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ガガガ♩ガガガ♪ガオ・・・。
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今からやることは、昔に神の力を分けた時、男のロマンを求めて作った力だ。
その力はただの思いつきだった。
子供の頃に変身ヒーローに憧れたのと同じくらい憧れが詰まった思いの形。
本来は神の力をわけたら使えない力ではあったが、エリス達がコインの力で変身している今なら彼女達の助けを得て力を使うことができそうだ。
「今、エリス達にはそれぞれの聖獣がいると思う。その子らをエリス達の力を触媒にして特別な形へと変身させる。その反動でエリス達の体がしんどくなると思うんだ・・・」
オレは心苦しい気持ちになりながらもエリス達の顔を見る。ところが、そのエリス達は皆で顔を見合わせると、全員が力強い笑みを作ってオレを見てきた。
「大丈夫ですよ。私達はシュンさんの力になれるのが嬉しいんですから」
「そうですよ。たまには私達を頼ってください」
「エリス、アーティ・・・」
エリス達がここまで言ってくれるんだ。男らしくビシッといこうじゃないか。
「わかった。オレの合図で皆の上に魔法陣が展開される。皆は聖獣達の変身が終わるまで耐えてくれ」
「わかりました」
エリスが返事をすると、他の3人は頷いて返事をしてくれる。
『話し合いは終わったかい?』
「何だ?わざわざ待っててくれたのか?」
『そうだよ。このままじゃ勝負にならないからね。もっと僕を楽しませてよ』
「随分余裕な事で・・・。それじゃあ、お言葉に甘えようか。皆、行くぞ!」
オレの合図でエリス達の頭上に大きな魔法陣が描かれる。エリスの頭上には緑に輝く魔法陣が浮かび、アーティは青、リンカは赤、アダルさん黄色だ。
すると、フェンリルや、リヴァイアサン、フェニックス、ヨルムンガンドが下から上へとそれぞれの魔法陣を潜り抜けていく。
聖獣達が魔法陣を通過するまで、その大きい魔法陣を維持する為、エリス達の体から神の力が消費され続け、4人は苦しそうな表情になりながらも耐えてくれる。
そして、ミニサイズだと人の顔より少し大きいくらいだった聖獣達の大きさは、魔法陣を抜ける頃には、それぞれ全高や体長が20メートルから25メートルほどの大きさになって出現する。
しかし、一番の変化は生き物であった聖獣達の体が機械仕掛けへとその姿を変えたことだ。
オレは4匹の聖獣達の姿が完全に変わったのを確認すると、足に力を込めて空高く飛ぶと同時に大声で叫ぶ。
「最終融合!」
空に浮かぶオレを中心に白い大きな球体が生まれると、4匹の聖獣は各々叫び声を上げながらその球体へと突っ込んでくる。
最初に球体の中に入ってきたのは、機械化したフェンリルだ。
まずは、機械化したフェンリルが口を開けてオレを飲み込むと、前足が左右へと移動する。
それと一緒にフェンリルの顔が前へとスライドして、人でいうところの胸元の位置に収まる。
続いて左右の後ろ足は一本の棒のようにピンと伸ばされると、フェンリルの体はT字のような形を作る。
フェンリルの変形が終わると、リヴァイアサンとヨルムンガンドが球体に現れ、2匹とも体のちょうど半分で分離していく。
そして、2匹の下半分である尻尾の部分は先の方で折れ曲がり、L字のような形を作ると、フェンリルの右後ろ足側にはリヴァイアサンが、反対側にはヨルムンガンドが装着されて足となる。
さらに残った胴から頭までの部分が飛翔し、まずはリヴァイアサンがフェンリルの右前足へ合体すると、上顎と下顎が上下に移動し、右手が回転しながら飛び出して握り拳を作った。
また、左にはヨルムンガンドが同じように合体する。
最後にフェニックスが球体の上部から出てくると、オレの背後へと羽を広げて回り込む。
背後に回ったフェニックスは足をたたむ動作を行うと同時に、長い首が胴体部分へと収納されて首が短くなる。
フェニックスとの合体が終わると、オレは横に伸ばされていた両手を下げて姿勢をかえると、フェニックスの左右の爪の部分がフェンリルの肩の部分へと合体する。
フェニックスの合体と同時にフェンリルから人を模した顔がせり出ると、フェニックスの頭が変形して兜のようになって顔に被さると、目から緑の光が放たれて光の球体が弾けて消えた。
それは聖なる獣のもう一つの姿。それは神を模した人ならざる者の形。
その名は、
『聖・獣・合・神!デウス・アニムス!』
合体を終えたオレは静かに海の上に浮遊する。
『またせたな』
『あはは!すごいね。君はいつも僕を驚かせてくれるね。いいね。もっと僕を楽しませてよ!!』
『ああ、期待に応えてやると。ただし、お前の負けって形でな!』
楽しそうに追放神が笑うと、後ろの羽を動かしてオレへと突進を仕掛けてきたので、オレはそれを両手を構えて受け止めた。
2体の巨大な質量がぶつかり周囲に大きな風を産む。
「っきゃ」
「くう」
エリスやリンカ達がしんどそうに膝をつきながらも、その風に耐えるのを見たオレは、追放神を掴んで沖の方へとぶん投げた。
『そら!』
『うわー・・・。っと、危ない危ない』
追放神が若干間抜けな声を上げながら飛んでくが、海面に着く直前に羽を使い姿勢を制御すると、空中でピタっと動きを止める。
オレもあんな攻撃で追放神が倒せるとは思っていなかったので、すでに追放神に接近している。そして、右ストレートで追放神の顔面を打ち抜く。
『ぐはっ』
こっちも同じ大きさだ。さすがに追放神へとダメージが入るだろう。
殴られた追放神はその巨体を傾けて盛大に水飛沫をあげて海へと倒れ込んだ。
だが、追放神もやられっぱなしではおらず、倒れながらも海の中から魔素砲を打ってきた。
オレはすかさず右の手のひらをかざして防御フィールドを展開する。
『プロテクト・シールド!』
オレは魔素砲をシールドで受け流そうとするが、その威力に上手く受け流せずに動きを止めてしまう。
その隙をついた追放神から胴体へ蹴りを喰らい体勢が崩れ、魔素砲は島に当たらなかったものの、あらぬ方向へと飛んでいった。
『っぐ・・・』
『はは、まだまだだよ』
蹴りによって空中へと吹き飛んだオレを追い越した追放神が、先ほどの意趣返しなのか、上から右ストレートを繰り出してきたので、それを何とか両手で受け止めると、追放神の手を掴んだまま右足を蹴り上げてカウンターをお見舞いする。
『それは喰らわん!』
『ぐはっ』
互いに巨体を操って攻防を繰り返す。時に位置を入れ替えては、両者ともに拳を振り抜いて顔を打ち合う。
『・・・いいね!楽しいよ!』
『・・・ああ、そうかい』
2体の巨神の体が揺れる。そうして、オレ達は一旦距離を空けて離れると、静寂が辺りを包んだ。
幾度めかの海の潮騒が響いた時、追放神が魔素砲を打つ体勢を取る。
『そろそろ終わりにしようか!避けたらどうなるかわかるよね?』
追放神の言葉にハッとしてオレは後ろを見ると、背後にはオステンエストがあった。どうやら誘導されていたらしい。
そして、オレが背後を確認している間にも、大口を開けた追放神に大量の魔素が集まっていく。
『上等だ!受けて立つ!!』
オレは両手に魔素を集めて組み合わせる。
今こそ、攻撃と防御の力を一つに!!
オレは組んだ両手をそのまま前に突き出すと、背中の羽根から推進力を爆発させて最高速度で真っ直ぐ追放神へと突き進む。
同時に追放神からレーザーのような特大の魔素砲がオレへと打ち込まれた。
魔素砲とオレの両手がぶつかり、魔素砲がオレを包み込んで全てを破壊するかに見えたその時、両手に集まった力が正面から魔素砲を消し飛ばしていく。
そう、攻撃と防御。相反する力を一つにして生まれるエネルギーは、全てを無に還す破壊の力だ。
オレは魔素砲を切り裂いて進み、その際に消しきれない魔素砲がオレの体を削っていくが、オレは構うことなく前へと進む。
『うおおおおおおお!いけえええええ!!』
オレの攻撃は追放神へと迫り、最後には追放神の顔をぶち抜いて通り抜けた。オレは振り返り、追放神の攻撃が止まっているのを確認すると、追放神の体がボロボロと崩壊を始めていった。
どうやら戦いは終わりらしい。
オレは合体を解くと、聖獣達は光の粒子となってエリス達の元へ飛んでいき、後にはヴァイスフォームとなったオレだけが残った。
オレは【聖盾】を足場がわりにして立ちながら、追放神のアバターが崩れるのを見ていると、どこからともなく声が響く。
『あーあ、これでも駄目かあ。これはいよいよ直接君と戦わないといけないかな』
残念そうなセリフなのに、どこか楽しそうに聞こえる追放神の声。
今回倒したのも所詮仮初の体であり、まだ追放神との戦いないということか。
『とはいえ、僕は身動きができないんだよね。だから、もし君が僕をどうにかしたいなら、君が僕のところへ来るといいよ。その為にこれをあげるよ』
オレの目の前に黒い水晶のような球体が現れたので、それをキャッチする。
『それを使えば僕のいるところまで一瞬で来ることができる。君が僕との決着を望むなら使えばいいよ』
ふむ・・・。そんな便利アイテムを急に渡すとは、罠でもあるのか・・・?
「急にこんなものをくれるなんて怪しいな・・・?」
『罠とかじゃないから安心してよ。僕はこの大地に顕現するには色々と制限がかかるからね。それだと君に勝てないと思ったのさ。だから・・・、それを使うなら覚悟を決めて使うのがいいよ』
最後の言葉を聞いた時、背筋に悪寒が走るのを感じた。
「なるほど。本気ってことか・・・。わかったよ。おまえのほうこそ、首を洗ってまってろよ」
『あははは!いいね!楽しみに待ってるよ。それじゃあね』
その言葉を最後に追放神のアバターは全て消滅したのだった。




