはず。
その砂を一旦亜空間へ仕舞う。
次に亜空間から、箱と同じく生活魔法の土系統で作っておいた、アルファベットのCのような形をしたものをだす。
これは、厚さ10センチメートル、高さ80センチメートルくらいで、一枚の板を輪っかにしたような感じか。
まずは、Cの空いてる真ん中部分へ、壺を取り出して設置する。続いて、目の細かい布を取り出し、Cの上に被せ、壺の上に布が来るように固定する。
固定できたら、さきほどの砂の上から海水を流し込み、濾す作業をする。フィルターが欲しいところだが無いので、布で代用だな。
準備ができたんで、亜空間から適量の砂を布上にだし、その上から海水を流して、海水を濾して壺の中へ水を溜めていく。壺の中が満水になれば、新しい空の壺と交換し、砂を変えて同じように海水を濾していく。そうして、いくつもの塩分濃度の高い海水が入った壺を量産していく。砂がなくなったところで、1度休憩するために、昼ごはんを食べることにした。
小1時間ほど、海を眺めながら休憩する。和むわ〜。これこそがスローライフというものだろうか。いつまでもこうしていたいが、ここからが本番だな。
風呂釜くらいの鉄鍋を取り出して、壺の中の水をいれていく。そして、鍋を火で熱しながら飽和食塩水を煮詰めていく。すると、水の中にゆらゆらと塩が浮き上がってくるので、ざるですくい上げて水を切って箱へ入れていく。仕上げは風で飛ばないようにしながら塩を乾燥させるのだ。後は、ひたすら同じ事を繰り返す。
煮る、すくう、移す。煮る、すくう、移す。
グツグツと沸き上がる鍋を見ながら、時に水を補充し、3工程を繰り返す。
照りつける太陽、目の前には熱気、その下からは火の熱さ。
「ウボアアアアア!!アヅイィィィィィィ!」
某皇帝陛下のような叫びをあげつつ、気が狂いそうになる苦行を終え、オレはついに塩を手に入れることができたのだった・・・・・。
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「くはあああああああ!!美味い!美味すぎる!!」
ドンとテーブルの上に、エールを飲み干して空になったコップを置く。
オレは、メイヒムの街の酒場の1つに来ていた。あの苦行を終え、汗をかいた体へエナジーチャージをしにきたのだ。
あー、染みるわー。塩を作るのがあれほどの苦行だったとは。もうすでに1日目で心折れそう・・・。もういいや、明日のことは明日考えよう。
というわけで、エールを新たに注文して、酒を飲みつつ料理を食べる。ちなみに肉である。魚を食べにきたはずなのにな。
ちびちびと酒を飲んでいると、近くいた冒険者達の話し声が聞こえてきた。
「そういや、あの大型の魔物って誰が倒したんだ?」
「おお、街から爆発するのが見えたっていうから、魔法使いがやったんじゃないかって話だが」
「そうなのか?昨日の朝に港についた船があったんだが、その船に乗ってた奴らが言うには、海の上に鎧を着た奴がいて、そいつが魔物を倒したって話してたらしいぜ」
ふむ、昨日の今日だから、まだオレの記憶が残っているやつがいたか。オレの能力は噂話には効果はない。直接オレを見た、あるいはオレの力に触れたわけではないからだ。なので、オレについて話した内容は、聞いた人の記憶に残る。その事を話した本人はいずれ、話した事すら忘れるだろうが。
「んで、その船っていうのは、貿易に来た船だったのか?」
「いや、他国からの姫さんが乗ってて、その姫さんが王都にある貴族様が通う学院に留学する為に船で来たって話だ。ちなみに、今日の朝、王都に向けて出発していったわ」
「なんだ、貿易船が来たのかと思って喜んじまったぜ」
「まだ退治されて2日だぜ。漁師も船を出せねえし、貿易船も魔物の話が他国まで流れた場合、中々来ないだろうさ」
まあ、そうだろうな。今後、メイヒムの領主が港の魔物対策をどうするかなど、問題は色々あるだろう。そんなことを考えていると、別の所から、女性の声が聞こえてきた。
「だー、今日の迷宮は外れだったぜ」
「仕方ないわよ、そういうこともあるわ」
お、迷宮とは聞き逃せないフレーズがきたな。声はオレの前のテーブルから聞こえてきた。興味深い話に耳を傾ける。そのテーブルを見てみると、4人組の女性冒険者パーティのようだな。
「ようやく、15階層で階層主を倒したってのに、しょぼいナイフ1本だぜ?割りにあわねえよ」
「もう、リンカもその辺にしてよね。飲み過ぎよ?」
「まだ全然だぜ。アタイは酔わねえ女なのさ!」
「いや、全然酔ってるでしょ・・・。それに、私達の目的は、迷宮主が落とすって言われてる不壊の剣なんだから、階層主の宝物は気にする必要ないじゃない」
ほほお、不壊の剣とな?その後も話に聞き耳を立てていると、耐久力が高く、ある程度の傷を修復する効果が付いた剣であり、メイヒムの迷宮主が落とすらしい。なにそれ、剣を使う職だったら絶対欲しい武器じゃん。塩作りやめて迷宮いこうかな・・・。いや、塩も大事だ。だから、もう1日だけ塩を作ろう、幸い、今日だけでも結構な量が作れたし、とりあえず、明日は塩作りだ。
さて、ここで迷宮についてだが、迷宮とはこの世界に突然あらわれる魔素溜まりが原因で、洞窟や森といった自然が魔素によって、変異してその姿を変えたものだ。魔素が濃いということは、当然魔物も生まれる。なので、迷宮には魔物が生息するようになる。そして、倒したとしても定期的に数が一定数まで増える。
迷宮を潰す方法はよくわかっていないが、迷宮主を何回も倒してるとそのうちなくなると言われている。ただ、迷宮がもたらす素材で街が潤うといった恩恵もあるため、基本的には潰さないようにしている。
ちなみに、迷宮には階層に現れる階層主、迷宮の最後にいる迷宮主がいる。迷宮が何階層あるかは、迷宮によって違う。20階層の迷宮もあれば、40階層の迷宮もある。迷宮主はその迷宮の最後に絶対にいる魔物で、階層主というのは、迷宮によって決められた階層にいる魔物のことだ。何階層にいるかは、迷宮によって異なる。階層主を倒せば、次からはその迷宮の主がいた階層まで一気にいけるのだ。
そして、迷宮には宝箱が出現して、武器や防具が入っていたりする。石が入ってることもあるらしい。宝箱に武器や防具が?と思うだろうが、それは迷宮に挑んだ冒険者の装備を迷宮が吸収し、迷宮が取り込めなかったものが宝箱として排出されているらしいと、どこかの学者さんが言ってるそうな。
で、その際に迷宮の魔素によって、装備や防具などの形が変わったり、様々な効果が装備に付与される。ただし、例外があり、迷宮主と呼ばれる魔物を倒した時は、迷宮自身が作ったものが手に入るそうだ。それは大体が迷宮主が使っている武器だったり、道具、防具だ。なので、迷宮主は、魔物の種類によって落とすものがある程度わかるのである。
オレの前のテーブルの女性冒険者の話だと、このメイヒムの迷宮主を倒したら、不壊の剣がゲットできるってことだな。
これは迷宮にいかねばならないな。メイヒムでの暇つぶし、もとい、目標がもう1つできたな。気分がいいので、最後にもう1杯エール飲んで帰ろうっと。
「お姉さん、エールおかわりで」
「はい。かしこまり〜」
店員のお姉さんに銅貨を渡してエールを持ってきもらう。お姉さんがテーブルにエールを置いた瞬間に、前から男がオレのテーブルに飛んできて、テーブルとエール諸共吹き飛んで行った。
「きゃあっ!!」
「あああああああああ!オレのエールぅぅぅぅ!」
「はん!アタイの胸を見ながら、酌をしろだあ!?舐めてんじゃねぞ!」
と、オレの前から黒髪の女の声が聞こえてきた。どうやら、吹っ飛んできた男が、コイツにセクハラをして、吹っ飛ばされたようだ。
いや、それよりも店員のお姉さんは大丈夫か?
「お姉さん、怪我はないか?」
「は、はい。大丈夫です」
さすがに、ちょっとムカついたぞ。オレは、黒髪の女の前に立ち、真っ直ぐにその赤い目を見据えた。
「あん?あんだ、お前。さっきの奴の仲間か?お前も吹っ飛ばされたいのか?」
「ちげーよ。お前が吹っ飛ばした男がオレのほうに飛んできたから、オレが頼んだエールが駄目になっただろうが、それに、下手したらオレや店員のお姉さんが怪我してたんだぞ。謝れ、そして、エール代を弁償しろ」
「ああん?元はと言えばそっちで伸びてる男が原因だろ?何でアタイが謝るんだよ」
「ちょっと、リンカ酔いすぎよ!?す、すいません。迷惑をおかけして」
「おい、アリックス、何で謝るんだ〜?アタイは悪くね〜。けどまあ、そうだな、弁償だったか?ほれ、受けとれよ」
アリックスと呼ばれた金髪の女性は、リンカと呼ばれた黒髪の女性をなだめていたが、リンカとよばれた女性は酔いが回っており、オレの目の前に3枚銅貨を放ってきた。うわ、こいつ最低だな。
オレは盛大にため息をつき、銅貨を拾った。そして、腰の鞄から新たに銅貨を3枚取り出して、店員のお姉さんに渡した。
「すまなかった。オレがエールを頼んでなかったら、お姉さんが危険な目に合うこともなかった。これはお詫びだ。受け取っておいてくれ。テーブルに関しては、そっちの寝てる男なり、そこの最低な黒髪の女と話してくれ」
「いえ、そんな・・・。お客様は悪く無いですよ」
「なー、最低の女ってのはアタイのことか?いい度胸じゃねえか。それに、そこのお姉ちゃんにお金渡して何しようってんだ?どいつもこいつもしょうもないねえ。一丁前に女を口説くこともできねえときたもんだ」
いっひっひ、とオレを笑うリンカ。いかんな、オレもだいぶ酔ってるらしい、怒りが抑えられんわ。
オレは、再びリンカの前に立つ。アリックスと呼ばれた女性や、他の2人のパーティメンバーもさすがに、リンカを止めようとするがもう遅い。
「おい、そろそろ、その下品な口を閉じてろ・・・」
オレは、目にも止まらない速度で、リンカの顎を打ち抜いた。リンカは体の力が抜けひざまづく。
頭が高いぞ、絶対は・・・、ふ、ここまでにしておこう。
他の3人はオレが何をしたかわからず、固まっている。
「あれ・・・?おい、てめえ・・・、アタイに何しやがった・・・」
「さあな・・・。だが、その無様な格好がお前にはお似合いだろ。それとな、金を放るな。あと、人様に迷惑かけるなら酒なんて飲むな」
オレは、リンカにそう言い放つと酒場を後にした。
あー!!せっかくいい気分だったのに、最後の最後で嫌な気分になったわー。
ま、あの女に1発ぶちかましたからいいとしよう。しかし、オレもまだまだ精進が足らんね。ちょっと大人気なかったかな、テへ。
そう思いながら、宿に帰って寝るのだった。
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