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オレの感謝を聞けー!
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オレはクリオール城の近くにある建物に降り立つと、変身を解除してから入り口まで歩いて行った。
さて、いきなり来ても会えないかな・・・。無理なら上から侵入するか。
オレに気づいた門番が声をかけてくる。
「そこの者何用だ?」
「失礼。私は冒険者のシュンと申します。クーノ様とは石鹸の事業でご一緒したものでして。急に尋ねてしまい申し訳ありませんが、急ぎクーノ様に伝えたいことがあって参りました。お取次をお願いできませんか?」
「たかが冒険者が公爵様とお知り合いな訳がなかろう!怪しい奴め!即刻立ち去るがいい!」
オレに向かって声を張り上げる門番。
まあ急な訪問だったし、クーノ様が忙しいなら諦めれるが、取次もしてくれないとは・・・。石鹸の事業化の時に結構ここにきてたはずなんだけどな・・・。
さて、どうしたものかな。
オレが一旦帰ろうと思い城に背を向けると、1人のメイドが買い物かごを持って歩いてくるのが見えた。
あれは・・・、リオニー様のところの変態メイドじゃないか・・・。
オレは変態メイドことマルガに気づかれないように、彼女から遠ざかるように斜め方向へ歩く。
すると、マルガは歩く向きを変えてオレに近づいてくるので、オレはさっきとは逆方向へ進路を変えた。しかし、マルガはオレに合わせるように進行方向を変えてくる。
おのれ・・・、なぜこっちへ来るのだ・・・。
そして、オレの奮闘も虚しくついにマルガと鉢合わせてしまうのだった。
「お久しぶりです、シュン様」
以前会った時と変わらず、黒髪のつり目に浅黒い肌をしたマルガが、薄く微笑みながらオレに挨拶をしてくれた。
「あ、ああ・・・、久しぶりだな。マルガ」
「名前を覚えてくださったんですね。光栄です。それで今日はどうしたのでしょう?城のほうから歩いてこられましたが、まるで私を避けるように歩いていたのは気のせいでしょうか?」
「あれ?そうだったかな?気のせいじゃないかな?ちょっと日差しが眩しくてふらついてしまったかもな」
「なるほど。それはいけませんね。では、ちょうど良いので城でご休憩なさってください。リオニー様もお喜びになりますし」
「いや・・・、それはありがたいんだけど、クーノ様に用事があってさ・・・。忙しいみたいなんで、日を改めようかなと・・・」
「それならばおまかせください。私がクーノ様にシュン様が来られたのをお伝えしてきますので、それまでリオニー様のお相手をお願いいたしますね」
そう言いながらマルガは空いていた右腕にオレの腕を絡ませて、城の中まで無理やり引きずっていくのだった。
その際に、オレを追い返した門番が顔を青くしていた。
恐らく、オレが本当に公爵様の知り合いだったので、さっきのやりとりについて、告げ口されるのを恐れたのだろう。
大丈夫わかっているとも。君は仕事をしただけだ。
しかし、取り次ぎの確認をしなかったことについてはしっかり報告してやるからな・・・くくく。
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オレは客間に通されてリオニー様の話を聞いていた。そして、マルガはクーノ様へオレの訪問を伝えに行ってくれた。
「シュンさんはお忙しいみたいですね。最近は全然家に来てくれませんし」
そう言ってプリプリと頬を膨らますのは、クーノ公爵の妻であるリオニー様だ。
少し癖毛でウェーブがかった銀髪を胸元あたりまで伸ばしている。
オレも大概だが、リオニー様もオレとほぼ同じ歳なのに、その姿は若々しい。
「いやあ・・・、確かに忙しくはありましたね。ただ、一介の冒険者が公爵家においそれとは来れないでしょう・・・?」
オレは冷や汗をかきながらリオニーに返事をする。
「そんなものは私のほうで何とでもなります。ですので、気にせず来ていただいて構いませんよ」
そうニコリと笑うリオニー様だが、何とでもというが、一体どうするつもりなのか・・・。
それからしばらく、リオニー様の体調が回復してからの話を聞く。社交界にも出るようになったが、相変わらず御婦人の話は面白いとは思えず、冒険していた頃が懐かしいという。
あとクッキーのレシピを教えたお礼も言われたが、それはお金をいただいたので、気にしないでくださいと返事をしておいた。
その後、扉をノックする音が聞こえ、扉の向こうからクーノ様が入って来たのが見えたので、オレはクーノ様に挨拶をしてからハンフリー領の話をした。
「なるほどな。パスカル辺境伯には確かに様々な噂がある。ただ、どれも噂程度で証拠などがあるわけではないのだ」
「王家で調べたりしなかったのでしょうか?」
「もちろん調査は何回かしたと聞いたが、何も疑わしいものはなかったのだ」
ふむ。カスパルの部屋の隠し部屋とか見つけられなかったのだろうか?
「そうでしたか。ではこれを見ていただけますか?」
オレはそう言ってカスパルの隠し部屋で見つけた裏帳簿を机に出した。
「これは?」
「カスパルの屋敷にて見つけたものです。恐らく裏帳簿かと思うのですが」
オレがそう言うと、何か言いたそうな顔をするクーノ様だったが、まずは裏帳簿を手にとってパラパラと中身を確認した。
「これは確かにカスパル伯のものだな。彼の署名もいくつか見受けられる」
「これをどうにか使えないでしょうか?」
「うむ・・・。この帳簿を王家の財務卿に持っていけば、カスパル伯が報告した帳簿と照らし合わせてくれるだろう。そして、カスパル伯が不正を行っていたならこの帳簿は決定的な証拠になるはずだ」
「では、この帳簿を預けてもよろしいでしょうか?生憎、私には伝手がありませんので」
「わかった。私が王家へ提出しよう。ようやくリオニーを助けてくれたお礼ができそうだな」
クーノ様はそう言って柔らかく笑うのだった。そうして話が一段落したところで、これまで空気だったリオニー様が口を開いた。
「さて、難しい話はお終いね?じゃあ、悪いけどクーノ、シュンさんを借りて行くわね」
そう言ってオレを掴んで客間から引っ張っていく。
ちょっ!?力強いな。さすが元聖女・・・。
「か、借りるってどこに行くんですか?」
オレは慌ててリオニー様へ質問する。
「厨房よ。マルガにクッキー作りを伝授して欲しいの。どうしてもシュンさんの作るクッキーの味に一歩及ばないのよねー。マルガも珍しくワクワクしてたわよ。あの子に随分気に入られてるわね」
「う、嬉しくないです。ていうか、オレこの後ハンフリーに戻らないと・・・。クーノ様!?どうにかしてください」
オレは引きづられながらクーノ様を見ると、クーノ様は視線を落としてそっと呟いた。
「すまんな。シュン」
「あああああ、力が強いいいい」
オレは上機嫌に鼻歌を歌うリオニー様に連れらて、厨房に連行されるのだった。




