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「やあシュン君。おまたせ」


「おはようございます・・・。アダルさん・・・」


「どうしたんだい・・・?何かヨレヨレじゃないか」


オレが出発前に若干(じゃっかん)疲れた顔をしていたのを見て、苦笑いするアダルさん。


「いえ・・・、エリス達に少しわがままを言われましてね」


「ふふ、愛されてるね。(うらや)ましいよ。とはいえ、彼女達には申し訳ないことしてしまったね」


羨ましいとは・・・。アダルさんも女性に愛されたいんだろうか。いかんな、精神的苦痛が続いたので思考回路が変になっている。


「しょうがないですよ。森人族の村が排他的(はいたてき)というなら、ぞろぞろと行くわけにも行きませんしね。それに、オレも人族ですからどうなるか・・・」


「それについては私が何とかしよう」


「何か妙案が?」


「ふふ、それは着いてのお楽しみさ。さあ、行こうか」


何だろうかイタズラをしかける子供のような顔をするな。ただ、その表情でさえイケメンだ。まあ、女性なのでイケメンという表現はおかしいかも知れんが・・・。


「そうですね。行きましょう」


道中は問題なく進み、5日かけて神樹があるという森の入り口まで来た。野営をするときに久しぶりに箱家を作り、お風呂も用意するとアダルさんは喜んでくれた。


5日も一緒にいるとそれなりに会話もするし、お風呂を先に入るように勧めた時。


「一緒に入るかい?」


「エリス達に殺されるので遠慮しておきます・・・」


「それは残念だね」


こんな感じで冗談も言うほどには仲が縮まった気がする。とはいえ、アダルさんほどの美人に言われると、思わずクラっとしてしまうので理性さんをフル稼働させる。


「さて、ここからが我らが森人の森なんだけど、村があるのは森の深いところでね。さらに言うと方向を狂わせる魔法も施されているんだ」


「排他的ここに極まれりですね・・・」


「はは、そうだね。けど、私には関係ないけどね」


「それはやはり森人だからですか?」


「それもあるけれど、声がね聞こえるんだ」


「声?」


「そう。神樹イオヌ様の声が私に村の方角を教えてくれるんだ」


「それはすごいですね」


オレがそう言うと、アダルさんは少しだけ寂しそうな顔をすると、すぐにパッと表情を変えて森へ入って行く。


「さあ、行こうか」


森に入ってすぐアダルさんが眉を寄せて口を開いた。


「おかしいな・・・。イオヌ様の声が聞こえない」


「何か起こったのかも知れませんね・・・」


「かも知れない。急ごう」


アダルさんは木々の間をひらりひらりと動いては、右へ左へと進んでいく。後ろをついていくが、もはや自分が来た方角すら(あや)しくなってきた。


そうして進むと木々の切れ間が見え視界が開けると、そこには木で出来たログハウス調の家々が並ぶ村が現れた。


アダルさんとオレは立ち止まり軽く辺りを見回すが、別段何か異常が起こっているようには見えなかった。そして、2人で村の入り口に立っていると、近くの木の上から男性の森人族(もりひとぞく)が2人降りてきた。


「何者だ!」


降りてきた2人は小ぶりのナイフを手に持ってオレとアダルさんを警戒する。そこへアダルさんが2人を見て軽く笑った。


「2人とも大きくなったじゃないか。あのちっこい男の子がいまや一端(いっぱし)の戦士だな」


「なっ!?」


「あ、貴方はアダル様」


2人はアダルさんを見て驚くとナイフを仕舞い姿勢を正しくする。


森人族の成長度合いはわからないが寿命はかなり長いと聞くな。そして、目の前の2人の子供の頃を知るアダルさん・・・。一体おいくつんだろうか・・・。


「シュン君。何か失礼なことを考えていないかい?」


「いえ、滅相もない。ただ、様付けなのが気になりまして・・・」


「ああ。後で説明するよ。とりあえず、父か長老を呼んでもらえないかな?ちょっと込み入った話なんだ」


「それには及ばんよ」


森人族の2人の男性の後ろから声が聞こえると、さらに2人の森人の男性が歩いてきた。1人は白髪に長髪の長い顎髭(あごひげ)をした男性に、もう1人はナイスミドルな金髪の男性だった。


「長老に父上。ちょうどよかったです。少し話を聞いていただけませんか?」


アダルさんがそう言うと、長老はちらっとオレを見てアダルさんに視線を戻した。


「話というのはそこの人族のことか?」


「それも含めてですね。一番の理由は神樹様のことでお伝えすることがあってやってまいりました」


「神樹様のお姿も見えぬお主がか?しかも森を離れておったお主が神樹様の何を知っておると?よもや、まだ声が聞こえるなどと(うそぶく)くつもりではあるまいな?」


「嘘はついておりませんよ長老。私は神樹様に呼ばれて帰ってきたのですから。それより、神樹様の声が聞こえませんが、神樹に何かあったんですか?」


「ふん。村を出たお主には関係ないことだ」


「長老。村を出ても我が娘です。そこまで言うことはないのでは?」


長老の隣にいたアダル父が意見するが、長老はフンと顔をそむけるのだった。


「アダル。ここ最近神樹様はお見えにならないのだ」


「アドン!余計なことを言うでない。アダルよお主が村に入るのは構わぬが、そこの人族はいかん。森の入り口まで帰せ」


ぬう、村に入れない流れな予感。アダルさんは妙案があると言っていたが、果たしてどうするのか・・・。


オレはチラッとアダルさんを見ると、アダルさんの顔からダラダラと冷や汗が流れていた。


「アダルさん!?」


オレは思わずギョッとしてアダルさんを見る。


「うむ。どうしようかシュン君。村にくればイオヌ様に考えがあると聞いていたんだけど、声が聞こえてこないんだ。しかも、姿も現してないとなると・・・」


「落ち着きましょう。とりあえず、何とか村に入れる方法を考えましょう」


と、オレがアダルさんに声をかけたタイミングでオレの中から力が抜けていく感覚があった。


神の力が抜けた・・・?


ほどなくしてオレの背中から緑の髪色をした女性が浮かび上がった。


『待たせてごめんねアダル』


「イオヌ様?」


「神樹様!」


突然現れた女性に膝をつく長老とアダル父。アダルさんは声が聞こえたようでホッとした顔をした。


ほほう。これが神樹イオヌ様か。夢では声しか聞こえなかったけど、今は姿が見えるだけだな。アダルさんには声が聞こえてるようだが。


「神樹様がどうして人族の背中から出現するのじゃ・・・」


そして、事態が全くわからない長老。オレも全くわからんが・・・。


「はあ・・・。頭がこんがらかってきたわい。ひとまずわしの家に来るがいい・・・」


「長老!人族を村に入れてよろしいのですか?」


「よい。ここしばらくお姿をお見かけしなかった神樹様が現れたのじゃ。少なくとも村や森に害をなす存在ではなかろう」


こうしてオレとアダルさん、それとアダル父ことアドンさんで長老の家に行くことになったのだ。

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