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それからもアーティ達に模擬戦を挑まれつつ、最終的にはエリスやアダルさんも加わって優雅な船の旅のはずが、全然優雅に過ごせなかったオレがいた・・・。
そんなこんなで船は進み、オレ達は無事にオステンエストに辿り着くことができた。
オステンエストは周りを海に囲まれた島国であり、大きさは前世で言うところの四国くらいかな。
国民は農業や漁業で自給自足で暮らしながら、この国独自で生産した織物等を輸出して香辛料などを輸入しているのだとか。
さて、これからどうするかな。
船を降りたオレは伸びをして体を解しながら今後のことを考えていると、プティーが声をかけてきた。
「先生はこれからどうされる予定ですか?」
「とりあえず、宿を取ってから島を色々と見て回ろうと思ってるよ」
「では、私の家に来ませんか?」
「そう言ってくれるのはありがたいけど、5人もいるとさすがに迷惑になるんじゃないか?」
「ふふ、大丈夫です。自慢ではありませんが、私の家はそこそこ大きくて部屋も十分ありますから、気にせずにいらしてください」
ふむ。カーラ様がプティーにお告げをするくらいだし、プティーの家に行く方が手掛かりあるかもな。
「ありがとう。それならご厄介になろうかな」
「はい。では、遣いの者を出しますから、少し茶屋でも入って時間を潰しましょう」
プティーはそう言うと近くにいた人に何か言伝をしてから、オレ達を茶屋へと案内してくれた。
茶屋まで歩きながら町を眺めると、木で出来た家屋が並んでいる。時代劇に出てくるような平家が多かったが、時折2階建の家も見えた。
茶屋に入るとプティーは慣れた様子で給仕の女性に注文をするが、その際に給仕の女性がプティーに対して畏まった態度をとっていたのが見えた。
オレの視線に気づいたプティーがニコリと微笑んだのを見ると、詮索無用ってことね。了解だ。
エリス達はお品書きを見ながら、初めて見る異国の食べ物について盛り上がっていた。
ほどなくして全員が注文を終えて、ぜんざいのようなものや桜色をしたまんじゅうとお茶が机に並べられていく。
「可愛い形ですねー」
「この黒っぽいのは豆ですか?」
アーティとエリスはそれぞれに注文したものを見ながら不思議そうな顔をしていた。
「こりゃうまいね!」
「本当だ。甘くておいしいよ」
エリス達とは対照的にリンカとアダルさんは、早速ぜんざいを食べて舌鼓を打つなか、オレはプティーに話を振ってみる。
「プティーの家はここから遠いの?」
「遠いというほどではありませんが少し歩きますね。ただ、何ぶん古い家ですので、豪華なおもてなしはできませんが・・・」
「いや泊めてくれるだけありがたいよ。そんなに気を使わないでくれ」
それからオレ達がゆっくりとお茶をしていると、遣いの人が戻ってきたので会計を済ましてプティーの家へと移動することにした。
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「これはすごいですね」
「確かにこれなら私達が全員来ても大丈夫そうですね」
オレ達が案内されたのは町中にあった家屋とは違い、まさに屋敷と呼ぶに相応しい作りをした大きい家だった。
「さ、どうぞこちらへ」
プティーのお付きの男性が先導して門をくぐると、玄関まで舗装された道が続いていた。そのまま進み玄関の扉を男性が開けるとプティーが家へと入る。
「ただいま帰りました」
プティーが帰りの挨拶をしてからしばらくして、着物を来た白髪まじりの清楚な女性がやってきた。
「おかえりなさいませお嬢様」
「ばあや。久しぶりですね」
「はい。お嬢様も元気そうでなによりです。そちらの方々が?」
「ええ、私のお客様です。客間へ案内していただけますか?」
「かしこまりました」
ばあやと呼ばれた女性とプティーの話が一区切りつくと、プティーはオレへと顔を向けた。
「先生。先にお荷物などを部屋へ置いておくつろぎください。その後で、父を紹介いたしますね」
「わかった。色々とありがとう。お世話になります」
オレはプティーにお礼を言ってから、ばあやさんへ声をかけると、彼女はニコリと笑顔になる。
「ようこそおいでくださいました。お嬢様にお仕えさせていただいおりますシャキラと申します」
「オレは冒険者をしているシュンと申します。オレの後ろにいる女性達はオレの恋人達です」
「狐人族のエリスと言います。お世話になります」
「私はアーティと言います。よろしくお願いします」
「アタイはリンカだ。鬼人族だ。世話になるよ」
「私は森人族のアダルと申します。しばらくお世話になります」
「まあまあ、これはこれは華やかなことですね。どうぞ皆様こちらへ。お部屋へご案内いたしますね」
ばあやさんの案内でオレ達は部屋へと移動すると、そこは5人が入ってもまだゆとりのある広い部屋だった。部屋には畳のようなものがしかれており、オレはどことなく懐かしい気持ちになる。
前世では畳なんてみかける機会が少なくなっていたけどな・・・。
「それでは、ゆっくりとおくつろぎください。準備ができましたらお声をかけに参ります」
ばあやさんは、そう言ってお辞儀をするとそっと扉を閉めて去っていった。
部屋に入ったオレは背もたれのある座椅子に座ると、テーブルの上に急須があったので、人数分お茶を入れる。
その間、アーティとリンカは部屋の作りが珍しいのか辺りを物色しており、エリスとアダルさんは部屋から見える庭を見ながらあれこれ話していた。
まあ、お茶は各々好きなタイミングで飲めばいいか。
オレはそう思いながら、1人お茶をすすってくつろぐのだった。




