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次の日リンカ達”槍水仙(やりすいせん)”の4人は洞穴を目指して村を出発した。


「アタイ達が村に着いた日と昨日と、魔物の襲撃はなかったねえ」


「そうね。洞穴付近を調べてみたけど、別段魔物が多くはなかったわね」


「ますます、怪しいねえ・・・」


やれやれと思いながらアリックスに返事をしつつリンカは空を(あお)ぎ見る。見上げた空は気持ちとは裏腹にどこまでも青く澄んでいた。


「とはいえ、魔物の種類が普段と違う組み合わせで出てきたのは気になるわ。何も起きなければいいけどね」


エスカテリーナもこの依頼に対してどこかおかしいものを感じていたが、仮にも王国に本部がある冒険者組合からの依頼なので、それを疑うわけにもいかないのだ。


そうしている間に洞穴が見えてきた。


「さてねえ、本格的に洞穴に入るわけだけど、こんな場所にある洞穴ならそんなに広くはないのかねえ」


「そうは限らないわよリンカ。もし下に広がっていたら見かけよりも深くて広い可能性があるもの」


「なるほどね。ま、いくしかないか。準備はいいかい?」


リンカは自分のかけた声に対して、3人が(うなず)くのを確認すると洞穴へと歩き出した。

洞穴の通路はそれなりに幅広く、そしてエスカテリーナの言った通りゆったりと坂道を(くだ)るように下に広がっているようだ。

リンカ達はエスカテリーナを先頭に辺りを警戒しながら進む。道は一本道となっており横からの奇襲はなさそうだった。


しばらく進むと大きな空間に辿り着き、その空間にはいくつかの穴見える。


「どうやら分かれ道みたいだねえ。どうする?」


「こういうときは端から順番に調べて行きましょう。それに、ここに来るまで1匹も魔物が出なかったのはおかしいわ・・・」


「確かに・・・、村長はここに魔物の巣ができたとかって言ってたのにねえ・・・」


リンカ達が向かって一番右に見える通路へ進もうとした時、正面の通路から1人の男が歩いてきた。


「これは、最後に中々の土産が出来そうだな」


男は下卑(げび)た笑いを浮かべながらリンカ達4人を舐め回すような視線で見つめてきた。


「何だい、アンタは?気持ち悪い顔してこっちを見てんじゃないよ」


「オレか?オレは商人さ」


「とても商人には見えないけどねえ・・・」


商人と名乗った男の衣服は所々汚れており、とても真っ当な商人とは思えない。そして、男は片手をあげるとリンカ達に振り下ろした。


「ああ、オレが扱っているのは人や魔物だからな!」


さらに男がそう言うとリンカ達がきた通路からゴブリンやウルフ、芋虫のような魔物が現れ、さらにゴブリン達数匹が大きな岩を持ち上げて入口を塞いだ。

そして、男の後ろの通路からもゴブリン達が現れ、その中には数体大きな体をもった個体もいた。


「さあ、オマエラあいつらを捕まえろ!多少痛めつけても構わん!」


男が号令を出すと、魔物達が一斉にリンカ達へ襲いかかってきた。


(魔物が人の言うことを聞くってのかい?そういう技能ってことか)


「ポリーナ!」


リンカは思考を切り替えて短くポリーナの名前を呼ぶと、ポリーナは盾を構えて反転し、背後から襲ってくる魔物の群れへ突っ込んでいく。


「はあああああああ!」


ポリーナは叫びを上げながら突進すると、魔物を跳ね飛ばして背後の壁まで一気に走っていく。その後ろをアリックスとエスカテリーナが続き、リンカは剣を抜くと右側へ駆け出し、ゴブリンを切り裂いて行った。


ポリーナは壁を背にすることで背後からの死角を(ふさ)ぐ。ポリーナの後ろではアリックスとエスカテリーナがそれぞれの方法で、リンカを遠距離から援護していった。


東の森に出る強力な魔物と戦うようになり、装備も慎重した”槍水仙”にとって、ゴブリンやウルフといった魔物はすでに脅威になることはなかった。


リンカは剣を横へ振り抜いてゴブリンの胴を切り、下からすくうようにウルフの首に剣撃を当てる。そうして、あっという間に半数の魔物を(ほふ)っていったのだった。


「雑魚がいくら集まっても問題ないねえ。さて、そろそろアンタを倒して帰るとしようかね」


リンカは剣の切っ先を男に向けて笑う。それを見た男は怒りに身を震わせて声を張り上げた。


「調子に乗るなよ!おい、お前らあいつらを連れてこい!」


男がそういうと、背後の通路からじゃらじゃらとと鉄がすり合わせるような音が聞こえ、3人の盗賊風の男達が現れた。

その3人の手には鎖が握られており、その先は3人の若い娘の首に繋がれていた。


「へへ、手こずってるようですね、(かしら)


「うるせえ。おい、お前ら下手なことをしやがったらこいつらがどうなるかわからんぞ?」


最初の男は(かしら)と呼ばれたので、他の男達のリーダーなのだろう。そして、他の3人は敢えていうなら盗賊A・B・Cといったところだろうか。


頭と呼ばれた男が盗賊Aから鎖を奪うと、鎖に繋がれた少女を無理やり自身のところへひっぱった。


「うぐっ・・・」


少女が痛みに短い悲鳴を上げるとリンカの顔が怒りに染まる。少女には多数の暴行された跡があり、それがさらにリンカの怒りの炎に(まき)をくべる。


「この下衆が・・・」


「はは!いいね!その顔。その下衆にこれから良いようにされるのがお前だけどな!」


(かしら)が再び下卑た笑いを浮かべる。


「さて、じゃあ武器を捨てろ!後ろの3人もだ!!」


(かしら)の言う通りにアリックス達3人は持っていた武器を地面に置く。ただし、リンカだけは地面に置くフリをして、アンダースローで剣を(かしら)へ投げつけようとした。


リンカの動作を見た(かしら)咄嗟(とっさ)に手に持っていた鎖を引いて少女を盾にした。


(まずっ・・・)


それを見たリンカは何とか剣の軌道をずらすと、剣は(かしら)側頭部(そくとうぶ)の髪を散らしながら後ろの壁へと突き刺さった。


「てめえええええ!!」


(かしら)は怒りに震え、腰につけていたナイフを抜くと、少女へ突き立てようとした。


「待ちな!!」


リンカが大声を上げると、あまりの声量に(かしら)が驚いて手を止める。


「悪いねえ。手が滑っちまっただけなんだよ。別にあんたを狙ったわけじゃないだ」


「ふざけてんじゃねえぞ!!」


リンカがヘラヘラと笑いながら言った言葉に(かしら)激昂(げきこう)して声を張りあげる。それが合図となって突然リンカの後頭部に強い衝撃が走り、リンカは思わず前のめりになって膝をついた。


「おい!そいつを痛めつけろ!」


リンカを攻撃したのは一際大きいゴブリンであり、その手には棍棒が握られていた。そして、その先には赤い血の跡がついている。


(っく・・・、意識が・・・。それに目に血が入っちまったかねえ。目の前が真っ赤だよ・・・)


朦朧(もうろう)とする意識の中、今度は背中に衝撃が走った。


「ぐあ・・・」


ゴブリンの棍棒による攻撃が何度もリンカを打ち付ける。


「リンカ!!」


リンカの体がどんどん傷つき防具がその形を変えていくのを見て、アリックスがリンカの名を呼ぶ。

しかし、ゴブリンは攻撃を止めることをせず、ついにリンカは動かなくなってしまう。


「よし、そこまでだ。おい、お前ちょっと見てこい」


(かしら)は盗賊Aにリンカの様子を見てくるように命令すると、盗賊Aはリンカの側へ歩いていった。

薄れゆく意識の中、リンカはかつて魔物の大軍と戦った時のことを思い出した。


(あの時も絶望的な気持ちだったねえ・・・。あの時は旦那が助けてくれたんだったねえ。それから旦那やリンカの(あね)さんに鍛えてもらい、アーティと何度も依頼こなして、アタイも少しは強くなったと思ったんだけどね・・・)


盗賊Aはリンカの髪の毛を掴むとグイッと顔を上げる。


(かしら)ー。こいつはちょっとやりすぎですぜ?これじゃあ、楽しめねえよ」


盗賊Aはそう言いながら笑っていた。


「あんた!!その汚い手を離しなさいよ!」


エスカテリーナが盗賊Aに叫ぶが、盗賊Aはニヤニヤ笑いさらに右手でリンカの頬を()った。

その痛みが朦朧(もうろう)としていたリンカの意識を戻す。


(・・・けどねえ、旦那から教えてもらったのさ。最後まで足掻(あが)くってことをね。ボロボロだろうが、無理と言われようが、最後の最後まで足掻いてやろうじゃないかい!!)


リンカは右手で拳を作り、そこに今出せる全ての力を込めると、盗賊Aの胸を目掛けて前に突き出した。


「ああああああああああ!!!!」


リンカの雄叫びが響き、その拳に技能(ぎのう)による力が宿る。そして、その拳は盗賊Aの胸を貫くと心臓を破壊した。


「え・・・。ごふっ・・・」


盗賊Aは自分に起きたことが信じられないという表情のまま、その目から光が失われる。リンカは腕を引き抜くとゆらりと立ち上がる。


もはや立っているのがやっとの状態のリンカだが、グッと歯を食いしばると(かしら)を睨みつけると、その迫力に(かしら)は冷や汗を流して一歩下がった。


「て・・・、てめえ!もう許さねえ!!ぶっ殺してやる!」


「ま・・だ・・だよ・・、アタイは、こんな・・・と・・ころ・・で・・・」


(かしら)の声に反応して周りの魔物達が一斉にリンカを襲うために動き出す。


「終われないんだよお!」


リンカが再び声をあげると目の前に赤く輝くコインが現れ、コインから小さな火の鳥であるフェニックスが出現した。


ミニフェニックスが一鳴きするとリンカの傷が立ち所に治り、さらにボロボロになったはずの装備までもが元の姿を取り戻した。そして、そのありえない光景に周りは動くことができなかった。


「傷が治って・・・。それにこれは・・・旦那の持ってたコイン」


リンカは傷が癒え、自分の体に全く痛みがないことに驚く。同時にシュンが助けてくれたのだと思うと心が熱くなり、自然と笑顔が(こぼ)れた。


「さあ!今度はアタイの番だよ!」


リンカの反撃が始まる。

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