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さて、メルト達と別れてからアーティが夕食を作り始めたので、その手伝いをする。
「オレはメルトと飲んじゃったんで、3人分でいいよ」
「えー!昼間から飲んでたのかい!それならアタイも誘って欲しかったよ」
「誘うというか、リンカはアリックス達と買い物に行ってたんだろ?」
「ああ。アーティがアタイはもっとした・・・」
「わー!わー!シュンさんの前でその話しちゃだめですよ!」
リンカに最後まで言わせまいと、アーティがリンカの口を塞いでいた。2人がじゃれていると家の扉が開き、
「ただいまです。はあ、暖かい・・・」
「おかえり、エリス」
エリスが帰ってきたので、急いで夕食を作ることにした。その後、夕食を食べつつ、”朝顔”というパーティーが来たという話をする。
「冒険者組合からの依頼だってメルトが言ってたけど、エリスは何か知ってる?」
オレはエールを飲みながらエリスに聞いてみる。ちなみに、エールは家に樽買いしており、オレが飲む時はもちろん冷やして飲んでいる。
「聞いてますよ。東の森の調査をしてもらう為に、王都から来てもらったそうです。”朝顔”は調査系の依頼に秀でてるので、今回選ばれたみたいですね」
「ほうほう。東の森の調査って、何か異変でも出てるの?」
「異変というのではないみたいですけど、最近中層の魔物を森に入ったところで見かけたという報告があったので、魔物の数と種類を調べてもらう予定です」
「ああ、確かに中層の魔物が森の入り口らへんにいたことがったあったねえ」
リンカがエリスの言った内容に相槌をうつ。
中層の魔物は駆け出し冒険者達なら軽くひねれるくらいの強さがあるから、森の入り口で見かけるというのは危ない話だ。
「それって、中層の魔物が増えすぎてるってことかな?」
「恐らく・・・。前まではクリオールの冒険者組合が、定期的に東の森を調査して、魔物を討伐していたそうです。けど、ここ3年ほどは調査しても魔物の数は少なかったと聞いてます」
「なるほどな。定期的に討伐してたわけか。ということは、魔物の数が増えてきてるんだろうな」
「その為の調査ですね」
話が一段落したところで、アーティが首を傾げながらエリスに話しかけた。
「でも不思議なこともあるもんですね。どうして、3年くらいは魔物の数が少なかったんですかね?」
「どうしてかしらね?3年前に東の森で何かあったのかもしれないわね。3年前は私も組合に入ったばかりの頃だから、先輩受付嬢なら何か知ってるかもしれないわ」
「3年前か、オレとエリスが出会ったのもその時くらいだったな」
オレは当時のことを思い出しながら呟く。
あの時は本当に大変だったなあ・・・。
オレの呟きを聞いたエリスとアーティ、リンカが無言でオレを見つめてきた。
「ん?どうかしたか?」
「シュンさんて、3年前にクリオールに来たんですよね?それ以前はどこに住んでたんですか?」
「ここに来る前か?東の森だよアーティ」
オレはニコッと笑いながらアーティに答える。
「・・・ちなみに、旦那は森に住んでる時はどうやって暮らしてたんだい?」
「んー?野草を採ったり、狩りをしたりしてたな。リンカも故郷ではそうしてたんじゃないのか?」
「まあ、確かにそうだねえ」
「その時魔物に襲われたりしなかったんですか?」
「いやいや、しょっちゅう襲われてたよ。その度に返り討ちにしてやったけどね」
オレがそう言うとエリス達は視線を合わせて頷き、
「シュンさんでしたか」
「シュンさんですね」
「旦那だったか」
などとわけのわからないことを言ってきたので、オレ1人が倒せる魔物の数なんて、たかが知れてるだろうと反論するも、3人とも呆れたような、哀れむような微妙な表情をするだけだった。
解せぬ・・・。
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そうして”朝顔”を筆頭に東の森の調査が始まった。調査隊は”朝顔”の4人の他に、”槍水仙”のリンカ達4人と、他には男性冒険者が数名いた。
「ちょっとー。そこの黒髪のデカ女、あんまし前に出ないでね。巻き添えにしちゃうから」
「ああん!?デカ女ってアタイのことかい!」
”朝顔”のリーダーであるアデリタの言葉にリンカが反応する。だが、ギャーギャーと喚くリンカを無視してアデリタは魔物を倒していった。
”朝顔”は4人パーティーであり、まずは超美人と言われるアデリタ。銀髪で前髪を切りそろえつつも右側だけ長くした髪型をしている。剣と魔法を使う前衛である。
他には、オロフという黒い体毛をした犬人族の男性に、”朝顔”の参謀的ポジションのアードルフと呼ばれる人族の男性。最後にタンカーとしてバーラという全身を鎧で包んで盾と斧を持った大柄な人物がいた。
アデリタの見事な動きに男性冒険者達が見惚れてしまう。そして、1人の男性冒険者がアデリタが倒した魔物に近づいきながら、アデリタに声をかける。
「アデリタさん!解体は俺にまかせてください!」
「本当ですかー?助かります。頼りになりますね」
アデリタはそう言うと解体を申し出た男性冒険者にニコリと微笑むと、男性冒険者がにやけた表情になる。
「ずるいぞ!俺がやりますよ!」
それを見た他の男性冒険者も、負けじと魔物へ駆け寄って解体作業を始めるのだった。
「っけ・・・。アタイの時と随分態度が違うじゃないかい」
その光景を見たリンカが悪態をつくと、そこへアードルフが近づいてきた。
「すいません。ウチのアデリタが失礼なことをしてしまって」
アードルフが申し訳なさそう顔で謝罪すると、リンカも少し落ち着いて口を開いた。
「アンタが謝ることじゃないだろう」
「それはそうなんですが・・・、アデリタはあの性格でして、度々女性冒険者と衝突してしまうので・・・」
「アンタが仲裁役ってわけかい。注意はしないのかい?」
「最初の頃は注意してたんですけどね・・・」
アードルフは苦笑して言った。
「アンタも苦労してるねえ・・・」
その後も、アデリタは男性には甘い声を出すが、女性にはツンケンするという態度に、”槍水仙”の面々はイライラしながら東の森を調査していったのだった。
「ってことがあったんだよ!旦那〜」
「わかったから耳元で大きい声を出すな」
リンカが家に帰ってくるなりオレに飛びついてきたと思ったら、今日あったことを愚痴り出した。ついでに言うと、オレは椅子に座っており、はたから見るとリンカは◯っこちゃん人形のようだ。
しかも鎧もそのままなのでゴリゴリと当たって痛いし、オレの肩にリンカが顎を乗せて喋るもんだから耳元でうるさい・・・。
しかし、オレは我慢しながらリンカの頭を撫でてやった。
「わかったから、そろそろ部屋に戻って装備くらいは置いてこい。あと、風呂にも入ってこい」
「わかった」
ようやくオレを解放して、ノロノロと2階にあがっていくリンカを見送ると、やれやれとため息をつく。オレはお茶でも飲もうと顔を正面にむけると、キラキラと輝いた目をしたエリスとアーティが手を広げて座っていた。
「次は私たちの番ですよね!」
と笑顔でいうエリスを見ると、オレはじと目になって冷や汗を流すのだった。




