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夜営をしてから次の日には村につき、レインさんの所用を済ませて村で1泊した。
その後順調に旅は進み、明日にはメイヒムに着きそうだ。
村を出てからの夜営ではオレが箱家を作り、夕食の準備をすることになった。3人には大変好評だ。
アーティなんて、もうテントでは過ごせないと言うほどだった。それは知らんぞ。贅沢を覚えた自分を恨むが良い。
そして、今日は最後の夜営の日だ。
「ねー、シュンさん。私達のパーティーに入ってくださいよー」
「だから、それは何回も断ってるだろ。いいかげん諦めてくれ」
箱家を作ったり、料理をしてからというもの、アーティにしつこく勧誘を受けている。
「アーティ、そろそろやめろよ。シュンさんが困ってるだろう」
「兄さんだって、シュンさんがいてくれたほうがいいでしょ?」
「例えそうでも、シュンさんのほうが階級が上なんだから、俺達と一緒になる利点がないじゃないか」
「私のような美少女と一緒にいられるじゃないですか。ね、シュンさん」
オレは、アーティを見て思わず鼻で笑ってしまう。
「っへ。そういうのは、もう少し大人になってから言うんだな。それに、オレにはエリスがいるんで、そういうのは間に合ってるよ」
「あ、ひどい。ていうか、エリスさんと恋仲って本当だったんですね」
「本当だよ。そのおかげで組合に行ったら、男冒険者からすごい目で見られるぞ」
「エリスさん人気でしたから。これまで誰ともそういう仲にならなかったのに、急に男ができたってなったら、それは嫉妬されますよ。それに、エリスさんも最近、男冒険者に言い寄られたときに、シュンさんがいるからって断ってるそうですよ。余計に嫉妬されますよね」
アーティめ、いやらしい笑顔をしやがるな。さっきの返事を根に持ってるのか。とはいえ、そうか、最近組合の外でも何かヘイトを稼ぐなーとか思ってたら、エリスがそういう断りをしてたのもあるのか。月のない夜は気をつけよう。
「でも、エリスさんの気持ちもわかりますよ。シュンさんなら有りです」
「何が有りなのかわからんが、そういう冗談はあまり男にいうもんじゃないぞ。それに、そろそろやめてやれ、メルトが微妙な顔をしてる」
さっきからメルトはずっと苦笑いを浮かべていた。それはそうだろう、兄妹の恋愛事情なんて聞きたくないだろうしな。
「冗談じゃないんですけどね」
なにやらブツブツとアーティが呟いているが、そろそろ寝る準備をしないとな。
「さて、そろそろ寝よう。明日にはメイヒムに着くだろうし。ここまで何事もなく来たんだ。最後まで油断せずにいこう」
「そうですね。ほらアーティ、先に寝て良いよ。夜の番は俺が最初にするから」
「はーい。じゃあ、おやすみなさい。兄さん、シュンさん」
そう言ってオレの用意した箱家に入って行った。
「シュンさん、すいません。妹が変なことを言って」
「気にしてないさ。オレも寝るよ。後は頼んだ」
「はい、おやすみなさい」
オレはメルトに挨拶をして眠りについた。
皆が寝静まってからしばらくして、妙な気配を感じて目を覚ました。魔物避けを設置してあるから、おそらく野盗の類いじゃなかろうか。街道の近くに箱状の建物が急にできたら、さすがに目立つか。オレは装備を整えてから外にでる。
外ではアーティが番をしていたので、それなりに時間は経ってるってことか。
「あれ?シュンさん、もう起きてきたんですか?それとも、私が1人で番をしてるからって、いかがわしいことをしに来たんですかー?」
「アホか、どうやらお客さんだ。メルトを起こしてこい。それまでオレが見張る」
オレの雰囲気を感じたのか、真剣な顔になって、メルトの寝ている箱家に入っていく。ちゃんと意識の切り替えができるのはさすがだな。さて、そうしてる間に、あちらさんが仕掛けてきたようだ。遠くから矢がオレの方へ飛んでくる。オレはそれを難なく躱して矢が来た方を見る。オレからは全く見えないが、向こうはどうやらこっちが見えているらしい。そういう技能ってことかね。
すると、その矢が合図だったのか、暗闇から3人の男が出てきたので、オレも剣を抜いて構える。
「すいません、シュンさん。お待たせしました」
「お兄ちゃんを起こしてきましたよ、シュンさん」
「ああ、野盗の襲撃だ。ここの3人に、恐らく向こうに弓を持った奴がいる。暗くて見えん。他にもいるかもしれないから、周囲には気を配れ」
「わかりました。アーティはその弓のやつを見つけてくれ。その後、レインさんを頼む。俺は、ここを抑える。シュンさん、すいません。手伝っていただけますか?」
「もちろんだ。ただ、アーティのほうは大丈夫なのか?この暗闇だと何も見えないが」
「アーティの技能ならやれるはずなんで、任せます」
「なるほど、なら、そっちは安心してまかせようか、ね」
と、オレはメルトに返事をした瞬間に3人の野盗へ走り出した。野盗は前に2人、後ろに1人と三角形のように並んでいる。オレは、野盗に近づくと一気に跳躍して、足につけているナイフを向かって左の野盗に投げつつ、一番後ろの野盗の前に降り立つ。オレが急に動き出したので、驚いた野盗達は全く対応できず、左の野盗の右肩にナイフが刺さり、悲鳴をあげた。
メルトもオレの急な動きに驚いてはいたが、ナイフが野盗に当たった時には、剣を構えて、右隣の野盗に切り込んでいった。
メルトがそいつと戦っている間に、オレは目の前の野盗へ剣で左から右へ袈裟斬りをする。切り裂かれた野盗は声をあげる間も無く崩れ落ちた。
そして、オレの背後にいたナイフが刺さった野盗が、手に持った斧でオレを攻撃しようとしてきたので、オレはそれを剣で弾くと、返す刀で野盗を切り伏せた。その後、オレは周囲を探り、他に仲間がいないかを警戒する。
一方のアーティは、オレが指で指した方へ視線を向けながら、弓を持った野盗を探していた。その時、アーティを狙って矢が飛んできたが、アーティは矢の軌道を冷静に読み、躱しながら矢を番えた瞬間に矢を放つ。そして、少し時間を置いてから弓の構えを解き、レインさんに声をかけている。
ほお、どうやらアーティには飛んできた矢が見えてたようだな。オレは矢が近づいてから躱すのが精々だったが、アーティは飛んできた瞬間には動いていた。しかも、飛んできた方角から野盗の場所もわかったみたいだ。
ホークアイ的な技能かな、スナイパーっぽくてかっこいいな。オレも自分の技能で弓は扱えるんだろうけど、遠くが見えるわけじゃないし、アーティのように戦う自信はないな。そもそも弓を使ったことないしな。
さて、他に伏兵はいないみたいだ。オレの近くではメルト君が頑張っているなあ。相手の野盗は剣を持っている。身のこなしから、こいつがリーダーっぽい。こいつは他と動きが違うんで、恐らくオレが倒した2人は、こいつに唆されてついてきたってとこかな。
メルトが右へ回り込んで下から上に切り上げるが、野盗も後ろに下がってそれを躱す。今度は、野盗がメルトへ上段から剣を振り下ろすが、野盗が下がった分、メルトも剣を構え直す時間ができ、それを正面から受ける。数回ほど打ち合った後、メルトの剣が野盗の胸を貫いた。最後は野盗のほうが体力がなくなり、動きにキレがなくなったのが敗因ってとこかな。
「お疲れさん」
「はあはあ、どうも」
とはいえ、メルトもぜえぜえ言ってるな。ま、命のやり取りでは体力も精神力も削られるから当然か。
「こいつら大した装備でもないですし、村や町で落ちぶれた奴でしょうか」
「そうかもな。メルトが相手をしたやつだけ、ちょっと良い剣使ってたし、元冒険者かもな」
「兄さん、大丈夫?」
オレ達が話してるのを見て、安全だと思ったのだろう。アーティがこっちへ向かってきた。ちなみに、オレの心配はしていないようだ。おかしくね?
「俺は大丈夫だ。アーティこそ、レインさんから離れるなよ」
「まったく、心配してる妹にその発言はどうなの?兄さん。レインさんなら大丈夫よ。周りを調べたけど、人も魔物もいなかったわ。それに、何かいればシュンさんが気付いてくれるでしょうし」
「ああ、それは大丈夫。けど、これはお前達の依頼ということを忘れるなよ。ま、冒険者は助け合いだから、協力できるところはしてやるがな」
「すいません、シュンさん。シュンさんの言う通りだ。ほら、アーティも謝れ」
「はーい、ごめんなさい」
口を尖らせて可愛く謝るアーティ。
この態度である。反省しているのかわからんが、いつか痛い目に合わないことを祈ろう。
メルトの苦労を感じてしまうな、頑張れお兄さん。
その後、レインさんの無事も改めて確認し、レインさんはそのまま出発まで休んだ。メルトは目が冴えたということで、野盗の後始末をした後、アーティと番をするそうだ。オレは、自分の箱家でゆっくりした。
そうして、最後に野盗の襲撃があったものの、全員無事にメイヒムに着いたのだった。
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