7_8
いつもお読みいただいてありがとうございます。
今話のヒーロータイムです。
7
オレは今、メイヒムの港に来ている。この世界に来て初めての海。前世では直に海を見たのはいつだったか。
ここに来たのは、例の大型の魔物が見えないかと思ってきたわけで。見えるかなあとか思ったら、見えてたわー。その大きさから、港からでもイカみたいな形の魔物が見える。ゲームとかでもクラーケンってモンスターがいたな、それに似てる。
今、沖合には船はいないが、クラーケンは沖合で足をバシャバシャさせている。威嚇のつもりだろうか。それとも人類に対する怒りだろうか、ゴ◯ラ的な。まあ、この世界に放射能的なものはないだろうし、この世界の人類が海を汚すことはないはずなので、威嚇してんのかね。
ちなみに、クラーケンに対して神パワーは感じないので、ただの魔物か。でも、露店のおっちゃんは初めて見る魔物って言ってたし、どこから来たのかな。
しばらく見てると、クラーケンが海に潜っていった。
「海に潜ったな。何かあるのか?」
そう思った矢先に、遠くから船が1隻見えて来た。あれは、貿易船か?もしや、船が来てたからクラーケンは海に潜ったのか。だとしたら、マズいな。
オレの予想が当たり、港へさらに近づいて来た船の下から、10本の足が海の中から突き出し、船に巻きつき始めた。メキメキと音が聞こえそうな感じで、クラーケンの足が船を締め付け、そうして船をバラバラに粉砕してしまった。
船体や運ばれてきた貿易品などはそのまま海の藻屑と化してしまう。船に乗っていた船員達は、バラバラになった船の残骸にしがみつくことで、なんとか溺れることを回避していた。
クラーケンはそのまま船員達を襲うのかと思ったら、船を壊して満足したのか、船員達には反応せずにプカプカ浮かんでいる。うーん、一体何がしたいんだろうか。魔物の考えてることはわからんな。
しかし、海の上の船員達を助けないといずれ溺れてしまうな。どうしたもんだろと思ってたら、小舟が数隻、船員達の方へ向かっていく。クラーケンは小舟にも反応していない。大きいものに反応してるのかな。そうして、船員達は無事に小舟に回収されていった。さすがに、あんな小舟でクラーケンとは戦えんな。
まあ、オレは船で戦うつもりはないけどね。とりあえず、宿に戻ろうかな。決戦は明日の朝だ。
8
時間は夜明けの少し前、あと少ししたら日が登るかな。
今オレは、港に来ている。まだ街の人は眠りついている時間であり、こんな状況のため、船も出せないので周りに人気はない。
あれから船は港へ来ていない。しかし、遥か遠くで船が1隻停泊しているのが見えた。どうやら、クラーケンがいることに気付いて、距離を取っているようだ。
クラーケンも街から一定の距離を保っている様子で、その船まで近づくことはしていない。
さて、クラーケンには悪いが、君がいたらメイヒムに来た意味がなくなるのでね、退治させてもらうぞ。ただ、大きすぎるのとさすがに海にいたんでは、普通に倒すのは無理なので、奥の手をだそう。
オレは亜空間から青に輝くコインを取り出した。
オレはコインを右手に持つと、左手を腰に添える。すると腰にベルトが現れる。そのベルトのバックル部分にあるプレートを右から左へスライドする。
スライドしたそこには、コインをはめる穴があり、そこへコインを挿入すると、今度はプレートを左から右へスライドする。その瞬間、プレート部分から無機質な声が流れる。
『リヴァイアサンフォーム』
声が流れた瞬間に、青く輝く半透明の龍に酷似した海蛇が表れる。そして、オレの足元を中心に直径2メートルの水の渦が生まれ周囲に水の膜を吹き上げる。あらゆる攻撃を防ぐ絶対領域だ。続いて、オレの体を黒いスーツが覆い、半透明の海蛇がオレの全身を包みこむ。そして、腕・胸・腰・足に鎧という名のアーマーが装着される。最後に、龍のような形をした上顎がオレの額部分を覆い、下顎が変形してオレの口元を覆う。目元のみをマスクが装着されて完了。
全てのアーマーが装着された瞬間に渦は消える。そして、全身に青に輝くアーマーを着たオレが現れた。
腕は龍の麟を集めた形、足はつま先に爪があり龍の鱗模様のブーツ、胸は龍の爪が両方から被さるような装飾がついた形、腰は水の流れをイメージした形になっている。
「さあ、イカ退治といこうじゃないか」
そう言って、オレは港の桟橋から海へ歩き出す。このフォームになれば水の上を歩くことが可能である。また、水中での呼吸も可能となる為、水中戦もできる。
「良い感じだな」
問題なく海の上を歩けることを確認したので、オレは水流を操って滑るようにクラーケンへ近づいていく。徐々に速度を上げ、ジェットスキーのように水しぶきを上げながら海上を進んで行く。
クラーケンが近くにつれて、改めてその大きさに驚く。これ、何メートルくらいあるんだ?海の上に見えてる分でも、相当な大きさだ。首をすんごい上に向けて見上げる。昔、スカイツリーを下から見た時にもこんな感じだったなー。
オレが近づいてもクラーケンはオレを無視している。オレとしては好都合だな。
ちなみに、この姿のオレはあらゆる水魔法が使える。
「んじゃ、先制攻撃させてもらおうか。【水龍撃】!」
これは、水を龍の形にして敵を攻撃する。単純な水量による衝撃もあるが、水で作った牙によって、相手を食い破る。
ちなみに魔法は叫ばなくても出せる。叫ぶのは気分だな。
1匹の水龍がクラーケンの頭に噛みつく。噛みつかれたクラーケンは、すぐさま水の中から足を出して水龍を掴み、そして締め上げていく。そのまま、さらに足を追加して水龍を粉砕した。
クラーケンもさすがに自分を攻撃した相手は敵として認識したのか、オレの姿を見つけると、そのまま足を振り下ろしてくる。
とはいえ、オレは水の上を自由に動けるので難なくクラーケンの攻撃を躱す。
さっきの攻撃で少しはダメージを与えれたかな。しかし、直接攻撃しようにも、あの足が邪魔だな。オレは水を手に集めて片刃剣を作る。
攻撃を躱されたクラーケンは、攻撃する足の本数を増やして、さらにオレに振り下ろしてきた。
「ちょうどいい、お前の足を全部切らせてもらうぞ」
オレは剣を構え、振り下ろされる足に合わせて剣を横薙ぎする。その際にオレは剣の長さを自由に変えれるので、一気に剣を長くして足を切り飛ばす。
切られた足が、オレの上を通り過ぎ、背後へ飛んでいき盛大に水しぶきをあげる。オレは剣の長さを戻して移動し、海面に出ている足を次々切り落とす。
さらに再び【水龍撃】をクラーケンに放つ。クラーケンが防御の為に他の足を水中から出したところを狙って、さらに足を切る。
全ての足を切り終えたところで止めといこうか。
オレは、【水龍撃】を解除し、水魔法の【水流陣】でクラーケンの動きを封じる。この魔法は、水を紐状にして敵を縛る。
水の紐に縛られたクラーケンは【水流陣】から逃れようと必死にもがくが、逃げることは敵わない。
オレは、自分の足に力を集中したところで、水の柱を作り、自分を空中に飛ばす。
空中に飛んだ瞬間に腰のベルトから無機質な声が流れる。
『ファイナルアタック』
そのまま、空中で体を捻り、キックのポーズを取ると一直線にクラーケンへ向かっていく。
水が右足に集まり龍の形を作り、さらに水が螺旋を描き体を覆う。
「はあああああああ!!!」
そのまま、クラーケンへ蹴りを放つと、クラーケンは大きく海上を滑るように吹き飛んでいく。そして、爆発して四散した。
うむ、やはり爆発こそ美学よ。って、そんなこと考えてる場合じゃない!
クラーケンの吹き飛んだ方向に停泊していた船があった。そして、クラーケンの爆発により大きな津波が起こってしまい、このままでは船が飲み込まれる恐れがあった。
「いっかーーーーん!!!」
オレは急いで船のほうへ向かった。
船上では、クラーケンが何者かに攻撃されているのを船員達は遠巻きにみていた。その中に黒髪に簪をつけ、着物を着ている女の子もいた。
「クラーケンが攻撃されている?」
「そのようです。姫、何が起こるかわかりません、船内へお戻りください」
「船までかなりの距離があります。大丈夫でしょう」
「またそのような事を、何かあってからでは遅いんですぞ」
「じいの小言は耳にタコができます」
そんな事を話していると突如クラーケンが吹き飛び、爆発を起こした。
「な、何が起きたのですか!?」
「わかりませぬ!しかし、先ほどの爆発で大波が発生したようです!このままでは船が飲み込まれてしまう!皆の者!急ぎ船の出航を!!」
「ダメです!間に合いません!」
「っく。せめて姫だけでも・・・。姫!何かに捕まりくだされ。あの大波では、船内に避難しても無駄でしょう」
「わ、わかりました。神よ、どうか御加護を。私達をお守りください・・・」
というような会話をしていたようだが、オレが知るはずもなく。オレは必死に船の方へ向かっていた。そして、大波を追い越して船の前に立つ。
両手を前に突き出し、魔素で無理やり海を操作して大波とオレの間に高さ10メートル、横幅20メートルの半円のような形の水壁を作った。
その瞬間、壁に大波が当たるが、大波は半円の壁に沿うように左右に流れていく。
海面が大きく波打ち、オレの背後にある船が揺られるが、大波に船が飲まれることはなかった。
「ふう〜。間一髪か・・・」
いやー、調子にのってイカを吹っ飛ばしたら、船も吹っ飛ばしたとかなったら笑えないわ。船も無事みたいだし、よかったわ〜。
「姫、ご無事ですか!?」
「はい、私は無事です。皆は、他の船員の方々は無事ですか?」
「は!突然表れた水の壁が波を防いだ為に、船ともに被害はありません」
「そうですか、よかった。それより、なぜ、急に水の壁が?」
姫と呼ばれた黒髪の少女が船の端により、海面を覗くと海の上に青い鎧を着た人がいる。
「あれは人・・・?あの!貴方が助けてくださったのでしょうか?」
おお!?船から少女がオレに話しかけてきた。さて、なんと答えたものか。そもそもオレのせいなのだが・・・。いや、正直に話すか。といっても、どうせ、この事はいずれ忘れるんだから、話したところで意味はないんだが。
「いや、助けたというのは語弊がある。そもそも、オレが君たちを巻き込んでしまったようなものだ、すまなかった」
「いえ!港の付近に魔物がいて、困っておりました。退治していただいて、ありがとうございます。良ければ、お礼をしたいのですが!」
話し方とか見た目に気品を感じるな。どこぞの貴族かな。めんどうなことになりそうだし、さっさとお暇しよっかな。
「気にしなくていい。気持ちだけいただいておく。それでは、失礼する」
「お、お待ちください!!せめて、お名前をお聞かせください!」
はっはっは、待ってと言われて待つ奴はいないのだよ。さらばだ、明智君!オレは少女の言葉を無視して、さっさと船から離れ、街へ向かう。
リヴァイアサンフォームの速度に追いつける船など存在すまい。しかし、念には念をいれて海に潜って戻ろう。そうして、オレはメイヒムの街に戻っていった。
「姫、あまり無闇に声をかけるのはお控えてくだされ。もし、不埒者だったらどうなっていたか。しかも、あのような面妖な格好で海の上に立つ人など、物の怪の類やもしれませんぞ」
「じい!そのような発言は許しません!あの方から、神の力を感じました。不埒者どころか、私達を守ってくださったのですよ」
「なんと!?それは、失言でございました。申し訳ありません」
「いえ、私も言いすぎました。じいは私の身を案じてくれただけなのに。しかし、お礼もできず、名前も聞けませんでした。また、お会いできるでしょうか」
「我が国の巫女たる姫が望めば、必ず願いは聞き届けられましょうぞ」
「だと良いのですが」
という会話があったことなど知らないオレは、早起きしたので、早々に宿のベッドで二度寝するのだった。
面白ければブックマークをお願いいたします。




